<一迅社雑誌の読者層を見る>

2008・3・15

 一迅社のサイト、その広告募集のページにおいて、各雑誌の読者の男女比、及び年齢比の円グラフが図示されています。これが、雑誌ごとの読者層の違いを顕著に表していて、大変に興味深いものとなっています。通例、このような雑誌ごとの読者層というようなものは、積極的に開示されることは少なく、あくまで推測でしか分からないケースがほとんどなので、今回のこれはかなり貴重なデータではないでしょうか。

 そこで、今回は、このデータを元に、各雑誌の読者層が実際にどうなっているのか、徹底的に検証してみました。すると、雑誌ごとになるほどとうなづける部分と、それとは逆に、外見から来る推測とは異なる部分が随所に現れ、非常に面白いものとなりました。以下、各雑誌ごとにその結果を見ていこうと思います。


・「コミックZERO-SUM(ゼロサム)」
 まず、一迅社で最初に創刊された、中心雑誌であるゼロサム。元々は、スクエニ(当時はエニックス)のGファンタジーからののれんわけで始まった雑誌と言え、2002年に創刊された直後は、元雑誌と非常に近いラインナップが特徴的でした。しかし、現在は元雑誌よりもさらに女性向けの要素が強くなり、実際に多くの読者が女性ではないかと思われていました。このデータでも、そのことは完全に裏付けられており、読者の男女比率は女性85%・男性15%と、ほぼ女性読者で占められています。

 雑誌の内容からして、この結果はほぼ妥当だと思われますが、それでも男性読者が15%いるというのは、意外と言えなくもありません。女性向けとはいえ、純粋な少女マンガ誌ではなく、元々はエニックスのGファンタジーが前身的存在であり、エニックス的な作品の方向性を受け継いだ作品も多いため、かつてからの、つまりエニックス時代近辺からの男性読者がいてもおかしくはありません。ただ、創刊して随分と時間の経った昨今では、完全に女性寄りの雑誌としてのイメージが定着し、かつ同社から男性向け雑誌とも言えるREX(後述)が創刊されてしまったため、こちらにはもうこれ以上新しい男性読者は入ってこなくなっている可能性があります。ほぼ雑誌のスタイルが固定化されてしまったと考えてもいいでしょう。

 なお、ゼロサムの増刊であるWARDですが、こちらもほとんどゼロサムと同じようなイメージの雑誌であり、他の雑誌の増刊と比べても、本誌と非常に近い作風となっています(スクエニのガンガンとパワードほどの差もない)。したがって、こちらも本誌とほぼ同じ、大きく女性中心の読者層だと思われます。

 そして、読者の年齢層なのですが、これは10代の読者が40%と最多を占めるとはいえ、一方で20歳以上が60%いて、30代以上の読者も25%(4人に1人)います。さすがにこのあたりはコアユーザー(マニア)向けの雑誌と言えるでしょう。あるいは、元々はGファンタジーから派生した雑誌で、かつ雑誌最大の看板作品が当時からの人気作品だった「最遊記」であるということで、昔からの読者もかなりの比率にのぼっているのではないでしょうか? これも、読者の年齢層を押し上げる大きな要因となっているようです。


・「コミックREX」
 ゼロサムからは大きく遅れ、2005年末に創刊された雑誌で、こちらはいわゆる少年誌的な雑誌となっています。ゼロサム、WARDが大きく女性向けに傾いたのに呼応し、男性読者をメインターゲットにした雑誌を新たに創刊する運びとなったのでしょうか。イメージとしては一般的な少年誌に近いものもあり、実際に男性読者が中心の雑誌となりました。データでも、男性85%・女性15%と、まさにゼロサムの正反対で、完全な好対照を成しています。一迅社としては当初の目論みどおりの読者層なのでしょうか?

