<ネットで拾ったエニックス読者の凄まじい話(後編)>

2003・12・18

*前編はこちらです。
*中編はこちらです。


 いよいよ後編。今回はまず、エニックス出版関係の企画でも最高の当たりだった「ガンガンヴァーサス」についての出来事です。

・「ガンガンヴァーサス」の話。
 「ガンガンヴァーサス」とはガンガン系雑誌の諸作品をモチーフにしたトレーディングカードゲームです。
 まず先に言っておきますが、オタク層はこのカードというモノに非常に弱いです。オタクにとってカードとはマタタビのようなもの。「カード」と聞けばそれだけで集めずにはいられない人種なのであります。この「ガンガンヴァーサス」もマニアなエニックス読者にとってはもう集めずにはいられないモノでした。

・雑誌限定の付録カードにまつわる話。
 まずカードゲームそのものが発売される前に、ガンガン本誌に付録として特製(SP)のカードがつきました。しかも、これが「全5枚中3枚」という形で一冊のガンガンの袋とじごとににランダムで投入されていたのです。つまり、一冊のガンガンでは5枚全部は絶対に揃わない。そこで、全部のカードを揃えようとして複数のガンガンを買う読者が大量に出現しました。

 しかも、この「5枚中3枚」という方式が実によく出来ていて、全部を揃えようとすると意外に大変なのです。まず一冊のガンガンでは絶対に揃いません。2冊でも揃う確率は低い。では3冊以上ではどうか。このあたりの「ガンガンの購入数ごとの、カードが5枚揃う確率」を計算すると・・・

 このように、2冊ではまだ30%しか揃う確率がありません、3冊だと73%と、四分の三に近い確率で揃います。つまり、確実に揃えるには最低でも3冊は買う必要があります。
 しかも、3冊買っても揃わない確率が四分の一以上あります。コンプリートのためにさらに買うケースも少なからず存在するわけです。
 しかもマニア系読者の中には、1枚ずつでは飽きたらず2枚以上同一のカードを揃えようとする強者もたくさんいますから、彼らは最初からより多くの冊数を買ってしまいます。
 こうして、付録カードのためにガンガンを5冊も6冊も買おうとする読者が大量に出現しました。中には店頭でカードだけを抜きとっていく犯罪者も出現(←許せませんな)。この時期の書店ではガンガンが売れまくり、特にアニメイトのようなマニア系の店では「店頭からガンガンが瞬く間に消える」という事態が頻発しました。

 この売れ行きに味をしめた(?)エニックスは、以後も「5枚中3枚」という形で付録カードをつける所業を繰り返し、そのたびにガンガンは驚異的な売り上げを記録。さらにはWINGやGファンタジーなど、他の雑誌にも付録カードをつけ、しかも「3枚中1枚」とか、より揃いにくい方式でつける場合もあり、このようなエニックスの悪辣な商法(笑)により、マニア系の読者は大いに狂乱しました。

・カードセット自体の人気も凄まじい。
 もちろん付録カードだけでなく、直に発売されたスターター・ブースター等のカードセットの売れ行きも凄まじいものでした。最初に発売されたのは2000年の3月、例の「東京ゲームショウ」の物販ブースで先行発売されましたが、この時は開店して瞬く間に売り切れ、その後の一般発売でも売れまくり、アニメイトのような店では入荷する端から当日の内に売り切れ、という状態がしばらく続きました。いかにガンガン系にディープな読者が多かったかよく分かります。
 しかもその後、4カ月に一度のペースで追加エキスパンションを発売し続け、毎回のように凄まじい売り上げを記録。プレイヤーの間ではカード単体ごとのシングル取引も始まり、特にネットのオークションやトレードも大盛況でした。そしてここで伝説の紀柳キラ20000円事件が起こるのです。

・「紀柳キラ20000円事件」
 最初のセットが発売されてまもないころ、このセットに守護月天のカードも含まれていたことから、ここで守護月天好きの美少女マニアが集まりました(また守護月天か・・・)。そして彼らの間で、最初のセットに含まれていた紀柳(万難地天紀柳)のレアカードのキラカード(箔押しのフォイルカード)にオークションで20000円の値が付くという驚愕の事態が発生。これが 「紀柳キラ20000円事件」(まんま)です。
 トレーディングカードにこんな高い値がつくことはまず考えられません。実際、これ以外のガンガンヴァーサスのシングルは、どんなに人気の高いキラカードでも数千円程度です。いかに守護月天に群がった美少女マニアが凄まじい存在かよく分かります。まあ、彼ら美少女マニアは、はまったモノに月に10万とかデフォルトで使い、40万円の等身大フィギュアをあっさりと購入、果てはシスプリの原画一枚15万円を12人まとめてお買い上げで180万円な人々なので、この程度の買い物は安いものだと思われます。

