<東京☆イノセント>

2006・12・5

 「東京☆イノセント」は、ガンガンWINGで2006年7月号より始まった連載で、同誌で2006年を通して行われた「一年間連続新連載」の一角となる作品です。作者はWING生え抜きの新人で、過去に同誌で何回か読み切りを残してきた鳴見なる

 この「一年間連続新連載」、終わってみれば企画倒れに近い内容で、あまり成功作は出ませんでしたが、その中でもこの「東京☆イノセント」は、数少ない成功作のひとつに数えてもよいかもしれません。短期で終了する新連載ばかりの中で、コンスタントに通常連載を重ねており、先日コミックスの一巻も出て、その注目度も中々のようです。この調子ならば、今後も安定した連載が期待できるでしょう。

 マンガの内容的には、妖怪伝奇要素の入ったラブコメ、といった感じで、それ自体はさほど珍しい設定でもなく、よくあるタイプのマンガかもしれません。しかし、中身は丁寧に描かれており、個性的なキャラクターたちによるコメディが面白く、ストーリーの構成も実はしっかりしていたりと、派手さはないものの堅実にまとまった良作の感があります。また、作風が従来のガンガンWINGの作品と似ており、この雑誌の連載としてもふさわしいものとなっています。


・少女マンガ的なラブコメ、かな。
 そして、このマンガは、ラブコメ作品の中でも、比較的少女マンガに近い作風を持っています。
 最近のガンガンWINGを見渡してみると、ラブコメ的な要素を持つ作品は確かに多く、その中でも少年マンガ的な作品と、少女マンガ的な作品の双方が存在しているように思われます。少年マンガ的な作品には「瀬戸の花嫁」「機工魔術士-enchanter-」などが該当し、一方で少女マンガ的な作品では「dear」や「ショショリカ」あたりが該当するように思えます。前者の作品では、ラブコメ以外にバトルやエロ(お色気)要素、派手なアクションなどが多く含まれ、後者の作品は、男女間の恋愛関係や細かい心情描写に特徴があります。絵柄やキャラクターでも方向性の違いがあります。

 そして、この「東京☆イノセント」の場合、比較的後者の「少女マンガ」に近い内容のマンガであると言えます。まず、絵柄から見て女性的、少女マンガ的な「かわいい」系の絵柄であると言えますし、内容的にもバトルやエロの要素は少なく、一方でラブコメな展開がかなり多い。キャラクターの構成を見ても、少女マンガ的に近い方向性を感じます。

 典型的なのが、このマンガの主役のひとりである、ヒロインのメイ(一条寺メイ)でしょうか。16歳にして物憑き(妖怪憑き)になるという厄介な血筋に生まれながら、前向きで明るい性格で、夢の一人暮らしに向けて日々頑張っているという、少女マンガの主役ではよく見られるタイプの、好感の持てるキャラクターです。

 しかし、少女マンガ的な要素が感じられる作品とはいえ、決して男性読者が読みづらいような内容ではなく、絵柄には少女マンガ的とはいえ同時に男女問わず受け入れられる中性的な作風、内容的にも極端に女性向けのラブコメや恋愛ばかりの話ではなく、誰でも読めるような明るいノリのコミカルな話が中心です。このあたり、いかにもエニックス(スクエニ)的、あるいはガンガンWING的なマンガですね。


・半蔵が面白すぎる。
 そして、このマンガのもうひとりの主役である、主人公の半蔵がやたら面白いというのも、読者を選ばない要因となっています。
 この半蔵、白狐の妖怪の少年で、とある島から使命を帯びて「嫁探し」のために東京に出てきます。そこで偶然ヒロインのメイと出会い、成り行きから彼女の家に住むことになるですが、このいきなり東京にやってきた世間知らずの妖怪少年・半蔵の言動がいちいち面白いのです。
 離島で長く妖怪として住んでいた半蔵は、世間のことはあまり知らず、古風な思想・物言いの上に根っからの堅物・朴念仁で、何か今時の少年とは思えない性格です。そんな彼が発する、どこかズレた言動がとにかくやたら面白い。しかも、言動がズレているだけでなく、行く先々でなぜか厄介ごとに巻き込まれ、それに妙なリアクションを取ることも多く、そのあたりでも笑えます。用事を頼まれて行ったメイの学校で、なぜか執拗にカラスに襲われるシーンなどは、それ自体最高に笑えるものでした。

 そして、主人公の男キャラクターがこんな性格のために、そういったキャラクターにありがちな嫌悪感が少ないのが好印象です。この手のラブコメ(特にこの場合少年マンガ寄りの作品)では、主人公の男が優柔不断だったりヘタレだったり、あるいは妙に軽くて軟派だったりエロかったりと、なにか読者にとって抵抗のあるキャラクターが珍しくないと思うのですが、このマンガの場合、主人公の半蔵は言動がいちいち面白い上に、根がまじめで前向きな性格のため、いたって印象が良いのです。


・このマンガも萌えレベルが高い。
 そして、WINGの昨今の連載の例に洩れず、このマンガもまぎれもなく萌えマンガであり(笑)、キャラクターの萌えレベルもかなり高いと思われます。さらにこのマンガの場合、最大の萌えレベルを誇るのが、ヒロインのメイではなく、むしろ脇役の女の子キャラクターの方ではないかと感じます。

