<コミックギア研究(1)>

2009・9・8

*コミックギア研究(2)はこちらです。


 先日8月11日に発売されて以来、いや発売前からいろいろと物議を醸している「コミックギア」ですが、色々とネット上での意見も出てきたところで、ここでもう少し本格的に考えるページを作ってみることにしました。これまでも、サイトの日記でいろいろと書いてきましたが、あれはたぶんにネタ的な要素も含んでいたため(笑)、今回はより真剣に考える場にしてみようと思います。


・コミックギアの問題点について。
 多くの読者がこの雑誌の欠点として挙げているのは、

1.連載マンガの作風があまりにも似かより過ぎている。
2.連載マンガの面白さ自体も低い。単純に面白くない。

の2点にあると思います。そして、その理由として挙げられているのが、

1.企画の主催者であるヒロユキに近い人脈の作家ばかりが集まっていて、作風がそもそも似ている。
2.共同作業の過程で影響を与え合い、さらに作風が似てしまった可能性がある。
3.作家同士のチェックが中心で、マンガの問題点、つまらなさに対する指摘がうまくいっていない。

あたりではないでしょうか。これに対して、まずはこのコミックギアの成立過程から問題点を探っていきたいと思います。


・そもそも作家の集め方(集まり方)に問題があったのではないか。
 コミックギアという雑誌の存在が告知されたのは、確か6月の中旬あたりだったと思いますが、それまでは関係者以外はこの雑誌のことを知りませんでした。その後、ネットの公式サイト上で作家の募集をかけるページが見られるようになるのですが(作家募集)、しかし、この時点で創刊号で掲載される作家たちはもうずっと前から集まっていたようなのです。つまり、今のギアの連載陣は、広く日本全国に募集をかけて集まったわけではなく、最初からある程度知っている、つながりのある作家たちが集まったということになります。

 具体的には、まずコミックギアのブログの記述によると、「作家陣に身内の人が多いのでは」という読者からの指摘に対して、この雑誌制作の中心的な存在であるヒロユキ氏が「この作家陣9名の中に、以前からの僕の知り合いの作家さんは3人しかおりません。」と答えています。しかし、当のヒロユキを含めて9名しかいない作家の中に、3人も知り合いがいるという時点で、まず相当多いのではないでしょうか。9名中4名がすでに知り合い同士だったわけです。加えて、残りの5名に関しても、まだ広く告知をかけていない段階で集まっているわけですから、当然なんらかのつながりのある作家、なにかのきっかけでヒロユキ氏やその周辺人物と交流のあった作家、ではないかと考えられます。

 このような作家の集まり方では、やはり最初から作風の似た作家が集まる可能性が高いと言えるでしょう。例えば、インターネットで活動をしているイラストレーターや創作作家のサイトでも、そこのリンク集を見ると、同じような趣味、同じような作風を好む人のサイトが多数集まってつながりを形成しています。同じ趣味を持つ人同士が、必然と集まってくるものなのです。コミックギアの初期の作家の集め方に関しても、同じようなことが起こったのではないか。まったく知らない作家、自分たちとはまったく異なる作風の作家が、告知もかけないのに集まってくるとは考えにくい。つまり、最初期の雑誌の立ち上げ時から、すでに作家の招集方法に問題があったと言えます。

 これが、もし「新しい雑誌を作ろう」と考えたそのときから、真っ先に全国に告知をかけたとしたら、まったく違った展開になったのではないか。「東京都練馬区にある制作スタジオに通える方」という条件はありますが、それでも行ってみようと考えた作家はもっといたかもしれない。そうして雑誌を制作して第一号の発売に漕ぎ着けるべきではなかっか。

 逆に言えば、今になってようやく作家募集をかけたわけですから、まだこれからいろんな作家が集まってくる可能性はあります。第一号の連載陣は9名とかなり少なめでしたが、いくらなんでもこれからずっと9名でやっていくわけではないでしょうし、新規作家を取り入れもっと連載本数を増やす方向へと向かうはずです。そうして、いろんな新規作家が集まって連載を始めるようになった時、初めてこの雑誌の真価が問われるのではないでしょうか。その点で、この雑誌には今後の展開に期待したいと思います。


・編集者のチェックは存在しているようですが・・・。
 そしてもうひとつ、このコミックギアについては、「作家同士が原稿のチェックを行い、編集者が存在しない」と言われていました。しかし、上記ブログでの書き込みを見ると、決してそのようなことはなく、編集者が存在して原稿(ネーム)をチェックしているようです。それによると、まず作家同士がチェックを行い、それが通った後で編集者によるチェックが行われると。これならば、普通の雑誌の作り方に一行程加わっているだけで、さほど変わらないように思えます。


 (*上記のブログより画像を引用させていただきました。)


