<ガンガン系と腐女子の歴史(2)>

2013・8・31

 (1)はこちら

 では、(2)では、エニックスお家騒動後(2001〜)の動向について見ていきます。


・お家騒動後のガンガン、雑誌に衝撃を与えた「鋼の錬金術師」のヒット。
 さて、ここからはお家騒動後のエニックス(2003年以降合併してスクエニとなる)と腐女子の動向を見ていこうと思います。
 2001年のお家騒動のきっかけは、雑誌編集部内での編集者の方針の対立だったと言われています。「ガンガン系」と呼ばれる中性的な作風の連載が増えていったことをよしとせず、ガンガン初期のような少年マンガ中心の作風に戻そうとする編集者たちが、そちらの方向へと改革を進めていったことが原因でした。この動きは、お家騒動の1年以上前から進められ、騒動が起こったことで決定的となります。とりわけ、中心雑誌のガンガンは、強く少年マンガを意識した新連載が多数登場し、大きく誌面は様変わりします。

 これら新しく登場した少年マンガは、腐女子と呼ばれる読者の好みには合っているはずですが、しかし当初はさほどの反応はありませんでした。実際の新連載の質がまったく安定せず、女性読者を引き付ける連載が少なかったことがその理由でしょう。これは、何も腐女子や女性読者ならずとも、一般の読者全体にも見られた現象で、この時期ガンガンを初めとするエニックス雑誌は、大きく部数を落とすことになります。

 しかし、お家騒動から数年後の2003年10月。ここで合併直後のスクエニを揺るがす大きな出来事が起こります。言わずと知れた「鋼の錬金術師」のテレビアニメ化ですが、アニメ放映直後に空前の反響があり、掲載誌のガンガンが一気に売れ、書店の店頭から消えて急遽増刷するような事態まで巻き起こってしまいます。
 「鋼の錬金術師」自体は、お家騒動とほぼ同じくして2001年に始まった連載でした。当初から圧倒的な質で雑誌読者の評価は高かったのですが、その人気が爆発的に広まるのは、間違いなくこのテレビアニメでした。ガンガンの部数は一気に3倍になり(16万部→42万部)、ガンガンの編集部もこの反響を受けて、以後数年は「鋼の錬金術師」を全面に押し出した雑誌運営となります。

 そして、当初から、この「アニメで増えた読者の大半が女性読者である」と言われていました。これは事実であったらしく、この時にガンガンを買い始めた読者の中には、熱狂的な女性ファンが多かったようです。そして、この中に、いわゆる腐女子と呼ばれる女性読者が多かった可能性も高く、そして実際にこれ以後一気に同人人気が爆発するのです。

 かつて「最遊記」がヒットした時も、腐女子による同人人気は非常に大きなものがありましたが、「鋼の錬金術師」はそれ以上でした。コミックマーケットでも、「鋼の錬金術師」だけで数百のサークルが林立する一大ジャンルとなります。コミケでは、今でも「FCガンガン」というガンガン系のみを集めたジャンルコードが存在していますが、そのガンガン系でここまでヒットした同人ジャンルはほかにありません。


 なぜここまで「鋼の錬金術師」が受けたのか。そもそも一般層にも広く大ヒットするほど作品が面白かったことに加えて、女性好みの絵柄であったこと、ストレートに少年マンガ色の強い作風だったこと、一部にカップリングを想起しやすいキャラクターが多かったことなど、腐女子方面、同人方面でもヒットを得る要因が揃っていたのだと思います。


・「鋼」以外のガンガン作品はどうか。
 このように、エニックス・スクエニでは圧倒的な腐女子の反響を集めた「鋼の錬金術師」ですが、ではそれ以外の少年マンガ作品はどうだったのか。実際のところ、一部の作品にはそうした女性読者に読まれたものもあったようですが、しかしその人気は総じて低く、少なくとも「鋼の錬金術師」や「最遊記」ほどの同人人気を得た作品は、ほとんど見られません。コミケのFCガンガンを見渡しても、この2作品以外の作品で参加する女性サークルはおしなべて少なく、いわゆるマイナージャンルとなっています。

