<ガンガン戦(IXA)創刊号所見>

2009・12・1

 このところ、新しい雑誌の創刊、雑誌規模の増大と、拡大傾向が止まらないスクエニから、また新たな雑誌が創刊されました。「ガンガン戦(IXA)」と名付けられたこの雑誌、名前どおり、ここ最近の戦国時代ブーム、とりわけ「歴女」と呼ばれる歴史好きのマニア女性に向けたことが明らかな、スクエニでも最もジャンルが固まった雑誌となっています。今までの雑誌と異なり、ごく一定のジャンルのマンガで固め、一定の読者層に向けられたもので、今までになく興味深いものとなっていると思います。ここでは、まずは実際に創刊号を読んでみて得た、その所見を書いてみたいと思います。


・創刊号からいきなり1000ページ超え。
 創刊前の告知を見ると、スクエニの他誌ですでに連載中の人気作品(「戦國ストレイズ」「新選組刃義抄アサギ」「呂布子ちゃん」「鴉」)の外伝をひとつの中核として、その他に様々な新作読み切り、連載を並べたといったところでしょうか。全体を通してみると、読み切り作品の数が連載作品を上回っていて、まずは読み切りで数を揃えた印象です。あるいは、次の号が半年先ということで、雑誌の連載が続くかどうかという点では、まだまだ不安定なところもあるのでしょう。  一方で、アニメやゲーム等とのメディアミックス作品は意外に多くなく、アニメ企画である「戦国驍刃デュラハン-Dullahan-」のコミカライズ作品がほぼ唯一で、巻頭カラーとなって雑誌最大の目玉となっているようです。

 それ以外にも、各種のレポートやインタビュー、ゲーム特集記事などの読み物も多く、量的には非常に充実していたと思います。なにしろ、いきなり1100ページ近いページ数があり、これは少年ガンガンとほぼ同じページ数です。紙質がいいのでガンガンほど見た目は厚くないのですが、実際には読んでも読んでも終わらないくらいの量がありました。創刊号からこれだけの作品と企画を揃えて雑誌を構成できたところは、大いに評価してもいいところです。わたしの予想では、創刊号であるこの号は、まだそんなにページ数も多くなくて、まずは様子見なのかなと思っていたのですが、そんなことはまったくありませんでした。このところのスクエニは、主要4雑誌に加えて、ウェブ雑誌のガンガンONLINEでも膨大な量の更新を行うなど、その活動規模が非常に大きくなっていますが、その上でこのガンガン戦でもここまで大規模に雑誌作りを進めるとは、その拡大路線はまだまだ止まらないようです。


・掲載作品のジャンルを分類してみる。
 さて、このガンガン戦、発売前の告知で「アジアンファンタジーマガジン」と銘打ち、「戦国」「三国志」「幕末」の3つの時代を主に採り上げてコミック化する、と宣言していました。では、発売された雑誌の実際の内容はどうだったのか。まずは掲載作品をジャンルで分類してみました。
 見たところ、やはり宣言どおり、「戦国」「三国志」「幕末」が多く、特に「戦国」が群を抜いて多い中で、それ以外の時代を扱った作品もちらほら見られ、これはちょっと意外に思いました。完全にこの3つの時代に特化した雑誌だと思っていたのですが、どうやら「時代物」という観点で、もう少し広い時代を扱うことになっているようです。さて、実際に数を数えてみると、


・戦国・・・・・・11(「戦國ストレイズ」外伝含む)
・三国志・・・・5(「呂布子ちゃん」外伝含む)
・幕末・・・・・・3(「アサギ」「鴉」の外伝含む)
・それ以外・・・5


となっています。やはり戦国が非常に多い。ついで三国志が多いのも納得。もうひとつのメインジャンルのはずの幕末は、実際のところまったく多くなく、3つのうち2つは既存作品の外伝です。やはり「戦国」「三国志」という、ゲームやマンガでも人気の高いジャンルがそのままこの雑誌にも来ていると見てよいでしょう。最近では、雑誌こそまだこれ以外にはないものの、歴女をターゲットにしたコミックスが頻繁に出ているようですし、その流れの中にこの雑誌もあると見てよさそうです。

