<ひゃくえん!>

2010・2・8

 「ひゃくえん!」は、ガンガンONLINEで2009年4月から連載されている作品で、同誌ではよく見られる学園もののコメディ作品となっています。加えて、ある程度男性読者向けを意識した少年誌的な作風も随所に感じられます。今のスクエニでは、スタンダードな作風のマンガのひとつと言えるでしょう。

 作者は遠山えま。かねてよりなかよしで連載を重ねてきた作家で、今でも最新作を同誌で掲載しています。その一方で、近年では少年誌でも活躍が見られるようになり、そちらの方で新たなる読者層を獲得しているようです。この「ひゃくえん!」もそのひとつであり、スクエニのウェブコミック・ガンガンONLINEという新たな場所で、なかよしの人気作家の活躍が見られることになりました。昨今の少年誌的な作風を見ても、スクエニの雑誌での登場も期待できるところはありましたし、個人的にも連載が決まった時は大いに嬉しかったものです。しかし、まさかあの遠山えまのマンガがガンガンONLINEで読めるようになるとは・・・。

 肝心の内容は、コミックスの帯にも「女子高生ふたりの節約ライフコメディ」と書いてあるように、ルームシェアで共に住む女子高生2人の「節約生活」の日々を楽しく描くコメディ作品となっています。一方は楽天家でついついお金を使ってしまうタイプ、もう1人は日々堅実に節約に努めるタイプと、対照的な性格のふたりが、日々ついつい浪費の誘惑に誘われつつも、なんとか協力して節約に努める、その姿がにぎやかに楽しく描かれています。節約といっても決して貧乏とかそういうわけではなく、自分の立てた貯金の目標に向けて励む女の子ふたりの奮闘を描く、明るい作品になっています。加えて、ふたりの周りに集まってくる個性的な生徒たちも楽しく、和気あいあいとした学園生活ものになっているようです。

 数多い連載を抱えるガンガンONLINEの中でも、中々の良作となっているようで、発売されたコミックス1巻の評価も好評のようです。ガンガンONLINE内でも月刊のペースでコンスタントに連載されており(毎月第三木曜日更新)、今後も安定した連載が期待できる作品と言えます。


・作者の遠山えまとは。
 さて、この遠山えまさんですが、先ほども書いたとおり、元々は(今でも)なかよしの連載作家で、それも今のなかよしの中心作家のひとりとして高い人気を集めています。2003年にデビューして以来、何作も連載を重ねてきていますが、特に注目を集めたのが、2007年から連載を開始した「ココにいるよ!」でしょうか。実は、このあたりから絵柄が大きく変わり、なんというかそれまでは少女マンガ的な絵柄だったのが、なんだか妙にかわいらしくなり、いわゆる萌えの要素を呈し始め(笑)、その筋の男性読者からも注目を集めるようになるのです。

 そして、その流れを決定付けたのが、2008年から「電撃「マ)王」で連載を開始した「イチ・らぶ・キュウ」でしょう。少年誌、というかマニア向けのメディアミックス誌で連載を始めたというのは、これまでのなかよし作家としての経緯からはかなり意外で、しかもここで絵柄も内容も完全に萌え系のマンガとなり、それまでにない読者層の支持を集めることになりました。

 このように、少女マンガ誌を主な活躍の場とする少女マンガ家でありながら、随所に萌え系の要素が感じられる作風で、男性読者にも人気を集める作家を、個人的には萌え系少女マンガ家と呼んでいるのですが(笑)、この遠山えまはその代表的な作家になったと思います。この「ココにいるよ!」と「イチ・らぶ・キュウ」の連載以降、少女マンガを読む低年齢層の女の子の読者だけでなく、大きなお友達にも人気を集める作家になってしまったのです。

 その後、2009年になって、この「ひゃくえん!」を連載することになり、こちらも少年誌寄りの萌え重視の作風で、ついにこちらの方面の雑誌でも定着することになったようです。その一方で、このマンガの開始とほぼ同時期に、本家なかよしの方でも「わたしに××しなさい!」という最新作を連載開始。こちらは開始当初から大きなお友達にも高い注目を集めているようです。今ではその筋でも非常に有名な作家になってしまったと言えるでしょう。


