<2010年スクエニコミック20(1)>

2011・1・3

 2010年スクエニコミック20(2)はこちらです。


 これまで、このサイトでは、年末年始の恒例として、前年のスクエニ出版の総括と、翌年の展望の記事を書いてきました。しかし、このところ、スクエニの方針に大きな変化がなく(雑誌ごとにターゲットとなる読者を定め、期待作をアニメ化などのメディアミックスを行って人気を獲得する)、毎回同じような記事になってしまうため、今回は一新して別の記事を書いてみることにしました。

 昨年の末に、いくつかのサイトで、特定のジャンルのマンガの、その年のベスト10、20、あるいは30といった作品を決めるという企画を見かけました。それにならって、ここでも、去年のスクエニの全作品の中から、これはと思う作品を20ほど選んで、あれこれ書いてみることにしました。メディアミックスで話題となった作品や、あるいは昨年新連載が始まったもの、あるいは最終回を迎えたもの、あるいは単に個人的にこれはと気に入った作品など、様々な観点から選んでみました。一応20位から1位まで順位をつけていますが、特に大きな意味はありません。

 各作品に、そのマンガの知名度(どれだけの人に知られているか)を、個人的判断の元に5段階で併記しています。これによって、あまり知られていない作品の中でも、是非とも読んでほしい良作があることを示したいと思います。


「とある魔術の禁書目録」 知名度:☆☆☆☆☆
 スクエニの進めるライトノベルのコミカライズの代表的存在で、今のガンガンの連載の中で大安定株ですね。アニメ化もされているということで、今のガンガンでも最も知名度も高い連載のひとつになっています。「鋼の錬金術師」なきあと、「ソウルイーター」と並んで、名実共に今のガンガンの看板的存在でしょう。他社の原作作品が看板というのは少々微妙なところですが、今のガンガンの少年マンガ系作品の中では、最も読めるものに仕上がっているのは間違いありません。

 連載開始当初から、原作を忠実にコミカライズしていて好印象でしたが、連載を重ねるに連れて作画レベルがどんどん向上していったのが、さらなる高評価につながっています。最初の頃は、電撃大王での連載「とある科学の超電磁砲」と比べてやや見劣りするかなと思っていたのですが、今ではもうまったく遜色ないですね。作画担当の近木野さんの努力を大いに評価したいと思います。

 ちょっと残念なのが、原作のエピソードのうち人気のあるものを優先してコミック化していて、一部にコミック化されないままのエピソードが存在していること。いつか何らかの形でフォローされればいいのですが、それは難しいかもしれませんね。


「絶園のテンペスト」 知名度:☆☆☆
 これも今のガンガンの安定株ですが、しかしこちらは超異色とも言える作品になっています。「スパイラル」の原作者・城平京原作の最新作で、その原作者独特の味が全面に出てしまっています。

 近未来を舞台にしたSFファンタジー?とも言える奇妙な設定で、そんな中でキャラクターたちが推理と駆け引きに満ちた対決を繰り広げるという、まさにこの人ならではの作品。スパイラルと一時期同時に連載していた「ヴァンパイア十字界」の方に、ちょっと近いものがあるかもしれません。あまりに非現実的で、ともすれば妄想とも思えるような世界観の中で、キャラクターたちが大真面目に推理と駆け引きを行う。しかし、それが回を重ねるごとにどんどん面白くなっていくのだから、これにはほんと脱帽です。

 特徴的なのが、作画担当の彩崎さんの絵柄。「スパイラル」の水野さんとも、「ヴァンパイア十字界」の木村さんとも異なり、耽美系の少女マンガ的とも言える絵柄になっています。ガンガンでは珍しいタイプで(むしろ女性向けのGファンタジーの作品に近いか)、絵柄自体もややくせが強いこともあって人を選ぶかなと思えるのが気になるところ。中身は非常に面白いので、是非多くの人に読んでほしいところです。


