<エニックス系サイトの昔と今(後編)>

2006・9・19

*前編記事はこちらです。

 前編で書いたとおり、かつての、2000年頃までのエニックス系サイトは隆盛を極めており、充実した良質のサイトが多く、かつサイト間での横のつながりも強く、強固なコミュニティを形成していました。しかし、そんな楽しかったネット空間は、2001年頃を境に一気に瓦解していきます。その理由は何か。

 まず、最も大きな理由が、エニックス系雑誌自体の混乱にあることは間違いないでしょう。
 具体的には、2000年中期以降、ガンガンの編集部が急激な改革路線を取るようになり、その急激な変化に反発したエニックス系サイトのファン読者たちが、エニックスに対する熱を失っていき、次第にエニックスから離れていくようになるのです。そして、2001年の後期には、あの「エニックスお家騒動(ブレイド組の離脱騒動」が巻き起こり、これが完全に致命傷となります。まだ残っていた旧来の読者たちも、そのほとんどが一気に離れていってしまい、これを期に完全にエニックス系サイト群は瓦解してしまいます。

 ここで重要なのは、お家騒動でいきなり瓦解したのではなく、それ以前にガンガンが路線を変更した頃から、すでに多くの読者が離れつつあったことです。あの路線変更に対しては、読者の方の反応が非常に敏感で、誌面が逐一変わっていくたびに、多くの読者が戸惑い、そのまま離れていく読者がどんどん増えていきました。
 まず、最初の契機だったのが、まぎれもなく「TWIN SIGNAL」と「刻の大地」のGファンタジー移籍です。これは多くの読者に凄まじい衝撃を与え、これでガンガン、エニックスから離れていった読者は数知れません。同時期に、(路線変更ではなく、作者個人の事情ですが)「まもって守護月天!」が連載中断したことも大きく、ここでファン層が一気に揺らいでいきます。
 そして、次の契機が、2000年後期に始まった大幅な誌面改革です。今までとは明らかに異なる、露骨に低年齢向け、もしくはメジャー誌を意識した平凡なマンガの連載が増え、巻頭ではこれまた露骨に子供向けのゲーム紹介記事が何十ページも続くさまを見て、一気にガンガンに興味を失った読者も、これまた計り知れない数でした。この当時のネットをリアルタイムで巡回していたわたしは、大いに動揺しつつガンガンから離れていった読者の姿を幾度と無く見ています。

 そして、その後2001年になっての、お家騒動による作家の大量離脱が、まさに決定的な出来事でした。これでほとんどの読者は完全に失望し、旧来のネット上のファンサイト も、そのほとんどが形を失ってしまいます。あるサイトは完全に閉鎖し、あるサイトはエニックス系の扱いを縮小、もしくは完全に撤退して別ジャンルのサイトになるなど、どれももとの姿をとどめなくなります。ファンサイト同士でのコミュニティを保つことも不可能になりました。おそらく、この時期を境に、旧来のサイトの7割以上がなくなってしまったと思われます。旧来のファンサイトは完全に終焉したと見てよいでしょう。

 そして、この時期以降、もはや二度とこのようなサイトが復活することはなかったわけですが、これには大きく理由がふたつあります。
 ひとつは、まずエニックスの作品自体に、ファンサイトをわざわざ作るほどの魅力がなくなったこと。中心雑誌のガンガン系が特に顕著で、それ以外の雑誌も、騒動で大幅にクオリティが低下してしまい、あえてそんな作品のサイトを作ろうという人も少なくなってしまいました。旧エニックスの作品がブレイド、もしくはもうひとつの離脱組であるゼロサムに抜け、規模が広がりすぎてしまったのも大きい。ここまで規模が広がりすぎると、そのすべてを網羅しようというファンも少なくなり、コミュニティを創り出すのも難しくなりました。

 そしてもうひとつ、さらなる大きな理由として、インターネット自体の変化(劣化?)も大きいと思われます。実は、コミック系のサイトのみならず、インターネット全体が時代と共に大きく変化しており、それに伴い、「本格的なファンサイトを作ること自体が、もはや流行らなくなった」と思われるのです。