 あるいは、「まず作家同士がチェックして、その後編集者がチェックする」という、いわゆる二重チェック体制になっているとも言えます。これならば、複数のチェックを受けてより原稿(ネーム)の精度が上がり、作品のレベルの向上にもつながるとも思えるのですが、実際に登場した雑誌を見ると、どうも必ずしも成果は上がっていないようにも思えるのです。むしろ、まず作家同士のチェックの段階で、ある程度作品の方向性が定まってしまい、一度形がおおよそ出来上がってしまったものは、編集者の方でも大きく変える、完全に却下することが難しい状態に陥っているのではないかと考えています。そのために、出来上がった雑誌は、最初に作家同士の間で出来上がったコンセプトのみで固まった、あまりにも似た作風のマンガが並ぶ状態になってしまったのではないかと・・・。これから、ひとつひとつの作品の詳細を見ていくことで、そのあたりの経緯を推測してみようと思います。


・個々の作品を見てみる。
 さて、ではこれからは、コミックギア第一号に掲載された作品を、ひとつひとつ見ていくことにします。これまでのサイトの日記でも、いくつかの作品には軽く触れてみましたが、ここではより詳細に採り上げて考えてみたいと思います。(以下、タイトルの横のカッコ内は作者名)


<スーパー俺様ラブストーリー(ヒロユキ)>
 この雑誌の中心企画者であるヒロユキさんの作品で、表紙と巻頭カラーにもなっています。「ドージンワーク」などのヒット作を重ね、最も人気のある作家の作品ということで、この雑誌でも看板作品になっています。その上、初回から一挙2話、94ページの掲載となっています。

 そして、このマンガこそが、この「コミックギア」の作風を最も強く表していることは間違いないでしょう。ヒロユキ氏自身、サイトで『この「コミックギア」で特に力を入れた部分は、読みやすさと登場キャラクターの魅力です。読むことが面倒であったり、疲れたりしないマンガであること。』と書いていますが、確かにその条件は満たしているかもしれません。

 とにかく、これまでも散々言われてきたように、大ゴマの連発で中身が思った以上に薄く、94ページもありながら非常な短時間で読めてしまいます。マンガの内容自体は、これまでのヒロユキ作品とほとんど同じテイストであり、それなりに面白くもあると思いますが、しかしこのような薄い構成のために、過去の作品と比べても明らかに満足度は低くなってしまいます。とはいえ、これはわたしが過去のヒロユキ作品を知っている読者だからそう思うわけで、今までヒロユキを読んでいなかった読者には、割と面白く読めるかもしれません。
 そしてもうひとつは、過剰なまでの自信過剰で自己中心的な主人公の性格でしょう。「俺様」というタイトルどおりのキャラクターで、しかし女性に対しては想像以上にヘタレという、これまでのヒロユキ作品の男性キャラクターにもよく見られたキャラクター像です。そして、これがこのヒロユキの連載だけならまだよかったのですが、他の連載にも同じような主人公が多数見られたことで、雑誌自体の印象が非常に悪いものとなっています。

 以上、この作品に関しては、大ゴマの連発で中身が薄いという欠点は明らかですが、しかしこれが編集者のチェックを通ってしまったことは、納得できるような気がします。相手がヒロユキで大物の人気作家であること、これまで同様にそれなりの作品には仕上げていること、そのような理由から、このような過去作よりも明らかに見劣りする作品の原稿でも、チェックを通ってしまったのはないでしょうか。


<マシンガンソウル(じゅら)>
 このマンガは、先ほど述べた自信過剰な主人公が登場するというわけではないのですが、しかしこれはこれであまり印象がよくありません。

 不器用すぎて武器をろくに扱えない傭兵の主人公が、持ち前の根性だけで修行を重ね、任務でも難局を切り抜けるというストーリーなのですが、ただひたすらに根性だけで乗り切るというところに、あまりにも無理がありすぎて、どうにも作品に入り込めないのです。このような軍事ものは、ある程度リアリティが要求されるジャンルではあると思いますが、そのリアリティの点において無理がありすぎる。

 また、このマンガの主人公も、自信過剰な「俺様」主人公とはまた別の意味で抵抗があります。あまりにも卑屈すぎて、これはこれで感情移入できない。また、絵柄でもひどくねちっこいところがあり、その点でもアクが強すぎてどうにも抵抗を感じます。このマンガは、ヒロユキの絵柄によく似ていて、その影響を感じずにはいられないのですが、その絵柄の欠点とも言えるねちっこいところまで似ているのはいただけません。そのため、全体的にキャラクターの見た目に気持ち悪さを感じてしまいます。

 以上のように、このマンガも決して面白いとは言えませんが、それでも編集者のチェックを通ってしまったのは、ある程度勢いだけで読めてしまえるからでしょうか。実はこのコミックギアのマンガ、致命的に読めない、形を成していないマンガというものはほとんどなく、ある程度は完成してはいるのです。特に絵柄に関してはかなり安定したレベルに達しており、このマンガも(ヒロユキの絵柄に似ているとはいえ)例外ではありません。そのあたりは作家同士のチェックの成果なのかもしれませんが、それ以上に突っ込んだ「作品の面白さ」という点では、大きく見劣りしてしまうのです。


