<藤村くんメイツ>

2010・3・20

 「藤村くんメイツ」は、ガンガンONLINEで2009年3月から連載されている作品で、シュールな言葉遊びと数々のネタに満ちた、ボケと突っ込みの応酬が楽しめるギャグマンガとなっています。元は、同誌上で企画された新人作家による競作「読切コミックカーニバル 〜冬の陣〜」のひとつで、読者投票で見事トップを獲得、連載化されたという経緯を持っています。コミックスには、この読み切りカーニバル時の作品も同時に収録されており、また、休刊時のガンガンWINGに1回だけ出張掲載された分も収録されています。

 作者は、敷誠一(しきせいいち)。元々は、ガンガンパワードとガンガンWINGで何度か執筆を重ねていた作家で、当時から同じような作風のギャグマンガを描いていました。折りしも2006年当時、ガンガンWINGが「一年間連続新連載」という大掛かりな企画を行っていたときに、この敷誠一の作品も、その中の一角として連載開始しています。それ以前にも読み切りギャグを数点手がけており、当時はWINGでも期待の新人として読者にも注目されていたと思います。

 しかし、これがどういうわけか、連載自体がわずか数カ月という短さで終了し、その後まったく次回作がなくなってしまいました。連載自体の評判は悪くなかったと思いますし、コミックスの1巻も発売されて「アキバblog」あたりでも採り上げられたことがあったのですが、しかしその後に続きませんでした。しかも、作者が当時運営していたサイトも、連載終了後に閉鎖されてしまい、以後作者の音沙汰がまったくなくなってしまいました。なにか、作者個人的な事情で執筆が続けられなくなったのではとも思われましたが、詳しいことは分かりませんでした。

 その後、ガンガンWINGは衰退の一途を辿り、もはや敷誠一の名を覚えている人もいなくなってしまいましたが、そんな時に突如新創刊されたウェブ雑誌・ガンガンONLINEの「読切コミックカーニバル」で登場します。しかも、再び新人のひとりとして、競作企画で読者の人気投票を勝ち取るという形で連載に復帰したのです。他の参加者が完全な新人ばかりの中、数少ない連載経験のある作家ということで、やはり作品の面白さは頭一つ抜けたところもありました。
 なぜ、かつて連載を経験した作家が、一旦完全に消えてしまい、その後再び新人として登場したのか。その理由は本当に分からないのですが、しかしかつての作品の面白さを知っているわたしとしては、彼が復帰したことは大いに嬉しくもありました。


・本当に面白かったかつての敷誠一の作品。
 上記のとおり、かつての敷誠一は、ガンガンパワードやWINGで何度も読み切りを掲載し、最後にはWINGで短期ながら連載も獲得しました。当時からショートギャグ形式のマンガにかなりの面白さがあり、毎回の読み切りでそのたびに質の高い笑いが楽しめたと思います。

 そんなマンガの中でも、特に印象に残っているのが、どちらもガンガンWINGで掲載された読み切り「@やまだひねもす悩み相談所」と、「みずいろ家族」です。どちらも、ひねくれた言葉遊びの数々と、オタク(的な趣味)をネタにした脱力系のギャグで、当時のWINGで一世を風靡しました。「@やまだひねもす悩み相談所」は、学校の保健室でなぜか悩み相談所を開設している変態保健女医が、助手と共に女生徒の悩みに応えるというもので、保健医も女生徒も変態的なキャラクターばかりで、それにクールな助手がミョルニル・ハンマーで過激な突っ込みを入れるという、なんともいえないマンガとなっていました。
 一方で、「みずいろ家族」は、主人公である空河葵という女の子が、自分の父親と、彼の再婚で自分の家族となった母と妹の異常な行動に、徹底的に振り回されるというもので、やはり変態的でかつオタク的な言動の数々に、いちいち突っ込みを入れる主人公の姿が非常に笑える作品となっていました。

 そして、この「みずいろ家族」の設定を一部変更し、連載化したのが「あおいろ家族」で、こちらも「みずいろ家族」同様に、主人公の女の子が、父親の再婚で家族となった姉たちの変態的な異常行動に振り回され、金属バットで突っ込みを入れまくるという過激なギャグとなっています。オタク的なネタも絶好調で、実は萌える絵柄と合わせて、妙なノリの萌え系ギャグマンガ?とも言えるマンガとなっていました。
 この連載、非常に面白かったはずなのですが、どういうわけかたったの3カ月の短期連載であっさり終了してしまいます。当時の一年間連続新連載の一角として始まったこのマンガですが、実は他にも非常な短期で終了するマンガは多く、このマンガもその中のひとつとなってしまいました。もし連載を続けていれば、WINGにとっていい戦力になったはずなのですが・・・。