・ルームシェアの節約ライフを楽しく描く。
 このような流れの作家の作品であり、この「ひゃくえん」も、随所で女の子への萌え要素が見られるマンガになっています。今のスクエニでは、「萌え」「腐女子」などの一定の読者を想定した売れ線のジャンルを追い求める傾向にありますが、このマンガもその一角にあると見てよいでしょう。
 しかし、一方で、決して萌えだけの作品にもなっていません。ルームシェアで家賃を節約しながら、自分の目的のためにさらなる節約に励む主人公ふたりの女の子の日々の生活が、本当に楽しく描かれている優れたコメディになっています。作者のこのコメディのセンスは本当に侮れません。

 主人公は、明るい楽天家でついつい誘惑に負けて浪費してしまいがちな山田百(もも)と、それとは対照的に日々堅実に過ごしお金をためることに邁進する鈴木円(まどか)のふたり。普段から、百がつい浪費してしまいそうになるところを、円がいさめて我慢するように勧めるものの、それでもつい誘惑に負けてほしいもの、食べたいものを買ってしまう百の無邪気な行動と、それに振り回される円の姿が、賑やかに楽しく描かれています。一方で、百の方も浪費するばかりでなく、日々思わぬ節約のアイデアを出して円にも勧めたり、あるいは逆に円の方も自分の好きなバナナクレープの誘惑にだけは抗い切れず、つい手を出しそうになったりと、双方のいろいろな側面が見られます。

 念のために言いますが、このふたりは、最初にも書いたとおり決して貧乏というわけではありません。百の方は、原付の免許を取るための1万円を目標に(のちに普通二輪免許を取るための10万円に変更)、円の方はドイツの祖父に会う為に100万円をためることを目標に、つまりはそれぞれの目的のために前向きに節約の生活を送っているのです。 だから、その雰囲気は日々とても明るいし、読者の方も「こんな節約生活ならやってもいいかな」とも思えるような作品になっていると思います。

 さらには、このふたりだけでなく、ふたりと仲良く学園生活を送る友人たちとの楽しく賑やかな交流も見逃せません。ふたりの良き同級生で、大阪弁を使う明るい少女の森本千世、名家のお嬢様で周りから一目置かれ孤立していたものの、百に携帯の不具合を直してもらったことで仲良くなった御参寺京華、円に一方的にライバル心を燃やし、バイトで買ったブランド品を見せびらかして対抗しようとする田中兆子あたりが、常に一緒にいる仲良しグループになっています。特に、京華は、節約生活を送るふたりとはかけ離れた超セレブな生活を送ってはいるものの、控えめで自らの地位を自慢することもまったくない穏やかな性格で、さらにはお金のもつ価値の大切さをもわきまえた、とてもいい人として描かれていて、これには大変好感が持てました。


・これが萌え系少女マンガ家の本領発揮だ。
 そしてもうひとつ、上述した少年誌ならではの萌え要素、それもいわゆるエロ・お色気要素にも見るべきものがあります。昨今のスクエニの少年マンガ系作品、あるいはこのマンガのようなコメディ作品では、このような少年・男性向け志向の要素を入れることが一つの方針になっているのか、あるいはこの場合作者である遠山えまの趣味も多分に入っているのか、そのあたりよく分かりませんが、この「ひゃくえん!」もまたそんな傾向が非常に強い。

 とりあえずコミックスの表紙からして露骨にエロいような気もしますが(笑)、本編でもいろいろなシーンに事欠きません。冒頭のカラーページにも見られるお風呂シーン、部屋での下着のシーンなどは頻繁に登場。パンチラこそはありませんが、胸を強調したスク水とかあるいははいてないとかのシーンも登場します。

 こういったシーンは、スクエニのマンガ、特にガンガンでは正直いまいち面白みを感じないことも多いのですが、このマンガに関しては、というか遠山えまのマンガならば全然OKと個人的には考えています(笑)。全体的に非常に明るい雰囲気のマンガで、キャラクターたちもあっけらかんとして媚びるようなところがないため、お色気狙いのシーンにもありがちな嫌悪感が少ない。少女マンガ出身の女性作家ゆえに、このようなシーンでも露骨に過ぎるエロ要素をさほど感じず、エロを追求しがちな男性のマンガのような抵抗を感じずに読めるのではないか。だとすれば、これこそまさに萌え系少女マンガ家の本領発揮と言えるでしょう。


