<私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!>

2013・7・20

 「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」は、ガンガンONLINEで2011年8月に開始された連載で、当時行われていた「スクウェア・エニックス毎週新連載プロジェクト16」のひとつとして始まりました。数多くの新連載の中のひとつということで、当初はそれほどの注目度はなかったのですが、しかしとある反応をきっかけに一気に話題が沸騰し、一躍スクエニでも有数の超有名作品となってしまいました。

 作者は、谷川ニコ。この連載以前には、「ちょく!」というちょっと変わったラブコメを連載していて、これはこれで中々味のある面白いマンガだと思っていましたが、まさか次回作のこの「わたモテ」でここまでブレイクするとは、誰が想像したでしょうか。わたしも、まさかこの作者がこんなマンガを描くとは、そしてここまで人気を得るとはと驚いてしまいました。

 肝心の内容ですが、女子高生・黒木智子(もこっち)の、コミュニケーション能力の不足によって巻き起こる様々な出来事を、面白おかしく描いたコメディ、あるいはギャグマンガとなっています。「黒木智子は喪女である。」と冒頭でいきなり書かれているとおり、いわゆる「喪女」の生態について、どこまでもリアルに描かれているのが最大の特徴で、それが大いに受ける結果となりました。「喪女」とは、このマンガでは、「男性との交際経験がない、ネガティブで自虐的、いわゆる「リア充」の対義語」などと書かれていて、彼氏や友達がまったくいない、いわゆる「コミュ障」の女子という特徴が強く出ています。さらには、家では乙女ゲームを盛んにプレイし、マンガやアニメのパロディネタが盛んに出てくるなど、いわゆる「オタク」としての特徴もよく出ており、これもオタクを主人公にしたオタクマンガのひとつと見ることも出来るでしょう。

 しかし、過去のオタクマンガの多くは、男のオタクを主役にしたものが大半でした。それを、このマンガでは、あえて女子のオタクである「喪女」を主役にしたことが、最大の特徴であり、これが数多くの読者の注目を浴びる最大の理由となりました。


・なぜこのマンガが海外で受けた・・・?
 と、このように女子のオタクの姿をリアルに描いたことが最大の特徴の本作ですが、この「オタク」という日本人ならではの人種を描いた作品であるにもかかわらず、なぜか最初にこれがブレイクしたのは海外でした。海外の掲示板の4chan(マンガやアニメを主に扱う匿名掲示板)で、このマンガが取り上げられて大いに話題となり、その話が日本にも伝わって、日本のネットにその人気が逆輸入され、こちらでも口コミを重ねて大人気となったのです。これは、スクエニのマンガではかなりの異例で、そもそも海外の方で反応がいいマンガなど、これまでのスクエニ、エニックスの全作品を見渡してもほとんど思いつきません(あえて言えば、フランスなどで人気を博した筒井哲也の作品くらいか)。

 しかも、その受け方が独特で、この女性版オタクである「喪女」を描いたリアルな作風に、正面から反応があったのです。こういったオタクやコミュ障といった人種は、日本特有のものかと思ったのですが、実際には海外の読者にも大きな共感を呼んでしまった。どうも、わたしたちが考える以上に、海外でもこうした人たちは少なからず存在するようで、作者も海外のファンから「みんな同じだよ」と書かれたメッセージを送られたことがありました。

 そして、こうした作風は、もちろん本場である日本では大ヒット。ネットの口コミで広がる形で、とりわけコアなマンガ読みの間では一気に評価が高まり、そうした層が選ぶマンガランキング、例えば「マンガ秋100」や「このマンガがすごい!」などでも上位にランクするという快挙を成し遂げています。スクエニのマンガが、こうしたランキングに入ることはかなり珍しく(最近では「ハイスコアガール」や「ばらかもん」も入ってますが)、よほど大きな反響だったということが分かると思います。

 その人気を受けて、2013年7月よりアニメ化を達成し、こちらでも新規の視聴者にさらに大きな反響を得ているようです。また、女性のオタクを主役にしているからか、一貫して男女問わず幅広いファンに受けているところも特長だと思います。


・主人公の行動がリアルで痛すぎる。コミュ障・ぼっちの生態をよく捉えている。
 このマンガの内容は、前述のとおり主人公の女子高生「もこっち」の日々を描くもので、基本的に毎回読み切りのエピソードとなっていて、エピソードごとのつながりはさほどない単独の話の連続となっています(ただし、作中で高校生としての時間は経過してるようです)。しかし、その毎回のエピソードにおける、主人公もこっちの行動があまりにもリアルで、そして見ていてあまりに痛いのです。これまでも、オタクを扱ってきた作品で、その行動の痛さを描いて笑いを誘うものは数多くありました。しかし、この「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」ほど、現実のオタクの姿を捉えているものは多くないでしょう。特に、他人との関係がうまく取れない「コミュ障(コミュニケーション障害)」「ぼっち(一人ぼっちで友達がいない)」と言われる人種の姿を、これ以上ないほどよく描いています。

