<アホリズム>

2009・1・17

 「アホリズム」は、ガンガンWINGで2009年8月号から開始された連載で、同誌でも2008年の後半になって、また新たに開始された連載です。このところのWINGは、あまりいい新連載が出てきておらず、雑誌の連載レベルも全体的にかなり落ち込んでおり、恒常的に新連載を出し続けなければならない状態になっているようです。このマンガも、そんな新連載の一環であり、一回目から表紙&巻頭カラー&一挙二話掲載が行われるなど、かなり大きな扱いの連載となっています。

 作者は、宮条カルナ。かつて、エニックスお家騒動後のWINGで「英雄のススメ」という連載でデビューした新人でしたが、その後も同誌で連載や読み切りを重ねており、今ではもう中堅の作家とみてよいかもしれません。前回の連載がゲームコミックだったので、今回久々のオリジナル連載ということで、作者のファンとしては期待したいところです。

 肝心の内容ですが、「学園もの+サバイバルバトル」といった感のある設定で、コア向けの作品としてはある種よく見かけるタイプの作品かもしれません。「学園もの」という点がまずそうですし、そこで若者たちが何らかのバトルを、それも過激な死闘を繰り広げるというマンガやノベルは、最近ではもう本当によく見かけるタイプの作品となりました。
 そんな中でこのマンガは、「恒常的に授業の一環として命がけの闘いを強制される」という点で、中々に斬新なものがあります。異様な空間に置かれ、恒常的に魔物が襲い来る学園という独特の舞台設定で、そんな中で必死に生き残りをかけて闘いを繰り広げるキャラクターの葛藤、心情描写にはかなりの読み応えが感じられます。しかし、その一方で、今ひとつ突き抜けた面白さには至っていない感もあり、作画面を中心に今一歩の完成度にとどまっているようにも思われます。単なる死闘バトルのみの作品ではなく、対立する生徒同士の確執や駆け引きも興味深く、筋は決して悪い作品とは思えないので、さらに奮闘を期待したいところです。

 なお、このマンガのタイトルの「アホリズム(Aphorism)」とは、「格言・箴言・教訓」といった意味の言葉です。


・宮条カルナの経歴。
 前述のとおり、宮条さんは、かつて2001年に起こった「エニックスお家騒動」で大量の作家が雑誌から抜けた穴を埋めるために、急遽新連載を行うことになった作家です。それが2002年から開始された初連載作である「英雄のススメ」で、これは近未来を舞台にしたSF系の警察(ポリス)ものと言えるような作品で、超能力を駆使して化け物を退治する若者たちの物語を描いたものでした。これは、そこそこの完成度を有していたものの、しかし新人の急な連載らしく今ひとつの感もあり、あるいはこの手の近未来警察ものと言える作品が、設定的に似通った作品が過去にも見られ新鮮味にも欠けた感も否めませんでした。そして、実際に評価が今ひとつだったのか、あるいは最初から連載が短期間に決まっていたのか、9カ月という短い期間で連載を終了してしまいます。

 その後、読み切りを一度ほど掲載したのち、2005年からPS2ゲーム「ラジアータストーリーズ」のコミック化作品を掲載。これは、まったく同時にGファンタジーで開始された同作品のゲームコミックと完全に連動した作品であり、ひとつの物語を異なる視点で描いたふたつの作品を、異なる雑誌で同時並行するという意欲的な企画でした。しかしこの企画、必ずしも成功したとは言えませんでした。宮条さんの作品は、キャラクターの心理描写には見るべきものがあるものの、アクションシーンを始めとする絵の完成度がやや欠けているところがあり、ストーリーも(特に前半のうちは)あまり盛り上がりませんでした。加えて、原作ゲームの人気もいまいちで、連載を長く続けてもゲームプレイヤーの人気が得られなかったことも大きかったと思います。

 それでも2年ほど連載を続けた後、しばらくの間は次回作がなかったのですが、それがこの2008年になって、久々にオリジナルの連載を始めることになりました。それがこの「アホリズム」であり、作者の久々のオリジナルということで、ファンの間では喜ぶ人も多かったようです。

 なお、かつて「ラジアータストーリーズ」のゲームコミックをGファンタジーの方で連載したのが、藤川祐華であり、こちらの作家も同時期のWINGで新連載を開始しています(「湾岸二課」)。かつては違う雑誌で連動コミックを連載していた両者が、奇しくも同じ雑誌で連載をすることになりました。


・中々興味深い設定ではあるのですが・・・。
 このマンガの舞台は、楢鹿高等学校という学校で、そこは入学して卒業するだけで地位と名誉を手に入れることができるとされていました。それは「空の島」に浮かぶ学校で、それが見える「選ばれた者」だけが入学できる。主人公の六道は、そんな空の島が見える人間の一人で、晴れて入学することになり、ふしぎな外観を持つその学校へとやってきます。

 しかし、その学校は、ある特殊なカリキュラムとして、太陽が空飛ぶ島に隠れる時(これを「神蝕」という)、異世界から多数現れる化け物たちと命を賭けた闘いを強制されるという、あまりにも異様な授業が待ち構えていました。魔物たちは本気で殺しにかかってくるので、毎回の戦いで生徒たちに多数の死者が出ることになります。その悲惨で恐ろしい様子を見て、主人公ら生徒たちはみな恐怖に震えるのですが、それでももうこの戦いから逃れられないと知り、自分の置かれた理不尽な立場と葛藤しつつ立ち向かっていくことになります。