「君と僕。」 知名度:☆☆☆
 ここ最近のGファンタジーは、「黒執事」「Pandora Hearts」の二大人気連載のアニメ化が終了し、メディアミックス作品の「デュラララ!」のアニメも終了したこともあって、やや落ち着いている感もあるのですが、そんな中で次の期待作として編集部が推しているのはこれかもしれません。

 男子高校生たちが主役ののんびりまったりした日常系作品で、そのゆるやかな空気感が素晴らしい。毎回のエピソードも、個性的なキャラクターたちのコメディで笑えつつ、どこかほっとするような心地いい話が多く、読後感がいい。ちょうど日常系の萌え4コマの男子版のようなところがあって、この手のマンガでは珍しく女性に人気があるのが特徴的です。日常萌え作品の多くが、女の子キャラクター中心で男性読者が多いのに対して、この「君と僕。」のような作品は貴重でしょう。中性的な作風で男性読者でも楽しめますし、もっと広まってほしいところ。アニメ化なんてことになれば相当な話題になりそうな作品です。

 その点では、女性読者をターゲットにしているGファンタジーの連載になっているのは少し残念。かつてガンガンパワードで連載していた頃の方がよかったかもしれません。


「キューティクル探偵因幡」 知名度:☆☆☆
 もうひとつGファンタジーから最近とみに推されてきた連載を一つ。「今のスクエニで一番面白いギャグマンガは?」と聞かれたら間違いなくこれでしょう。作者のもちさんの作品では、かつてステンシルで連載されていた「パパムパ」もよかったのですが、こちらのマンガも尖ったギャグセンスは健在ですね。

 主人公で毛フェチの探偵、ライバル役のマフィア(ヤギ)を初めとするたくさんの個性的なキャラクターたちが、わいわいと集まってギャグを繰り広げる。瞬発的な爆笑度ではトップクラスのマンガ。電車の中で読むと不意の笑いを抑えるのに必死になること間違いなし。これもGファンタジーの連載なので女性読者が中心なのですが、万人におすすめできる良質の作品です。

 ここ1年、2枚もドラマCDを出したり作者のサイン会が行われたりと、いつの間にか企画が目白押しの作品でもありました。


「ランメルモールの少年騎兵隊」 知名度:☆
 これもGファンタジーの作品。まだコミックスの1巻が出たばかりの今年からの新作なのですが、これはかなり面白い期待作なのではないかと。
 ある学園の演劇部の生徒たちが、豪華客船に招かれ、そこで演劇になぞらえた、生き残りをかけた生徒同士の闘いを強要されるというもの。とはいえ、バトル・ロワイヤル系のゲーム対決ものとはちょっとニュアンスは異なっていて、それぞれ内面にいびつなものを抱える生徒たちの心理、突如狂気の本性をむき出しにした演劇部の顧問、そしてこの客船での奇怪な催し自体の謎と、様々な点で興味をそそられるものとなっています。キャラクターたちのシビアな境遇を見せるエピソードも多く、毎回読ませます。

 ただ、このマンガも、前2作以上に女性向けの趣きが強く、女性好みの作画や、少年たちばかりのキャラクター構成と、Gファンタジーの女性読者以外にはあまり興味をそそられないように思えるのが残念なところです。このようなGファンタジーの作品は、スクエニの他の雑誌の作品に比べてそもそも露出が少なく知名度も高くないように感じますし、少々惜しいところではあります。今のGファンタジーで知られているのは、「黒執事」「ぱにぽに」等を始めとする一部のマンガのみではないでしょうか。ガンガンなどでも知られているのは「鋼の錬金術師」などごく一部かもしれませんが、Gファンタジーの場合、雑誌自体がマイナーな分、特にその傾向が強そうです。


「牙の旅商人」 知名度:☆
 ヤングガンガンの硬派系作品の期待の新作。
 ヤングガンガンでは、「死がふたりを分かつまで」や「フロントミッション」などの、硬派系バトルアクション作品がいくつか見られ、しかもどれも安定して質が高いものばかりで、個人的には非常に高く評価しているのですが、この新作もまた期待できるかもしれません。

