<コミックギア研究(2)>

2009・9・9

 コミックギア研究(1)はこちらです。


 では、ここから残りの5連載作品について記述していきます。

<Good Game(友吉)>
 雑誌の初めから4つまでがまったく芳しくなかったのですが、ここに来てようやく楽しめる作品が来ます。
 このマンガも、最初のうちは、自信過剰な主人公の無遠慮な態度と、そしてヒロユキ作品によく似た絵柄とで、これまでのマンガとあまり印象が変わらないのですが、しかし読み進めていくと意外にもぐっと面白い展開を迎え、主人公の姿勢にも見るべきところが出てきて、一気に読める作品になっていきます。

 このマンガの面白い点は、まず「eスポーツ」という新鮮で興味深いテーマを採り上げていること、そして、今述べたように、ストーリーの展開でもひきつけられるものがあり、今後続きを読んでみたいと純粋に思えたからです。
 まず、「eスポーツ」(コンピュータゲームを使用したスポーツ競技)を扱った点。日本ではほとんど知られていないが海外では非常に盛んという点、そしてゲームというとっつきやすいモチーフということで、多くの読者にとって興味を引く題材になっていると思えます。作中での紹介の仕方も適切で、分かりやすく興味の持てる内容になっています。

 そして、その「eスポーツ」のゲームに初めて取り組むことになる、主人公の態度にも見るべきところがあります。この主人公、ゲームに関しては天才肌で、ほとんど努力もせずに格闘ゲームの大会で何度も優勝する強豪で、態度もあまりに自信過剰で初見の印象はよくありません。しかし、eスポーツの日本チャンピオンのヒロインに完膚なきまでに負け、彼女にeスポーツという競技の存在を知らされることで、意外にも柔軟な態度を取るようになります。eスポーツの競技者たちの強さを目の当たりにして、さらにはeスポーツで使われるゲームに試しに挑戦し、優れた対応能力でCPU相手に勝利を収めますが、しかしそれでも「このゲームは奥が深い、他の競技者たちにはまだ勝てないだろう」と自分の実力を的確に推し量るだけの慎重さを見せます。マンガ冒頭の自信過剰で俺様的な態度が嘘のような変わりようで(笑)、このあたりから一気に読めるようになってくるのです。

 逆に、マンガの序盤の頃は、他の連載マンガとあまり印象が変わらないため、読み始めで読者を引き付ける力が弱いと思えるのが、ちょっとした改善点でしょうか。雑誌の始めから似たようなマンガを読んできて、このマンガもまた同じようなものだろう、と思ってしまう可能性があります。確かに、序盤の展開がちょっと弱いところがあり(主人公がeスポーツに取り組み始める頃から急速に面白くなる)、もう少し早めにeスポーツの世界に入っていく展開の方がもっとよかったかもしれません。しかし、それでもこのマンガは、この雑誌では数少ない普通に楽しめる作品になっていると思います。


<ヒヨコと道化と不思議の町と(とりねこ。)>
 「Good Game」に引き続き、これもかなりいい作品です。おそらくは、この雑誌の中で最も有望な作品ではないでしょうか?

 このマンガに関しては、まず何よりも、他の連載とはまったくイメージが異なることを最大の利点に挙げたいと思います。絵柄もストーリーの方向性もまったく異なりますし、主人公も素直な女の子で、自信過剰な俺様主人公ではなく(笑)、非常に好感が持てます。他のマンガがマンガなだけに、これだけでも作品への印象は非常に良好です。

 絵柄については、この作家のみヒロユキ的な絵の影響をまったく受けていないと思われます。ヒロユキのキャラクターの描き方の特徴として、「顔のあごが尖っている」傾向があるのですが、このとりねこ。さんの絵は、総じてまるい顔の造形になっていて、まるで絵の描き方が違うことがよく分かります。なぜこの作家だけここまで絵が異なるのかは不思議なところですが、本来の雑誌ならばこのような作家ごとの個性がもっとあっていいはずなのです。

 肝心の内容ですが、異世界ファンタジーものとなっていて、ヒヨコという女の子(主人公)が、母の友人に会うために不思議な町を訪ねてくるというストーリーになっています。そして、この不思議な町を構成する凝った仕掛けの数々や、個性的な町の住人たちとの交流、そして高台に上ったときの素晴らしい眺望など、「世界を見せる」ことに大きな重点が置かれているようで、しかもうまく成功して魅力的な世界観を作り出せているように思えます。大ゴマの使い方も、このマンガに関しては違和感がなく、不思議な町の光景の見事さを自然な形で表現していて、ここでも好感が持てます。大ゴマを本当に効果的に使っているのはこの作品だけでしょう。

