<エニックスのドラクエ関連本について>

2010・3・2

 かつて、少年ガンガンの91年の創刊以前、エニックスは、自社の人気ゲームである「ドラゴンクエスト」の関連本を多数出版していました。88年に発売して絶大な人気を博したファミコンソフト「ドラゴンクエスト3」の人気をひとつのきっかけに、その後数年に渡って多数エニックスが発売した「ドラクエ関連本」とでも言うべき、一連のドラゴンクエストをテーマにした各種の出版物。これこそが、今のエニックス(スクエニ)出版の起源であり、のちの少年ガンガンの創刊へとつながっていくのです。

 今でも、これらドラクエ関連本の一部は残っていますが、それ以外の大半は数年ののちに出されなくなり、いつの間にかすたれていきました。それに代わって、少年ガンガンをはじめとするマンガの出版が主流となっていくのですが、その少年ガンガン以前のエニックスの出版物で、主流となってたのは、紛れもなくこの「ドラクエ関連本」であり、その存在を無視することはできません。実は、わたし自身も、ドラクエ3にはまって以来、次々と出されるドラクエ関連本を買い漁るようになり、一時期はほとんど買っていたこともあったのです。

 ここでは、そんな今となっては多くの人が忘れているであろう、「ガンガン以前のドラクエ関連本」について、当時のわたしのかすかに残る記憶を出来る限り思いだして、いろいろと書いてみようと思います。


「公式ガイドブック」
 数あるドラクエ関連本の中で、真っ先に出版され、そして絶大な成功を収めたのがこの「新しいタイプの攻略本」です。他の関連本がすたれていく中、この本だけはいまだにシリーズを重ねていて、ドラクエの新作が出るたびに毎回出され、そして毎回必ずベストセラーになっています。

 まず真っ先にドラクエ3の公式ガイドブックが出され、ついで1、2のガイドブックも出されました。3のガイドが赤、1が黒、2が青となっていて、3つ並べるとほんの最下部に描かれたロトの剣が完成するというこだわりを見せています。見た目からしてシンプルなデザインで、それだけでも今までのゲーム攻略本とは異彩を放っていましたが、中身ももちろん大きく異なりました。
 すなわち、データ重視・ビジュアル重視の「ガイドブック」になっていたのです。今までの攻略本が、「ゲームをクリアするための方法・解答」を中心に載せていたのに対し、こちらでは、ゲーム内のアイテムやモンスター、キャラクター、街や村などの世界、そういった各要素の詳細なデータを、ゲーム内のグラフィックや美麗なイラストでリストアップしていたのです。これは、当時としては非常に画期的で、ドラクエというゲーム自身の人気もあって、瞬く間にゲームプレイヤーの間で大ヒット、特に3のガイドブックは、発売後の僅かな短期間のうちに百万部を一気に売り上げ、立ち上がったばかりのエニックス出版の最大の成功作となるのです。

 ゲームの攻略にこだわらず、ページをぱらぱらとめくってモンスターやアイテムのデータを眺めているだけでも楽しい。そんな本になっていたのです。武器や防具、道具などのアイテムが、綺麗なイラストによって描かれ、ゲーム中では想像でしかなかったそのイメージが、はっきりと読者に伝わったのも大きな成果です。「なるほど、ドラゴンキラーとはこんな武器だったのか」とこの本を読めば一目で分かるわけです。防具の場合、着用しているキャラクターの姿が描かれているのもよかった。個人的に気に入っているのは、2の王女が着ている水の羽衣のイラストです。

 その後の公式ガイドブックは、さらに拡大を続け、ドラクエ4以降では2分冊となり、上巻が「世界編」と称して町や村やフィールドの詳細と攻略、下巻を知識編と称してモンスターやアイテム、キャラクターのデータにあてるスタイルが一般的となっています。ページ数もシリーズを数えるごとに飛躍的に増大し、最近のドラクエでは上巻・下巻を合わせると非常な厚さになっています。

