<おすすめ同人誌紹介(4)>

2012・5・2

 もうじきコミティアということで、再びおすすめ同人誌の紹介ページを作ってみました。それも、今回は第100回目の開催で、これまで以上に大規模に行われ、参加サークルも非常に多いということで、今まであまりこのイベントに参加しなかったサークルも多数参加しているようです。この記事では、そんなコミティア100に参加する予定のサークルから、過去の本でこれはおすすめしたい本をいくつか選んでみました。今までよりひとつひとつの紹介文を少なめにして、その分多めに本とその作者・サークルを紹介しています。

 タイトルの後にサークル名(作者名)と、今回のコミティア100の配置スペースを載せています。


「俺のぱんつが狙われていた」きらず(おから) も01a
 で、いきなり紹介する本がこれかよと思ってしまうんですが(笑)、いろいろな人がおすすめに挙げていて、しかもこのコミティアで新刊が出るということで、一もニもなく紹介してみることにしました。

 タイトルどおり、女の子にぱんつを狙われる男の子のお話です。極めて特殊な性癖を持つ柚子ちゃんと、彼女に「ぱんつください」と言われてこまってしまう男の子・村田くんのふたりが織り成すラブ?コメディ。とにかく無茶な行動を起こす柚子ちゃんがすごくいい。普通、こうしたマンガって、ぱんつとかエッチなものを求めるのって男の子の方じゃないですか。これが、もし男の子が主人公で、女の子のぱんつをほしがるマンガだったら、割とよく見かける作品になったのではないでしょうか。あえて女の子の方が、そうした行動に走るってすごく面白いと思うし、もしかするとすごく自然なことなのかもしれない。そんなことを思わせるマンガで、コミカルに見えて実は意外に深いのではないかとも思いました。

 と、なんとこのコミティアで、 「私のぱんつが狙われていた」という、今度は男の子の方が女の子のぱんつを求める新作が登場するようです。これはこれですごく楽しみなところ。しかし、この作者さん、絵はすごくかわいいのに、こうした変態的なマンガを平然と描くところがすごいと思いますね(笑)。

 4コマレビュアーで有名なすいーとポテトさんや、下(↓)で本を紹介している星屑七号さんまで絶賛しているこの同人誌、今回は過去の前後編をまとめた再録総集編が出る上に、前述の新作「私のぱんつが狙われていた」まで出ると、まさに要チェックの本になっています。

 きらず(おから)


<食人女子高生探偵>おるれあんず(星屑七号) ね08a
 現在、集英社のスーパーダッシュ&ゴー! 「1月のプリュヴィオーズ」を、スクエニのヤングガンガンで「回転る賢者のシュライヴヴァーレ」を連載中の星屑七号さんが、かねてより同人で出しているシリーズもののサスペンスミステリーです。商業誌で連載している二つの作品も、最初から非常によく出来ていますが、同人誌での活動を知っている者としては、この頃からその実力には確かなものがあったなと思うのです。

 「食人」「女子高生」「探偵」ということで、主人公の女子高生・彼喰(かぐらい)いすなは、友人を手伝って探偵稼業を行う傍ら、あらゆるものを、もちろん人すらも食べてしまう特殊な能力を駆使して、人知れず活動しています。最初に刊行された第1話では、毒入りのネズミが街を跋扈する事件が起きるのですが、そのネズミたちを人知れず食べて処理するという、見るからにおぞましい活躍を早速見せてくれます。第1話ではネズミでしたが、第3話では今度こそ本当に人間を食べるシーンが登場、大ゴマで見せるその凄惨な演出には、一気に引きこまれるものがありました。

 そんな風に猟奇的なモチーフに満ちた本作ではありますが、しかし決して暗いばかりでの話ではありません。主人公の持つそんな性質は、確かに恐ろしいかもしれないが、しかし普段は明るい人間であり、また困っている人を全力で助けようとする優しい少女でもあり、日常シーンではコミカルな場面でほっと和ませてくれます。ストーリーも、主人公が持ち前の能力で悪い犯罪者を倒すという、大筋では比較的オーソドックスなものながら、登場人物の重厚で時に切ない心理描写と迫力の演出で、ずっと読ませるものとなっています。毎回の話のページ数が多いのも特長で(第3話などは大増64ページ)、毎回じっくり読ませるストーリーに仕上がっていますね。

