<舞勇伝キタキタ>

2010・3・13

 「舞勇伝キタキタ」は、ガンガンONLINEの創刊である2008年10月から開始された連載で、同誌の最初の新連載6作品(+1)の一つに入ります。さらには、それらの作品の中でも最も有力な作品として、ガンガンONLINEでも最大の目玉として扱われてきました。

 作者は衛藤ヒロユキ。あのガンガン初期から10年以上続いた大人気連載「魔法陣グルグル」の作者です。「魔法陣グルグル」終了後もいろいろと連載や読み切りの新作を描いており、スクエニのみならずマッグガーデンの方でも執筆する数少ない作家のひとりにもなりました。この時期の作品としては、ガンガン連載の「衛星兎テレビ」、コミックブレイド連載の「がじぇっと」があります。その他、読み切りも多数手がけています。そんな彼が、ガンガンONLINEの創刊号からまた新たな連載を開始することになりました。

 しかも、この「舞勇伝キタキタ」、これまでの新作とは異なり、自身の最大の人気マンガである「魔法陣グルグル」の人気キャラクター・キタキタおやじを主人公にしたスピンオフ作品であり、そのことが当初から大きな話題を呼ぶことになりました。連載が終了してしばらく経った今でも「魔法陣グルグル」の高い人気・知名度は健在であり、ガンガンONLINE最大の注目作となりました。

 しかも、主人公はあのキタキタおやじです。キタキタおやじは、原作のグルグルでも異様な個性のキャラクターとして、一種独特の、しかし絶大な読者人気を獲得していました。 彼の繰り出すギャグは、かつてのグルグルでも読者の大爆笑を誘っていましたが、それはこのスピンオフでも健在で、昔のグルグルに極めて近い、ほぼそのままのノリのギャグが楽しめる作品となりました。ギャグの質の高さ、キタキタおやじの異様な個性はまるで変わっておらず、今回も本当に笑えるギャグマンガに仕上がっています。
 それも、かつての初期の頃のグルグル、長期連載中でも特にギャグ色が強かった時代の作風に近いものがあります。このようなギャグが今の時代でもそのまま楽しめるとは、衛藤ヒロユキもまだまだ健在だと思いました。


・キタキタおやじについてちょっとおさらい。
 上記のように、「魔法陣グルグル」は、アニメ化もされ、コミックスの売り上げも非常に高く(全16巻で1300万部以上)、エニックス、ガンガン読者のみならず、一般の知名度も非常に高い、ガンガンでも屈指の作品です。そこで、このマンガそのものや、あるいは人気キャラクターだった「キタキタおやじ」についても、既に知っている方は非常に多いと思いますし、あるいはそういった方こそがこのマンガを買っているのだと思いますが、それでも、ここである程度解説しておこうと思います。

 「魔法陣グルグル」は、ジャンルとしてはファンタジーギャグマンガになるのでしょうか。RPGにありがちな設定をネタにした爆笑ギャグと、作者の感性が強く出たファンタジーな世界観が特徴のマンガです。しかし、初期の頃は、まずギャグ色が非常に強く、キタキタおやじもその流れの中で生まれました。
 主人公にして勇者のニケと、ヒロインの魔法使いククリが、旅に出て訪ねた「キタの町」という町に登場したのが、キタキタおやじです。「キタキタおやじ」は、あくまで通称で、本名はアドバーグ=エルドル。当初は、この町に伝わる踊り「キタキタ踊り」を踊るキャラクターのひとりとして、いわばちょい役的な登場だったと思います。