 さらに、この「公式ガイドブック」、他社のゲーム、他社の攻略本にまで影響が大きく広がります。この3から始まるドラクエ公式ガイドブックのヒットに触発された出版社が、類似の形式の攻略本を次々と出すようになり、それらの多くに「公式」「ガイドブック」という名を冠するようになるのです。そして今でも、この手の「公式ガイドブック」は、攻略本の主流となっています。エニックス一社のみならず、他の攻略本出版のあり方まで根底から変えてしまったのです。

 わたしは、残念ながら当時のドラクエ関連本のほとんどをなくしてしまったのですが、さすがにこの公式ガイドブックだけは残していました。当時は飽きもせず何度も読んでいたもので、その後もドラクエの新作が出るたびに買い求め、4・5・6、そして7までは買っていました。なぜか8以降は買わなくなってしまったのですが・・・。


「サイドストーリー本」
 これは、ドラクエの中に登場するサブキャラクター、モンスター、アイテムなどにスポットを当て、ゲーム内では語られないエピソードを語るという本です。「知られざる伝説」「モンスター物語」「アイテム物語」などという名前がついていたと思います。

 当時はゲームやマンガ、ライトノベルではファンタジーやSFが主流で、こういったファンタジーな雰囲気を楽しめるサイドストーリーにも、みんな興味があったのだと思います。ましてドラクエはその中でもトップクラスの人気ゲーム。その中で生きるキャラクターやモンスター、アイテムにも人気の高いものは多く、ゲームでは分からない追加エピソードが読めるこの本は、ドラクエファンだったわたしも当時本当によく読んでいました。

 とはいえ、もう20年以上経った今となってはほとんど忘れてしまい、どこに行ったのか残念ながら現物も残っていないのですが、それでもわずかながらに印象に残っていまだ覚えているエピソードがいくつかあります。

 それは、「アイテム物語」に記載があった「賢者の石」にまつわる話ですね。「賢者の石」とは、ドラクエ3以降定番となるアイテムで、戦闘中パーティー全員のHPを何度でも回復できるという、強力無比で便利すぎるアイテムです。このアイテムのお世話になったプレイヤーは本当に多いでしょう。この「賢者の石」、上記の公式ガイドブックでは青い石として描かれていて、そのために「賢者の石といえば青い」というイメージがずっと後にまで付いて回ってしまい、のちに「鋼の錬金術師」で赤い賢者の石が登場した時には、ドラクエを経験していた多くの読者が意外に思ってしまったという話まであります。現実にあった錬金術の設定では、どうやら赤いとされるのが正しいらしいのですが、やはり絶大な人気ゲームだったドラクエで刷り込まれたイメージは、それ以上に強烈です。

 で、問題は、このドラクエ版の「賢者の石」がなぜ青いか?という話です。その答えが、このサイドストーリー本(「アイテム物語」)にあるのです。この本に収録されたエピソードによれば、この賢者の石の中には、数え切れないほどの無数のホイミスライムが封印されていて、彼らが何度でも何度でもひたすら回復魔法を唱えるから、無限にいくらでも回復できるらしいのです。この賢者の石を壊してみると、中からぞろぞろと無数のホイミスライムが延々と出てきて、2週間もの間途切れることがなかったと、そんな話になっていました。そして、エニックス自身が出した本にある記述ですから、これが本当に公式の設定である可能性が高いです。あの賢者の石の中には無数のホイミスライムが本当に封印されている!

 もうひとつ印象に残っているのは、「最後の鍵」にまつわる話でしょうか。これもドラクエ3以降シリーズの定番になるアイテムで、ゲームの終盤になって手に入る、あらゆる扉を開けることのできる究極の万能鍵として登場します。これも「アイテム物語」の記述によると、これはある職人が自分の全精力をかけて作り上げた志向の一品で、それは鍵の先端に「マネマネ銀」という特殊金属が使われていて、これが鍵穴の形に合わせて自在に形を変える特殊な変形金属であると。だからどんな難解な鍵でも必ず開ける事の出来る、究極のマスターキーになっているのだと、そんな話だったと思います。この「マネマネ銀」という金属の名前は、公式ガイドブックの方でも見られるので、これは間違いなく公式の設定に取り入れられたのだと思います。


