<マテリアル・パズル ゼロクロイツ>

2009・10・16

 「マテリアル・パズル ゼロクロイツ」は、少年ガンガンで2008年11月号から開始された連載で、同誌で2002年以来続いてきた長期連載「マテリアル・パズル」のシリーズ作品のひとつにあたります。具体的には、「マテリアル・パズル」は、これまで第1章・第2章が連載されてきましたが、その後第3章に差し掛かるときに大きな動きがあり、第3章はそのまま連載されず一部のみが短期連載され、代わりに連載が予定されていた第4章もすぐには始まらず、代わってこの「ゼロクロイツ」が連載されることになりました。これは、「マテリアル・パズル」で舞台となった時代からはるか以前の物語を描くというコンセプトで、「マテリアル・パズル」の第0章という位置づけになっています。よって、これはあくまで本編の一部であり、決して外伝やスピンオフというわけではありません。

 作者は、原作に「マテリアル・パズル」の作者である土塚理弘、そして作画に吉岡公威の名が挙がっています。作画の吉岡さんはこれまで聞いたことがなく、おそらくはこれがデビューとなる新人作家ではないかと思われます。
 元々は、土塚さん自身が作画も含めてひとりで描きたいと思っていたようですが、ここ最近の土塚さんは、ガンガンでの「マテリアル・パズル」の連載に加えて、自身のもうひとつの代表作であるギャグマンガ「清村くんと杉小路くんろ」まで連載しており、さらにはヤングガンガンの方で好評連載中の「BAMBOO BLADE」の原作も担当していると言う状態でした。しかも、この「ゼロクロイツ」が開始されて数ヵ月後には、ガンガンでそのスピンオフ作品である「BAMBOO BLADE B」の連載まで開始しており、これらの多量の仕事との兼ね合いでどうしても作画まで行うことができず、信頼できる新しい作家の方に作画を任せることになったようです。

 このように、極めて複雑な経緯で始まったこの連載ですが、あの名作とされる「マテリアル・パズル」の新編ということもあって、当初からかなり期待があった反面、「本編の第3章と第4章の続きを優先させてほしい」という意見も多く聞かれました。実際の内容も、ある程度本編を彷彿とさせる面白さは見られるものの、それ以上に際立った部分には乏しかったようで、思った以上の人気は得られなかったようです。そのためか、連載を開始して1年後2009年11月号をもって、ガンガンONLINEへと移籍してしまいます。ONLINEへと移籍される作品の多くが、二線級の(とみなされる)マンガの左遷的な扱いになっていることを考えると、このマンガも最終的にはそのような扱いに陥ってしまったと思います。


・「マテリアル・パズル」連載からの「ゼロクロイツ」に至った流れを見る。
 「マテリアル・パズル」は、2002年2月号という、エニックスお家騒動の直後のガンガンで連載が始まり、その後のガンガンの主軸のひとつである「少年漫画」作品の有力連載として、長らく同誌で連載を続けてきました。現在では、「鋼の錬金術師」に次ぐ、ガンガンでも2番目に長い連載になっています。その「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」のような、ガンガンの看板となるような大きな人気には恵まれませんでしたが、しかし多数の熱心なファンに高く評価され、ガンガンでも良作のひとつとして連載を続けてきました。

 内容は、王道大河バトルファンタジー、といった感の作品で、土塚さんの中には非常に壮大な構想があったようです。連載開始以来毎号2話、60ページ以上というハイペースで連載を続け、2007年に「第2章」を終了させましたが、その後にまだまだ「第3章」「第4章」と続く予定でありました。

 しかし、その第2章を終了させた時点で、どういうわけか大きな異変が起こります。そのまま第3章が始まるかと思いきや、「第3章は当面ダイジェストにとどめ、第4章を先にやる」と作者の土塚さんが宣言され、その後その第3章の一部のストーリーのみを語った「マテリアル・パズル 彩光少年」が4カ月の間のみ短期連載され、しかもその後に肝心の第4章が始まらなかったのです。代わりに始まったのが第0章にあたるこの「ゼロクロイツ」であり、しかも土塚さんは作画を行わず、別の作家が作画を担当 することになりました。

