<おすすめ同人誌紹介(3)>

2012・2・16

 このところ、ようやく冬コミの本を消化してきて、今回もいい本をいくつか見つけることが出来たので、久々に同人誌紹介の記事を書こうと思い立ちました。以前はこのような記事をいくつも書いていたのですが、最近では少し離れていました。同人誌にはいまだ優れた作品が数多くありますので、これからはまた定期的に書いていこうと思います。(*タイトル右の括弧内は作者名・サークル名)


<電子書籍少女>(木野陽・辺境屋)
 以前より木野陽さんが刊行を続けている電子書籍を扱ったシリーズの最新刊。「電子書籍少女」のタイトルどおり、KindleとかiPadとかの電子書籍端末を女の子に擬人化したマンガが読める本になっています。何かを擬人化したキャラクター本はたくさんありますが、電子書籍端末を擬人化した本は、ちょっと珍しいのではないでしょうか。

 また、木野陽さんによるマンガに加えて、土屋つかささんや藤春都さんによるテキスト記事も充実していて、マンガとテキストの記事とどちらも楽しめる、一種の合同本になっています。表紙も、マンガ側の表紙とテキスト側の表紙と、雰囲気の異なる両面表紙を楽しめるスタイルの本になっています(画像はテキスト側の表紙)。

 そして、そのコンテンツのどれもが充実していて、単に面白いだけでなく、電子書籍の知識や未来への展望をも知ることの出来る、優れた実用本にもなっています。木野さんのマンガは、擬人化された端末美少女たちがマイペースだったり腹黒だったりして、ドタバタ楽しいコメディになっています。なんとかして自分の端末の人気を得ようと競い合うあたり、ちょっと昔に人気だったサムシング吉松のゲームハード擬人化マンガを思い出してしまいました(笑)。

 そして、テキスト側の記事がまたとても面白い。特に、土屋つかささんが打ち出している「電子書籍は最演算可能な書物」という定義は、非常に鋭いと思いました。自分の端末で自由に再編集(=再演算)できることが、これまでの書物にはない大きな可能性を生むという指摘は、電子書籍の未来を感じさせる素晴らしい記事ではないかと思います。
 また、今回は、藤春都さんによる、フランス犯罪史を引用したメタデータ考察、そして柊和佑さんによる「スティーブ・ジョブズは電子書籍の父だったか」という冒頭の特別記事も非常に面白かった。「ジョブズの美しい文字に対するこだわりが、日本人の琴線に触れてiPhoneが飛躍的なヒットを遂げた」というくだりは、大いに頷けるところがありました。「ジョブズは、日本の職人に近しいフェチズムをもっている芸術家だったのだろう」。

 さらには、このシリーズの本、過去のイベントでは実際に本で登場する端末を並べて、その端末でも読めるような展示を行っていて、これも非常に面白い試みだったと思います。また、この2月のコミティアでは、更なる企画としてustreamで生放送を行ったとのこと。わたしはこれを聞き逃してしまってひどく残念でした。
 また、木野さんは、この「電子書籍少女」シリーズを始めとして、いくつもの同人誌を精力的に刊行しており、一部で商業誌でも掲載されるなど、今その活動に最も注目したい作家のひとりだと思っています。この電子書籍本も、まだまだシリーズが刊行されるでしょうし、今後の展開が楽しみですね。


<青い薔薇と薔薇の外の世界>(しろ・whitepaper)
 しろさんの作品は、以前にも一度採り上げたことがあるのですが、今回またひどく感銘を受けたので、今一度紹介してみようと思います。
 しろさんの本には、実用的なガイドブック的なものと、深い哲学的・思想的な内容のものがあるのですが、これは後者。交通事故にあった少女が入院した病院で、今までいた世界を離れて様々な思索にふけるというもの。急な入院で手元にあるのは電源もおぼつかない携帯だけ、いろいろなことを試みても当面何も出来ず、最後に辿り着いたのが本を読むということ。哲学の本、経済の本、運動の本、宇宙の本・・・私の知らないことを知ること。学ぶことでした。