 反面、1話だけだとややストーリーの押しに弱いようにも思えますが、それでも十分及第点を与えられるのは間違いないところで、今後の展開にも期待が持てます。また、このマンガだけは、他の雑誌、例えばきららフォワードあたりに載っていても違和感がなさそうです。むしろ、この中性的な作風は、ギアよりもそのような雑誌の方にこそ合っているような気もします。他のマンガのほとんどは、おそらくはこの雑誌以外に載る場所があるのかと疑問を感じずにはいられませんが、このマンガだけは他でも通用するのではないかと思いました。


<デスハート(佐藤ユーキ)>
 「Good Game」「ヒヨコと道化と不思議の町と」とかなりの良作が続いてきましたが、その次に掲載されているこのマンガはまったくいただけません。このマンガに関しては、この雑誌のコンセプト以前の話で、単純にまったく面白くない作品となっています。

 失恋するたびに心臓が強烈に痛む症状に苦しむ主人公が、幼馴染との新たな恋に目覚め、しかし最後にはふられて死ぬほどの痛みを味わうという、あまりにもありがちで誰でも先が読めるような平凡なストーリーになっています。ほとんどの読者が、このマンガの最初のあたりを読んだだけで、それ以降の展開をなかば予測できてしまうのではないでしょうか。それほどまでにありきたりで面白みに欠ける作品になってしまっているのです。

 しかも、絵柄についてもヒロユキの影響が非常に強く、しかもヒロユキの絵の欠点であるねちっこさを露骨に踏襲している点が、あまりに悪いイメージとなっています。見た目の気持ち悪さではこのマンガが最も上でしょう。特に、主人公の大学生の男の姿が、ひどくねちっこく気持ち悪いものとなっていて、一見しただけでも相当な抵抗を感じるのではないでしょうか。そのような気持ち悪い姿のキャラクターが、大ゴマの連発でこれでもかと何度も大写しになるのだから、読者としてはたまったものではありません(笑)。

 このマンガも、どう考えても編集者のチェックを通るべきではないと思いますが、それでもあえて通った理由を考えると、やはり雑誌のコンセプトである「読みやすさ」でしょうか。それなりに絵もストーリーも形は成していて、雑誌のコンセプトに合っているということで、すなわち「こういう作品を載せる雑誌だから」という理由で、さほどの疑問もなく通ってしまったのではないか。作品の大枠が雑誌のコンセプトで既に決まっていて、それに誰も(編集者でさえ)疑問を挟まなかったとしか思えないのです。


<アシュラ(櫻井マコト)>
 「デスハート」もまったく見所のないマンガでしたが、この「アシュラ」はそれよりもさらに下回ります。おそらく、単純なつまらなさだけで見るならば、これがこの雑誌の中で一番でしょう。他のマンガのように、自信過剰な主人公が出てくるわけではなく、絵的にも極端にヒロユキに似てはいないのですが、単純にマンガとしてまったく面白くないのですから、やはりこれも評価できません。これもまた雑誌のコンセプト以前の問題と言えます。

 どのような内容かというと、母親に無理矢理盗賊団のボスにされたアシュラという気弱な少女が、なぜか豪胆なボスとして周囲の部下に祭り上げられ、引くに引けなくなって豪快な言動を取りまくり、さらに泥沼に陥っていくというような話です。どう見てもあの「デトロイト・メタル・シティ」の二番煎じとしか思えないような内容で、まったくもって新鮮味に欠けます。「デトロイト・メタル・シティ」と同じようなコンセプトを持つ作品は、すでにいくつか見られますし、例えばガンガンで連載中の「閉ざされたネルガル」もそのひとつに入ると思いますが、こちらの方はまだひとつのギャグマンガとしてそこそこ読める面白さがあるのに対し、この「アシュラ」については、まったくもって読める工夫が感じられません。「デトロイト・メタル・シティ」という作品との比較を抜きにしても、極めて平凡で面白くないマンガにとどまっています。

 そして、このマンガもまた、なぜ二重のチェックを通ってしまったのかひどく悩んでしまうのですが、これに関してもやはり「勢いで何も考えずに読める」という雑誌の基本コンセプトを踏襲しているからではないでしょうか。加えて、絵的にも安定していて、とりあえずひとつのマンガの形にはなっている。しかし、このマンガには、それ以上の面白さがまるで感じられないのです。