 このような経緯に至ったのは、上でも書いたとおり、土塚さんが他に進めていた別の連載との兼ね合いの理由が大きいと思いますが、それにしても肝心の第3章、第4章がまともに連載されないというのは、相当に不可解な決定であり、作品のファンを中心にガンガン読者の間で、大きな戸惑いの声が聞かれました。そして、肝心の内容においても、新人の作画にして中々の力作になってはいるものの、これまでの「マテリアル・パズル」とは大きく違う内容にやはり戸惑いの声が大きく、賛否が分かれることになりました。


・これまでとは大きく異なる時代設定での物語だが・・・。
 その内容とは、これまでの「マテリアル・パズル」と同じファンタジー世界での物語ではあるものの、時代設定は大きく遡り、伝説となったはるか昔の時代が舞台となっています。当然ながら、登場するキャラクターや地名も大幅に異なっており、「大きく異なる世界、大きく異なる設定」での物語と言っても過言ではありません。

 物語のおおまかなあらすじは、平和な島で仲間と共に元気に暮らしていたベルジという少年が、島にやってきたある大国からの討伐隊の者に、人間に対して猛威をふるう恐るべき存在「鉄身の巨人」と闘う素質を見出され、世界を守るために過酷な闘いの旅に出る、というものでしょうか。「鉄身の巨人」とは、言い換えればロボットに他ならず、そして主人公のベルジも、それに対抗するための魔導兵器を駆使して闘うという点が、元の「マテリアル・パズル」との最大の相違点でしょう。この魔導兵器の名前こそが、タイトルにある「クロイツ」であり、いわば巨大なロボット同士の闘いが、この「ゼロクロイツ」最大のポイントとなっています。

 元の「マテリアル・パズル」と比較しても、よりオーソドックスな少年マンガの趣があり、主人公の少年ベルジと、彼のライバルであるクールな少年シュウガ、ベルジの幼馴染の少女 クリムというメインキャラクターの構成にも、それがよく表れています。ベルジとシュウガが「デスレオン」と言う名の魔獣に乗って活躍する様子にも、颯爽とした少年マンガらしいかっこよさが感じられ、これにロボット同士の大規模な闘いの描写も加えて、中々のビジュアルになっていると思います。吉岡さんの作画も、目だった特徴は少ないものの丁寧な作画ぶりが感じられ、こちらでも手堅くまとまっているようです。土塚さんの絵は安定しないという大きな欠点があったので、作画の安定感ではこちらの方が上回っているかもしれません。

 しかし、ロボットや魔導兵器も登場する王道ファンタジーとして、それなりにまとまった作風にはなっているものの、「マテリアル・パズル」本編と比べると、いまひとつの出来であるとも感じました。「マテリアル・パズル」の一編としては、これまでと比べてごくオーソドックスな作風で突出した要素に乏しい。これは、他の読者も同様だったようで、連載開始直後から賛否取り混ぜて様々な評価が聞かれることになりました。わたしとしては、連載開始当初は、「これは中々面白い。今後に期待できる」と思っていたのですが、意外にもファンの間から面白いとは言えないと言う声を最初から聞きました。そして、連載が進むに連れて、わたし自身もまた、今ひとつはまれないものを感じるようになり、なんとか1年の連載についてはいったものの、最後にはONLINEへの移籍という形となってしまいました。


・元の「マテリアル・パズル」と共通する要素に乏しいのも魅力に欠ける原因か。
 ここまでいまひとつ魅力に乏しいと感じたのは、やはり「マテリアル・パズル」の一編としては、これまでの作品とは大きく設定が異なり、共通する要素に非常に乏しいことも大きいかもしれません。

