<月刊少女野崎くん>

2012・5・12

 「月刊少女野崎くん」は、ガンガンONLINEで2011年8月から開始された連載で、マンガ家を主人公にしたギャグ・コメディ4コママンガとなっています。「野崎くん」とは、主人公の男子高校生・野崎梅太郎のことで、彼が実は「夢野咲子」なる人気少女マンガ家として活躍しているという、そのギャップからくる笑いがとても楽しいマンガとなっています。

 作者は、椿いづみ。すでに、白泉社の「花とゆめ」で長く活躍している人気作家で、現在連載中の「俺様ティーチャー」も、2007年から続く人気長期連載となっています。ガンガンONLINEは(あるいはスクエニ全般の雑誌にも言えますが)、自社で発掘した作家による作品が大半を占めていて、このように他社の人気作家による新連載は、かなりまれなケースと言えます。これは、椿さんの方から、初めて描いた4コマ漫画をガンガンONLINE編集部に持ち込んで、それがこうして採用されて連載化が決まったという経緯があったようです。そして、同誌が2011年7月から開始していた「毎週新連載16作品プロジェクト」の第9弾として、晴れて連載が始まりました。

 他社ではすでに高い人気を得ている作家の新連載ということで、当初から編集部の推進ぶりには相当なものがあり、同時期の新連載の中でも頭ひとつ抜けた大きな扱いとなっていました。さらには、肝心のマンガも卒なく非常に面白いマンガとなっていて、早い時期から内外の読者に注目を集め、ほどなくしてガンガンONLINEの中でも上位クラスの人気マンガとなったようです。

 明けて2012年4月には、待望のコミックス1巻も発売され、この時の販売攻勢にも相当なものがありました。「俺様ティーチャー」のコミックスも同時に発売され、2作品合わせてのコラボフェアも開かれて大いに盛り上がったようです。スクエニの新作の中でも、このスタートダッシュの勢いはトップクラスで、これからの展開に大いに期待できる一作となっています。


・「花とゆめ」の人気作家・椿いづみ。
 前述のように、作者の椿いづみさんは、すでに「花とゆめ」で長らく連載を続けている人気作家で、もう相当広く知られた作家でした。ゆえに、このマンガの新連載時にも、もう一部でかなりの話題となっていたようです。少女マンガ誌で活躍していた作家が、こうしてスクエニのウェブ雑誌で連載開始というのも珍しく、それで注目が集まったところもあるのでしょう。

 デビューは2002年、「縮めてディスタンス」という読み切りでデビューしたようですが、人気を集めたのは2003年から始まった最初の連載「親指からロマンス」でした。ヒロインの趣味がマッサージで、マッサージ研究会なるクラブの部員たちも登場するという異色の設定で、この時から笑えるギャグコメディで人気を集めていました。「花とゆめ」は、元から他の少女誌に比べれば読者の年齢層が高く、オーソドックスな少女マンガからは外れた作品も多いのですが、そんな雑誌らしい連載だったと思います。

 その「親指からロマンス」の終了後、今度は上述の「俺様ティーチャー」の連載を開始。今も続くさらなる人気連載となります。こちらは、主人公の女子高生が元不良の番長で、担任にその弱みを握られるという、やはりギャグ色の強いコメディ作品となっています。どちらも卒なく繰り出されるギャグのネタが本当に面白く、さらには個性的なキャラクターが次々に登場する賑やかな作風で、これらは「月刊少女野崎くん」にもそのまま受け継がれています。これらの作品は、もちろん少女マンガではあると思いますが、それ以上にギャグコメディとして純粋に楽しい、幅広い読者に親しめる作風が特長だと思います。


・「無骨な高校生なのに少女マンガ家」というギャップがとにかく面白い。
 さて、この「月刊少女野崎くん」ですが、まずなんといっても「男子高校生なのに少女マンガ家」という、主人公の野崎健太郎くんのその意外な姿が面白く、これがまず抜群の笑いを生んでいます。