・ゲームの大会も盛り上がった。
 そしてコレクションの対象としてだけでなく、カードゲーム自体も良く出来ていたこともあって、ゲームのプレイ、そして大会も大いに盛り上がりました。
 そしてついにはエニックス主催の全国大会まで開かれる事態にまで発展したのですが、ここに各地で開かれる予選において、複数の予選に参加し、参加賞のカードを集めまくり、ついには優勝商品のカードを複数独占しようとする強者まで出現しました。そして、この優勝商品のカードは非常に枚数の少ない限定カードということで、オークションで数万・数十万単位の落札価格がつくという驚愕の事態に発展。まさにこの当時のガンガンヴァーサスの盛り上がりは凄まじいものでした。


 さて、この当時のガンガンヴァーサスが盛り上がった原因として、とにかくこの当時のガンガン系の作品に、マニアに受けるものが揃っていたことが挙げられます。全体的に近いイメージの(エニックスらしい)マンガが多く、ガンガンヴァーサスにも統一感がありました。いまのガンガン系(特にガンガン)ではこのような状況は難しいでしょう。

 そしてもうひとつ、このガンガンヴァーサス特有の現象として、とにかく男性読者に人気が片寄っていたことがあります。ガンガン系は女性読者の比率が高いのが特徴ですが、ガンガンヴァーサスではトレーディングカードという性質上、男性のマニアの比率が圧倒的でした。そのためシングルカードの人気も美少女系の萌えキャラに人気が集中し、本来のマンガの人気とはやや異なる特徴が見られたのも面白いところです。


・人は、いかにしてエニックスにはまっていくのか。
 さて、ここまではエニックス系読者の「行動の一側面」のみを見てきたわけですが、ここでは趣向を変えてひとりひとりの読者に焦点を絞ってみます。具体的には、ここでごく普通の一般人がいかにエニックス読者になっていくのか、その経緯をネットからの情報を元に記述してみたいと思います。

 普通の人がエニックスに触れてから、深い読者になるまでにどのような道筋をたどっていくのか。おそらく、多くの人が次のような階梯をたどっていくものだと思われます。

(1)特定のマンガにはまる。
 なんらかのきっかけで、エニックス系のマンガのひとつにはまる。これが多くの人がたどる道の第一歩です。
 人気のあるマンガなら書店での扱いも大きく、人目につきやすいでしょうし、アニメ化した作品などは一気に知名度が上がり、一般の人にも触れる機会が多い。
 さらに、マンガに深く付き合っているコミックファンなら、情報誌やインターネットなどで積極的に情報を入手しようとするでしょうし、そのような人はもちろんエニックス系の作品も視野に入れているはずです。いつ特定のマンガを読み始めてもおかしくはない。
 さて、このように特定のマンガにはまるだけなら誰にでも起こりえます。これだけではエニックスの読者とはいえません。アニメを見て「鋼の錬金術師」にはまってコミックスを読んだからといって、それだけでエニックスの読者とはいえない。エニックスの読者になるためにはさらなる次の階梯を踏むことが必要です。

(2)エニックスの雑誌にはまる。
 (1)で特定のマンガにはまった人が、その連載元を求めて雑誌に手を出す。この段階は非常に重要です。ここで雑誌にはまるかどうかがエニックスの読者になるかどうかの分かれ道です。
 雑誌にはまるということは、すなわち「エニックス的なマンガ」が自分の趣向に合っていたということ。ここで雑誌を毎月買い始めるようになれば第一段階はクリア。エニックスにはまってしまう可能性があります。
 逆に雑誌が気に入らずにはまらなかった人は、もうそこで終わりでしょう。それは特定のマンガが気に入っただけであって、エニックスを理解したとはいえない(笑)。

 一方で、これは少数派だと思いますが、特定のマンガを経ずにいきなり雑誌を買い始める人も存在します。このような人はそもそも(エニックスに限らず)雑誌に対する愛着が強い人だと思われます。このタイプの人なら雑誌を買い続ける可能性も高く、そのためによりエニックスにはまりやすいといえます。