 まず、最初の大きな変化として、2ちゃんねるに代表される、匿名式大型掲示板の隆盛があります。このような掲示板に、大量の人が集まるようになり、その分一般のサイトの作成、あるいは閲覧に関わる比率が、少なからず減少したと思われます。これらは、厳密には「マルチスレッド式匿名掲示板」とでも表記すべきタイプの掲示板サイトですが、これらに該当するものとして、2ちゃんねるの他にヤフー掲示板やthebbs等もあり、特定のジャンルに絞られた小規模の掲示板も含めれば、さらに相当な数にのぼります。これらのタイプの掲示板は、非常に中毒性が高くはまりやすいもので、これらの台頭によって、一般のサイトからかなりの人が奪われた可能性は大いにあるでしょう。
 もともと、インターネットの黎明期である96〜98年ごろには、このような大型掲示板サイトは一般的ではありませんでした。一応、97年8月に「あめぞう」という掲示板サイト(これがマルチスレッド型掲示板の元祖らしい)が開設され、一年後の98年8月にはヤフー掲示板も開設されますが、どちらも初期の頃はさほど注目を集めていませんでした。当時は掲示板と言えば、それはほとんどの場合個々のサイトに付属する掲示板のことを指し、つまり純粋に個人(あるいは企業)のサイト内での掲示板利用が主流だったのです。この状態ならば、インターネットを楽しもうとすれば、個人サイトを自分で作るか、あるいは他人のサイトを閲覧するしかなかったわけで、その分個人サイトの存在比率が今よりも高かったと言えるのです。実は、エニックス系サイトにおいても、本格的なファンサイトのほとんどは、この97〜98年ごろの、極めて初期の頃に開設されています。

 それと、この手の匿名掲示板の特徴として、特殊な偏った意見が出やすいという悪しき特徴があります。そして、そのような特殊な意見が、匿名掲示板のみならず、その周囲に広まっていきました。これが、実はエニックス系のサイトにとっては、かなりの悪影響をもたらしたのです。特に2ちゃんねるの影響が非常に大きく、2ちゃんねるからネタを拾って記事を書く周辺のテキストサイトまで広がっていきます。これは今でも続いており、わたしはこのような、2ちゃんねるとその周囲にあるテキストサイト、ブログの集団のことを、まとめて特定サイト(もしくは、特定ネット)と呼んでいるのですが、これらのサイトで見られる風潮が、エニックス系サイトにもたらした悪影響も計り知れないものがあります。2000年以降、2ちゃんねるの隆盛の時代において、旧来のエニックス系サイトが衰えていったのも、あながち偶然ではありません。(というか、そもそも衰退の主原因となったガンガンの路線変更も、これらの特定サイトからの影響があったのではないか、と推察される)。

 そして、もうひとつ、これは比較的最近の現象ですが、ブログの圧倒的な流行があります。このブログの存在がもたらした影響は非常に大きく、匿名掲示板の影響をもはるかに上回るものがあります。
 このブログという一連の個人サイトは、従来の個人サイトと異なる点がいくつもあります。具体的には、サイトを作る敷居が非常に低くなり、誰でも好きに開設できるようになったこと(サイト作成のための知識や技術、事前の作業がまったく必要ない)。そしてもうひとつが、極端に「即興性」と「更新頻度」に内容が偏っていることです。
 そもそも、個人でサイトを作ろうとすれば、事前にそれなりの知識と技術は必要になります。それでも、他のコンピュータ技術に比べれば難しくなく、たとえhtmlを自前で打ち込んで作ったとしても簡単なほうであり、ホームページ作成ソフトを使えばさらに簡単になる程度のものなのですが、「その程度」でも一般の人々にはかなり高い敷居となるのです。その敷居をとっぱらって、誰でもサイトを作れるようにしたことは大きい。それともうひとつ、普通のサイトを作ろうとすれば、誰しもその「内容(コンテンツ)」を考えなければなりません。いかにしてコンテンツを揃え、サイトを形にするかを真剣に考える必要があります。しかし、ブログにはその必要すらありません。基本が日記形式なので、適当に文章を書くだけでも、サイトとして成立してしまえるわけです。
 そして、このようなブログの流行によって、インターネットサイト全体の質が一気に「低下」しました。上昇したのではない。低下したのです。本来ならば、サイトとして成立しないような粗雑な内容しか持たなくても、ブログとしては成立するわけです。