 そして、これらの読み切りや連載と同時期に、作者のサイトでも、同じような作風のショートギャグマンガが、いくつも掲載されていました。こちらの方も面白く、当時よく通って読んで大いに笑わせてもらった記憶があります。しかし、残念ながらその後サイトは閉鎖されてしまい、今ではもう読めなくなってしまっています。


・今回も個性的なキャラクターは健在。
 そして、久々に復活したこの「藤村くんメイツ」でも、かつて見られた作風はまるで変わっていません。長くブランクがあって新人からの再出発ということで、内容が変わっていないか個人的には心配だったのですが、まったくの杞憂に終わりました。今回も、敷誠一独特の、変態とも言える個性的なキャラクターが幾人も登場してきます。

 前回の連載「あおいろ家族」では、主人公の女の子が突っ込み役でしたが、今回の主人公は藤村という名前の不登校の不良少年。彼が今回の突っ込み役となり、なぜか不登校の彼に延々と付きまとってくる各クラスの学級委員たちの奇怪な言動に、延々と突っ込むはめに陥らされます。学校の不良が突っ込み役というのは、ガンガンの「清村くんと杉小路くん」シリーズと共通したところがありますね。こちらのマンガも、本来なら怖くて近寄りがたいはずの不良生徒が、なぜか個性的な奇人変人たちにいいように遊ばれるという点で、近いノリがあります。こちらも主人公の不良生徒が少しかわいそうな目にあっていますが(笑)、「清村くんと杉小路くん」ほど激しいいじられ方をする作品ではないので、より多くの人に親しまれると思います。

 さて、そんな藤村君をもてあそぶクラスの学級委員たちですが、まず最初に登場するのが、藤村とは別のクラスの学級委員である宇佐美えりこです。別のクラスの学級委員なのになぜか藤村の家におしかけ世話を焼き、どうやら藤村が好きなようでもあるのですが、その愛情表現が過剰すぎて一種のストーカーと化しています。あらかじめ藤村のことを調べ上げ、意味不明な言葉をつぶやいて迫ってくるえりこに、藤村は恐怖を感じ、しかもえりこに飼い猫の月光を捕獲されて脅され、しぶしぶ学校へと通うようになってしまいます。

 学校に通うようになった藤村を待ち構えていたのが、同じクラスの学級委員である乾・クローディア・千位子と、謎の鎧兜の男です。クローディアは、えりこと違って活発な大阪弁交じりでしゃべる帰国子女なのですが、妙な日本語と英語交じりでこちらも意味の通らないネタでしゃべりまくる姿に、やはり藤村は徹底的に翻弄されることになってしまいます。同じくもうひとりの学級委員である鎧の男は、なぜか制服の上に西洋風の鎧兜を身につけており、こちらもまた意味もなくハイテンションで不可解な言動で藤村を翻弄しまくることになります。

 彼ら3人が、よってたかって藤村くんに付きまとうのですが、中でも個人的にひどいなと思ったネタは、藤村だけ椅子に座らせて自分たち3人の机で取り囲み、「フォーメーションAだ!」などと言って自分たちだけで昼食の弁当を食べるシーンです。本来なら怖いはずの不良生徒が新手のイジメのごとくいじられるこのネタこそが、この「藤村くんメイツ」の真骨頂と言えるでしょう。


・オタクネタ、お色気ネタももうひとつの笑いの源泉。
 そしてもうひとつ、敷誠一と言えば、オタク的なネタ、中でも女性キャラが妙にエロい行為を推奨するかのような奇妙な言動で迫ってくる、独特のノリのネタがあります。今回の連載では、前回「あおいろ家族」ほど頻度は高くありませんが、それでも随所でそのようなネタに事欠きません。

 今回は、特に学級委員のひとりであるクローディアの言動に顕著で、「あえて言おう! 巨乳は愛であると!!!」などという妙なこだわりをモットーにしたり、突然パンツを藤村の手に握らせたり、「藤村はHPが半分になると仲間を呼ぶ!」「主に最初の付近にいる!!」などゲームのネタを藤村に強引に当てはめたりと、いろいろとひどくマニアックな行動を見せてくれます。