(3)雑誌の複数のマンガにはまる。
 さて、特定のマンガに惹かれて雑誌を読み始めた人が、雑誌に載っている他のマンガにはまりはじめる。この時点で既にエニックスにはまっているといえます(笑)。これはもちろんエニックス以外の雑誌でも普通に起こりえることですが、エニックス雑誌の場合特にこれが起こりやすい。
 なぜか。それは、エニックス系のマンガにはどれも近い雰囲気・近い方向性があり、ひとつのマンガにはまるとそれに近いイメージを持つ他のマンガにはまる可能性が高いのです。今に関して言えば、ガンガンの連載はそれほど近いイメージはないですが、WINGの連載などはどれもが実に独特の方向性を持っていて(笑)、雑誌のほかの連載まで気に入ってしまう可能性は非常に高い。これがエニックスの雑誌の強みといえます。

(4)エニックスのほかの雑誌にはまる(非常に重要)。
 もうひとつの大きな段階として、ある雑誌にはまってきた読者が、他のエニックスの雑誌に興味を持って読み始める、というのがあります。これはある種はまり道の王道で、一旦複数の雑誌を読み始めるような事態になれば、もうその時点でエニックスにはまっています(笑)。
 今は少々薄れていますが、そもそもエニックスの雑誌はどれも誌面の雰囲気が近く、ある雑誌が気に入ったならそのままほかの雑誌も気に入ってしまう可能性は非常に高い。知名度の高いガンガンからまずはまって、そのままWINGやGファンタジーまで買い始めてしまうというのは実によくある話です。

(5)そして複数の雑誌の多くの連載にはまり、コミックスを大量に買い始める。
 はい、この時点で完璧にエニックス読者です。もうエニックスのマンガを読むことが日常となり、次第に買うコミックスの量が増え、買うコミックスの中に占めるエニックスの割合が大きくなっていきます。そしてついに買うマンガの大半をエニックスが占めるようになり、「気が付いたらエニックスのマンガばかり買っていた」という事態に陥ります。もうこうなったら抜け出すことは困難で、エニックスというブラックホールの「事象の地平面」の間近に迫っています。これでシュバルツシルト半径を越えたらもう脱出できません。

(6)マンガにはまるあまりに関連商品やグッズを買いまくる。
 はい、シュバルツシルト半径を越えました。もう脱出できません。あとはひたすら一般人の物理常識を超えた行動に走りましょう。すなわち、

 ・・・などなどなど。ここまでくればもうブラックホールの中心・完全な世界(特異点)です。実際、これに近い領域にまで接近した人々はネットで探せばいくらでもいました。エニックスの吸引力の恐ろしさを間近で見ると凄まじいものがあるのです。


・そして、今・・・。
 さて、ここまで過去数年にわたるエニックス読者の凄まじい動向を記述してきました。では最後に、今のエニックス読者の動向をチェックして終わりにしましょう。
 今のエニックス(スクウェア・エニックス)作品では、近年珍しく「ある特定のマンガ」が絶大な人気を獲得しています。「鋼の錬金術師」です。このマンガにはまった人々の行動が実に凄まじい。もう完全に「守護月天」「最遊記」を超えています。
 もともと連載直後からガンガンで絶大な人気を獲得していましたが、10月にアニメ化してからさらに大ブレイク。

 まず、この前(12月発売)のガンガンが、近所の本屋でわずか一日ですべて消えました。ガンガンが一日で全部売り切れるとは、10年以上のエニックス出版の歴史の中でも異例の事態です。もはやありえません。

 そしてネットオークションの熱狂ぶりが凄まじい。もうありえない値段がつきまくっています。

 そしてアニメイトを始めとするマニア系の書店でも「鋼」関連のイベントが目白押し。東京では等身大のアルフォンス・エルリックが大人気稼動中。
 ・・・いや、まさに凄まじいの一言に尽きます。

 しかし、このように「鋼」の人気が出るのはよいことなのですが、その反面「鋼」以外のエニックス作品が霞んでしまっています。このままでは真のエニックス作品の力が薄れてしまいかねない。もちろん「鋼」もエニックスのマンガではあるのですが、今では普段エニックス系を読まない読者が外部から大量に流入し、本来のエニックス読者が危機的状況にあるといえます(笑)。今こそ「鋼」だけに捉われない真のエニックス読者の力を見せつける時でしょう。


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