<おじいちゃん勇者>

2008・1・5

 「おじいちゃん勇者」は、ガンガンONLINEの創刊時である2008年9月から開始された連載で、同誌が創刊と共に開始した6大新連載に加えて、さらにもうひとつ始まった新連載となっています。これも他と同様の新連載であり、そういう意味では7大新連載と言っても良いのですが、ガンガンONLINE誌上ではそのような扱いにはなっておらず、とある理由から「6大新連載+1」という扱いになっていました。

 作者は、坂本太郎。このスクエニでは、かつてエニックスだった時代から伝説的な存在の作家であり、かつてのギャグ王誌上の連載では、その凄まじい作風と付随される編集者たちの悪ノリの数々が、読者の間で大いに受けまくり、一世を風靡した作家となりました。ギャグ王でも屈指の名物マンガ家として君臨していましたが、しかし、その後ギャグ王が1999年に休刊されたのちは目立った掲載がなくなり、やがてはその強烈な印象だけを残して完全に消えてしまいました。

 しかし、これが実に2007年になって、ヤングガンガンでいきなりまさかの復活。このときには読み切り数回の掲載で終わりましたが、その後しばらくして、このガンガンONLINEの連載においてまさかの大復活連載。これはまったくもって予想外で、一部の読者の間で、それも古参の読者の間でいろいろと話題を呼ぶことになりました。

 その内容は、「まさに坂本太郎のマンガ」としか言えないような相変わらず凄まじいものであり、そのひどい作風は健在でした。あの坂本太郎が、ギャグ王連載時から10年近い時を経て今になってかつての姿のままで復活するとは、一体誰が予想したでしょうか。今から10年前のインターネットでも、もはやギャグ王が休刊して久しい時代であり、すでにその時点で伝説と化していた坂本太郎でしたが(笑)、ここにおいてついに伝説からの再来を成し遂げたのです。坂本太郎のマンガは、坂本太郎にしか描けない。昔のギャグ王時代を知らない人こそ、今になって復活した坂本太郎の作品を読んでその凄まじさを堪能してほしいと思います。


・坂本太郎は新しくない。
 さて、上でも少し書きましたが、この坂本太郎、最初に登場したのはギャグ王で、95年9月号に連載を開始した「最後の楽園」が最初の連載となります。同誌が絶頂にあった最盛期に登場したと見たこの作品、しかし当初からその凄まじい作風と雑誌内の独特の扱いで強烈な印象を読者に与え、瞬く間に雑誌内でも異彩を放つ名物マンガとなってしまいます。

 どのようなマンガかというと、いわゆる汚れ系の4コマギャグマンガで、このマンガのイメージキャラと言えるひげのおじさんを筆頭に、なんともいやらしいキャラクターが次々と登場し、汚れ系のひどいネタを繰り広げるというものでした。絵柄も、それ自体はごく標準的なものかもしれませんが、しかしアクの強さを際だたせるようなえげつない描き方でキャラクターが表現されており(汚い顔で汗をたらたら流すような独特の描写)、これが作品のいやらしさの中心となっていました。一方で、今で言う萌えキャラにあたるかわいい女の子も頻繁に登場し、しかし作中の汚れ系のネタでひどい目にあわされたり、自分から汚れネタにはまるようないびつな性格だったりと、これはこれで作品のいやらしさを倍化させていました。

 そして、そんな内容のひどさのみならず、このマンガの編集部によるネタ的な扱いが、読者の間で多大な反響を呼びました。常に巻末にこっそりと掲載され、しかもマンガの周りの余白において、このひどいマンガの掲載を巡って、担当編集者・竹内と副編集長が暗闘を繰り広げるという、その悪ノリに満ちたテキストにおいて、このマンガの存在は決定的なものとなったと見てよいでしょう。当時のギャグ王は、このように編集者が雑誌の表に出て騒ぎを起こすようなマンガや企画が珍しくなく、それが読者の間で大評判だったのですが、この「最後の楽園」は、同じくギャグ王の金字塔「うめぼしの謎」と並んで、この手のマンガの代表格だったと見てよいでしょう。

 その後、「最後の楽園」は97年3月号をもって一応終了しますが、その翌月から「最後の学園」とタイトルを変えて再スタート。こちらも基本的な内容はほとんど変わらず、ギャグ王末期の98年8月号まで、延々と読者を楽しませ続けました。ギャグ王の中でもとりわけ強烈な作品として、多くの読者の心に残る伝説的な 作品となり、作者の坂本太郎も、その覚えやすい名前と共に、当時のエニックス読者の心にしっかりと刻まれてしまったのです。

