<ガンガン系と腐女子の歴史(1)>

2013・1・31

 ガンガン系(エニックス・スクエニ)のマンガや雑誌は、以前から総じて女性読者は多く、中でも一部には今では”腐女子”と呼ばれるBL好きのマニア女性読者に、大きな人気を獲得した作品がいくつもありました(ただし、腐女子という用語は比較的最近使われるようになった言葉で、かつて90年代には、同じような意味で「同人女」という言葉がよく使われていたような気がします)。

 ここでは、そうした腐女子に人気だったガンガン系作品を取り上げることで、そうした観点からスクエニ(エニックス)マンガの歴史を振り返ってみようと思います。こうした作品の人気は、普段はあまり正面から取り上げられることはないのですが、あえてそうした側面を見ることにも意義があると思います。また、最近はこうした腐女子的な趣味が、以前よりも広く受け入れられ、特に男性にも抵抗が少なくなっていると思われることも、こうした記事を書こうとしたひとつの理由となっています。

 記事は2回に分けて、1回目ではお家騒動以前(〜2001年)までの動向を見ていきます。

 (2)はこちら


・黎明期のガンガン、エニックスを振り返る。
 ガンガンの創刊は1991年ですが、それ以前の80年代から、一部のマンガにBL的な人気が集まる現象は既に起こっていて、すなわち腐女子と呼ばれる読者は、既にかなり多く存在していたようです。特に週刊少年ジャンプの一部作品には大きな人気が集まり、そうした一部少年マンガに腐女子人気が集まるという構造は、もう既にこの頃から今と変わりませんでした。

 では、91年に創刊され、当初は少年マンガ色が強かったガンガンはどうだったのか。結論を言えば、さすがに少年ジャンプほどのまとまった人気ではなかったようですが、一部には腐女子的な人気のある作品があったようです。あの頃のガンガンは、一口に少年マンガと言っても多彩で、今よりもずっと低年齢向けと思われる作品もあり、あるいは劇画超の青年誌的な雰囲気を持つ作品も多く、女性の好みから外れていると思われるマンガも数多く見られました。一方で、ロトの紋章やハーメルン、魔法陣グルグル、南国少年パプワくんなど、中心となった人気マンガには、女性に人気の作品が当初から多く、これがのちのガンガン系の女性人気の端緒となったと見てよいでしょう。

 その中で、特に腐女子的な受け方をした作品としては、まず「ハーメルンのバイオリン弾き」が挙げられます。初期の作品の中でも、最も少年マンガ色が強い作品のひとつで、さらには絵柄やキャラクター、ファンタジー世界とクラシック音楽をモチーフにした世界観など、女性でも抵抗無く好まれる要素が揃っていたことが、腐女子を引き付けた理由だと思います。ガンガン系で、のちのインターネットで最初にそうしたサイトを見かけたのは、確かこの作品だっったと記憶しています。

 もうひとつ、創刊時代からの連載で、「南国少年パプワくん」の人気も挙げるべきでしょうか。元からある程度そうした女性人気があったようですが、連載後半でシリアスなストーリーに入り、美形キャラクターが多数登場するようになってから、人気が一気に高まりました。また、作者の柴田亜美がそもそも腐女子的な趣味を持つ人で、そうした話を投稿雑誌の「ファンロード」で発言したことが、そちら方面の読者に注目されるきっかけだったと記憶しています。

 もうひとつ、これらよりもさらにまとまった腐女子人気が目立った作品として、「TWIN SIGNSAL(ツインシグナル)」を挙げないといけないでしょう。こちらは、当初はコミカルなロボットコメディだったのですが、連載中盤から大きく路線を変更、ヒューマンフォーム(人型)ロボットたちが多数登場し、時に対立するロボットと激しいバトルを繰り広げるシリアスなストーリーに移行しました。このときから一気に全般的な人気も高まるのですが、一方で何人も登場した美形キャラクター(ヒューマンフォームロボット)に、腐女子的人気が集まることになりました。やがて、ガンガンの看板クラスへと上昇した作品自体の人気の高まりに呼応して、腐女子方面での人気も非常に高くなりました。メディア展開では結局OVAしか発売されませんでしたが、もしアニメ化すれば相当な大きな反響が出たはずです。


・作品のごく一部で腐女子人気が出た作品も。
 こうした作品とは別に、作品の一部キャラクターのみに腐女子人気が集中した珍しい作品もあります。浅野りんの最初の連載「CHOKO・ビースト!」がそれで、作品自体はごく中性的な絵柄のコメディで、目だって腐女子人気が集中した作品ではありません。しかし、キャラクターの中で双子の天狗として登場した飛鳥羽鳥の2人の絡み?に、なぜか腐女子の人気が集中。ここのみ取り上げてカップリングにしたサイトの記事や掲示板の発言を、草創期のインターネットで何度も目にしました。

 なぜこのふたりにだけ人気が集まったのか、どのあたりが萌えたのか、残念ながら腐女子ではないわたしには完全には理解できなかったのですが、こうした一部キャラクターにカップリング人気が集まるという現象は、他の作品でも往々にして見られるようです。これは後述しますが、本来このようなガンガン系で顕著になる中性的な絵柄や雰囲気の作品は、あまり腐女子的な注目が集まらない傾向にあるようですが、この「CHOKO・ビースト!」の飛鳥と羽鳥だけは例外中の例外と言えました。


