<おすすめ同人誌紹介(2)>

2009・12・21

 半年ちょっと前にやった、同人誌の紹介を再びやってみようと思います。あの時は、かなり昔の同人誌も紹介したところ、「今では手に入らない本を紹介しても効果が薄い」と言われてしまったので、今回は目前に迫った冬コミに参加、もしくは商業誌でも活躍している方の本を紹介してみようと思います。冬コミに参加される方のスペースも合わせて紹介し、一種のガイド的な記事を目指しました。タイトルの横にサークル名と執筆者名、冬コミでのスペースの記述を加えています。


<青と蒼 Blue and blue>whitepaper(しろ) 3日目東シ69b
 商業では「シンフォニックレイン」のキャラクターデザインで知られている「しろ」さんの本で、表題作の「青と蒼」と、「赤が青に染まる前に、黒に染まる前に」の2編からなっています。どちらも極めて感傷的なストーリーで、散文調のモノローグと広々とした自然(特に空)の光景で構成された、ひどく切なさを感じる内容になっています。また、前者の「青と蒼」は、「旅」から人生の生き方を探るテーマが顕著で、この本以外にも同じテーマで作られた本がいくつかあります。しろさんの本には、観光地や温泉地を紹介した実用的なガイドブック本もいろいろと出しており、そちらはそちらで面白いのですが、一方でこのようなモノローグと美しい光景で彩られた切ないストーリーの本にも心に残るものがあります。

 「青と蒼」は、ふとしたきっかけで海の上に何か浮かんでいるのを見つけた女の子が、そのまま水の世界へと歩いていって、マンボウと遭遇するという話。
 マンボウと出会った女の子は、そこに浮かんでなにをしているのと訊くのですが、マンボウはただ悠然と「昼寝だよ」「昼になると悠然と漂っているんだ」「わたしはこうすることしか知らない でもこうしていると満たされるんだ それを知っている それだけでいい」と答えます。女の子は、マンボウの上に座り、心地よくたたずみながらも考えます。「なんでここにいるのか あなたにはもっと素敵な場所があるんじゃないか・・・」と。マンボウは、「暗い世界を漂ってきて、息の詰まるような場所からふと明るい世界に上がってきたくなる、これで悩みが晴れるわけではないが、でもそれには意味のない説得力がある」と答え、そのまま悠然と去っていきます。

 しろさんのモノローグで構成されるこういった本は、ひとつひとつのテキストの解釈が非常に難しいのですが、それでもこの本では、わたしにもなんとなく言いたいことが分かるような気がします。一見して意味のないただ漫然とたたずむ行為、そこにはマンボウの大いなる知恵、そういった生き方があるのではないかと。最後のページで書かれた解説文、「彼らはなぜ横たわるのか 何も考えないものは賢者なのだろうか 知識があるからこそ考えないのだろうか」というくだりが、それをよく表していると思います。

 なお、しろさんの一つ前の同人誌でも、海をゆったりと回遊するジンベイザメをモチーフにした話があり、こちらでも同じテーマが見られます。「延々と旅をする 何を考えるでもなく、ただひたすらそういう生き方」。

 もうひとつの話「赤が青に染まる前に、黒に染まる前に」は、雨上がりの空に一瞬かかった虹を見ることで、そこに運命のようなものを感じ、これからの現実を生きる糧を見出していく女の子の話。雨上がりの空、晴れ渡る直前の空に一瞬だけかかり、気を向けなければすぐに消えてしまう。それを目の当たりにすることは偶然だけれども、しかしその出会いを運命に変えることは出来る。だから私たちは日々努力し、その機会を待っている。「わたしたちの運命の糧は、おそらくそこらじゅうに転がっているのです。」


<きらきらの唄>うにぐる(紺野賢悟) 3日目東リ01b
 わたしが同人誌で最も好きな「オリジナルの創作」というジャンル、創作のみの即売会であるコミティアや、コミケで言うなら創作(少年)か創作(少女)あたりで買い求めるのですが、そこでひとつ特徴的なジャンルの作品があります。それは、「ファンタジー」ですね。
 ファンタジーもの、それもここでは異世界もののファンタジー作品を指しますが、そういったマンガ作品は、一昔前ならば商業誌でも主流でした。このサイトで扱っているスクエニも、かつてエニックスと呼ばれていた頃、ガンガンやGファンタジーを創刊していた頃は、とりわけそのようなファンタジーがひとつの大きな主流でした。今でもスクエニにおいてはそういった作品は多少残っていますが、それでも最近は大きく下火となり、同じファンタジーでも現実世界を舞台にした「伝奇」ものが主流、ゲーム(RPG)を思わせる西洋風のファンタジーは少数派になります。ゲームやノベル原作のコミックですら、最近はドラクエ・FFのような西洋風ファンタジーよりも、「ひぐらし」等の同人ゲームや各種ライトノベル原作作品のような、ノベルタイプのゲームの方が主流だったりします。スクエニですらそうですから、他の出版社ではさらに下火でしょう。