 野崎くんの同級生の佐倉千代は、野崎くんに片思いをして思い切って告白するのですが、しかしこの時「ファンです」と言ったことがきっかけで、自分のマンガ家としてののファンだと野崎くんに思い込まれ、気がつくとアシスタントとなって制作作業の手伝いをしていました(笑)。この「いつの間にかアシスタントになってた」という冒頭のエピソードが、まず抜群に面白く、ここで一気に楽しいギャグコメディの世界に引き込まれます。
 このマンガ、「ヒロインの佐倉さんが野崎くんに告白する」という、恋愛少女マンガ的な始まり方をするものの、以後は恋愛・ラブコメの要素はあまり多くなく、むしろ「高校生なのに少女マンガ家」という、野崎くんの意外な実態に驚き振り回される佐倉さんの姿が楽しい、ずっとギャグ色の強い話になっています。

 野崎くんは、マンガ家としては「夢野咲子」というペンネームで、「繊細な心理描写と華やかな画面で大人気の作家」「乙女心を大切に描き女の子の心の代弁者とも呼ばれる」などど評されているのですが、実際の彼は、背が高くガタイのでかい外見で、ゴキブリを瞬時に叩き潰し、女生徒には下着透けてるぞとデリカシーもなにもなく堂々と言い放つ、そんな無骨な高校生として描かれ、このギャップに満ちた姿が最高に笑えるのです。
 そして、そんな野崎くんに便利なアシスタントとして体よく使われている佐倉さんの姿も楽しい。見た目はかわいくて少女マンガのヒロインを張るには十分な外見なのに、野崎くんの元ではアシスタントとして毎日ベタ塗りに奮闘している(笑)。そんなオーソドックスな少女マンガをちょっと捻ったような設定が、とても楽しいマンガになっています。


・個性的なキャラクターたちの掛け合いがさらに楽しい。
 野崎くんと佐倉さんの主人公・ヒロイン(マンガ家・アシスタント)コンビの掛け合いギャグを見ているだけでも楽しいですが、その後に次々と登場する個性的なキャラクターが、さらにこのマンガの面白さを押し上げています。野崎くんの同級生や上級生、そして出版社の担当編集者や同業のマンガ家など、野崎くんを取り巻くキャラクターひとりひとりが、いちいち濃すぎるほど個性的なキャラクターになっていて、彼らの言動がとにかく楽しいのです。

 最初に登場するのは、以前から野崎くんのアシスタントをしている男子生徒・御子柴実琴(みこりん)。抜群の容姿を持って女子生徒にももてるイケメンキャラクターなのに、自分のセリフに恥ずかしがって悶えたり、妙に奥手でうまく気持ちを伝えられなかったりする、いわゆるツンデレ?なキャラクターとなっていて、しかもそのキャラクター性を野崎くんによってマンガのヒロインのモデルにされているという、なんとも痛々しくも笑えるキャラクターになっています。しまいには、女の子とのうまい付き合い方を学ぼうとするあまりにギャルゲーをプレイするようになり、オタク化までするようになってしまいます。

 佐倉の同級生の女子生徒・瀬尾結月も面白い。まったく空気の読めないKYキャラで、むかつく言動を平気で周囲に撒き散らし、野崎くんでさえ「イラッ」とむかつかせる様が最高に笑えます。
 さらに個性的な女子生徒が、みこりんのクラスメイトの鹿島遊。女生徒ながら男性的な容姿と言動で「王子様」と呼ばれるほど慕われていますが、一方で所属している演劇部ではサボリがちで、そこを部長の堀に暴力的に突っ込まれる様が本当に楽しい。
 その演劇部の部長が、堀政行。演劇部の部長として活動しながら、実は夜遅くに野崎くんのアシスタントとしても手伝いに来ており、卓越した背景制作の技術を持っているというそのギャップが面白い。全体的に、野崎くん同様に、見た目と行動に大きなギャップを持っているキャラクターが多く、そこで大きな笑いを生み出していますね。

 そんな生徒たちと同等に個性的なのが、野崎くんの担当編集者たちでしょうか。以前の担当だった前野という男は、やたらお調子者の性格で、誰でも思いつくような提案を平気で持ちかけるところがあり、野崎くんを散々イラッとさせるその掛け合いが、大変面白いギャグとなっています。さらには、タヌキが好きで自分の担当するマンガに脈絡もなくタヌキを登場させるなど、やたら破天荒な編集者として描かれています。その前野が担当する都ゆかりというマンガ家は、野崎くんと同じマンションに住んで交流しているようですが、その前野には前述のタヌキなどの無茶な要求を散々されているようです(笑)。