・節約に勤しむだけでなく、それ以上に本当にいい話も多い。
 そして、そんな風な節約ライフを中心にしたコメディとお色気要素だけでなく、それ以上に本当にいい話も多いのも特長です。

 例えば、上で述べた超お嬢様の御参寺京華さん。彼女は、道で拾った百円を必死になって律儀に交番に届けるのですが、それを見て他のみんなは、「大金持ちなんだし100円くらいなんとも思わないんじゃないの」と率直な感想を漏らす中で、「お金は誰かが働いて得た汗結晶ですから」「わたしはまだ自分で働いたことがないので たとえ1円でもとても大切で貴重なものに思えるんです」と屈託のない笑顔で語ります。これ自体が本当にいい言葉であると同時に、これをお金持ちである京華が語ることで、お金持ちでも決してお金を粗末にする悪い人ばかりじゃないんだということも分かる、いい話になっていると思います。

 あるいは、円が閉店するペットショップで売れ残ったハムスターを見つける話。たった一匹売れ残ったハムスターが、値段もどんどん下がっていくのを見て、そのハムスターに愛着を覚えてミリオンと名付け、自分の手で救いたいと考えるのですが、しかし節約ライフの身の上では飼育費用の捻出もままならない。いろいろと必死に経費を計算してみるのですが、京華がペットにえらく費用をかけているのを知って、やはり自分には無理だと断念しそうになるところを・・・思わぬことに百が気を利かせて買ってきてくれるのです。費用も安く買って食費も貯金から捻出し、なんとかやっていけるよと笑顔で語る百を前に、思わず抱きついて泣きながら感謝してしまう。これは本当にいいシーンだと思います。節約ライフながら、ただ節約するだけでなく、本当にやるべきだと思ったことは工夫を凝らしてやり遂げようとする。単なる節約追求だけのマンガではない、もう一歩踏み込んだ話になっていると思うのです。


・これは面白いコメディコミック。今後の発展にも期待。
 こんな風に、「女子高生ふたりの節約ライフ」をテーマに、面白いコメディ作品となっている本作、毎回の楽しいコメディとちょっといい話を絡めた、優秀な作品になっていると思います。遠山えまさんは、なかよしでは既に中心的な人気作家として活躍を続けていますが、ここにきて少年誌系雑誌でも「イチ・らぶ・キュウ」にこの「ひゃくえん!」と、楽しい良作コメディを手がけており、こちらの方の活動でも大いに注目していいのではないでしょうか。少年誌向けのお色気・エロシーンもそつなく取り入れるあたり、さすがに萌え系少女マンガ家は一味違うと言わざるを得ません(笑)。

 ただ、ガンガンONLINEでの連載というのは、やはり注目度では少し下がるかなという気がします。サイトにアクセスしないと読めないウェブコミックだと、どうしても読者が限定されてしまいますし、さらにはガンガンONLINEは連載本数が非常に多く、さらに看板的な作品もいくつか存在するため、それ以外のマンガは最初から注目してみないと中々目に付きません。このマンガも、連載開始当初の話題性はさほどでもなかったように感じましたし、一部の遠山えまに前から目をつけていた読者以外では、これといった話題は出てこなかったと思います。元がなかよしの作家だけに、少年誌系のスクエニ読者では知らない人が多いのも無理はないと思いますが、それでも今のなかよしの主力人気作家の新連載が、思ったほど注目を集めなかったのは、少々寂しく感じました。もしガンガンやJOKERでの連載だったなら、かなり反応も変わったかもしれません。

 しかし、わたしは、このマンガはガンガンONLINEの数多い連載の中でも、特に面白い作品の一つになっていると思います。現在、ONLINEやJOKERでは他にもコメディ系と言えるマンガで人気を博している作品が多く、このマンガのコミックス1巻発売に際しても、同時発売のコミックを合わせて「コメディコミック7」なるプレゼント企画も組まれました。そのラインナップを見ても、この「ひゃくえん!」が最も面白いかなと感じますし、今後の展開にも期待していいと思います。


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