<スクエニ系コミック・カバー裏劇場>

2012・3・9

 スクエニ(エニックス)のコミックス(単行本)の大きな特徴として、カバーの下に何かあることが挙げられます。通例、カバーを外すとその下には、何も書いてないかレーベルごとの共通デザインがあるか、あるいは表紙イラストがそのまま描かれているかといったコミックスが多いと思いますが、スクエニではそうではない。カバーの下になにかしらおまけがあるケースが非常に多いのです。

 これは、何も今に始まったことではなく、エニックス出版の最初期、ガンガン創刊直後からそのような試みが始まっていました。当時から作者や編集部のサービス精神が旺盛だったことが窺えます。その後、「エニックスの単行本はカバーを外すと面白い」という評判が広まり、今ではカバー裏に何か仕掛けを施すのが定番となっています。
 ここでは、そんなスクエニ(エニックス)のコミックスのカバー裏の傾向をまとめてみました。めくるめくカバー裏の世界をお楽しみください。


・何も書かれていない。
 まず、普通のコミックスなら、このようなことは珍しくありません。むしろそれが当たり前で、本当に無地だったり、あるいはコミックスのレーベルごとに定まっているなんらかのシンプルなデザインが描かれているくらいの本が、最も多いのではないかと思われます。

 そのため、わざわざカバーを外して見る人も少ないですし、「まさかこのカバーの下に何か描かれていることはないだろう」と誰もが思ってしまいます。しかし、スクエニのコミックスは、そういう単行本の方が少数派なのです。一応、このように本当に何も書かれていないシンプルなコミックスも、あるにはあります。しかしそのようなコミックスは、スクエニではせいぜい数%にも満たないのではないでしょうか。それ以外のコミックスのカバー下は、まず間違いなく何かあります。


・カバー表紙のモノクロ版。
 これも普通のコミックスではよくあります。カバーに描かれた表紙の絵と同じものが、カバーの下にもそのまま描かれている。あるいは、カバーではカラーのイラストだったものが、その下ではモノクロになっていることが多い。このようなコミックスも、ひとつの定番ではないかと思われます。

 スクエニでも、このように表紙のモノクロイラストが描かれているコミックスは、それなりにあります。カバーの下に本当に何も書かれていないものは珍しいですが、このような表紙の流用絵ならば、全体の2割程度はあると思います。最近では、特にヤングガンガンのコミックスには多いですね。雑誌ごとに方針の違いがあるのか、よく分からないですが、出版社内でも一定の傾向はあるようです(ただ、ヤングガンガンの作品でも「WORKING!!」や「咲-saki-」などは、かなり凝ったおまけマンガが見られるので、すべてがそうというわけではありません)。

 また、そのバリエーションとして、そのままの表紙絵ではなく、なんらかの加工が加えられていることがあります。ちょっと大きさが変わっていたり、モノクロでも色合いが変わっていたり、モアレ加工されていたり、コミックスによって様々。これは少しでも工夫を凝らそうとした編集者の努力がうかがえるかな。あと、「表紙絵のラフ」が描かれていることもたまにあります。「BAMBOO BLADE」あたりがそれに該当するでしょうか。


・おまけイラスト。
 カバー下のひとつの定番。作者によるなんらかの描き下ろしのイラストが描かれているもの。スクエニではまずこれがとても多い。主にキャラクターのイラストに加えて、作者のちょっとしたコメントが書かれていることも多く、ファンサービスとしては定番ですね。やはりこういったものが描かれているとうれしい。

 単なるイラストではなく、なんらかのネタが盛り込まれた「1コママンガ」的なものもよく見られます。それも、くだけたギャグ・コメディネタであることが多い。本編がシリアスな作品・ストーリーでも、カバーの下ではギャグネタが用意されていることが多く、ここでちょっと和むことが多いですね。シリアスな本編から離れたひと時のファンサービスと言ってもいいでしょうね。


