<スクエニ系コミック2005年総括>

2005・12・16

 この記事では、2005年一年間の、スクエニ系のマンガ雑誌、および個々の作品の動向を総括してみたいと思う。総じて動きの多い一年だった。中心雑誌であるガンガンが振るわない一方で、それ以外の他誌の健闘が光る一年であった。


・少年ガンガン
 今年のガンガンは、ここ数年の中で特に魅力のない一年であった。ほとんど話題らしい話題がなかった。

 唯一の話題が『鋼の錬金術師』の映画化である。TVアニメの完成度をそのままに映画化に成功し、興行的にも評価的にも成功を収めた。今年のガンガンの唯一の収穫であった。
 それ以外には本当にこれといった作品は出なかった。唯一、上半期の新連載攻勢で登場した『屍姫』が久々に読める新作だった。しかし、それ以外の新連載はどれも振るわなかった。
 むしろ、姉妹誌で増刊であるパワードの方が注目すべき作品は多かった。『これが私の御主人様』は、パワード連載からのアニメ化だったが、ガンガン本誌で強引に宣伝活動を行い、本来は本誌の連載ではないのに一時的に短期掲載したほどだった。他誌からアニメ化作品を引っ張ってこなければならないほど、ガンガン本誌には話題がなかった。

 むしろ、スクエニ系コミックの話題の中心は、ガンガン以外の他誌に移った。今年アニメ化されたスクエニ系作品は、『鋼』の映画化を除いてすべて他誌からのものである。それに加えて、昨年末からの新雑誌であるヤングガンガンの健闘、ガンガン以外の三雑誌での「ひぐらしのなく頃に」の同時連載なども光った。その一方で、ガンガンは一年を通して(『鋼』関連以外で)本当に大した魅力がなかった。

 今年のガンガンで目立った動きが、スクエニのゲームを絡めたコンテンツビジネス化の動きである。「キングダムハーツ」等の旧スクウェア系コミックの連載、スクエニゲームの長大な紹介ページ、ゲーム関連の付録、そして「コードエイジ」という一種のメディアミックスの一端を担うコミックの掲載・・・。メジャーなスクエニゲームの広報宣伝のための雑誌という方向性が顕著に見られた一年だった。ゲーム作品が本来あるべきマンガを押しのけて表紙にすらなった。
 しかし、それらはガンガンの面白さには貢献しなかったと思われる。「コードエイジ」は興行的にも評価的にも明らかな失敗であった。ゲームマンガも振るわなかった。ゲームの紹介ページや付録は、マンガ雑誌の面白さには直接の関係がなかった。ガンガンの連載と何の関係もない、FFのポストカードなどを付録にされても違和感が残った。

 下半期になって、長期連載の人気マンガ「スパイラル」がついに最終回を迎え、それと同時期にいくつかの作品が終了した。しかし、その穴を埋めるべき新連載が出てこないため、雑誌の連載本数が極端に減っている。今の連載本数14本は、これだけの大規模な雑誌としてはあまりに少なすぎる。数少ない現在の連載の中で期待できるマンガも少なく(せいぜい前述の『屍姫』くらいか)、来年以降もさらに不安である。


・大成功だったアニメ化作品。
 むしろ、今年のスクエニで目立ったのは、ガンガン以外の雑誌からのアニメ化作品である。パワードの『これが私の御主人様』、WINGの『まほらば』、そしてGファンタジーの『ぱにぽに』である。いずれも相当な話題となり、特に後者2作品に関しては今年のアニメの中でも極めて高い評価を得た。
 これまでのスクエニ系のアニメ作品は、全体的に完成度の低いものが多く、原作ファンからは大して期待を持たれていなかった。しかし、今年のアニメ化作品は、そのどれもが過去の悪評をいい意味で裏切るもので、スクエニ系アニメでは久々の良作に恵まれた形となった。

 『これが私の御主人様』は、原作は過激なネタ的ギャグが席巻するメイド萌え+オタクネタ全開マンガだが(笑)、アニメでは原作のディープすぎるオタクネタはさすがに取り入れられなかったのか、単なるドタバタコメディになった感があり、しかも1クールの短い放映で終了してしまったため、さほど大きな印象は残らなかった(ただ、作画レベルが非常に高かった点は優秀であった)。しかし、この作品はストレートな「メイドもの」だったことで、昨今のオタクブーム・メイド喫茶ブームと重なり、その点で大きな話題を呼んだ。実際、アニメの内容そのものよりも、メイド喫茶でのイベントやアキバでのコスプレの方が話題になったほどであり、昨今のオタクブームの流行に完全に適合した幸運な作品となったと言えるだろう。

 『まほらば』は、原作のほのぼのしたエピソードを忠実にアニメ化した、作画レベルの高さも光る良作であった。深夜でのアニメ化にもかかわらずかなりの人気を獲得し、原作読者、およびWING購読者の増加に大いに貢献した。元からの原作ファンの満足度も高く、スクエニ系では久々に原作ファンとアニメファンの双方が高い評価を与えた良作であった。ほとんど否定的な意見を見かけないことが、この作品のアニメ化の成功を物語っている。