 個人的には、予想以上に男性読者に傾いているな、と感じました。こちらは、もっと女性読者の比率が多いと考えていたんですが・・・。かつてのエニックス時代の雰囲気、方向性をある程度受け継いでいるとはいえ、より男性読者に好まれるような連載ラインナップが多く、それもマニア・オタク受けしやすい作品が多く集まったようです。まあ、「かんなぎ」や「ろりぽ」「ティンクルセイバー」あたりが雑誌の中心的人気作品で、あの東方シリーズのコミック化作品(「東方儚月抄」)が目玉として連載されているあたりを見れば、まずこの読者層は妥当かもしれません。かつてのエニックスの雑誌と比べても、雑誌の雰囲気にかなりの違いがあり、確かに女性読者にとって抵抗の強い作品が増えた雑誌になったと思えます。かつてのエニックス的な方向性とは、かなりの食い違いが見られるのです。

 これは、読者の年齢層でも言えます。10代の読者が最も多いとはいえ30%しかおらず、20歳以上が70%、それも20代の読者が大半を占めています。「少年コミック誌」という扱いにもかかわらず、呼んでいるのは大半が大人・・・。もう一体どんな読者が読んでいるのか察しが付くというものです(笑)。


・「コミック百合姫」
 この雑誌は、元々は一迅社の雑誌ではなく、他社(マガジン・マガジン)から出版され、のちに廃刊された「百合姉妹」を引き継ぐ形で、一迅社から出されることになりました。いわゆる百合(ガールズラブ)を扱う雑誌で、一迅社の雑誌の中でも、極めて狭い趣味の読者を対象とする、マニアックな雑誌と言えます。

 そして、この雑誌の男女比率では、男性30%・女性70%という、興味深い結果が出ました。元々、百合(ガールズラブ)という趣味自体、本来は女性が好むジャンルですし、掲載作品の絵柄も少女マンガ的で、主に女性に好まれるものが多いことから、まず女性読者が多いだろうとは思っていましたが、それはほぼ予想通りだったかもしれません。しかし、逆に言えば、男性読者が30%とかなりの割合を占めており、このジャンルに対する男性の嗜好の強さをも感じられる結果になっています。

 そもそも、この雑誌自体、あの「マリア様が見てる」の爆発的人気を受けて創刊された経緯があり、そしてこの「マリア様が見てる」は、本来は女性向けに描かれた小説だったのですが、なぜか男性のマニア・オタク層にも爆発的な人気を得て、一気にブレイクしたという経緯があります。その結果、「百合」という趣味が男性にも理解され、百合作品を好む男性が急増しました。そのため、この雑誌も当初から男性読者に注目されて読まれており、ある程度男性比率が高いのも当然といえます。そして、そのために、男性30%・女性70%という絶妙な男女比率になったのでしょう。奇しくも、一迅社では最も男性・女性読者のバランスがよい雑誌となっているようです。
 なお、この「百合姫」の姉妹誌である「百合姫S」は、いかにも萌え系の絵柄の連載が集まっており、まさにその手の男性オタク読者を対象とした雑誌になっています。こちらでは、男女比がほぼ逆転するのではないでしょうか。

 一方で、読者の年齢層を見ると、この雑誌もやはり10代の読者の割合が多くなく、20代以上が大半。さすがに、10代の読者で百合に目覚めている人は少ないようです(笑)。特に男性読者では少なそうです。この手の百合作品を好むのは女性、もしくは男性のマニア読者に違いないでしょう。


・「まんが4コマKINGSぱれっと」
 いわゆる萌え4コマ誌です。こちらは、男女比でも年齢比でも非常に興味深い結果が出ました。

 まず、読者の男女比率なのですが、これはもうコミックREXよりもさらに男性読者が多く、なんと男性90%・女性10%という極端な結果が出ました。最近では、この手の萌え4コマが、男性マニア・オタク層では定番の人気作品となっており、このデータもその傾向を完全に裏付けるものとなっています。これは、芳文社の萌え4コマ誌であるきらら系でもまったく同じで、この男女比9:1というのは、萌え4コマ誌ではほぼ標準のようです。萌え4コマを描く作者には女性がかなり多いのに(半分かそれ以上は女性)、読むのはもっぱら男性という、このねじれ現象は非常に興味深いと言えます。なぜこのような現象が起こるのか、いずれ詳しく記事にする必要があるかもしれません。