 そんな経歴を持つ作家ですから、今になって長いブランクを経て突然復活したとしても、決して新しい作家ではありません。ガンガンONLINEの創刊時に、いくつかのネット上の記事において、「この雑誌では今までの雑誌では出来なかった新しい試みを色々と投入している」といった趣旨の発言がなされ、この坂本太郎も、あたかもそんな新機軸の作家のように扱われた箇所が一部で見られたのですが、決して坂本太郎は新しくはありません。むしろ、エニックスでは定番中の定番作家として、古参の読者の間では、特にギャグ王を愛読していた読者にとっては、もうおなじみの作家、おなじみの作風だったのです。


・これも一種のドラクエ4コマなのか・・・?
 さて、そんな坂本太郎ですが、この「おじいちゃん勇者」においても、基本的な作風はまったく変わっておらず、まさに坂本太郎の名に恥じない、予想通りの内容になっていました。それも、ドラクエを始めとする幾多のゲームを彷彿とさせるパロディの連発で、それが今回の最大の特徴となっています。
 基本的にはドラクエ3をパロディ化したような設定で、一種のドラクエ4コマとして見ようと思えば見られるかもしれません(?)。しかし、なぜかFFの職業である竜騎士が登場するなどその中身はかなりいい加減で、その上でさらにいろいろな作品のパロディネタがふんだんに取り込まれており、ひどくカオスな設定のマンガとなっています。

 そして、そのパロディの中心となっているのが、タイトルにもなっている「おじいちゃん勇者」であり、勇者でありながらもうよぼよぼのじいさんで、ちょっとしたことですぐ死にそうになり、しかも俗っぽくでエッチなネタにはすぐに飛びつき、しかし大抵はしょうもないオチで終わって年寄りじみたツッコミを入れるという、なんとも笑えるキャラクターとなっています。

 そして、特徴的なのは、坂本太郎によるそのいやらしい描かれ方です。やたらとリアルな顔の造型でいかにも「じじい」然とした顔で描かれており、画面からその体臭が漂ってくるかのような、ひたすら濃いキャラクターになっているのです。これこそが坂本太郎の真骨頂であり、ウェブページに行ってタイトル画面でこのじじいのドアップの顔を見るだけで、「ああ、確かに坂本太郎だ」とかつての読者は納得してしまうのではないでしょうか(笑)。単なる人のいいおじいさんではなく、よぼよぼですぐ死ぬことだけがネタになっているのではなく、坂本太郎ならではのアクの強いビジュアルを存分に見せてくれる。これこそがこのマンガ第一の魅力(?)ではないでしょうか。


・じじいだけではない! この汚れ系の男キャラこそが坂本太郎の真髄。
 しかし、このマンガのいやらしいのはじじいだけではありません。おじいちゃんと同じく冒険に出るパーティーキャラクター、それも男の戦士や僧侶、さらにはパーティーとは関係の無い男キャラでも変態的な人物が多数登場し、これこそが坂本太郎のいやらしい汚れネタの中核をなしています。
 どのキャラも中途半端にマッチョだったりデブだったり逆によぼよぼだったりと、造形的に見た目がいやらしい上に、行動がいちいち変態的でスケベな連中ばかりで、女性キャラに対してセクハラ的行為の数々を繰り広げ、自分でもやたら半裸だったり脱ぎまくったりといやらしい肉体を露出しまくりで、もう見るだけでおなかいっぱいです。

 パーティーキャラクターでは、マッチョな戦士が裸になって武器や防具をそのまま装備するネタがまず印象深い。同じくヒゲでマッチョな僧侶が、呪いで犬にされておしっこをするとか、これもまたひどすぎるネタですが、これこそが坂本太郎的ドラクエ4コマだと言えるでしょう。実は、つい最近久々に出たドラクエ9の4コマにも坂本太郎が描いているのですが、こちらでも同じようなネタは健在です。

 そして、ドラクエのパーティーとは直接関係のない変態的男性キャラクターの数々。こちらの方がもっとひどい。双子のヒゲのおじさんがパンツ一丁で動き回る話や、眼鏡のロリコンの濃いおっさんが「ハァハァ・・・貧乳は希少価値」などと言い始めるネタなど、とにかくどれも本当にいやらしい。坂本太郎の定番として、いわゆるオタクの男やおっさんがエッチなセクハラを繰り広げるネタを散々見てきたのですが、今回の「おじいちゃん勇者」においても、それはまったく変わっていません。見た目からして気持ちの悪い汗臭い男キャラクターたちが、ある者はマッチョで全裸同然になって動き回り、ある者はオタク全開で女性キャラの着替えやお風呂やスカートの中身を黙ってのぞきまくる。これほどひどいマンガは 他にはそうそう見当たりません(笑)。