 『まほらば』の後番として始まった『ぱにぽに(ぱにぽにだっしゅ!)』は、原作は「あずまんが大王」の血を引く不条理系学園ギャグコメディだが、アニメ化に際してスタッフが大暴走(笑)。原作をもはるかに凌ぐ不条理全開・ネタ全開の超怪作と化してしまい、コアなアニメファンの間で凄まじい話題を呼んだ。作画クオリティも安定して高く、OP曲・ED曲のレベルの高さも評判を呼び、エンドカードやアイキャッチ等のサービス精神も旺盛な、極めて密度の濃いアニメ作品となった。おそらくは、今年の全TVアニメの中でも一、二を争うほどの素晴らしい評価を得たと思われる。他のアニメではできないようなオタクネタを平然とやってのけるスタッフには感服した(笑)。このアニメスタッフに出会えたことは、原作の『ぱにぽに』にとって非常な幸運だったと言えるだろう。

 以上のように、今年はこれまでになくスクエニ系アニメの当たり年となった。特に、同一の時間枠の前番・後番だった『まほらば』『ぱにぽに』の2作の出来が素晴らしく、先のガンガンお家騒動以来、混乱が続いていたスクエニ系コミックで、久々に明るい話題を提供した形となった。


・「ひぐらしのく頃に」三部作
 アニメ化と共に、一部のコアな読者の間で話題を呼んだのが、同人ノベルゲーム「ひぐらしのなく頃に」のパワード・WING・Gファンタジー三誌同時コミック連載である。あまりにもコアでマニアックなファン層を持つ作品のコミック化ということで、当初は不安視もされたが、これが結果的に大きな成功を収めた。WING・Gファンタジーが月刊誌なのに対して、パワードのみが季刊誌であるため、連載のペースが乱れるのではないかとの不安もあったが、これも杞憂に終わった(ただし、単行本化に際してパワード連載の「鬼隠し編」のみが大幅に加筆されるなど、多少の調整は必要としたようだ)。三誌の連載作家陣が軒並みいい仕事をしてくれたため、三つの連載のどれも外れがなく、すべてにおいて安定したクオリティを維持できたのが大きい。
 ただ、結果的に成功だったとはいえ、スクエニの主要誌であるガンガンで連載されなかったのが一抹の影を落とした。メジャーな一般層向け少年誌を目指した誌面作りを進める今のガンガンでは、「ひぐらし」のようなコアでマニアックな趣味の作品を掲載することは出来なかったのだと思われる。しかし、そもそも月刊誌のガンガンで連載出来さえすれば、ひとつだけ季刊誌掲載で連載ペースが乱れる危険を犯す必要もなかったわけだし、さらには、スクエニで最も発行部数の多いメジャー雑誌であるガンガンでの連載ならば、この企画はさらに盛り上がったのではないかと思われる。そう考えると、(実際にはさしてマニアックとも言えない)「ひぐらし」すら連載できない今のガンガンの方向性が、スクエニコミック全体の足を引っ張っているとも言える。


・パワードの健闘。
 この「ひぐらし」の連載もそうだが、今年はガンガン本誌よりも、増刊であるはずのガンガンパワードの方の健闘が目立った。
 元々パワードは、新人の読み切り作品の掲載が中心の雑誌であって、連載マンガ自体はそれほど充実したものではなかった。しかし、発刊を重ねるにつれて少しずつ連載マンガも増えていき、今年になってひとつの雑誌としてもやっていけるほどの連載陣の充実が見られた。具体的には、前述の「ひぐらし」以外で、パワード発の連載で単行本化がなされた「君と僕」「シューピアリア」「仕立屋工房Artelier Collection」「たそがれのにわ」、こがわみさきのハートフルコメディ「陽だまりのピニュ」、そしてもちろんアニメ化もされた「これが私の御主人様」と、まだまだ連載本数は少なめではあるものの、個性的な作品が揃ってきた感がある。
 そして、何といっても今年はあの「みかにハラスメント」の存在が大きすぎる。この萌えを通り越した羞恥全開のエロマンガは、ネット上のオタクたちの間で話題となり、スクエニ(エニックス)史上でも屈指のネタマンガとして凄まじい祭りが展開されたことは記憶に新しい。わたし自身は、このマンガを全く評価していないが、しかしこれだけの話題と売り上げを獲得したことは認めねばなるまい。
 さて、これらの作品は、ガンガンでは連載できないようなマニア寄りのマンガをパワードの方に寄せ集めたという印象が強いのだが、実際にはガンガン本誌の連載よりも個性的で質も高く、話題性の上でもこちらの方が大きかったように思う。「御主人様」に「みかに」に「ひぐらし」と、一年を通して新鮮な話題を提供してくれたことは大きい。