 その一方で、現在の担当の宮前剣という男は、人嫌いの仕事一筋な堅物で、野崎くんの仕事にも厳しく当たるのですが、それが野崎くんには格好いいと思えているらしく、野崎くんが一方的に慕っている姿と、宮前に自分の行き過ぎたマンガの提案を突っ込まれている姿が、いいギャップとなって大きな笑いを生んでいます。個人的には、この個性的な担当たちとの掛け合いが一番好きですね。


・絵がとてもきれいなのも最大のポイント。
 このように、「男子高校生が少女マンガ家・ヒロインがアシスタント」という設定から来るギャグコメディの面白さ、個性的すぎるキャラクターの数々など、非常に面白いマンガになっている本作ですが、一方で少女マンガらしいきれいな作画も見逃せません。
 とにかく非常に線がきれいで、整った画面を作り出しています。いかにも少女マンガらしい繊細で美しい作画とも言えますが、それにしてもこの作画の安定感は素晴らしいものがあり、とても見栄えのするマンガになっています。

 キャラクターも、男の子はかっこよく、女の子はかわいく描けているのもポイント。ヒロインの佐倉さんなどは本当にかわいく描けていて、毎回こんなギャグポジションで突っ込み役を演じているのがもったいないくらいです(笑)。逆に言えば、「こんなきれいな作画、こんなかわいい(かっこいい)キャラクターで、中身は爆笑のギャグコメディ」という、そのギャップが面白いマンガになっていると思います。

 4コママンガとしては、横に長いワイド形式のコマ割で(同誌の「わ!」(小島あきら)と同じスタイル)、広めのコマでのびのびした作画が楽しめるのもポイントでしょうか。このスタイルは、コミックス1巻に収録される4コマの本数が少なくなるという欠点があるものの、それ以上に広く読みやすい画面できれいな作画が楽しめる、4コマとしてはいい形式だと思います。少なくとも、作画が美しいこのマンガにはよく合っていますね。


・とにかく面白い4コママンガ。今のスクエニの中で一押しかも。
 以上のように、この「月刊少女野崎くん」、さまざまな点で本当に面白い4コママンガになっていて、今のスクエニの中でも一押しとも言えるマンガになっていると思います。編集部もこのマンガには大いに期待しているようで、掲載誌のガンガンONLINEでも、数多い連載マンガの中において、最初からずっと大きな扱いが続いています。他社ですでに活躍している実力のある作家の新作(しかも作者初の4コマ連載)ということに加えて、肝心の中身も非常に面白くできていたことが、ここまで高い評価の理由になっているのでしょう。

 コミックス1巻の反響も上々のようで、同時に発売された「俺様ティーチャー」と並んで、「花とゆめ」からの椿いづみさんのファンと、新しく「野崎くん」で知った読者と、その双方に大きな売れ行きを達成したようです。うちの近くの広島では、発売後ほどなくして主要な書店のほとんどで売り切れ、どこでも手に入らなくなってしまったほどで、のっけからこれほどの売り上げを示した新作は、最近のスクエニでもほとんど例がないと思います。おかげで、わたしも肝心のコミックスがいつまで経っても手に入らず、好きな作品が人気を得てうれしい反面、非常に困ったことになってしまいました(笑)。

 個人的には、この椿いづみさんの作風が、スクエニ独特の中性的な作品群によく合っていることもポイントだと思います。そもそも、「花とゆめ」の掲載作品自体、一般的な少女マンガとは少し外れた、高年齢読者や男性読者にも読まれるマンガが多く、その点でかつてはガンガン系と近いところもありました。そこからの作者の作品が、こうして今ガンガンONLINEで大人気を得ているというのは、非常にうれしいところです。そして、今の人気ぶりからすれば、このままガンガンONLINEを代表するマンガになってもおかしくありません。 これは非常に楽しみな作品が出てきました。


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