・おまけマンガ。
 おまけイラストと並ぶカバー下の定番。本編から離れた描き下ろしのショートコミックが描かれているケース。カバー下の仕掛けとしてはこれが一番多数派ではないでしょうか。
 こちらも、ちょっとくだけた読み切りのギャグ・コメディであることが多く、本編から離れた息抜きのような感じになっていますね。本編がシリアスで深刻なストーリーであればあるほど、こちらの方ですごいギャップを見せることが多いです。
 例としては「ひぐらし・うみねこ」シリーズのカバー裏がその典型かな。特にうみねこEP1やEP3を担当した夏海ケイさんのそれは、その多くが本編の1シーンをパロってギャグ化したものとなっていて、これはAmazonのレビューで好評のコメントをいくつも目にしました(笑)。本編とは直接関係のないお遊びページでも、こうして読者に好評を得るというのは、大変うれしいことではないかと。スクエニが行うこうしたカバー裏のサービスには、きちんと意義があるわけです。


・表紙のパロディ。
 本編の1シーンではなく、表紙のパロディとなっているものもあります。一見して表紙と同じように見えるけれども、よく見ると違っていて、シリアスな表紙を崩したパロディギャグになっているという試み。これをやっているコミックスは案外多い。

 最近でも代表的なものは、「黒執事」でしょうか。例えばコミックスの1巻から4巻まで見てみると、表紙はいずれも執事の黒い正装を着たセバスチャンですが、カバー下ではいずれも同じ構図のままで何か別の職業に扮したイラストとなっていて、それぞれ「黒ホスト」「黒ドクター」「黒忍者」「黒レーサー」となっています。さらには、裏表紙のカバー下で、その姿でセバスチャンが活躍するアナザーストーリーが用意されていて、二度笑える構成となっている。これは中々面白い仕掛けだと思いました。

 また、このバリエーションとして、「表紙の続き」になっているものがあります。表紙のイラストのその後の展開が描かれている仕掛けで、例えば衛藤ヒロユキさんのグルグルスピンオフ「舞勇伝キタキタ」では、表紙自体がまずキタキタおやじが全面に出たギャグになっていますが、カバー下に描かれたそのあとの脱力の展開がまた面白く、さらに笑える構成となっています。


・内容に関連した図像・図柄。
 イラストやマンガとは違うのですが、作品の内容に関連したなんらかの図像・図柄のようなものが描かれていることがあります。
 例えば、「とある魔術の禁書目録」では、禁書目録を象徴する魔法陣がカバー下中央に描かれています。このコミックス自体が魔道書であるという設定なのかもしれません。シンプルなカバー下ですが、何もない絵柄や表紙の流用よりはずっといいですね。

 あるいは、「東京バルド」というマンガは、東京を舞台にした伝奇バトルものですが、カバー下には青竜・白虎などの風水の四聖獣の図像(古墳に描かれているような図)が毎巻描かれていました。これもまた雰囲気があっていいですね。描き下ろしのイラストやマンガが用意できなくても、こういったちょっとした試みがあると読む方としては楽しいです。


・作品の設定資料。
 これも一種の図像と言えますが、作品本編の設定資料となっている場合もあります。キャラクターや世界観、設定等をラフや線画で表示した、よくアニメ作品で公開されているあれですね。

 これが見られる代表的なマンガは、なんといってもあの「ロトの紋章」です。最初の巻から一貫して作中に登場するモンスターの設定資料となっていて、線画と説明文で構成された興味深いものとなっています。原作ゲームのドラクエに登場するモンスターだけでなく、作中オリジナル、もしくは作者によってアレンジして解釈されたモンスターの絵もふんだんに盛り込まれ、とりわけ強敵ボスたちの設定資料は見ごたえがありました。

 この「ロトの紋章」は、ガンガン創刊号からの看板作品で、そのコミックス1巻もガンガンで最初に発売されたコミックスのひとつとなりました。その時点ですでにこのようなカバー下のサービスが見られたことは、特筆に価します。これ以外の初期の発売のコミックスでも、すでにカバー下の描き下ろしがいくつも見られましたし、最初期からエニックスではこのようなお遊びを積極的に行っていたのです。これは、新興の出版社の自由な空気を象徴するものと言えるのではないでしょうか。


・前巻のストーリーや作品世界の説明。
 これはちょっと珍しい試みです。これまでのカバー下は、あくまで作者や編集者のお遊び、熱心な読者に向けたサービスの意味合いが強いものでしたが、これはちょっと違ってかなり実用的なものとなっています。