 原作者は、かつて少年サンデーで連載された「ジーザス」や「ARMS」の原作者として知られる七月鏡一。そして作画は梟(ナイトオウル)となっていますが、これは以前ヤングガンガンで連載されていた「激流血」で作画を担当した28ROUND。「激流血」の作画も見るべきものがあったのですが、そのコミックスの帯で七月鏡一が作画を絶賛するコメントを寄せていたことがあり、そんな縁からこのふたりが組んで作品を手がけることになったのかもしれません。ヤングガンガンには、以前から実力派の原作者と作画担当者を組み合わせた良作が数多く見られますが、これもまたその一角でしょう。

 とにかく緻密な絵が素晴らしい。荒れ果てた荒野や廃墟、猥雑な商都など緻密な背景描写、重厚感のある人物描写と、前作よりもさらに磨きがかかっているようです。そして、七月鏡一によるストーリーもこれまた非常に力が入っている。厳しい運命に対して立ち向かう強い意志を持つ人々の葛藤、それがよく描かれています。

 実際レベルの高い良質な作品だと思いますが、これもまたヤングガンガン硬派系の例に洩れず、メジャーな人気・知名度を得るのは難しそうなのが残念なところ。一部で高い評価を得ている「死がふたりを分かつまで」や「フロントミッション」のように、知る人の知る秀作になるのでしょうか。


「東京BARDO」 知名度:☆
 そんな硬派系作品の中でも、個人的に最もおすすめなのがこの「東京BARDO(東京バルド)」。しかし、残念ながらヤングガンガンの読者以外にはあまり知られていないと思います。

 しかし、このマンガは知らなくても、最近放映された「世紀末オカルト学院」というアニメを知っている人は多いのではないでしょうか? あるいは、少し前にNHKで放映された児童文学原作のファンタジーアニメ「精霊の守り人」。こちらも知っている人は多そうです。実は、このふたつのアニメのキャラクターデザインを担当した麻生我等(あそうがとう)が、作画を担当しているのがこのマンガ。このマンガとアニメの絵を比べてみても、キャラクターの描き方が似ていることは一目瞭然です。
 麻生氏は、元々は快楽天で連載をしていたエロマンガ家らしく、その肉感的な絵柄はアニメ作品にもよく表れていました。この「東京BARDO」でも健在で、そのダイナミックな作画は他の追随を許しません。さすがに本職のエロマンガ家は一味違います(笑)。

 そして、その麻生氏の魅力的な作画で描かれるストーリーは、東京を舞台にした風水バトル。風水とか陰陽道とか和風伝奇ものが好きな人にはとくに薦められます。アクションシーンの完成度、大胆な動きのある構図も言うこと無し。
 さらには、東京という巨大都市を舞台に、都市のあり方が作品のひとつのテーマとなっており(主人公は都市プランナーで大学の講師という設定)、東京の様々な場所、それも東京に伝わる怪談や都市伝説をふんだんに取り入れているところが面白い。東京という街が好きな人、それも東京にまつわるオカルト・都市伝説に興味があるという人には特におすすめです。


「ゴッホちゃん」 知名度:−50
 そのヤングガンガンから、これはと思う読み切り作品をひとつ。ヤングガンガンは、以前から4コマやショートコミックの読み切りをよく掲載していますが、卑近なネタのぱっとしないギャグマンガが多く、これといった作品は少ないように思います。しかし、そんな中で、この「ゴッホちゃん」には一味違うものを感じました。

 タイトルどおり、有名な画家のゴッホを主役にした4コママンガで、基本的にはコミカルなネタ満載のギャグ4コマです。有名な画家たちをキャラクターをコミカルにデフォルメしたり、画家の普段の作業や習慣を笑えるネタにしたりと、現実の姿からはかなり崩してあるとは思いますが、それでも時にリアル調で描かれた画家たちの素顔や、時に真面目な美術の知識なども盛りこまれ、ギャグばかりにならずにバランスの取れた作風になっています。