<プリンセスサマナー(九品そういん)>
 雑誌の最後に掲載されているこのマンガ、ちょっと評価に困る微妙な作品になっています。

 このマンガも、自信過剰な主人公が登場するわけではなく、絵柄もヒロユキ的な絵からはかなり離れていて、前述の「ヒヨコと道化と不思議の町と」と並んで、この雑誌の中ではイメージの外れた一作品になっています。加えて、女の子が主人公である、という点も共通していて、なんとなく絵のイメージも近いものがあると思います。
 ただ、「ヒヨコ〜」の方がかなりの部分で完成されているのに対して、この「プリンセスサマナー」は、まだ絵も内容も未完成の感があり、内容の一部にきらりと光るものは見られるものの、全体的にはちょっと評価しづらいところがあるのです。

 内容は、いわゆるカードバトルもので、基本的には「遊戯王」や「マジックザギャザリング」などのカードゲームマンガそのものなのですが、キャラクターの設定に一癖あり、カードゲームで勝ちたい主人公の女の子と、わざと勝負に負けたいツンデレの女の子がカードバトルを行うという展開が面白い。わざと負けたいのに相手がヘタすぎてへまをやりすぎて負けることが出来ないという、普通の勝負とは一味違う展開に新鮮味が感じられました。
 最終的には本当に主人公が負けてしまい、帰ろうとするのですが、そこでツンデレの女の子がすんでのところで引きとめ、なんとかお友達になってほしいと告白し、晴れてふたりが友達になったところで第1話が終わっています。このマンガの続きは中々気になるところで、これなら次もちょっと読んでみたいと思いました。

 このように、中々面白いところもあるのですが、肝心のカードゲームのルールや設定、バトルの描写がありきたりすぎてまったく新鮮味がないことや、この雑誌の中では珍しく絵柄がまだ不安定なレベルにとどまっていたり、いまいち評価しづらい点も多くあるため、やはり全体的な評価は微妙です。とはいえ、このコミックギアの中では、また今後に期待できる作品にはなっているかもしれません。


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・編集者が機能しているのか本当に疑問。
 以上、すべての連載作品を挙げてみましたが、一部には確かに見所のある作品は2、3見られるものの、それ以外の作品については、あまりにも明瞭な欠点がありすぎて、どうにも評価できない作品群になってしまっています。読者から見れば明らかに問題があるマンガばかりなのですが、これがなぜ作家同士と編集者の二重チェックを、特に肝心要の編集者のチェックを通ってしまっているのか、どれひとつとっても納得できかねます。本当に編集者が機能しているのかはなはだ疑問であり、当初読者の間で言われていた「編集者がいないからこのような雑誌になってしまった」という指摘が、結局のところ当たってしまっているような気がします。
 言うなれば、「傍らに人(編集者)無きが若し」と言えるような、本人たちが提唱する偏ったコンセプトのマンガを押し通した、まさに傍若無人を地で行くようなとんでもない雑誌になってしまった気がするのです(笑)。これまでも散々述べたとおり、最初から雑誌のコンセプトが固まっていて、その基本方針に沿った作品作りを無条件に認めてしまった。そしてその空気の中に編集者までが巻き込まれてしまい、ほとんど疑問も無くチェックを通してしまったのではないでしょうか。

 今後、このような偏った作品作りを改善し、この雑誌をよくするために、一番効果的なのは、やはり新しい作家を積極的に引っ張ってくることだと思います。それも、これまでに集まってきた作家とは異なるカラーの、個性的な作家を数多く集めることで、雑誌に多彩さを生み出し、固まってしまった雑誌コンセプトをより柔軟なものに変えていき、様々な作風を認めていく。少なくとも、「読みやすさと登場キャラクターの魅力。読むことが面倒であったり、疲れたりしないマンガであること。」という方針は、より柔軟な方向へと見直した方がよさそうです。これだけでまったく変わってくると思います。

 さらには、これからは編集者にももっと的確な仕事をしてもらう必要があるでしょう。「マンガ誌の作り方を変える」という試み自体は非常に有意義だと思いますし、第一号でうまく行かなかっただけで、この企画が終わってしまうのは本当にもったいない。広く募集をかけて新規作家を積極的に採り入れていくこれからこそが、雑誌の真価が問われる時だと思います。


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