 そして、なんといっても絵が達者。線が多めで描きこまれた作画は見栄えのするもので、さらには1コマ1コマが大きめの構成で要所の大ゴマも生きていて、全体的にずっしりとした迫力があります。絵に関しては完成されたものを感じますね。キャラクターの造型が整っていて、女の子がかわいいというのもポイント。これらは商業連載にもそのままつながっています。

 全体的に「力作」と呼ぶにふさわしいオリジナルの創作、それも現代もののサスペンス・ミステリー・アクションの面白さが詰まったエンターテインメント作品になっていると思います。 これまでのシリーズをまとめた総集編も出ているので、今はそれを手に入れるのがおすすめです。

 おるれあんず(星屑七号)


<よつは薬局総集編>よつは薬局(薬師寺ヨシハル) ち14a
 ファンタジー(異世界ファンタジー)というものが、2000年代以降商業では一気に下火になってしまい、最近ではほんと少なくなってしまいましたが、そんなファンタジーがいまだ全然読めるのが、コミティアに代表される創作同人。コミティアでも「SF・ファンタジー」というジャンルは、参加サークルも非常に多い一大ジャンルとなっています。

 そんなファンタジーの中でも、かわいいドラゴンたちがたくさん登場するのが、この「よつは薬局」の本。ドラゴンが出てくるといっても、彼らと一大バトルを繰り広げるバトルファンタジーではなく、登場するのは人間よりもずっと小さなかわいいドラゴンたち。そんなドラゴンと子供たちが織り成す日常の優しい描写、ほほえましいエピソードに満ちているのが、このマンガの最大の魅力ですね。

 あと、なんといっても絵とキャラクター、中性的な絵柄のキャラクターがほんと素晴らしい。こういうマンガが、商業誌でも読みたいわけですよ。最近では男性向けの萌えか少年マンガか、あるいは女性向けかそんな風に細分化されてしまって、昔のエニックスのようなマンガがちょっと少なくなってしまって悲しい限りですが、創作の同人ならこういうマンガがたくさん読めるわけです。中でも、この薬師寺さんの絵柄は、ほんとうに癖のないかわいらしい絵柄で、自分の好みにはぴたりとはまっています。

 このサークルは、いつもは薄いコピー本を出すことが多いのですが、そんな小さな本をまとめたのがこの「よつは薬局総集編」です。2007年以降の作品が10個も載っていておすすめですね。

 Penguins Island(薬師寺ヨシハル)


<今昔人妖考>後思案計画(地上屋) や26b
 これのみ東方本の紹介になります。これまで主に東方ジャンルで活動していたサークルも、今回のコミティアではかなり見かけますので、その中からこれはと思ったものを引っ張り出してきました。

 この本の主人公は、東方では歴史と知識をつかさどる妖怪である上白沢慧音(かみしらさわけいね)で、その相方としてよく描かれる不老不死の人間・藤原妹紅(ふじわらもこう)も登場します。このサークルの本は、このふたりが中心となっていることが多く、さらにはこの後に出した本で「ネクストヒストリエ」という、アフタヌーン連載の岩明均の歴史マンガをモチーフにしたものも出していることから、作者は歴史が好きなのだなと感じます。

 とりわけ、この本は、タイトルどおり、人間と妖怪とを比較して、「歴史を積み重ねる」という人間の持つ強さを主張しているところが、非常に面白いと思いました。慧音の語るところによれば、誰しもが今まで経験してきた過去の歴史の土台の上に乗っていて、中でも、人間は妖怪よりもずっと寿命も短いがために、一人一人の歴史は非常に短くその土台は貧弱に見えると言います。しかし、人間は、自らの歴史や知識を他人に託すことで「歴史を積み重ねる」という行為をするというのです。それこそが人間の大きな強さであると。

 不老不死の人間である妹紅は、このことがよく分からなかったのですが、しかし慧音に諭されることでそういう見方を知り、さらには里の人間が、昔の世代の知識を継承して薬草の地図を作っていたことを知り、しかもその昔の世代の人間こそが、かつて妹紅が妖怪から助けてやった人間であったと知るのです。この話は、人間よりはるかに長く生きる妖怪・短命ながら歴史を次の世代に継承する人間・そして不老不死の特殊な存在である妹紅と、この三者をうまく使って、歴史の積み重ねという優れた行為をうまく説明していると思います。

 今まで、このサークルの本は、このような東方ジャンルの本しか触れたことがなかったのですが、今回のコミティアではオリジナルの創作ということで、どんな本を出すのかとても楽しみです。

 もぐえもん(地上屋)