 少女が本を読んで辿り着いた思索のなかで、とりわけ興味深かったのは、地球外生命探査(SETI)の話と、木星の衛星・エウロパに存在するかもしれない生命の話。地球には多様性に富んだ様々な生命がいる。ならば宇宙にも生命がいるかもしれない・・・。その思索は哲学的な営みであると同時に、誰もが憧れるロマンを感じます。
 とりわけ、エウロパの海にいるかもしれない生命の話には、いたく惹かれるものがありました。エウロパは、表面はすべて氷に覆われた衛星ですが、その地下には木星の潮汐作用によって生じる熱で海が出来ていて、その地下の海に生命がいる可能性は高いというのです。しかし、そんな地底の暗い海にいる生命とはいかなるものか。その世界には、当然陸はなく、上を見上げても空はない、真っ暗な世界。そんな世界で生きる生き物を想像し、しかしそこにいる生き物にとっては「それが普通なのかもしれない」と思いを巡らします。彼らにとっての青空とは何か。このエウロパの地下の海の世界の想像には、わたしもひどく切ない思いが湧き上がりました。

 こうした宇宙や生命に対する話の一方で、少女が今過ごしている病院での生活に対する思索が描かれているのもいいですね。基本的に静かな病棟という世界において、夜トイレに起きるときに、かすかな唸り声と心電図の音だけが響く世界が怖いと感じたり、小さな公共スペースに飾ってあった青い薔薇の姿に惹かれたり(これが本のタイトルにもなっています)、あるいは病室で時折交わされる会話で、その人がいかに愛されているか感じたり、まずいと思っていた病院食が栄養バランスが取れていて意外に美味しいと感じたり・・・。そういったちょっとした出来事が丹念に描かれていて、こちらもひどくいとおしいと思ってしまいました。

 こうして、急な事故での入院で突然ひとりきりの世界へと入ってしまった少女は、ひとときの思索の時を経て、最後には無事退院してまた元の世界へと還っていく。かつて思い描いたエウロパの海の深い暗い海に再び思いを馳せながら・・・。最後までぐっと落ち着いた雰囲気の中、ひどく深い思想性に満ちた、しろさんの本の中でもとりわけ良作だったと思います。


<封視科伝>(A-20・ゆめかばん)
 東方の本は今回もたくさん買ってしまいまして、何か1つここから紹介しようと思っていろいろ迷ったのですが、今まで小説の本を単体で紹介したことがなかったので、今回はこれをと。
 東方projectの活動ジャンルの中でも、とりわけ秘封倶楽部で活動しているメンバーは、とにかく濃いと思うのです(笑)。活動がひどく精力的で、ひとつひとつの作品を見ても、装丁も中身も気合の入った力作と言えるものが数多い。この本などは、300ページ近くある分厚いハードカバーの本となっています。

 内容は2年前に出た本のリメイクのようで(残念ながらわたしはこのオリジナルは読んでないです)、全部で5つの話+幕間のショートストーリー4話+エピローグの全10話からなるオムニバス的な構成。そして、そのひとつひとつがとにかくよく出来ていて読ませます。
 「秘封倶楽部」というのは、東方本編からは離れた設定(外側の世界)を描いた一連の音楽CDが原作であり、そこに登場するふたりの大学生・蓮子とメリーが主役。この本は、このふたりの話に加えて、時に東方本編のキャラクターや設定も垣間見える構成で、東方の世界を知っていればより楽しむことが出来るでしょう。しかし、秘封を扱った作品は、そのまま読んでも楽しめると思えるほどレベルの高いものが多く、この本もまたホラーやミステリー、幻想的なファンタジー、幕間のコメディなど物語のバラエティに富んでいて、かつ文章の表現も巧みで、非常によく出来た読ませる話となっています。