 しかし、このおやじがなぜか人気爆発。腰みの一枚の奇抜な姿で、奇妙な振り付けの踊りを踊りまくるこの色モノキャラクターが、勇者たちのパーティーに加わり、ことあるごとに踊りを見せようとしゃしゃりでる活躍ぶりを見せ、とうとう冒険の最後までついて行くことになるとは、一体誰が予想したでしょうか。ほとんどマンガ最大の人気キャラクターとなってしまいました。もっとも、グルグルでは、主人公のニケやヒロインのククリも大人気だったので、一概にこのキャラクターが一番の人気とは言い切れませんが(連載初期の頃に行われた人気投票では、1位ニケ、2位ククリに続いて3位だった)、しかしこのマンガの最大の”名物”キャラクターとなってしまったことだけは間違いないと思います。「かわいいキャラクターだけでなく、奇妙なおやじが大人気」というのが、「魔法陣グルグル」のひとつの特徴となったのです。


・おやじのバカバカしい活躍ぶりが相変わらず笑える。
 そして、そんなおやじの活躍ぶりは、この「舞勇伝キタキタ」でも健在です。今回の物語は、「魔法陣グルグル」でニケとククリが魔王を倒した後の世界。ふたりの冒険の旅は終わりましたが、キタキタおやじの旅は終わっていなかった(笑)。キタキタおやじは、かつての冒険でも、自分の持つキタキタ踊りをみんなに見せ付けたい、あるいは踊りの後継者を見つけたい、さらには踊りを世界に広めたいと思っていましたが、今回の物語でもそれは何も変わっていません。いやがる周囲の人々やあるいは魔物に対しても、奇妙な踊りを無理やり見せ付けることに余念がありません。ついには「キタキタ踊り見せマシーン」なる装置まで作り、派手な舞台で踊りを見せようとするその姿勢に、あまりのいやらしさと同時に爆笑を覚えるのです。

 主人公らキャラクターたちにも、ことあるごとに後継者になるように迫り、ひたすらいやらしい勧誘を繰り広げます。さらには、キタキタを世界に広めるために行く先々の町や村で布教活動を展開。どう見ても人々を救うために冒険の旅をしているわけではなく、キタキタ踊りを見せる・広めるという自分の欲望を丸出しにして行動するおやじの姿が、相変わらずRPGの常識を逆手に取った形となっていて、最高に笑いを誘うのです。

 おやじの活躍は、踊りだけでなく冒険そのものにも及びます。前回の冒険の時から、魔物にひどいやられ方をしてもあっさり復活する強靭さ(しぶとさ)を散々見せ付けたおやじでしたが、ひとつの冒険を終えてたくましくなりすぎてしまい、もはや常人を超える異様な活躍を見せるようになります。水に頭から落ち込んでもそのまま死なず、地面に突き出た足のすね毛で呼吸をするといういやらしさで生き残り、ついには魔物の周りを踊りまくることで翻弄し、小一時間踊り続けて倒してしまうという活躍ぶりまで見せてしまいます。RPGで踊り子という職業はよくありますが、ここまでいやらしい活躍で魔物を倒す踊り子はまずいないでしょう。

 さらには、かっこよくなりたいという欲望を忠実にかなえて気持ち悪いくらいきれいになってしまったり、あるいは王国に巨大なキタキタ踊りの動く像まで建てられ、しかもそれが放火によって暴走、偶然にもモンスターを倒してしまうという展開まで迎えます。この八面六臂のキタキタおやじの大活躍が、今回の物語では主役として存分に楽しめるのです。


・初期の頃のグルグルのテイストが再び!
 そしてもうひとつ、今回のスピンオフの大きな特徴として、「初期の頃のグルグル」のテイストが色濃く、その当時のグルグルが好きだった読者にとって、特に面白いと思える作品になっていることが挙げられます。

 ここまでも何度か書きましたが、初期の連載が始まったばかりの頃のグルグルは、のちの時代に比べてずっとギャグ色が強く、それもゲーム(RPG)の設定、いわゆるお約束をネタにした過激な爆笑ギャグが、読者に大いに受けてのっけから大人気を獲得しました。この連載以前から、ゲームコミックにおいてそんな作品を何度も手がけており、そんな作者独自の創作が強く表れた形となっていました。