 まず、物憑き体質のメイを妖怪から守るためにやってきた、ドイツ人の退魔師のお姉さん・アンジェラですね。このお姉さんは、金髪ロングヘアの綺麗な顔とゴスロリっぽいかわいい服装とは正反対の、妙にエキセントリックな性格で、そのどこか人を食ったような言動とのギャップが非常に面白いです。主人公やヒロインと並んで、第一話からいきなり登場するのですが、ゴスロリで性格も笑えるしはっきりいってヒロインよりこっちの方が萌えるんじゃないかと勝手に考えてしまいました。

 しかし、このマンガの萌えはそれだけには留まりません。実は、このマンガの最大の萌えキャラクターは、第三話で登場する、近所の神社に住む白狐の妖怪で、巫女である雪代千歳(ゆきしろちとせ)に間違いありません。
 この千歳、涼やかで大人びた外見の美人系キャラクターでありながら、なぜか色恋沙汰にはとことん弱い純情系キャラクターであり、妙にドジなところもあり、そのあたりの行動がやたら萌えます。しかも、なんといっても巫女であり、しかもメイと同じ学校の高校生でセーラー服で登校と、巫女でしかもセーラー服です。素晴らしい萌えキャラではないでしょうか(笑)。この巫女さんこそが、このマンガ最大の萌えであることは間違いないでしょう。


 それともうひとつ、女の子だけでなく、端々で登場する妖怪たちがかわいいのも萌えポイントでしょう。
 このマンガは、主人公が妖怪であるのを始め、人間と妖怪のキャラクターが入り混じり、それ以外にも頻繁に妖怪が登場するのですが、どれもあまり邪悪で凶悪なものはおらず、かわいらしかったり面白かったりする妖怪がほとんどです。
 特に、端々で登場する小さな妖怪たちがマスコット的な、いわば「萌え生物」的なかわいさがあり、これもまたこのマンガの萌えをさらに高める効果を生んでいます。妖怪が出てくるマンガとはいえ、実にほのぼのとした萌えに満ちたマンガであると言えるでしょう。


・なにげにストーリーもうまく進んでいる。
 このように、楽しいコメディとキャラクターで、ラブコメとしてだけでも十分楽しめるマンガですが、なにげにストーリーも丁寧に構成されており、毎回うまく転がって進んでいるのも見逃せません。

 主人公の半蔵は、使命として嫁探しのために東京に来たのですが、そこにはまだ話されていない事情があり、半蔵自体にも大きな過去の秘密があるようです。また、ヒロインのメイの方も、単なる物憑きの妖怪体質というだけでなく、なにかしらそこにも秘密がありそうです。そのあたりの事情を毎回小出しにしつつ、細かいエピソードを積み重ねて確実に毎回ストーリーが進んでいく。全体的にはゆったりしたテンポで、決して速い展開ではないのですが、それでも読者にストーリーを追わせて読ませるだけの力があります。設定自体はさほど珍しいマンガではなく、むしろありがちかもしれませんが、ストーリー自体が丁寧に作られていて面白いので、さほど抵抗なく読み進められます。このあたりも評価すべきポイントでしょう。


・一年間連続新連載から出た貴重な成功作品。
 このところのガンガンWINGは、2006年の1年を通して、毎号必ずなにかの新連載を始める「一年間連続新連載」という企画を続けてきました。これは「まほらば」を始めとする主要連載作品の多くが、この1年で最終回を迎えるにあたって、その穴埋めとなる次世代の連載を発掘することを主目的にした企画でした。しかし、実際に始まった新連載は、その多くが短期のシリーズ連載で終了するものばかりで、数少ない通常連載の作品も、安定して人気を得ているものは多くなく、実際のところほとんどが企画倒れで不成功に終わった感があります。

 そんな中で、この「東京☆イノセント」は、数少ない安定して読める通常連載であり、読者の反応もかなりよく、数少ない成功作のひとつとなった感があります。正直なところ、この「一年間連続新連載」の中では、先だってすでに人気作として定着している「ちょこっとヒメ」と並んで、ほぼこのふたつだけが成功したといっても過言ではありません。(いまだ未知数の作品はいくつかありますが、現時点での成功はこのふたつだけでしょう。)
 その意味では、このマンガは、主要な連載の多くが終了を迎え、誌面が様変わりしつつあるWINGにおいて、今後の誌面を担うことのできる数少ない期待作であり、欠かすことの出来ない極めて貴重な作品です。これまでのガンガンWINGの連載と作風も一致しており、まさに「ガンガンWING的(ひいてはスクエニ的)」な雰囲気を維持しているところも大きい。編集部の方でも、そのような傾向をふまえてか、このところかなりこのマンガを推している様子も窺えます。
 実際、今のWINGは、安定した長期連載の多くが終了し、その後を担うはずの新連載も全体的にふるわず、かなり誌面が混乱している状態にあると思います。その中で、この「東京☆イノセント」は、安定して読める数少ない新規作品として、今後にかかる期待は非常に大きくなると思われます。


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