<大魔王ザキ!!(若林稔弥)>
 前から三番目に載っていたこのマンガこそが、コミックギア最大の問題作だと言えるでしょう。

 いわゆるファンタジーもので、老魔法使いの弟子であるザキという少年が活躍するという物語のはずですが、このザキの人格が最悪で、師匠を殺して自分が世界を征服しようと旅に出ようとして、あらゆる方法で師匠を倒そうとします。このような主人公の行動はあまりにも問題がありすぎて、まずほとんどの読者は受け入れないと思います。

 悪い主人公、いわゆるダーティーヒーローのような存在はいろいろな作品で見られますが、このマンガの場合、主人公の明らかに悪い行為を、ほぼ完全に認めているところがよろしくありません。弟子が自分の師匠を倒してその存在を乗り越えていく、というストーリーはよく見られますが、このマンガにはそのような高尚なところは一切無く、単に主人公の性格の悪さが際立ちます。

 このマンガに関しては、そもそも面白い面白くない以前の問題で、このような道徳的に問題のあるキャラクターの行動を、完全に肯定するような作品作りを認めるべきではないでしょう。何度も言いますが、面白い面白くない以前の問題だと思います。このマンガが、作家同士と編集者との二重チェックを通った理由はまさに謎であり、なぜこれが編集者のチェックまで通ってしまったのか本当に不思議です。普通ならば編集者が止めるべきではないでしょうか。
 理由をあえて考えるに、やはりこのような「自信過剰の大胆な主人公」「読みやすい派手な展開」という雑誌のコンセプトが最初から決まっていて、もうそのような作品作りが「暗黙の了解」になっていたのではないか。「このようなコンセプトの雑誌だから」という理由で通った可能性が高いのではないでしょうか。


<ゴーストラッシュ(ユーゴ)>
 今挙げた「ザキ!!」ほどではないですが、このマンガもまたひどく抵抗が強いものとなっています。

 主人公が潔癖症の退魔師で、汚らしいゴーストたちを過剰なまでに潔癖な態度で倒していくというストーリーなのですが、これもいわゆる自信過剰の俺様主人公を地で行くところがあり、やはりいい印象のキャラクターではありません。しかも、ゴーストたちが人間を襲って多数の人間が殺されているのを見ても、汚い奴らはうんざりだといってまったく助けようともしません。「大魔王ザキ!!」の主人公のように、自分から悪事を成すわけではないので、まだこちらの方がましとも言えますが、しかしこれも決していい主人公像ではなく、相当多数の読者が抵抗を感じるのではないでしょうか。登場キャラクターの個性付けが明らかにおかしな方向に向かっていて、これで「キャラクターの魅力」が出せているのかは疑問です。

 最後になって、ゴーストに汚い唾を吐かれたことに腹を立て、凄まじい力を発揮して一気にゴーストを殲滅させるのですが、今まで見せた性格が性格だけに、これが非常に軽い描写となっており、読者の方はあまり盛り上がることが出来ません。いくらなんでも展開が極端すぎますし、最後の最後で決めゼリフを吐くところだけは悪くないと思いましたが、最後だけきれいに締められても違和感が残ります。

 このマンガも、本来チェックを通るべきではないと思いますが、それでも通ってしまったのは、まずやはり絵柄においては安定したレベルに達していること。これもある程度ヒロユキ的な絵柄とはいえ、アクションシーンを含めてよく描けています。そして、内容でも、とりあえず「読みやすい」「難しいことを考えずに読める」という雑誌のコンセプトには合っていたことで、やはり暗黙の了解のような形で通ってしまったのではないでしょうか。


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 このように、どの作品ひとつとっても明確な欠点が目に付き、ほとんどの読者にとって、明らかに面白いとは言えない作品になっていると思います。読者から見れば明らかに面白くないと分かる作品が、なぜ作家と編集者の二重チェックを通ってしまったのか。それは、おそらくはこれまでも見てきたとおり、「読みやすさと登場キャラクターの魅力。読むことが面倒であったり、疲れたりしないマンガ」という雑誌のコンセプト、それがまず作品の前提条件として強固に存在しており、誰もその成否について疑問を持ち得なかったからではないでしょうか。「こういう雑誌だから」という暗黙の了解の下で、「それが果たして本当に面白いのかどうか」という、当然出てくるはずの疑問が、出てこなかったのではないか。誰もがそれを当たり前に思っていたのか、それとも誰か疑問に思っているものはいたが、場の空気を察してあえて発言できなかったのかは分かりませんが、最終チェックを行う編集者までが、もしそのような心境に達していたとすれば、それがこのコミックギアという企画の最大の落とし穴だったと言えるでしょう。

 以下、コミックギア研究(2)で残りの5作品について記述していきます。


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