 学校で他人と話すことはまったくなく、「中学時代には6回ほど男子と話したことがある(=それだけしか話したことがない)」と力説。いざ話す機会を得てもまともに言葉をしゃべることができず、学校の先生との対応すらどもって挙動不審に陥る有様。クラスの明るい生徒たちを見てリア充どもめとけなしまくり、家ではオタクなゲームにふけり、あるいは少しでもリア充に近づこうとネットで検索して涙ぐましい努力(?)を重ねる。

 特にこれはと思ったのは、街に出かけて店に入ったとき、店員とすらまともに会話できないこと。ここまで来るとコミュ障の中でもかなりの重症でしょう。店の中でたまたま同級生たちと出会ってしまい、見つからないようにルートを決めてこっそりと出ようとするくだりなど、ひとつひとつの行動があまりにも痛々しい。

 このような主人公の姿を見て、「まさかここまでの奴はいないだろう」と、オーバーすぎる演出だと思う人もいるかもしれません。しかし、実際には現実にそういった人は確かに存在していますし、そんなリアルなコミュ障のオタクの姿を徹底的に描写している点が、高く評価されたのだと思います。これまでのオタクマンガのキャラクターの姿は、どこかマンガ的な演出で作られたところがあった。しかし、このマンガにはそうした点がほとんど感じられないのです。


・弟の苦労ぶりに泣ける。こちらの視点で見ても面白い。
 しかし、そんなもこっちですが、周囲の人間は至ってまともで、いい人ばかりなのが救いです。特に、彼女の弟の智貴は、姉のそんな卑屈な姿にあきれつつも、しかし姉を気遣ってなんとかフォローしようとするエピソードがよく見られます。

 姉が人生相談と称して自分の部屋におしかけ、うざい会話を繰り広げたときにもなんとか必死に耐え、ファーストフードの店内でひどい顔の姉とであったときにもかろうじてスルーする(笑)。この弟の心労は並々ならぬものがあります。そんな目に遭いながらも、最後は公園に佇む姉を向かえに行く。いやこの弟は出来がよすぎますね。
 最新4巻のエピソードでは、かつて幼い頃に姉のことが大好きだった彼の日記が見つかったり、姉に受験予定の高校の願書の提出を忘れられて、それでも姉を気遣って行くつもりだった高校に行くと宣言したり、いい人ぶりは変わっていません。本当にこんなうざすぎる姉によく付き合うものだと感心します。

 ところで、アニメ版の配信で、この弟を指して「京介みたい」というコメントを目にしました。京介とは、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の主人公である京介を指します。彼の妹の桐乃も、人一倍ディープなオタクであり、妹の言動に振り回されることが多いことから、そこに共通点を見出したのだと思います。
 ただ、桐乃の方は、同じオタクでもずっと性格は明るく外交的なのに対して(決してコミュ障ではない)、もこっちの方は、救いようがないほど暗い性格となっている点から、こちらに付き合う弟の方がずっと心労の度合いは高いのではないかと思われます。そんな可哀想な弟の苦労話という視点で見るのも、また楽しい作品ではないでしょうか。


・アニメも大好評。さらなる人気の広がりも期待できる。
 と、このように、あえて「喪女」の生態を徹底的描く原作の面白さには確かなものがあり、このマンガが大人気を博した理由も分かります。スクエニ雑誌の中でも連載本数が多く、個々の連載への注目度が低い状態の中で、これが海外という意外な場所で発掘されたのは本当に幸運であり、一旦注目されれば圧倒的な人気を得るほどの実力を持っていたことが分かります。

 そして、その人気を受けて2013年7月からアニメが始まりますが、こちらも始まった直後から極めて高い反響を呼んでおり、視聴したほとんどの人から高い評価を受けているようです。これも、かつて海外の掲示板や日本のネットの口コミで、一気に爆発的に人気が広まった現象と近いものがあり、アニメでもう一度知名度が上がってさらなる人気の広がりが感じられます。

 個人的な予想では、アニメまでここまで大好評なのは予想外で、実は賛否両論割れるのではないかと思っていました。コアなマニアが集まるネットでは好評を得ても、より幅広い視聴者が集まるアニメでは、ここまでネガティブな作風は拒否反応を示す人も多いのではないかと。しかし、蓋を開けてみると、一部にそうした感想は見られるものの、それ以上に大勢の人に共感を得られているようで、これは本当に驚いてしまいました。

 思うに、最近ではこうした「オタク」や「コミュ障」「ぼっち」を扱う作品がアニメでも増えて人気を博し、視聴者の敷居も低くなっているのかもしれません。それも、「僕は友達が少ない」や前述の「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」のように、オタクやコミュ障を比較的明るく描く作品だけでなく、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」のような、かなりリアルにぼっちやコミュ障を描く作品も、共感を得て高い評価を獲得するようになっています。この「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」が、その「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」の放映の直後に始まったのも、この流れを象徴していると思いました。



「ガンガンONLINEの作品」にもどります
トップにもどります