 時代があまりにも大きく隔たっており、基本となるキャラクターやストーリー、世界設定が大きく異なっており、特にこれまでの「マテリアル・パズル」で見られたキャラクターや舞台(国や地域)がほとんど登場しなくなってしまったのが大きい。わずかにつながりを感じる要素としては、一部の魔法(マテリアル・パズル)に同名のものがいくつか見られる点と、「マテリアル・パズル」での主要キャラクターの一人・グリン王子が序盤で語り手として登場する程度でしょうか。もちろん、ベースとなる設定(星の守護神「デュデュマ」や「星のたまご」、女神や大魔王と呼ばれる存在)は共通しているようですが、それ以上の接点に乏しく、序盤の頃は特にそう感じます。
 そして、何よりもロボットや魔導兵器の存在。これはあまりにも異質でした。ファンの間でも、今までに見られなかった、ロボットというファンタジーマンガでは異質な存在に戸惑う声が多く、ここでも抵抗を感じる人が多かったようです。

 そして、登場する新しいキャラクターたちに、これまでの「マテリアル・パズル」で見られた、ひどくアクの強い見た目からして個性的なキャラクターが、あまり見られなくなったのも大きいかもしれません。前述のように、少年マンガとしてごくオーソドックスなキャラクター構成で、かつての個性の塊とも言えるようなキャラクターたちが少なくなったように思えます。これは、作画担当が替わったことも関係しているかもしれません。土塚さんの独特の作画だからこそ映えたアクの強いキャラクターは、吉岡さんの特徴に乏しい絵では再現するのは難しかったのか。一言で言えば、かつてのアダラパタやジャンクーアのような、見た目も性格も濃すぎる魅力的なキャラクターたちが、今回はあまり見られなくなってしまったようです。


・これは明らかな迷走。「ゼロクロイツ」の移籍に伴って本編を再開してほしい。
 このように、ある程度の作品にはなっているものの、これまでの「マテリアル・パズル」に比べればオーソドックスでこれといった特徴がない点は否めず、ファンの間からも賛否合わせて様々な声が聞かれ、それ以外の読者の間からもこれといって大きな反響は聞かれず、大きな成功に至ることは出来なかったようです。最終的にガンガンONLINEへと移籍したのも、ウェブ雑誌への左遷的な措置だと考えられますし、やはりガンガンでは芳しい成果は得られなかったのではないかと思われます。

 そして、「ゼロクロイツ」が移籍して行った今、そろそろ「マテリアル・パズル」の第3章・第4章のガンガンでの再開を真剣に考えるべきでしょう。そもそも、今回の連載では、本編の続きを中断してまで、第0章という本編と関わりの薄い一編を掲載するという企画自体にも、相当な違和感がありました。これが、第3章・第4章をきちんと連載して、その上で「ゼロクロイツ」の方も並行して連載する、というのなら話は分かります。しかし、肝心の第3章・第4章の続きが読めないのでは、作品のファンの多くが落胆してしまうことは間違いないでしょうし、実際にもそうなってしまったように思います。

 これには、土塚さんの作品スケジュールにも少々疑問があり、ヤングガンガンでの「BAMBOO BLADE」の原作担当の上に、ガンガンで「清村くんと杉小路くんろ」の連載開始、さらには「BAMBOO BLADE B」まで連載を開始させて、その上で肝心の「マテリアル・パズル」本編が中断して再開されないというのは、あまりにも問題があります。「BAMBOO BLADE」もいいし、「清村くんと杉小路くんろ」もいい。しかし、今の土塚さんの中心となる作品は、やはり「マテリアル・パズル」だと思うのです。その続きを、本人自身の作画できっちり読みたい。それがファンや読者のシンプルな願いではないでしょうか。

 そして、ONLINEへと移籍された「ゼロクロイツ」ですが、これからも連載をがんばっていただきたいものです。正直ONLINEに移籍された作品は、どれもそれ以降の盛り上がりに欠けてくる感は否めないのですが、これはまだ読者の多いガンガンからの移籍ということで、さらには「マテリアル・パズル」の一編ということで、ついてくる読者も多いと思います。移籍にめげずに最後まで物語を完結させてほしいところです。


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