・そして真打登場「最遊記」。
 しかし、90年代後半になって、上記の作品とは桁違いの爆発的な腐女子人気を獲得する作品が登場します。言わずと知れたGファンタジー最大のヒット作「最遊記」です。

 ガンガンから遅れて2年、93年に創刊されたGファンタジー(当初はガンガンファンタジー)という雑誌は、もともとある程度女性向けと思える連載が多く、スクエニの雑誌の中では最も女性読者を集めた雑誌となりました。しかし、当初は必ずしも腐女子に注目された作品は多くなく、目立った腐女子人気を集めた作品は、意外にあまり見られなかったと思います(むしろガンガンの方がそうした作品は多かったくらいです)。しかし、この「最遊記」に対する反応はまったく違いました。

 これは、96年に読み切りが掲載され好評を博し、それを受けて97年初頭から連載が始まったのですが、その最初期からマニア女性の反応がまったく異なりました。確かに、ガンガン系は総じて女性人気の高い作品は多いのですが、それらと比較してもはるかに突出した女性読者の反応があったのです。あの頃、とあるアニメショップ(というかアニメイト)のコミュニケーションノートを見る機会があったのですが、ガンガン系でこの最遊記の書き込みばかりが特に目立ったページが続いていて、不思議に思った記憶があります。そして、その人気はのちにさらに爆発的なものとなるのです。

 きっかけとなったのは間違いなくTVアニメです。最遊記のTVアニメは、作画があまり芳しくなく、その点で原作読者にはかなり不評だったのですが、しかしアニメでこの作品を知った女性ファンにはひどく好評だったようで、店頭から掲載誌のGファンタジーが消えるという異例の事態を引き起こします。冗談ではなく、アニメ化直後に本当にGファンタジーが一冊残らず多くの書店から消えたのです。それだけ爆発的な反応がありました。

 それ以後は、もう本当に腐女子人気の独壇場といった感じで、掲載誌のGファンタジーのあり方まで大きく変えてしまいました。これまでも確かに女性人気の高い雑誌でしたが、腐女子と呼ばれる読者が大量に流入したのは、間違いなくこの時です。これは、のちに最遊記がお家騒動で他社に移動するまで続きます。

 他社(一迅社)に移籍してからも長く連載は続き、何度もTVアニメ化されるなど、今に至るまで続く息の長い人気作品となりました。ただ、個人的にはエニックスのGファンタジー掲載時代が最も面白かったと思いますが・・・。腐女子を引き付けた美麗な作画での美形キャラクターだけでなく、内容も面白かったのが爆発的な人気の理由でしょう。


・90年代後期のガンガンでは「PEACE MAKER」に人気が集中か。意外に腐女子には受けの悪い中性的ガンガン系作品。
 その「最遊記」には及ばないものの、90年代後期のガンガンでほぼ唯一まとまった腐女子人気を獲得した作品がありました。「新選組異聞PEACE MAKER」です。

 当時のガンガンは、のちに「ガンガン系」と呼ばれる独特の作風を確立し、中性的な作品に多くの女性読者の支持が集まりました。しかし、腐女子に対するまとまった人気となると、この作品が突出しています。他の連載とは異なり、黒乃奈々絵による作画は、Gファンタジー連載に近いイメージとも言える女性好みの耽美的な雰囲気を感じる作風で、それに少年マンガ的なストーリーが加わって、これが腐女子を引き付ける要因となったようです。これも、当時のガンガンで幅広く人気を得た連載のひとつであることは間違いありませんが、しかし他の中性的なガンガン作品とは、若干異なる方面での受け方をした点が特徴的でした。

 そもそも、今挙げた「ガンガン系」と呼ばれるこの当時のエニックスならではの中性的作品、確かに女性読者にも幅広く人気を集めたものの、いざ「腐女子」となると意外なほど芳しい反応を得られていません。というか、そもそもこのガンガン系作品、基本的に腐女子の受けはかない悪いのです。

 その理由は、これらの作品が、いわゆる少年マンガからは外れた作風を保持していたからだと思われます。腐女子にとっては、むしろ初期(90年代前半)までの、少年マンガ全開だったガンガン作品の方が、はるかに受けはよかったのです。逆に、この頃の中性的なガンガン系作品は、一部少女マンガ的とも言える作風だったり、のちの時代に萌え系とも呼ばれる作風を持っていたり、明らかに少年マンガを好む腐女子とは折り合いが悪く、あまり注目を集めなかったようなのです。ガンガン連載に限れば、この「PEACE MAKER」以外だと、わずかに少年マンガ色の強かった「アークザラッド2〜炎のエルク〜」(いわゆる西川アーク)のファンサイトに、わずかにそういった読者を見かけた程度で、それ以外だと急に少なくなります。

 これは、女性読者にも非常に高い人気を誇った「魔探偵ロキ」や「スパイラル〜推理の絆〜」でさえそうで、確かにこれらの作品は一部に腐女子的なカップリングの話は見かけましたが、「最遊記」や「PEACE MAKER」に比べると圧倒的に少ない。また、腐女子の活動のひとつの中心である「同人誌」に関しても、最遊記は一大ジャンルとなるほどの盛り上がりを見せましたが、一方でこのふたつの本は非常に少なかったと記憶しています。「女性に人気=腐女子に人気(同人で人気) とは必ずしも言えない」という点は非常に重要で、人によってはこの点を誤解してしまいがちなので(両者を混同してしまう)、大いに注意すべき点ではないかと考えます。


  続きはこちらです。


「四季のエッセイ・マンガ編」にもどります
トップにもどります