 しかし、これが、連載が進むにつれて少しずつ作風に変化が生じ、やがてそのような過激なネタギャグは若干控えめとなり、代わって独特の世界観や設定、勇者やヒロインを中心にしたストーリーが主軸になっていきます。このような変化を指して、読者の間からは、「中期以降のグルグルはファンタジーになった」という見方がよく語られるようになり、そして読者の間で若干好みが割れる結果にもなりました。すなわち、初期のRPGギャグの時代の方が面白かったとする読者と、中期以降のファンタジー路線のグルグルも面白いとする読者と、人によって様々な評価が聞かれることになったのです。初期派の読者の中でも最も極端な見方では、「グルグルはコミックスの1巻までが最高で、それ以降はもう違う」とするものまで見られます。

 それが、今回の「舞勇伝キタキタ」では、まさにその初期の頃の爆笑ギャグのテイストが非常に強い作風となっており、本当に久々にRPGをネタにした独特のギャグ、あのグルグルならではのギャグが帰ってきたような気がします。キタキタおやじ絡みのギャグだけでなく、それ以外のシーンでのギャグも、かつての初期のテイストに非常に近いものがあるようです。連載開始前の告知時点から、既にそのような予感はしていましたが、実際に始まったマンガもまさにそのとおりでした。これならば昔始まったばかりのグルグルに魅せられて楽しんでいた読者でも、ここで今一度楽しめるのではないでしょうか。


・くどいカオのネコと合わせて、衛藤ヒロユキはいまだに健在だった。
 以上のように、この「舞勇伝キタキタ」、衛藤ヒロユキの「魔法陣グルグル」のスピンオフ作品として、しかもあのキタキタおやじをフィーチャーした作品ということで、最初から非常に注目度の高い作品となっていましたが、その期待に違わない非常に面白いマンガとなっていると見てよいでしょう。かつてのキタキタおやじの異様なキャラクター性、そのバカバカしさといやらしさはそのままに、いや主役となったことでさらにパワーアップされ、そのひどすぎる縦横無尽の活躍ぶりが存分に楽しめます。しかも、初期の頃の爆笑RPGギャグだったグルグルのテイストが、そのまま復活したような作風となっていて、かつてのグルグルのファンには非常に嬉しい作品になっているところも大きい。本当に心の底から爆笑できるグルグルが、今の時代になってまさかまた読めるとは思いませんでした。

 グルグル終了後の衛藤ヒロユキ作品は、作者の個性の片鱗を感じるものは多いものの、全体的にいまひとつの感もあり、連載自体長続きせず、かつてのグルグルを超えるような作品は出てこなかったような気がします。特に、数年前にガンガンで連載された「衛星ウサギテレビ」は、決して面白いとは言えないマンガとなっていて、残念ながら早期での打ち切りを余儀なくされてしまいました。ブレイドでの連載「がじぇっと」や、幾多の読み切りの方は、そんなに悪くはないと思いますが、やはりかつてのグルグルほどの突き抜けた面白さには至らなかったと思います。

 しかし、ここにきて、ついにあの「グルグル」のスピンオフという形で、再び本当に面白いと言える衛藤作品が復活したようです。これは、結局のところグルグルだからここまでヒットしたという見方も出来ますが、わたし個人としては、これが十分に面白いのだから、まったく問題ないと思っています。むしろ、このスピンオフは素直に喜ぶべきものではないでしょうか。

 それにしても、かつてグルグルが始まったのは、今からもう15年以上前。そんな昔の爆笑ギャグが、今になってほぼそのままの形でもう一度読めるとは、衛藤ヒロユキはまだまだ健在だなと改めて思いました。コミックス2巻の後書きでは、グルグル時代のコミックス後書きでもよく登場した作者の愛猫「クドいカオのネコ」が、いまだ健在であると語っており、これにはちょっと驚いてしまいました。クドいカオのネコと一緒に、まだまだ末永く楽しいマンガ作りをしてほしいものです。




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