 より具体的に各作品を見ていくと、まず全体の半分近くを占める戦国ものに、特徴的な傾向があります。それは、とにかく伊達政宗がやたら多いということ。「戦国驍刃デュラハン-Dullahan-」がまずそうで、それ以外にも伊達政宗、もしくは伊達家が主役のマンガは5つか6つくらいあります。これはいくらなんでも多すぎ。表紙も枢やなの政宗だし、君たちはそんなに伊達政宗が好きなのか? ちなみに、ゲーム(戦国BASARA)などで、伊達政宗と人気を二分する真田幸村ですが、なぜかこの雑誌にはひとつくらいしか作品がありません。それゆえに、この雑誌の伊達政宗への傾倒ぶりがさらに際立ちます。
 なんでそんなに伊達なのかよく分かりませんが、やはりマンガにしやすいという理由があるのでしょうか。ゲームなどでも人気のかっこいいとされるイメージに加えて、主君の伊達政宗と、彼を支える片倉小十郎や伊達成実、かわいい姫君の愛姫など、物語を構成しやすいキャラクターが揃っていて、幾多の合戦や伊達男に代表される有名なエピソードも多く、要するにマンガ化しやすい。そんな事情があるのではないかとも考えます。

 戦国・三国志・幕末以外のジャンルでは、鎌倉時代の仏師を描いた作品(後述)がひとつ、同じ戦国でも毛利隆元と陶晴賢や、尼子氏と山中鹿之助を描いた話、あるいは三島水軍を描いた話など、比較的マイナーな設定のものも見られ、これは中々面白いと思いました。あるいは、源平時代や日本神話を扱ったものもありましたが、これはどちらかと言えば和風時代物でしょうか。


・似たようなストーリー、似たようなテーマがやや多いのは課題か。
 ただ、そのように珍しい設定の作品も見られるとはいえ、語られるストーリーやテーマ自体は、似たようなもの、かぶるものも散見されました。読んでいるうちに、本当に似たようなものが多いために、少しながら飽きるところもありました。

 戦国を舞台にした話に特にその傾向が強いのですが、主人公が戦乱をやめさせるために戦う、大切なものを守るために戦う、そういったテーマの話でとにかくかぶります。まあ、それがひとつのスタンダードで別に悪くはないのですが、さすがに同じような設定で同じようなマンガが何度も続くと飽きます(笑)。いわゆる少年マンガ、もしくはファンタジー的な王道テーマなのはいいのですが、この雑誌の場合「戦国」とか「三国志」とか、設定が非常に近いマンガばかりなので、余計かぶる印象が強まるわけです。単に、今までのスクエニ系(特に新人作品)でよく見られるタイプの作品が、そのまま戦国もののマンガになっているように見えなくもありません。
( ただ、まったく読めないマンガは少なかったですし、かぶるとはいえそれぞれの作品細部では個性も感じられるため、そんなに悪い印象ではありません。)

 それ以外のマンガとしては、コメディやギャグ、それも戦国や三国志のキャラクターの設定をいじったギャグもありますが、こちらの方もあまり印象がよくありませんでした。ギャグ自体がさほど面白くない上に、歴史上の人物を崩しすぎてギャグ化したものはあまりいい感じはしません。唯一、中村光のギャグだけは面白かったのですが、さすがにこれは作家の力でしょうか。

 そしてもうひとつ、これまでも散々述べたとおり、やはりこの雑誌自体、女性読者向け、歴史好きのマニア女性が主なターゲットなのは間違いなさそうです。一応、男性・女性ともに読者を想定していると告知にはありましたが、掲載ラインナップを見る限りでは、やはり女性に好まれるタイプの絵柄やキャラクターが目立ちますし、雑誌の大半を占めていると言ってもいいでしょう。雑誌の雰囲気としては、スクエニではGファンタジーが最も近いですし、Gファンタジー系から来た作家も多い。男性でも決して読めないというわけではないのですが、しかし好んで手にとって(買って)読む人は少なそうです。


・中には非常にいい作品も見られたのは収穫だった。
 とはいえ、決して満足できない雑誌ではなく、これはいいと思える作品が複数見られたのは、大きな収穫だったと思います。

