<スクエニ系コミック2009年展望(前編)>

2009・12・4

*後編はこちらです。

 さて、スクエニ系コミックの2008年総括を終えたところで(こちらです)、今度は2009年のスクウェア・エニックスのコミックの展望を行ってみたいと思います。昨年はアニメ化連発ラッシュがとにかく目立った一年でしたが、今年はどうでしょうか。

 結論を言うと、前年同様にアニメ化連発路線に振り回される一年になりそうです。執筆時の今(2008年12月)の時点で、なんと5つものアニメ化予定作品が挙がっているのです。ヤングガンガンからは「黒神」、Gファンタジーからは「Pandora Hearts」、ガンガンWINGからは「夏のあらし!」、そしてヤングガンガンからもうひとつ「咲 -saki-」のアニメ化告知も行われました。コレに加えて、ガンガンからはあの「鋼の錬金術師」の新シリーズでの再アニメ化が決まっています。これだけでいきなり5本。まだ2009年にもなっていない段階で、いきなり5本ものアニメが予定されているのです。これは、アニメ化ラッシュだった2008年をもはるかに凌ぐかのような凄まじいハイペースであり、「アニメ化を恒常的に行うことで話題性を確保し、雑誌やコミックスの売り上げ増を見込む」という、スクエニ出版のここ最近の方針が、さらに強化されることになりました。

 そして、これは喜ばしくもある反面、非常に不安な路線であることは間違いありません。とりわけ今回は、「夏のあらし!」や「咲 -saki-」のように、まだコミックスの巻数を重ねていない作品が見られますし、「Pandora Hearts」のように連載途中で今後の展開がまるで読めない作品も含まれています。これを今の段階でうまくアニメ化できるのか、非常に疑問であり、中途半端な放映期間で終わったり、大量のオリジナル展開が入ったりしてクオリティが低下することが懸念されると思います。さらには、ここまでのハイペースでアニメ化すると、いずれスクエニ雑誌のアニメ化できる候補作品が尽きるのではないかとの疑念もあり、この点でもこのような連発路線はかなり不満です。

 ここまでアニメ化を盛んに推し進める一方で、雑誌そのものはどれも停滞気味であり、このところ新しい連載で成果が乏しくなりつつあるのが気になります。長い間誌面が安定しないガンガン、2006年以降の落ち込みが激しいWINGはもとより、最近ではGファンタジーもラインナップに陰りが見え、加えてスクエニで最も堅調なヤングガンガンでさえ、ここ1年ほどはめぼしい成果が見られなくなりつつあります。このような状態では、アニメ化作品ばかりを持ち上げてそれ以外の雑誌の連載作品がさらにおざなりになる心配もあり、決していい状態とは言えないでしょう。アニメ化するような人気作品だけでなく、雑誌の中堅以下の連載の底上げ、とりわけ新人による有望な新規連載がどの雑誌でも待たれます。

 唯一、最初から期待できるのが、昨年10月に解説されたウェブ雑誌「ガンガンONLINE」で、その活況ぶりには今年も注目が集まります。衛藤ヒロユキ・小島あきらの両人気作家の連載が好調で、これを機に再度盛り上がってほしいものです。4コママンガの良作も多く、新人の登用も重視しているようなので、ここからさらに優れた作品が登場するかもしれません。さらには、マンガだけでなく掲載小説の出来もいいため、ここからライトノベル方面での躍進も期待したいと思います。

 以下、各雑誌ごとの展望を見ていきます。


<少年ガンガン>
 前年のガンガンは、様々なタイプの新連載を投入してきましたが、成功した作品は多くありません。まず、生え抜きの新人が手がける二大新連載「トライピース」「ストレイキーズ」の双方が芳しくなく、後者はすでに打ち切りとなりました。また、この年は外部(スクエニ他誌も含む)からのベテラン作家の起用が妙に目立ったのですが、これもいまいち奮わず、唯一「マンガ家さんとアシスタントさんと」(ヒロユキ)が優れた4コママンガになっている程度です。さらには、土塚理弘「マテリアル・パズル」の新展開が目立ち、外伝的な作品が複数掲載されました。しかし、これも今のところはさほどでもないような気がします。

 その後、年末からの新連載もあまり期待できそうもありません。「RUN day BURST」(長田悠幸)は、元はマガジンの連載作家の起用らしいのですが、典型的な少年マンガを強調したような作風で、完成度はそこそこ高いものの、果たして今受け入れられるかはなはだ疑問です。さらには、これはガンガンONLNEからの派生として、あの京都太秦ご当地萌えキャラのコミック化作品「からす天狗うじゅ リアルワールド天狗帖」が開始。しかし、これも今のところは極めて質の低い萌えマンガに陥っており、決して有望だとは思えません。

 これ以外の2009年の新連載はまだ未知数ですが、この2008年のような新連載路線を採り続ける限り、あまり期待できないように思えます。特に、このところ目立つ外部からのベテラン作家の起用ラッシュは、従来のガンガンの(あるいはスクエニの)路線とは一線を画するもので、安直に実力派作家を登用して安易な成果を望んでいるようで、これがいい結果を生む確率は低いように思われます。生え抜きの新人の作家の個性を伸ばす形で、丁寧に育成して連載させる方針こそが、今求められるのではないでしょうか。