「小説ドラゴンクエスト」
 ずばり、ドラクエの小説本です。3から出た公式ガイドブックとは異なり、ドラゴンクエスト1から順に出され、最終的には7まで出たと記憶しています。個人的に最後の7の頃はもうあまり興味もなくなっていたのですが、最初の頃はこれもよく買っていました(確か5まで買ってました)。今はもう捨ててしまったのか手元にないので、画像は出せませんが、ネット上で検索すればまだ見つかるかもしれません。

 ドラクエ1から3(ロトシリーズ)は、高屋敷英夫が執筆を担当。この方の名前は知らなかったのですが、本職はアニメの脚本家であり、今でも現役で活躍しておられる方のようです。小説ならではのオリジナルの要素が目立ち、戸惑うところもありましたが、総じて手堅くまとまってはいたと思います。ただ、1・2までは早い時期に執筆されたものの、最後の3は執筆までにかなりのブランクがあり、執筆者本人の間でもいろいろと迷いがあったようです。後述する天空シリーズの小説と比較すると、やや話題性に乏しいところもあり、全体的な評価はいまひとつだったのかもしれません。

 ドラクエ4から6(天空シリーズ)は、久美沙織が担当しており、こちらの方が特に有名かもしれません。こちらのシリーズは、高屋敷版のロトシリーズ以上にオリジナル要素が強く、久美沙織の色が強く出た独自のドラクエ小説となっています。元々少女小説で活躍していた作者だけ合って、男性の執筆者である高屋敷英夫と比較すると、文体やストーリー設定、展開に女性的なものを感じます。また、このドラクエ小説は、1から7まですべていのまたむつみがイラストを担当していますが、そのイラストと最も合っていたのがこの久美沙織の天空シリーズだったと思います。女性的な小説の内容と、美麗なイラストとの相性がよかったのでしょう。

 ところで、久美沙織と言えば、「精霊ルビス伝説」という、ドラクエのスピンオフとも言うべきオリジナル小説の存在も忘れてはなりません。これは、ロトシリーズに登場する、ロトの勇者を守護する精霊のような存在である「ルビス」を主役にした物語で、彼女が普通の少女からいかに精霊ルビスとして崇められる存在となったか、その出自を語る異色の内容となっていました。物語の舞台も、ゲームでロトの勇者が活躍する大地ではなく、その一つ上の精霊界という上位世界であり、ストーリーもロト伝説とはまったく関係ありません。なぜこのような小説が企画されたのか、それも全3巻という大作となっており、今思えば当時のエニックスは思い切ったことをやったものだと思います。それだけ当時はファンタジー小説というものが人気だったのかもしれません。
 なお、この「精霊ルビス伝説」、のちにGファンタジーで創刊時からコミック化されますが(コミック化担当は阿部ゆたか)、こちらの方はあまり奮いませんでした。絵がいまひとつで原作のいのまたむつみの絵に比べると見劣りするほか、内容も原作の序章が延々と長引いて肝心の本編がすぐ終わってしまうなど、創刊時からの雑誌での大きな扱いとは正反対に、大した人気は得られませんでした。


「ドラゴンクエスト 4コママンガ劇場」
 この「ドラクエ4コマ」については、ここであえて今一度語らなくてもよいほど有名です。公式ガイドブックと並んで、ドラクエ関連本でも最大の人気を獲得しました。最近ではもうあまり出なくなってしまいましたが、かつては長らく盛んに出版され、ガンガンやギャグ王でも連載となってこちらでも長い間高い人気を得て雑誌に貢献してきたのです。

 ドラクエ関連本の中では後発で、元々は上記のサイドストーリー本の中におまけとして描かれた4コママンガコーナー「アレフガルド小劇場」が起源です。このわずか1、2ページ程度の小コーナーだった「アレフガルド小劇場」が、予想以上の反響を呼んでしまい、それをひとつのアンソロジー本として売り出すと大人気。先行するほかのドラクエ関連本を凌いでしまうような大人気企画となってしまうのです。