 そしてもうひとつ、ブログというものは、とにかく即興的な面白さと、更新頻度ばかりが優先されます。基本が日記形式なので、多くの人は過去に沈んだ古びた記事まで参照しようとしません。常に新しい面白さを求める。そして、そのために更新頻度が高ければ高いほど、ブログの人気が高くなります。いかに面白い記事を、高い更新頻度で提供するかが最重要視されるようになったのです。
 こういったブログの性質からして、本格的な構成のサイトを作ることは難しくなります。即興的に気軽に記事を書くことには向いているんですが、反面、体系的に構築された本格的なサイトを作ることは難しい。というか、まず出来ない。そういったサイトの作成ならば、ブログを使わない方がよいでしょう。

 そして、このようなブログの隆盛によって、本格的に特定の作品を扱うようなサイトは、減ってしまったと考えられます。今では、なにか特定の作品名をヤフーあたりで検索すれば、まずほとんどの場合ブログにばかりヒットします。これは。ブログそのものが圧倒的に広まっていることに加えて、ブログの方が検索にヒットしやすい(アクセス数を稼ぎやすい)ことも原因です。アクセス数を稼ぎやすいために、人気のあるブログはさらに多くのアクセスを稼ぎ、ブログはさらに隆盛を極めていきます。
 わたしは、かつてのエニックスサイトが瓦解した原因を、「エニックス雑誌自体の混乱」にあると書きました。それはそれでまぎれもなく事実なのですが、では、今の時代に、かつての混乱以前のエニックスがあったらどうでしょうか。かつてと同じように、熱心な本格的ファンサイトが作られるか? そうはならないでしょう。ほとんどみんなブログを作っているはずです。そして、ネットを閲覧する方の読者も、作品名を検索してブログにばかりヒットすれば、まずブログを優先的に訪問するでしょう。そして、一旦ブログにアクセスすれば、そこからトラックバックでさらにブログばかりを巡回することも多いはずです。つまり、今の時代には、もうかつてのように本格的なファンサイトを作ることも、見ることも、もう流行らなくなっているのです。

 かつての熱心なエニックス系ファンサイトの多くは、インターネットでも黎明期、97年〜98年ごろに作られている、と書きました。この当時は、ブログのような便利なものはないですし、インターネット環境自体も非常に貧弱なものでした(ナローバンドでテレホーダイの時代です)。ホームページの作成支援も今ほど広まっておらず、多くの人が手動でhtmlを打ち込んで作っていたのではないかと思われます。このような状態で、なおも自前のファンサイトを作ろうとすれば、それ相応の熱意が必要になります。もちろん、「とりあえず作ってみよう」という程度の人もいくらでもいたのですが、それらのサイトは、まもなく作成に頓挫してしまい、早期に閉鎖されてしまいます。そして、結果として残るのは、相応の熱意を持って作られた、本格的な内容のあるサイトということになります。そして、そんなサイトに熱心なファンが集まる。匿名掲示板もブログもない時代だからこそ見られた現象です。
 しかし、今の時代は、もはやまったく状況が異なります。今は、まず大規模な掲示板サイトがありますし、なによりも無数のブログがあって相互に繋がっています。誰もが、頻繁に面白い書き込みが見られる大型掲示板や、更新頻度が圧倒的に高く面白い記事を提供し続けるブログの方に、ついつい惹かれてしまうのもやむなしでしょう。このようなインターネット環境においては、かつてのような本格サイトが作られ、あるいは人気を得ることは少なくなったと思われるのです。


 わたしは、このような今のネットの変化を、反対の意見を覚悟して、あえて「劣化」と言わせてもらいたいところです。そりゃ確かに掲示板やブログを巡るのは面白い(オモシロイ)ですよ。誰もがブログで気軽に情報発信できるようになったメリットももちろんあります。しかし、それ以上に、劣化したところの方が大きいのではないか。
 まず、匿名掲示板はよくない。勝手な書き込みばかりが出て、それも特定の方向に意見が偏ることも多く、まともな内容がまるで期待できない。「いい掲示板もある、いい書き込みもある」という反論が聞こえてきそうですが、それ以上にまるで内容のないところが圧倒的に多く、全体的なレベルが極めて低い状態である以上、安易な評価は出来ないでしょう。
 そして、それ以上にブログの劣化が顕著です。ブログが出来るようになって、多くの人が、かつてのテキスト系ニュースサイトの真似事をするようになりました。ネットを巡回して面白そうなニュースを集めてリンクを張りまくり、それに適当な一行適度のコメントを付けるだけのサイト(ブログ)がどれだけ多くなったことか。情報の量と速度だけは増えたが、本格的な内容には本当に乏しくなったな、と思うのです。


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