 それだけではありません。実際にゴッホたちが描いた絵がふんだんに挿入され、それがまた本当の絵をそのまま写したかのように作者の手によって丁寧に模写されているのです。そして、その絵にまつわるエピソードにしみじみと感動させられる。名画「夜のカフェテラス」などでは、ゴッホがカフェの近くで絵を描いているところに、店員がサービスでコーヒーを持ってきてくれる。それをありがたく飲みながら「やはりカフェはいい」としみじみと語るゴッホ。「人々の温もりが、名画を生む原動力。」という柱の煽り文も素晴らしく、実に感動できるエピソードになっています。

 このように、実在の画家を軽妙に崩して笑えるコメディにする一方で、画家や絵画のリアルな本質にも触れ、芸術への惜しみない愛、思い入れが感じられる異色作になっています。雑誌でたまに載るだけのページ数も少ない読み切りなので、まだほとんどの人は知らないと思いますが、この新コンセプトの4コママンガには大いに注目していいと思います。


「うみねこのなく頃に」 知名度:☆☆☆☆☆
 スクエニを代表するメディアミックスで最も成功した「ひぐらし」と「うみねこ」。今もってなおその連載は健在で、とくに「うみねこのなく頃に」のコミカライズは、現在EP(エピソード)3〜6までがスクエニ各雑誌で連載中であり、つい最近までEP2も連載されていました。そのEP2はGファンタジーで連載されて完結(作画・鈴木次郎)、EP4はウェブ雑誌のガンガンONLINEで連載しており(作画・宗一郎)、最新のEP6はGファンタジーで連載が始まり(作画・桃山ひなせ)、そして残るEP3とEP5がガンガンJOKERで連載されています(EP3の作画・夏海ケイ EP5の作画・秋タカ)。

 いずれも力作揃いだと思いますが、その中でもひとつ代表するものを挙げるなら、やはり夏海さんが描くEP3ではないかと思います。EP1でも作画を担当し、トップバッターとして文句のない仕事をした夏海さんですが、このEP3でも変わらぬ仕事ぶりを見せています。今では、夏海さんの絵が、コミック版のうみねこの代表的なイメージとなっていると言っても過言ではありません。

 ストーリーも、相変わらず苛烈な展開ながら面白く、最新刊の表紙にもなっている新たな魔女との闘いに見逃せないものが。「ひぐらし」のコミカライズはもう最終章がクライマックスを迎えている段階ですが、こちらのシリーズはまだまだ長く楽しめそうです。


「ヤンデレ彼女」 知名度:☆☆☆
 JOKERの連載は比較的粒が揃っている印象ですが、その中でも目だって面白いと感じるのがこのラブコメディ。ヤンキーな彼女・レイナさんと普通人?の男子生徒・田中とのラブコメなのですが、とにかく笑える作品になっています。このマンガも爆笑度が半端ない。

 その理由は、まず個性的すぎたはっちゃけたキャラクターが多いこと。主役のカップルふたりだけでなく、その周囲を固めるキャラクターたちがみなエキセントリック。田中の妹で重度のM(マゾ)ッ娘の真夜美、イケメンなのに常にヘタレ臭が漂う白鳥、オタクな喫茶店の店長でなぜか常にマスクをしている木林、などがその代表で、つい最近ではその喫茶店で働く生粋のホモのパティシエが登場。これまた尖りまくったキャラクターでのっけから笑わせてくれました。

 そして、毎回のギャグのネタにもはっちゃけたものが多く、いろいろなパロディネタが多く見られたり、あるいは作者はこのマンガ自体をネタにしたりと、見た目以上にフリーダムな中身になっています。コミックスの帯では、「ニヤニヤ系ラブコメ」などと書いてありますが、実際には声を出して笑えるようなシーンがとても多く、「爆笑系ラブコメ」としても楽しめるんじゃないかと思います。


 残りの10作品は、2010年スクエニコミック20(2)でどうぞ。


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