・萌えキャラの扱いがさらにいやらしさを倍増させる。
 その一方で、女性(女の子)のキャラクターに関しては、かつてのギャグ王の時代から、意外にもかわいい絵柄で描いているのも特徴的で、しかしそれが汚れ系のネタでひどい目に遭わされる話が、また坂本太郎の定番であり、このマンガのいやらしさをさらに増大させています。

 しかも最近、復活したのちの坂本太郎は、以前よりも萌え系の絵柄になってしまったようで、一見してかわいい萌え美少女キャラに見えてしまうところが、非常にたちの悪いものとなっています。少し前に、この絵柄はあの「いとうのいぢ」の絵柄と似たところもあるという意見が見られたのですが(本当か・・・?)、そういったキャラクターが汚れ系のネタの中に組み込まれているのも、考えてみるとひどいものがあります。

 大抵の場合、変態的男性キャラクターの変態行為を目の当たりにして悶絶する役目か、あるいは変態オタクキャラのエッチな行為でセクハラを受けまくるか(お風呂や着替えをのぞかれてガン見されるのがひとつの定番)、そのふたつにひとつであり、どちらにしてもその扱いは不遇です。あるいは、一部では自分からそのようなネタに興味を持ち、変態キャラの一部に組み込まれてしまうこともあります。そういう萌えキャラを見るたびに、なんというかのいぢ先生にあやまれと言いたくもなる。これもまた、坂本太郎のもうひとつの真骨頂だと言えるでしょう。

 この「おじいちゃん勇者」の場合、パーティーキャラの僧侶や賢者がとくにかわいく描かれているようで、これだけ見ると本当に萌えマンガとしても通用するかもしれない絵柄なのですが、そんなキャラクターがセクハラを受けまくったり変態的な行動に随従したりするのだから、まったくもってひどい(念のため言いますが褒め言葉です)ドラクエ4コマだと言えるでしょう。


・この不遇な扱いから脱出してコミックスが出るのか、今後の展開にも期待。
 このように、相変わらずの作風はギャグ王時代からまるで変わっておらず、10年経っても健在の坂本太郎なのですが、その不遇な扱いまでいまだ同じなのはなんとも哀れでもあります。

 かつてのギャグ王時代でも、「こんなひどいマンガをこっそり巻末に載せている」という扱いに終始し、それ自体がネタ的なギャグとなっていたのですが、どうも今回のガンガンONLINEの連載でも全く変わっていないようで、やはり不遇な扱いが一種のネタになっています。
 冒頭でも書いたとおり、このマンガは、創刊号からの新連載であったにもかかわらず、他の6つの連載とは別扱いとされ、「6大新連載+1」の「+1」として、まともに扱われないという状態で、これがまさに創刊号での最大のネタとなっていました。その後も基本的な扱いは変わっておらず、毎回毎回更新日のたびに休むことなく更新を続けているにもかかわらず、滅多に雑誌の話題にのぼることはなく、更新では決まって最後にページが紹介されるという、かつてのギャグ王で巻末に固定化されていた時と完全に同じ扱いになっています。

 そのような扱いのマンガですから、今になってもコミックス化されるという話を聞きません。他の連載が、特に創刊時代から続く長期連載が次々とコミックス化されているのに、このマンガにはそのような話がまったく聞かれない。毎回の更新量は少ないとはいえ、これまで休むことなく連載を続けてきたわけですから、さすがにもう単行本1巻にまとめるには十分すぎるほどストックはたまっているはずなのに、コミックス化される気配はまるでない。やはり、このような「坂本太郎のひどいマンガ」は、あくまで雑誌上でのネタ的な作品であり、コミックスになるなどとんでもないという編集者の思惑が透けて見えるようで、あまりにも不遇です。

 しかし、個人的には、ここまで来たのだからなんとしても坂本太郎の初コミックスを拝みたいところです。今になって、もし本当に坂本太郎のコミックスが出たら、古参の読者を中心にかなりの反響を呼ぶのではないでしょうか。ギャグ王時代から延々と不遇を囲ってきた坂本太郎が、ついに晴れてコミックスを出して一躍話題の中心に躍り出るのか、それともこのままスクエニの編集部に飼い殺しにされるのか(笑)、今後の展開に注視していきたいと思います。


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