 この「アレフガルド小劇場」を執筆した作家が、栗本和博であり、のちに4コママンガ劇場が出版され始めた後も、初期から最後の頃まで長い間定番作家として活躍します。この栗本さんは、元は原作ゲームのドラクエのテストプレイヤーのひとりであり(一部のシリーズではエンディングのスタッフロールに記載あり)、そんな彼が小さなコーナーで片手間のような形で描いたこの4コマが、まさかその後の大ヒットにつながるなどとは、一体誰が予想したでしょうか。あるいは、このドラクエ4コマから、柴田亜美や衛藤ヒロユキなどの人気作家が多数登場し、彼らがのちのガンガンを支え、あるいは一部はエニックスを飛び出して他社でも活躍するような人気作家となるとは、一体誰が予想したでしょうか。世の中本当に何が幸いするか分かりません。

 さらには、初期の頃から読者による投稿4コマも多数募集し、「番外編 4コマクラブ傑作選」と称してこちらも単行本化したのも記憶に新しい。こちらの方は初期の頃が柴田亜美、のちに夜麻みゆきが長く表紙を担当。この夜麻みゆきも元は投稿者であり、彼女を含めて数多くの新人作家が投稿4コマからプロのマンガ家としてデビューしていった。これもまた予想以上の成果であり、このドラクエ4コマがのちのエニックスマンガの基礎を作ったといっても過言ではないのです。


「ゲームブック ドラゴンクエスト」
 エニックスはドラゴンクエストのゲームブックも盛んに出していました。実は、以前に他社(双葉社)からドラクエ1と2については出たことがあったのですが、それとはまったく別物です。これは6までは出たようです。4については、あの衛藤ヒロユキが一部の執筆を担当(主に4章を担当したらしい)というのも一部では有名だったりします。

 「ゲームブック」という遊びの形態は、元々はテーブルトークのソロシナリオが起源らしいのですが、のちに単体で出版されるようになり、これが一時代に高い人気を博しました。その元祖と言えるものが、日本では83年に翻訳出版された「火吹き山の魔法使い」で、以後これを皮切りとするシリーズが一躍人気となり、海外からの翻訳が相次ぎ、さらには日本からも独自のゲームブックが次々に執筆され、ゲームブックの人気作家も登場するなど、80年代の半ばには一時期非常に盛り上がりました。
 しかし、これがどういうわけか、90年代に差し掛かったあたりから一気に下火となり、ほとんどの出版社が刊行をやめてしまいます。理由は様々に考えられますが、ファミコンなどコンピュータでのRPGが主流となり、様々な点でゲーム性が限定されるゲームブックではかなわなかったのではないかとわたしは考えています。

 そんな中で、90年代に入っても最後までゲームブックを出版していた出版社が、他ならぬこのエニックスだったのです。ドラクエという人気ゲームのゲームブック化だからこそ、最後まで何とか残ったと言えるでしょう。これらのドラクエゲームブックが、80年代の他出版社のゲームブックと比較して、それほど優れているかは微妙なところなのですが、それでも最後までゲームブックを発売し続けたことは、一定以上の功績があるのではないでしょうか。

 このドラクエゲームブックの中では、特に2のゲームブックが印象深いです。新紀元社のファンタジー解説本や、テーブルトーク関連の著作をいろいろと手がけてきた健部伸明が執筆しており、システムとストーリーとその双方でオリジナル要素が非常に強く、ドラクエゲームブックの中で異彩を放っています。分量的にもものすごく、上下2巻ですが1冊がめちゃくちゃ厚い。ゲームのシステム(戦闘)が面白く、さらにはストーリーも原作ドラクエ2を大幅に加筆、オリジナルのエピソードやキャラクターがたくさん入った意欲作になっています。
 個人的には、このゲームブックでのサマルトリアの王子がとても印象深い。原作ゲームからよく見られるイメージ、性格がおとなしくて、あるいはどこか抜けていて、キャラクターの性能的には弱いという、いつものイメージとはまったく異なり、アグレッシブで切れ者のイメージのキャラクター設定になっています。このゲームブック版サマルトリアの王子は見逃せません。わたしは、こちらのサマルトリアの王子の方が断然好きです。今となってこのゲームブックを知っている人がどれだけいるか分かりませんが(わたし自身もなくしてしまっています)、誰か語れる人がいれば是非このサマルトリアの王子を語りたいものです(笑)。


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