 えりこもそんなネタでは負けてはいません。藤村にひたすら身体で迫り、自分の水着姿のポスターをわざわざ藤村の部屋の壁や天井に貼ったり、自分のスカートを捲り上げて中身を見せようとしたり、「制服プレイはお好き?」と言って制服にエプロン姿でかいがいしく食事の用意をしたり、そういったオタク系お色気ネタを色々と披露してくれます。衣替えで「セーラー服・スク水・たいそうふく」の3種類の中から選んで着るなどというネタなどは、そんなオタクネタの最たるものだと言えます。毎回の扉絵で見られる「あざとい服装の立ち絵」(スク水とかネコ耳とか)も、露骨なネタすぎて笑いを誘います。このようなマニアックなオタクネタを用いたギャグは、かつての「あおいろ家族」でも事欠きませんでした。

 最近では、いわゆる萌え系の絵やキャラクターを押し出したギャグ・コメディマンガが、いろいろなところで見られるようになっていますが、このマンガの場合、絵やキャラクターが萌えというよりは、ギャグのネタ自体に萌えネタを採り入れているところが大きく、一段高いレベルに達していると感じます。多少マニアックで読者を選ぶかもしれませんが、それでもこんな風に巧みにオタクネタをギャグに取り入れる感性の鋭さは見逃せません。


・微妙に萌える絵柄が独特のゆるさを生む。
 しかし、絵柄やキャラクター自体も決して萌えないわけではありません。えりこやクローディア、あるいは他の女性キャラクターも、萌えキャラの一角として扱われていることは間違いありませんし、そんな風に読んでいる読者もかなりいるかと思われます。

 とにかく、このマンガの微妙に萌える絵柄は、実はかなり好感度が高い。なんというか、微妙に線がやわらかく、ゆるい絵柄になっていて、これがこのマンガのグダグダ感に貢献しています。その上で、微妙に萌える絵にもなっている。他の萌えマンガとは異なり、露骨に萌えを意識した美少女絵ではなく、あくまでギャグマンガらしい絵柄のひとつなのですが、その上でこの絵柄の萌え度の高さは決してあなどれません。このゆるやかに萌える絵柄は、かつてのスクエニ、一昔前のWINGあたりを彷彿とさせるところで、一時期WINGで執筆していたのも分かるというものです。WINGのあのゆるい萌え(ゆる萌え)は、あの雑誌独特のもので、非常に気に入っていたのですが、残念ながら末期の頃は不振から迷走に陥り、そのようなマンガも少なくなってしまい、最後には休刊まで余儀なくされてしまいました。

 そんなかつてのWING的なマンガが、ONLINEで復活した敷誠一によって、今のこの時代に受け継がれているのではないか。ゆるい絵柄と萌えとオタクネタギャグ。この「ゆる萌えギャグ」とでも命名したいような独特の雰囲気こそが、このマンガのもうひとつの魅力なのではないでしょうか。


・スクエニの誇る優良ギャグマンガの一角。今後の展開を待ちたい。
 この「藤村くんメイツ」、かつてのWING連載作家の復帰だけあって、最初からクオリティが高く、本当に笑えるギャグマンガになっています。奇妙な言葉使いで意味不明なことをしゃべる個性的なキャラクターたちが面白く、随所に織り込まれたオタクネタでも大いに笑いを誘います。かつての敷誠一独特の感性は、長いブランクを経た今でもそのまま健在でした。WINGから完全に消えたときは残念で仕方ありませんでしたが、ONLINEという新たな掲載場所で再び読めるようになるとは、予想外の嬉しさです。

 その上で、このゆるい雰囲気の絵柄と萌え要素は、いかにもスクエニらしい(かつてのWINGらしい)ギャグマンガになっていると思います。このようなマンガは、他社でも似たようなマンガはいくつか見られるとは思いますが、やはりスクエニならではの持ち味と言えるでしょう。ガンガンONLINE連載なので、あまり注目度は高くないのですが、もっと多くのスクエニ読者に読んでほしいと思います。

 とはいえ、このマンガが、今後どこまで発展するかは、また未知数であると言えます。ガンガンONLINEには、他にも有力な連載マンガが多く、今のところこのマンガも数ある優良連載の一角に過ぎません。コミックスの発売もやや遅れ、2010年2月に1巻、その翌月には2巻と、立て続けに2カ月続けて出るのはうれしい配慮なのですが、そのことに注目して追いかけている読者がどれだけいるでしょうか。

 個人的には、昔からの敷誠一のファンで、彼のギャグを非常に高く評価しているので、これがスクエニの他の一線級のギャグマンガと肩を並べるようになれば嬉しいですし、そうあるべきだとも思っています。このゆるい脱力系の言葉遊びとオタクネタに満ちたギャグは、最近のマンガ・アニメの売れ線とも一致していますし、もっと人気を得て新たな展開があると面白いでしょう。ガンガンやJOKERなど、他の雑誌で出張連載をやってもいいのではないでしょうか。


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