 しかし、商業誌の現状がそのような中で、同人の創作ジャンルでは、ファンタジーというジャンルは今でもしっかりと存在するのです。それも、1つの特徴的なまとまりをなしています。
 まず、やはりファンタジーであること。紛れもなく異世界もののファンタジーで、ある程度ゲーム(日本のRPG)やファンタジー小説、マンガの影響を受けたと思われる作品になっていること。これが大きな特徴です。
 そして、おそらくは女性の作家の比率がかなり高いこと。創作ジャンル全体、特に創作(少年)を見るとそれほどの偏りはないと思いますが、このファンタジーものの作品においては、女性の描き手が非常に目立ちます。これは商業でもそのような傾向が見られますが、この手のファンタジーを好む方は、女性の方が多く残っているような気がします。

 そして、女性の作家さんが多いにもかかわらず、女の子のキャラクターに対する比重が大きいこと。創作、特に創作(少年)においては非常に顕著ですが、とにかくかわいい女の子を描く! これは創作では基本中の基本です(笑)。男性キャラクターももちろん登場するのですが、どちらかと言えば女の子のキャラクターの方が前面に出ていることが多い。そしてここで採り上げた紺野さんの場合、男性読者にも人気が高いことが大きな特徴です。女性の描く創作同人、それもイラスト系でないものの場合、同じ女性の読者が多いケースが目立つのですが、紺野さんの場合、多分男性読者でも萌える?キャラクターを描くことが大きな魅力ではないかと。

 その一方で、マンガのストーリーは非常にシビアなものが多い。暗く哀しい話、切ない話、どこか影のある話の比率が高い。一部RPG的な明るい雰囲気の冒険ものもありますが、どちらかといえばすごくシビアな話が多いのです。絵柄やキャラクターはすごくかわいいのに、ストーリーやテーマはひどく切ない。この「きらきらの唄」の場合だと、人々から疎まれ嫌われた青年と少女が出会い、互いに救いを求めるかのように一緒になって逃避行を続ける、といった物語ですが、彼らの境遇・周囲からの扱われ方の描写では、ひどく残酷なものまで感じます。かわいいキャラクターとは対照的なひどくシビアで切ないストーリー、そこにキャラクターに対するいとおしさを感じることができるのです。最後のエンディングもハッピーエンド?とはいえひどくもの哀しいもので、わたしは「切ないハッピーエンド」と名付けました。

 そして最後に、青年と少女などの、いわゆるノーマルカップリング的なキャラクター構成でありながら、ストレートな恋愛ものにはなっていないこと。これ非常に重要です。恋愛的な関係がまったくないわけではないかもしれませんが、ストレートに恋愛感情を描くような内容にはなっていない。むしろ、恋人とも、友人とも、家族とも言い切れないふたりの距離感が絶妙です。恋人ではなく、信頼できる強固な結びつきのパートナーのような関係。そのふたりの同行の旅を通しての感情の変遷を描く内容。「好きだ愛してる」ではなく、「一緒に行きましょう」と言い表せる関係。これこそが、同人の創作ファンタジーに見られる大きな特長であり、紺野さんの創作においても最大の魅力だと思っています。


<Fiorato>W.label(和錆)
 これまで、この同人誌紹介の記事では、マンガ主体の本、それもストーリーやテーマに見るべきものがある(とわたしが思っている)本を取り上げました。しかし、わたしの買う本は、実はそのような本ばかりではなく、イラスト中心の本も数多くを占めます。というか、買う本の半分はそんなイラスト本なんじゃないかと思います。わたしとしては、かわいい女の子のたくさん描いてある本を買えればそれだけで幸せです(笑)。
 今回採り上げる作品は、そんな中でも特に完成度の高い、これはと思える本です。イラストがうまいだけでなく、本の構成がよくて満足度はとても高かったです。カタログのサークルカットを見て訪問したサークルなのですが、これは本当に掘り出し物でした。