 まずは、Gファンタジーで「隠の王」を連載している鎌谷悠希による「ぶっしのぶっしん」。鎌倉時代であの運慶の弟子の仏師を主人公にした物語で、技術的には未熟ながらも、かつてなくした母を想って母の面影を刻んだ仏を作る、その真心に惹かれるものがありました。最後に思わぬ出会いで迷いから脱し、よき仏師の仲間たちと先の道へと歩んでいく。そのストーリーにも感服しました。鎌谷さんは本当にいい話を描きますね。この雑誌の中では、戦国でも三国志でも幕末でもなく、主人公が武士か武将となって敵と戦うようなマンガでもなく、単に「時代物」という点で共通しているだけで、雑誌のコンセプトからは外れているのでは?とも思ってしまったのですが、それがこの雑誌の中で一番面白いのだから大したものです。

 ヤングガンガンで連載中の「新選組刃義抄アサギ」の外伝も非常に面白いものがありました。本編では、主人公沖田総司のライバルにして、裏の主役とも言える幕末の人斬り・岡田以蔵を主役にした物語で、しかもあの坂本竜馬が以蔵に勝海舟の護衛を依頼するという、非常に興味深いエピソードとなっていました。以蔵の、雇い主である武市に対する恩義への執着と、そんな以蔵に対して竜馬が新しい世界に踏み出さないかと誘う、その姿に双方の人間性がにじみ出ていました。この物語のキャラクターの描き方は実に巧みで、竜馬や海舟などの有名人物が本当に魅力的に描かれています。この外伝は、是非とも本編のコミックスに収録してほしいと思いました。

 それ以外だと、スクエニでは久々に登場となる林ふみのによる毛利隆元と陶晴賢を描いた物語や、こちらも久々の登場となるキム・ビョンジン作画による本田忠勝伝、他には中村光やもちのギャグマンガなどは中々面白かったです。総じて、スクエニで連載経験を持つ作家の力によるところが大きいようで、逆に新人作品でこれといったものが乏しかった のが残念です。戦国というより単に和風伝奇ものと思える作品も2、3見られましたし、スクエニ他誌の新人作品と大差ないかもと思ってしまいました。


・最初からこれだけの形が出来ていたのは評価できる。ここからいい連載が出るかどうかが鍵。
 以上のように、この「ガンガン戦」、創刊号からいきなり1000ページ超でマンガの掲載本数が多く、まとまった形になっているのは評価できます。数多いマンガの中には、上記に挙げたような「これは」と思えるような作品も複数見られ、それらのマンガを読めただけでも非常に有意義だったと思います。特に、「ぶっしのぶっしん」と「新選組刃義抄アサギ」の外伝は、この雑誌の中では出色の出来と言えるような一編となっているので、機会があれば是非読んでもらいたいところです。

 その一方で、全体的には新人作品を中心に似たような作品が多く、まだ完全に充実しているとまでは言い切れないのが惜しい。加えて、これは予想できたことではありますが、やはり女性読者、歴女をメインターゲットとしていることが強く感じられ、そこでも似たようなイメージの作品が多く、男性読者にはあまり魅力的には映らないのではないかとも思えます。中にはいい作品も見られるだけに、最初から読者層を狭く絞ってしまっているように見えるのが惜しい。一部に男性読者好みの骨太なイメージの作品も見られましたが、それは本当にごく一部にとどまっています。

 そしてもうひとつ、いい作品と思えるものの大半が読み切りか既存連載の外伝で、これから連載となる作品に、現時点であまりいいものが見られなかったのも残念です。メディアミックス企画の「戦国驍刃デュラハン-Dullahan-」などは、筋は悪くなさそうですが、戦国にファンタジー・ロボット要素を取り入れたエキセントリックな世界観が受けるかどうか。それ以外の連載作品も似たり寄ったりの印象でした。スクエニの既存作家の作品にいいものが多いのですが、それらはほとんどが読み切りの掲載にとどまり、今回だけでまたもとの雑誌に戻ってしまうのだろうと思えますし、やはりこのような場当たり的な人気作家の起用だけでなく、真にこの雑誌を舞台に活躍する新規作家の登場が待たれます。

 次号は半年後の発売らしいですが、このペースだとまだまだ本格的な雑誌運営とは言えず、スクエニとしてもいまだ様子見なのかもしれません。いい連載が登場することで本格的な刊行ペースとなり、雑誌が軌道に乗ることを期待したいと思います。


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