 これが見られたのは、あの「ファイナルファンタジー12」のコミカライズ作品です。このコミックス、1巻のカバー下はただの表紙のモノクロイラストでしたが、2巻以降は大きく様相が異なり、作品世界とキャラクターの紹介、そして前巻のストーリーのダイジェストが綿密に書かれたものとなっています。情報量がかなり多く、表裏に渡ってびっしりと書き込まれた印象で、この精力的な試みは中々のものだと思いました。前の巻のダイジェストが記されていることで、未読の読者にとっても役に立つものとなっていますし、実際にそれを想定して書かれたものだと思われます。

 しかし、これが本当に未読の読者に効果があったかは少し疑問です。カバーの下では気付かない可能性が高いですし、気付いたとしてもそれは本編を読んだ後ではないか。コミックスを買った後いきなりカバーを外してその下を見る人は多くないでしょう。
 それに、こうした設定やストーリーの紹介は、普通のコミックスなら、コミックスの最初のページの前書きで行っていることが多く、それで十分でしょう。果たしてわざわざカバーの下でやる意義があるのか疑問です。その後、これと同じ試みを行う作品が見られなかったことからも、やはり流行らなかったようですね。


・作者の近況報告。
 作者の近況や読者のメッセージを記したマンガやテキストが描かれるケースもあります。通例、このような試みは、コミックスの最後の頃のページで、いわば後書きとして書かれることが多いのですが、ページ数の関係で後書きのページが取れない場合、こちらの方で書くというケースが往々にしてあります。また、最初からこのスペースで近況報告を好んで描く作者もいるようです。

 例としては、一時期の「東京アンダーグラウンド」で、このカバー下での作者近況報告がよく見られました。また、「天正やおよろず」もそうでした。こちらは多数の文字にイラストが添えられた熱心なメッセージとなっていて、中々読み応えがありました。また、このマンガだけでなく、カバー下での近況は、スペースが普通の後書きよりも限られるからか、その分書き込みの密度が増える傾向にあるようです。個人的には、限られたスペースで出来る限りの読者サービスを展開しようという試みが感じられて、かなり好きですね。


・新しい世界を形成(笑)。
 これもおまけマンガの一種なのですが、そのお遊びが高じて、本編とは完全に別世界を形成しているケースがあります。これが非常に面白く、読者の間で話題を集めることもよくあります。

 特に有名なのは、あの「まほらば」のカバー下で定番となった「脇役天国」でしょう。これは、本編ではあまり登場できなかったサブキャラクターたちが、カバー下のおまけマンガでその憂さを晴らすというようなコンセプトのマンガで、そのあまりの面白さに大変な好評を集めました。この脇役天国で人気を得たキャラクターも多く、あるいは逆に登場の多いメインキャラクターが脇役天国に登場するという回もあったりと、実に盛況を極めました。

 「Pandora Hearts」の下のおまけマンガも毎回凝りまくっています。悪ノリに満ちたパラレルストーリーを毎巻仕上げてきていて、よくこんなことを毎回思いつくなと感心します。また、この「Pandora Hearts」に関しては、雑誌掲載時の紹介ページでも毎回描き下ろしを描いていて、作者のサービス精神にはほんと感心させられます。

 さらには、「咲-saki-」のおまけマンガもいいですね。メインキャラのタコス(片桐優希)と京太郎が中心となって織り成すファンタジーストーリー?となっていて、もはや本編とはまったく異なるベクトルで盛り上がっています(笑)。「咲-saki-」は本編も面白いですが、こっちも毎回コミックスが出るたびに実に楽しみなコーナーとなっています。


<まとめ>
 このような、カバー裏になんらかのお遊びを仕込む試みは、今ではスクエニ以外でも全く珍しくなく、どこでも当たり前のように見られる定番となっています。出版社ごとの傾向としては、集英社や講談社、小学館のような大手の出版社ではあまり見られず、どちらかといえばマニア向け・コア向けの作品を出す出版社に多いようです。スクエニも十分コア向けなマンガ出版社ですが、他にも角川・電撃系、マッグガーデンや一迅社、そして萌え4コマを有する芳文社などに、このようなカバー裏が多い。よりコアな読者に対するサービスが求められた結果と言えるのではないでしょうか。

 しかし、こうした出版社よりもずっと前、はるか20年前のガンガン創刊時代から、早々とこのカバー裏のサービスを続けてきたのが、まさにこのエニックス(スクエニ)なのです。その点において、今のコミックスの定番の先駆けとなった出版社として、その存在意義は大いにあると思います。


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