 また、そうした物語としての完成度に加えて、このサークルの小説は、随所に織り込まれたアイデアやギミックの数々に見るべきものがあります。以前に買った本でも、テキストが尋常ならざる並びで書かれていたり、章によって字のフォントを変えていたり、イラストのレイアウト・配置に一工夫凝らされていたり、2冊構成でひとつの本がもうひとつの本の解答編と言えるものになっていたり、本のページがいきなり途中で破れていたり(落丁ではなく演出)、本の装丁にギミックが仕込まれていたり、と毎回そのアイデアの見事さに感心していました。この本でもそのアイデアは健在で、特に感心したのは、マンガのコマが小説の合間に織り込まれている手法です。これは、単にマンガの絵がイラストとして織り込まれているのではなく、コマ内の吹き出しのセリフが、そのまま小説のセリフになっているという凝ったもので、小説とマンガがそのままつながっている構成になっており、これは本当に面白いと思ってしまいました。まさに小説とマンガの融合。

 10人以上いる挿絵担当の作家たちのイラストも素晴らしく、この秘封界隈の創作陣のレベルの高さを感じる1作でもあります。ひとつの小説として極めて完成度の高い1冊ですね。


<IRO GAME>(ideolo・NEKO WORKi)
 中国人イラストレーター・ideoloさんによるイラスト集。姉のsayoriさんも中国人イラストレーター。どちらも東方のイラストで有名ですが、どちらかと言えばsayoriさんの方がよく知られているかもしれません。ただ、ideoloさんも以前例大祭のカタログ表紙のイラストを手がけたことがありますし、そのイラストを見かけた人は多いのではないでしょうか。

 春祭り(【第8回博麗神社例大祭】イベントカタログ)

 この本も東方のイラストが多いですが、およそ半分くらいで、残りは他の版権やオリジナルの絵が収録されています。ideoloさんの絵は、sayoriさんとは実の姉弟でも画風はかなり違っていて、すごくポップでキュート。デザインセンスに非凡なものがあり、いかにも「アート」という感じがします。

 まず、鮮やかな原色を使った色使いに惹かれます。特に、何と言ってもの使い方が素晴らしい。鮮やかなフルカラーの絵の中に、効果的に織り込まれた黒の部分でぐっと絵が引き締まり、あるいはその黒の部分がデザイン化されて鮮烈な印象を残している絵も多い。かつて出たイラスト集「BLACK ALBUM」は、まさにそんなイラスト集になっていましたし、この「IRO GAME」にもそんなイラストがとても多い。

 さらに、背景を含めた絵全体のデザインセンスにも並々ならぬものがあります。キャラクターだけでなく、背景も含めてひとつのデザインとして完成されている1枚絵がとにかく多い。「アート」だと感じたゆえんはこのあたりにあります。

 特に感心したのは、「20歳の時に描いた(自分の)人生をまとめるようなイラスト」で、縦長のイラストで下から上に向けて、その当時の自分のはまっていた趣味をデザイン化して描き連ねていったイラストです。一番下の最も過去の頃は、ファミコンのゲームのモチーフをデザイン化したところが続き、ああこのあたりでファミコンにはまっていたのだなと分かります。同時にドラえもんやスラムダンクなどのマンガのモチーフもちらほら見られ、中段に差し掛かると大きな鳥居と共に東方のキャラクターが。このあたりが東方にはまった時代でしょうね。さらに上段に行くと、PCのモニターやディスクスロットが描かれ、モニターの中には様々なデジタル絵の中に初音ミクのイラストも。最後の最上段では、東京タワーが階段の中途に鎮座していて、さらにずっと上まで階段が続いていてそこには作者らしき人影が・・・。日本に留学に来て、さらに前へと進んでいく心境を表現しているのでしょうか。この1枚絵は、様々な要素が楽しいデザインとしてふんだんに盛り込まれていて、そのセンスに本当に脱帽してしまいました。

 姉のsayoriさんも一流のイラストレーターなのですが、結婚を機に残念ながら同人活動を休止されてしまったとのこと。ideoloさんにはその分これからも頑張ってほしいものであります。


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