・ヤングガンガンの意外な健闘。
 パワードだけでなく、昨年末に創刊された青年誌であるヤングガンガンも予想外に健闘した。
 創刊当初のヤングガンガンは、外部からのゲスト作家による、エロばかりで内容の全くない作品が多数掲載され、いかにもありがちな青年誌といった感じで、決して面白いものではなかった。しかし、号数を重ねるごとに次第につまらない作品が淘汰され、面白い連載の比率がゆっくりと増してくるという理想的な進歩を果たした。当初の誌面のつまらなさを考えれば、これは実に嬉しい誤算であった。
 実際、今のヤングガンガンは、全くつまらないという連載は少なく、どれもが何らかの面白さを持ち、「すもももももも」や「黒神」「ユーベルブラット」のような定番の人気連載も現れ、一方で「WORKING!」のようなギャグ4コマでも秀作が見られるなど、かなり充実した誌面となっている。


・WINGとGファンタジー。
 次に、ガンガン系の定番であるこのふたつの雑誌の動向について記述しておきたい。

 WINGは、主要連載である『まほらば』アニメ化の成功を受けて、部数を大きく伸ばし、近年にない安定した売り上げを果たした。これは、WINGの連載陣に『まほらば』に近いイメージ、方向性を持つものが多く、『まほらば』目当てでアニメから入ってきた新規参入読者の支持を受けたのが大きかったと思われる。雑誌のページ数も増え、新連載も積極的に投入され、付録として4コマ雑誌がつくこともあるなど、積極的な攻勢が目立つ一年だった。
 しかし、今年始まった新連載は、全体的に今ひとつの感は否めず、雑誌の新たな核となるような作品には恵まれなかった(唯一の例外が上記の「ひぐらし」である)。来年はさらなる新連載が多数投入される予定で、今度こそ成功する作品が出ることに期待したい。

 Gファンタジーは、こちらも主要連載である『ぱにぽに』のアニメ化で盛り上がった。しかし、WINGと異なり、目に見えるほどの部数の増加は見られなかったと思われる。これは、Gファンタジーの連載の方向性が多様で、女性寄りとも言える連載も多く、そのために『ぱにぽに』目当てでアニメから入ってきた読者の支持をさほど得られなかったためである。
 しかし、部数はさほど増加しなかったとはいえ、元々GファンタジーはWINGよりも連載陣が充実しており、一年を通して安定した誌面作りを果たすことが出来た。スクエニ系の中で最も安定した雑誌だったと思われる。この雑誌は、男性寄りから女性寄りまで多種多様な連載で構成されているが、その双方で人気作品が登場した。男性寄りの連載では『ぱにぽに』『To Heart2』『ひぐらし』、女性寄りの連載では『ZOMBIE-LOAN』『隠の王』『カミヨミ』あたりだろうか。中性的なほのぼの系ファンタジーの『ティルナフロウ』も男女共に幅広く人気を集めた。
 来年には、早くも次のアニメ化作品として『壮太くんのアキハバラ奮闘記』が予定されている。これからも安定した誌面が期待できそうだ。


・2005年総括。
 最後に、2005年のスクエニ系コミックの動向を総括しておきたい。
 まず、今年はとにかくスクエニアニメの当たり年だった。『劇場版 鋼の錬金術師』『これが私の御主人様』『まほらば』『ぱにぽに(ぱにぽにだっしゅ!)』と、どれを取っても外れがなく、大きな人気と評価を獲得した。特に『まほらば』と『ぱにぽに』の成功は大きく、スクエニ系でもマイナーな雑誌であるWINGとGファンタジーの発展に大いに貢献した。

 その一方で、スクエニ系の中心雑誌であるガンガンには目立ったところが無かった。確かに『鋼』の劇場版は成功したが、それ以外にこれといった連載がほとんどなかった。わずかに、『鋼』に次ぐ唯一の人気連載『ソウルイーター』、今期の新連載で唯一の当たりだった『屍姫』がかろうじて印象に残る程度で、総じて魅力的とは言いがたい連載陣に終始した。
 むしろ、今年のガンガンは、スクエニの人気ゲームを絡めた企画がとにかく目立った。ガンガンを利用してスクエニゲームの広報宣伝をしようという会社の意図ばかりが感じられ、純粋にマンガを求める読者としては魅力的とは言いがたい誌面になってしまった感がある。来期以降もこの流れが続くならば非常に不安である。

 そのようなガンガンの方向性をよそに、スクエニ系コミックの主流はむしろ他の雑誌に移りつつある気配である。『まほらば』『ぱにぽに』のアニメ化の成功に加えて、ガンガン以外の三誌での「ひぐらしのなく頃に」のコミック化の成功、パワードやヤングガンガンの予想外の健闘と、ガンガン以外での好結果が目立った。むしろ、主要な雑誌であるはずのガンガンの方が、他雑誌の健闘の足を引っ張っているような状況すらうかがえる。実際、今年のガンガン以外の4雑誌はすべて堅調と言える充実ぶりを見せており、ガンガンの不振を差し引いても、スクエニ全体を通してみればかなりいい年だったのではないかと思われる。来年もこの調子を維持すれば、今年同様の健闘が期待できるだろう。


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