 肝心の内容ですが、「Fiorato」のタイトルどおり、花を擬人化した女の子イラスト本。この本以前に「Fleur」「Animalia」という2冊の本を出していて、これはそれぞれフルーツ、動物を擬人化した女の子本となっていて、これもそれからのシリーズと言える本ですね。
 そして、そのイラストがとてもうまい。まず、ロリな女の子がとてつもなくかわいい。和錆さんは東方でも活動していますが、この方が描くとほんとどんなキャラクターでもかわいくなります。そして、それ以上にデザインセンスがとにかく秀逸。この本の場合、花を女の子に擬人化しているわけですが、元となった花の特徴が服装によく表現されていて、そのデザインの巧みさには本当に感心してしまいます。また、花の特徴が女の子の性格にも表れていて、本当に良く出来た擬人化イラストになっている。これをそのまま何かの商業企画に採用してもいいくらいです。

 こうして、イラストデザインの完成度が非常に高い上に、同時に収録されている4コママンガも面白い。こちらは、かわいいながらも毒のあるネタが多く、キャラクターの黒いところが垣間見えるネタがやたら面白い。かわいいイラストを描く一方で、こういった毒のあるネタの4コマも面白い(商業で言えば小島あきら的な)。その双方でとても得した気分になれる、内容のある1冊になっています。特に、この「Fiorato」は、前の2冊よりパワーアップしたフルカラーの本となっており、買って損はない1冊と言えるでしょう。

 なお、和錆さんは今回の冬コミには残念ながらサークル参加されないようですが、しかし商業の方で、12月22日発売の「ぱれっと」2月号で商業連載を開始されました。今後の商業誌の連載でも要注目の作家だと言えるでしょう。


<カガクノオト>JH科学(John Hathway) 3日目東シ48b
 イラストもそうなんですが、様々なコンテンツで極めて特徴的な活動をしているJH科学の本の中から1冊。これは、CD-ROMのノベルゲーム+イラスト本+動画+ポスター+小説といった構成になっています。JH科学の場合、こういった見た目からして特徴的な発行物を毎回のように出してくれます。このサークルの特徴をいくつかまとめてみると、

  • 特徴的な本の版型、本以外の様々なコンテンツ。
  • 徹底的な描き込みで見せるイラストの世界観。
  • 科学を採り入れた(ネタにした)発行物の構成、ストーリー。

 まず、普通の同人誌だと、B5かA5の版型で出されるものが大半なのですが、JH科学の場合、そのような一般的な型の本の方が珍しい。縦に細長かったり、正方形に近かったりと、実に様々です。本以外のコンテンツでも、今回のようなCDやDVDメディアでの頒布が数多くあり、変形ポスターやかつては屏風なんてものもありました。ここまで毎回凝った企画を行う希少な同人サークルです。今回は一体何が出てくるか、それを確かめに行くだけでも楽しい。

 そして、イラストに関しては、とにかく徹底的な描き込みで見せる圧倒的な世界観が特徴です。主に近未来の東京、特に秋葉原の街並み、それもSF的に縦に伸びた街並みを圧倒的な描き込みで表現してくれます。どこかのインタビューで「絵はとにかく時間をかければかけるほどよくなる」というようなコメントを残していたと思うのですが、ここにはまさに執念とも言えるほどのこだわりが感じられます。先日のPixivマーケットでは、巨大なB0ポスター、B1ポスターを展示&販売していたのですが、道行く人々の多くがこのポスターには見入っていました。そして、12000円もする巨大ポスターが売れていたのには本当に驚き。このような展示型のイベントで真価を発揮するサークルかもしれません。

 そして、最大の特徴が、サークル名にもある「科学」を扱ったコンテンツの数々でしょう。今回の「カガクノオト」の場合、ノベルゲームがコンテンツの中心で、イラスト本がその内容を補完した言わば副読本、ポスターもノベルゲームの中の一風景(一キャラクター)を採り上げたものとなっています。そして、このノベルゲームが非常に面白かった。東京の魔法大学を舞台にして、大学一回生の主人公が、美少女の学長や教授と共に学内にあるという「アインシュタインの神器」なるアイテムの謎を探っていくというストーリーで、序盤のうちのコメディが面白い一方で、中盤以降のハードなSF的展開には本当に惹きつけられるものがありました。キャラクターもひとりひとり非常に個性的。副読本も合わせて読むとさらに楽しめます。

 今回の冬コミでは今までの総集編らしきものを出すようですが、それ以外にも商業誌の「季刊GELATIN」でも活動が見られます(毎号載っているわけではない)。この「カガクノオト」の副読本に収録された小説は、かつて「GELATIN」の1号に掲載されていたものの再録です。こちらでの活動もチェックしてみると面白いかもしれません。


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