 そして、読者の年齢比率でも非常に興味深いものがあります。他の雑誌同様に高年齢の読者が多いのですが、この雑誌の場合、もはや10代の読者がたったの15%しかおらず、実に85%が20歳以上、しかも30歳以上の読者が最多の31%を占めています!
 かつて行われた芳文社きらら編集部のインタビューにおいても、「この手の萌えマンガを好む年齢層が、比較的高年齢の30代に多い」という話が出てきたのですが、それがここでもまた裏付けられた形となりました。やはり、このようなまったりゆる萌えなマンガは、10代の読者はあまり興味を抱かず、逆に20代から30代の読者に特に好まれるようです。

 それにしても、なぜ、ここまで萌え4コマが高い年齢層に好まれるのか? これは、そもそも「萌えマンガ」(あるいは萌え作品)というジャンル自体が、高年齢のマニア読者に中心に好まれているからだと思われます。10代の男性読者でも、多かれ少なかれ萌えキャラを好む人は多いでしょうが、それよりもむしろストーリーやバトル、恋愛(ラブコメ)などのアクティブな要素を好む傾向にあります。一方で、萌え4コマのような、まったりとした日常描写中心で動きの少ないマンガは、退屈なのかあまり好まれない? しかし、それが年齢が高くなるにつれて、このようなゆったりした萌えに満ちた作品を好むようになるらしいのです。今では、ネット上でこういうマンガが好きかどうかを尋ねることで、その人の年齢まである程度推測できそうです(笑)。


・まとめ
 以上のように、このデータからは、一迅社のどの雑誌においても、非常に面白い読者の実情が見えてきたような気がします。このようなデータが、ここまではっきりと明示されることは少なく、非常に興味深い資料になっていると思われます。

 まず、読者の男女比なのですが、とにかく男性か女性か、どちらか極端に読者の性別が偏っている雑誌が目立ちます。いや、他の出版社の少年誌や少女誌ならば、これが普通なのかもしれません。が、この一迅社は、かつてのエニックスから派生した出版社です。エニックス時代の、男女読者双方がバランスよく存在していた雑誌の姿と比較すると、その読者層にはかなりの食い違いが見られます。

 それでも、ゼロサムについては、元から女性寄りの雑誌だったので、ある程度女性読者の多さは納得できるところもあります。一方で、それよりもより引っ掛かるのは、REXの男性読者の多さです。創刊当時はエニックス的なイメージの雑誌という見方も多かったのですが、いざ雑誌が刊行を重ねていくと、男性マニア(オタク)層に受けるマンガに人気が集中し、その手の読者を集める結果につながりました。真っ先にアニメ化が決定した「かんなぎ」などは、その代表です。メディアミックス作品でもそのような連載が目立ち、「東方儚月抄」や「アイドルマスター」など、やはりコアな男性読者の注目を集める連載が多い。まるで、ネットで活動するコアなマニア読者に人気の出そうな作品を集めている印象もあります。かつてのエニックス雑誌が、その手の層に必ずしも受けが良くなかったことを考えると、この「REX」という雑誌は、いわゆるエニックス系雑誌の方向性からはかなり外れた、男性読者中心の雑誌となっているようにも思えます。

 加えて、いわゆる萌え4コマ誌である「まんが4コマKINGSぱれっと」も、大きく男性読者に偏っており、それも20代以上のコアな高年齢層の読者が非常に多い。そして、この高年齢の読者の多さは、他の雑誌にも共通しています。全体的に見て、かなりマニアックな読者層を対象にしていることが分かるでしょう。これは、同じく一迅社より出されているゲーム・アニメの美少女特集雑誌「キャラ☆メル」の姿を見てもよく分かります。

 何度も言いますが、このような読者層は、一迅社雑誌の元となった、かつてのエニックス雑誌の姿とは随分と異なっています。これは、本家であるスクエニでも最近はそうで、ガンガンやヤングガンガンが男性向け、Gファンタジーが女性向けと、完全に峻別された感があります。もうひとつの分家であるマッグガーデンも、その傾向が非常に強くなっています。そして、この一迅社でも、かつての男女がバランスよく購読する雑誌の姿は、非常に薄くなってしまったのではないでしょうか。そんな中で、あの「百合姫」が、最も男性・女性双方にバランスよく読まれているというのも、なんとも切ないものがあると思います。


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