 こういった理不尽な戦いに借り出される生徒たちの逼迫した心理、それがまず第一の見所ですが、さらには、化け物と戦う時のバトルシーンももちろん見所のひとつです。ここでは、生徒たち全員が、最初の授業で炎や水といったなんらかの「漢字」一文字を体に刻むことになり、それが化け物と戦うときの特殊能力になったり、あるいは戦う化け物の方にも漢字一文字で表される特徴を有していたりと、いかにもファンタジー的な設定が見られます。ある種ゲーム的な設定とも言えますが、これはこれで中々面白いものとなっています。「炎」や「刀」などはそのまままさに武器ですが、主人公などは最初に「変」などという漢字を刻んだために、バトルの時に変身しつつ戦うようになってしまいました。

 このように、「理不尽な状況に恐怖と葛藤を覚えつつ立ち向かう生徒たちの重苦しい心理」と「ファンタジー的な設定が特徴のアクションバトル」が、この作品最大のポイントと言えます。学園もの+バトルという、やや見慣れた感のある設定の作品とはいえ、この双方において中々に読み応えのある作品になっていると思います。筋としては決して悪い作品ではありません。


・しかし、今一歩物足りない感も拭えない。
 ただ、このように作品のベースとなる設定ではかなりいい線行っているとは思うのですが、実際に読み進めてみると今ひとつ物足りない感もあり、突き抜けた連載にはなっていないようにも思えます。同時期のほかの新連載に比べると中々に安定した作品にはなっており、決して悪いものではないのですが・・・。

 今ひとつに感じる最大の原因は、絵(作画)の質にあるのかもしれません。宮条さんの絵は、そこそこのレベルの絵にはなっていると思いますが、今ひとつ印象に残りにくい平凡な外見に終始しているところがあります。WINGの連載の中でも、今ひとつ萌え系の絵柄にしては弱く、一方で重厚なバトルや王道アクションものをやるにしても重厚感が弱く、どっちつかずの印象があります。

 また、宮条さんは、昔からアクションシーンの出来が今ひとつで、今回はそれでもかなり奮闘してはいますが、それでもまだまだ大雑把な感覚は残るような気がします。鮮血が飛び散るような残酷な描写は、このマンガの見所のひとつではあるのですが、宮条さんのライト感覚の作画だと、まだ物足りなさが残ります。人が簡単に傷つき食われて死ぬという残酷さがこのマンガのひとつの売りなのですが、一見してこの作画を見ただけでは、そんな内容はちょっと想像できません。もし、このマンガが、黒く濃いリアルな作画だったなら、印象はまったく変わったのではないでしょうか。
 襲い来る化け物の作画もそうで、中々にその不気味さ、おどろおどろしさも描けてはいるのですが、一方でこちらでもまだデザインに固さが残り、重厚感が足りないような気がします。こちらでも、もし化け物の姿が徹底的にリアルな作画ならば、アクションシーンの恐怖感もまったく変わったのではないでしょうか。全体的に「襲い来る化け物の恐怖」がひとつの売りなのに、それが今ひとつのレベルに留まっているのではないか。

 このような絵の物足りなさに加えて、「ファンタジー的」「ゲーム的」(あるいはライトノベル的?)とも言える設定の数々は、読者によっては抵抗が強いかもしれません。そもそも、学校で命を賭けたカリキュラムを行うこと自体があまりにも非現実的というか、「バトル・ロワイヤル」のような過去の作品の影響を想起してしまいますし、加えて、「漢字の力で能力を得て敵を倒す」というようないかにもゲーム的な設定も、人によっては違和感を覚える可能性があります。


・キャラクター同士の葛藤、駆け引きに注目して今後に期待したい。
 以上のように、この「アホリズム」、学校で過酷な戦いを強制されるホラー系アクションバトルマンガとして、一定の完成度を有しており、ここ最近のWINGの新連載の中では、中々に健闘しているのではないかと思われます。理不尽なバトルに立ち向かう生徒たちの葛藤と、鮮血飛び散る残酷なバトルに漢字の能力を用いて戦うアクションシーンと、どちらも中々に見ごたえがあると思います。作者の宮条さんにとって久々のオリジナル作品でしたが、今回は雑誌の方でもかなり大きく扱われており、長期の連載も視野に入っていると見てよいでしょう。

 しかし、その一方で、どうもこの作品も昨今のWINGの例に漏れず、今ひとつ大きな人気を得られない作品に終始してしまうのではないかという懸念もあります。見た目の絵の印象がぱっとせず、肝心のアクションシーンにも少し物足りなさが残る点、あまりにゲーム的・ライトノベル的な設定に引っ掛かりを感じる点が大きいと思われます。

 とはいえ、決して筋の悪いマンガではなく、連載が最初の戦闘を過ぎたあたりから、生徒間の間の葛藤、駆け引きの要素も面白く読めるようになってきました。化け物の恐怖に対して、一致団結した戦おうとする者や、群れることをよしとせず単独行動を好むもの、恐怖からどうしても戦おうとしないもの、クラスの生徒を支配して何事かを企むものなど、生徒ごとの立ち位置の違いが鮮明に描写されます。さらに、そんな生徒たちが互いに異なる価値観の元で時に対立し、時に対立の葛藤を越えて協調し、あるいはグループ同士で何らかの駆け引きを行うなど、そういったキャラクター同士の繋がりが、連載が進むにつれて大きくクローズアップされてきました。この魅力的な要素にも大いに注目して、今後の作品のさらなるレベルアップ、発展に期待したいと思います。

 元々、作者の宮条さん自身がWINGでは中堅クラスの作家でもあり、これまでは上位の人気作品の後に追随する作品だったのですが、今やほとんどの人気作品が終了してしまい、今では宮条さんを雑誌の表で大きく扱わざるを得ない事情もあるのだと思われます。新連載でいきなり表紙&巻頭カラーだったのも、そのような理由が大きいのでしょう。このまま、名実共にWINGの看板的人気作家へと成長してくれればよいのですが・・・。WINGの今後のためにも切実に期待したいところです。


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