<藤色(フジシキ)>ちょこれとろ。(藤ちょこ) ふ15b
 Pixivでも絶賛大人気の藤ちょこ(藤原)さんの1年前のコミティアで出た画集です。最近では個展まで開かれました。

 藤ちょこさんのイラストは、あらゆる意味で素晴らしくて、一目見て絵の世界に引かれてしまうのですが、なんといってもまずは鮮やかな色彩表現を挙げるべきでしょうか。美しい色合いのグラデーションが織り成す華麗な画面がなんとも言えません。とりわけ光の表現が素晴らしいですね。
 そして、徹底的な描き込みで構成される圧倒的な世界観がまたなんとも言えない。とりわけ奥行きのある絵が特徴的で、立体的な絵の中に思わず引きこまれそうになります。「れとろ」というサークル名どおり、アジアや日本のちょっと昔の世界をモチーフにした絵が多いのも大きな魅力。どこかノスタルジーを感じさせる、懐かしさといとおしさに胸が締め付けられるような絵が多い。

 そして、そんな絵の中に、時に切なくなるようなストーリーが織り込まれているのも、さらなる見所でしょう。この画集では、「アリスと有栖」という、ふたりの少女が織り成すストーリーが、ちょっとした短い文章で語られる絵があります。時は1930年。豪華な邸宅で遊びに興じるふたりの純真な少女の姿と、その後にやってくるであろう不穏な時代の暗い影を感じさせる、とても切ない情景の1枚となっています。テキストによれば、ふたりはやがて離れ離れになり、手紙のやり取りは続けるものの、それもやがて不通になるのではないかと。その後ふたりがどうなるのか、再開はあるのかは、まだ考え中だそうですが、是非ともそうなってほしいと願わずにはいられませんでした。

 藤ちょこさんのイラストは、オリジナルに加えて、時に東方ジャンルの絵も散見され、この本にも1枚だけ収録されています。どちらの絵もこれからますます楽しみですね。

 ちょこれとろ。(藤ちょこ)


<にんぎょひめの壜>airdrop(鳥居すみ) ほ24b
 この方も主に東方で活動している方で、この次の例大祭では、壁を通り越していきなりシャッター配置だったりするすごい方なのですが(?)、コミティアでも1年くらい前からサークル参加していて、これはその丁度1年前に出た本です。

 表紙の女の子ふたりが主役の、日常のちょっと不思議なエピソードを描いたショートストーリーですが、まずその雰囲気にひどく惹かれました。なんというか全体に漂うアンニュイな(物憂い)空気がすごく居心地がいい。春先のちょっと倦怠感漂う学校の教室ってこんな感じでしょうか。あと、女の子ふたりの捻った会話劇がとてもいい。深いようなそうでもないような、なんとも取りとめもない話。

 肝心のストーリーは以下のようなもの。春先のひどい花粉症に苦しむ城崎さんは、花粉症対策で飲んだ抗ヒスタミン剤の副作用で眠たくてたまらない。そんな時、教室で隣の席に座る同級生の蒼田さんに話しかけられます。「眠いんだ?」と言われて、「今目の醒める薬がほしい」と応えた城崎さんに、蒼田さんは「ほら覚醒剤」といってコーラの缶を手渡します。ひとしきりコーラの話になって、「コーラなんて飲むと足が溶ける」などという都市伝説もあったね、なんて城崎さんが話すと、「足の骨が溶けると人魚になる」と不思議な返答をする蒼田さん。「次は本物の薬をあげる。目が醒める人魚の魔法の薬」。

 そうして翌日になって蒼田さんが持ってきたのは、あざやかな青色で満たされた透明な硝子の壜。海の色をした美しい液体が入った壜を眺めて、しかし「人魚になる」という蒼田さんの一言が気になって、飲むのを躊躇する城崎さん。ついにはそれを飲まずに返しに行きます。しかし、そこで遭遇したのは、蒼田さんの意外な行動でした・・・。
 結局最後に壜を開けることになるのですが、その時にぶわっと泡が広がる光景がまた幻想的で、日常のちょっとした出来事ながらひどくいとおしいエピソードになっています。東方の本もそうなのですが、作者は毎回こういうしっとりといい話を見せてくれます。

 あと、鳥居さんの描く女の子は、全体的にすらっとしていて細っこい手足が非常に好みです。男性の描く肉感的なエロ絵とはちょうど正反対な絵柄ですね。今回のコミティアではイラスト本を出すようでそれも楽しみです。

 airdrop(鳥居すみ)


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