 そんな連載陣全体があまり奮わない中、結局のところ2009年も、一部の人気作品、とりわけアニメ化された「ソウルイーター」や「屍姫」「とある魔術の禁書目録」、そしてなんと言っても春からの再アニメ化が決定している「鋼の錬金術師」に依存した誌面構成になるのではないでしょうか。最近では、またしてもスクエニの人気ゲーム関連の記事も増えつつあり、こういった一部の人気コンテンツに頼ったガンガンの雑誌運営は、今後もまだまだ続きそうです。


<ガンガンパワード>
 ガンガンパワードは、ここ一年ほど大きな動きがなく、2009年もその傾向が続きそうです。2006年に新装リニューアルした際には、大量の新連載が投入され誌面は一気に様変わりしたのですが、一度動き始めてからは目立った変化に乏しく、そのまま停滞してしまったようです。その点では、スクエニの他の雑誌とあまり変わりません。

 しかし、この雑誌の場合、定番となっている連載がどれも良質のものばかりで、誌面が安定している点がひどく評価できます。そして、そんな連載陣が揃ってまだまだ続きそうで、2009年も安定した雑誌になりそうです。新連載が少ないのはやはり不安なのですが、その数少ない新連載もほぼすべて良作なので、やはり安心して見ていられます。
 数少ない変化としては、このところさらにPCのノベルゲームへの依存が強まったことが挙げられます。前年以前から実質的な看板作品だった「ひぐらしのなく頃に」、ひぐらしと同じ制作者による新シリーズ「うみなこのなく頃に」、そしてこれらのゲームと極めて近いイメージを持つ「コープスパーテティー Blood Covered」 と、これらの作品がすべて大きな扱いを受けており、雑誌の中心的な存在となっています。外部からのコミカライズ作品にそこまで頼るのは、やや違和感が残りますが、それでもこれらの作品もすべて良作となっているので、悪いわけではありません。スクエニの中でも最もマイナーな雑誌ということで、ある程度話題作に頼るのは仕方ないのかもしれません。個人的には、これも同じ外部からのコミカライズ作品で、エンターブレインのライトノベルのコミック化「”文学少女”と死にたがりの道化」にも期待したいところです。

 さらに、この雑誌は、スクエニでは唯一純粋な意味でのアニメ化作品は予定されていません。しかし、「うみなこのなく頃に」の原作ゲームのアニメ化が既に決まっており、2009年はこれを話題の中心に置いて雑誌の運営をすることになるのでしょう。できれば、スクエニからのオリジナル作品からも、雑誌の表に出る話題作が登場してほしいものです。そして、いくら安定していると言っても、やはりそろそろ雑誌に新機軸をもたらすような新連載がほしいところです。


<ヤングガンガン>
 ヤングガンガンは、相変わらずスクエニで最も健闘を続ける雑誌であることは間違いありません。2009年にも、すでに「黒神」と「咲 -saki-」の2本のアニメ化が決まっており、しかもどちらもかなりの人気作品ということで、やはり話題の中心となりそうです。前年の「BAMBOO BLADE」「セキレイ」「天体戦士サンレッド」からアニメ化の波が途切れないで来ているため、雑誌読者の盛り上がりにもかなりのものが感じられます。

 しかし、ここまでアニメ化で盛況である一方、やはりここ最近の新規作品の成果の乏しさが気になります。しかも、ここ最近、極めて男性向け青年誌的というか、要するにエロと萌え全開の新連載や読み切りが増え、同じく濃いイメージの残虐系バイオレンス描写に満ちた作品もさらに増えてきました。これらは、創刊当初からの一貫した方針とは言え、決して優れた路線とは思えません。特に、エロ萌え系のマンガには質の低いおざなりな作品が多いようで、これでは読者の支持を得るのは難しいのではないでしょうか。相変わらず実写のグラビアをやめる気配もありませんし、ありきたりな青年誌路線を辿っているようでちょっと心配です。

 特に、ここ最近の新連載にそういったものが多いのが気になります。「うらさい」(しろがね杏・柚弦)や「僕のアンドロイド」(瀬口たかひろ)などは、露骨なまでのストレートなエロ路線で、まず成功しそうにありません。それ以外の新連載では、池上永一の小説が原作の「レキオス」(池上永一・前嶋重機)、外部から脚本家を招いた新撰組もの「アサギ」(山村竜也・蜷川ヤエコ)などは、原作・作画双方で実力派の作家を用意しているようで、期待できるかもしれませんが、ヤングガンガンならではのオリジナル要素には乏しく、人気を得られるかどうかは未知数です。生え抜きの新人による新連載では、高校の生徒会のちょっと妙な日常を描く「んぐるわ会報」(高尾じんぐ)が期待できるかもしれません。

 あとは、渋めで売れ線とは言えない作品ながら、このところ大いに盛り上がっている「FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE」には期待せずにはおられません。メディアミックスには期待できないタイプの作品ながら、その実素晴らしい完成度を持つ影のトップクラスの作品として、雑誌内で良作を描き続けてほしいと思います。

 しかし、この雑誌も、結局のところアニメ化作品中心の誌面構成になることは間違いないでしょう。前述の「黒神」と「咲 -saki-」以外にも、まだまだアニメ化候補となる人気作品のストックがあり、しかもこのところのスクエニのアニメ化連発路線からして、ひょっとすると第3、第4のさらなるアニメ化作品まで登場するかもしれません。


*続きは後編でどうぞ。こちらです。


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