 一応、「鋼の錬金術師」に次ぐヒットとなった「ソウルイーター」においては、ある程度まとまった女性人気も集まったようですが、それ以外の少年マンガ作品、例えば「666(サタン)」「マテリアル・パズル」「B壱」「女王騎士物語」「スカイブルー」「HELL HELL」「Red Raven」などは、一般にもそれほどのヒットにはなってませんが、腐女子方面での反響もそこそこのものにとどまっているようです。絵柄がそれほど女性好みではなかったり、短期間で打ち切り的に終了して盛り上がらなかったり、そもそも作品の質が芳しくなかったりするのが、その理由ではないかと思います。

 さらには、ガンガンという雑誌自体の低調ぶりも、盛り上がりに欠ける大きな要因でしょう。「鋼の錬金術師」アニメ化直後には部数が跳ね上がったガンガンですが、その後鋼ブームが沈静化するとともに元の部数に戻っていきました。以後は低調な部数のままで推移していき、鋼が最終回を迎えた後は、さらに部数を大きく減らしています。「そもそも読んでいる読者が少ない」というのが、腐女子方面・同人方面の人気も低調である最大の理由と言えそうです。


・「黒執事」についてはどうか。
 では、ガンガン以外のスクエニ雑誌についてはどうか。ざっと見渡しても、ガンガン(の「鋼の錬金術師」)以上に腐女子人気を集めた雑誌はなさそうだというのが結論です。

 WINGとパワード、その2誌の後継誌であるJOKERは、比較的騒動以前の中性的なガンガン系の作風を残している、ややコア読者向けの雑誌となっていますが、腐女子に好まれる少年マンガはガンガンほどには多くありません。ヤングガンガン、ビッグガンガンは、当初から青年男子向けの方針を強く打ち出しており、女性よりは男性に好まれる傾向の作品がずっと多くなっています。ウェブ雑誌であるガンガンONLINEは、様々な連載が集う雑多な誌面となっていて、中には女性に好まれるタイプの作品もありますが、それはごく一部となっており、今のところさほど注目されてはいないようです。

 唯一、創刊当初から女性向け色の強い誌面を維持しているGファンタジーについては、そうした作品もまだ多く見られます。特に最近は、以前より強く女性向けを意識した作品も増えており(乙女ゲーム原作の連載など)、美形男子が出てくるタイプの連載がかなりの割合を占めています。

 中でも、とりわけ女性に爆発的な人気を呼んだのが、2006年に連載が始まったあの「黒執事」でしょう。連載当初からかなりの話題を集めており、初期のころからコミックスの売り上げも非常に良好だったようですが、やはりこれもテレビアニメ化でさらに爆発的な反響を呼び、Gファンタジーでも屈指の人気作品となりました。

 女性好みの作風で実際にも非常な人気ということで、この作品については、一時期かなりの数の同人誌も見られました。ただ、一大ジャンルをなした「鋼の錬金術師」や「最遊記」に比べると、腐女子人気・同人人気の規模は小さかったようです。数百のサークルが軒を連ねていた「鋼」に比べると、こちらのサークル数はやや少なくなります。
 理由としては、やはり王道の少年マンガからは外れる(どちらかといえば少女マンガ的ともいえる?)作風が、微妙に腐女子の好みからは外れていたのではないかと考えます。やはりこれも「女性に人気=腐女子に人気とは必ずしも言えない」作品であると言えそうです。
 Gファンタジーのほかの連載も、その多くが同じような傾向にあるようです。「Pandora Hearts」や「君と僕。」など、アニメ化もされて女性に好評だった連載は少なくなく、一部にはそうした同人誌も見られますが、やはりガンガン系(FCガンガン)の中の小さなジャンルとして推移しているようです。

 そして近年、これらの雑誌もガンガン同様に以前ほど読者は多くなく、とりわけ「スクエニ(エニックス)の雑誌だから読む」という熱心なファン・愛読者が少なくなっていることも、こちらの方面のファンがさほど多くない原因となっているようです。以前ほどまとまった雑誌や出版社に対する人気がないことが、大きな注目を集める作品に乏しい理由と言えそうです。


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