<スクエニマンガの実写映画化について考える>

2013・10・3

 このところ、スクエニ原作のコミックで「劇場版の実写映画」になる作品が、いくつも出るようになりました。まず、先月(2013年10月)に公開された「男子高校生の日常」、さらにはこの11月に公開されたばかりの「JUDGE」、そして実写映画化が予定されている「黒執事」。さらには、少し前の話ですが、「荒川アンダーザブリッジ」がテレビドラマ化を経て実写映画になったのが昨年の2012年です。
 「男子高校生の日常」がガンガンONLINEの連載、「JUDGE」は少年ガンガン、「黒執事」はGファンタジー、そして「荒川アンダーザブリッジ」がヤングガンガンと、連載元の雑誌は多岐に渡っていて、人気作に満遍なく実写化の企画が立つようになったことが分かります。

 こうした実写の映画化(あるいは実写のテレビドラマ化)されるコミックは、決して珍しいものではありません。むしろ、ヒットしたコミックで比較的実写化しやすい素材のものは、その多くが実写の映画やドラマになっています。しかし、こと「スクエニ」に関しては、以前はこうした実写化の企画はほとんど見られず、つい最近になって相次いで行われるようになった感があります。

 今までなぜ実写化がほとんど行われなかったのか。それは、まずずっと以前(90年代)のスクエニ(当時はエニックス)の雑誌は、今よりもずっとマイナーで、実写化されるまでの人気作が少なかったこと。そしてもうひとつは、スクエニ(ガンガン系)のコミックの多くが、全体的にコアなマニア読者、オタク読者向けの作品で、比較的一般層をターゲットとすることの多い実写化には、ふさわしくなかったのではないかという理由が考えられます。わたしの見る限りでも、これまであえて実写映画化、あるいはドラマ化してほしいような作品は多くはなかったと思います。

 しかし、ここに来て、急に実写化の話が相次ぐようになったのは、正直言って意外でした。これらの作品は、昔のスクエニ(エニックス)の作品よりは、多少なりとも一般向けで幅広い読者を獲得したものもありますが、しかしここ数年はそれほど連載作品の作風は変わっておらず、相次いで実写化されるような大きな変化は起こっていないように見えます。それが、ここに来てなぜ実写化の企画が舞い込むようになったのか。ここではその理由と、さらには各実写作品の簡単な考察を行ってみたいと思います。


・スクエニ作品が一般に認められるようになったのは喜ばしいが・・・。
 まず、こうした実写化という企画が立つ以上は、少なくとも原作作品が、実写上映に耐えられるほど一般層への人気が期待できると、企画者が考えて白羽の矢を立てたのだと推測できます。つまり、以前のスクエニ作品に比べれば、より幅広い一般層にも広く支持される作品が増え、しかもそのことがテレビ局や映画会社にも認められるようになった。これは、素直に喜ぶべきことだと思います。以前ならば、アニメ化までは行くことはあっても、その多くはアニメファン、もしくは原作ファン向けで、それ以上に広く人気を期待するような内容ではなかったと思います。

 しかし、これらの実写映画化までの経緯を見る限り、必ずしも喜べないこともあります。まず、上記の4作品のうち、「JUDGE」をのぞく3作品は、最初にテレビアニメ化されて、そちらが人気を得た後で実写映画化・ドラマ化されています。つまり、アニメの人気を受けて、それに半ば便乗(?)する形での実写化で、さらなる人気をもう1回得ようとする思惑が強く感じられます。

 しかし、アニメがヒットしたからといって、実写もうまくいくとは、アニメそのままに行くとは限らない。むしろ、アニメ版と実写版では見た目のイメージが違いすぎて、アニメ版のファン(あるいは原作のファン)にとっては、素直には受けいられないほど抵抗が強い作品になっていることが多いようで、こうした実写化が行われること自体、アニメや原作の熱心なファンにとって、必ずしも喜べないことは間違いないでしょう。

 総じて「どうしても実写化したいほどの必要性のあるスクエニ作品は少ない」と思えるのが正直なところで、これは他の多くの原作読者、アニメ視聴者にも共通する思いではないかと推測しています。以下、各実写作品について考察していきます。


・原作とのイメージの差が激しい「男子高校生の日常」。
 まず、「男子高校生の日常」の実写映画ですが、これはとにかくアニメや原作とのキャストのイメージのギャップ、これが最初から気になるところでした。原作やアニメの設定が、現実にありそうな高校生ということで、あるいは現実にありそうな「あるある」ネタがギャグの中心ということで、実写化しようという企画が立ったのだと思いますが、しかしやはり元の作品と比べるとかなり違和感の残るものでした。

 中でも最も目立ったのは、主人公の男子高校生3人組ではなく、”文学少女”と呼ばれる女子高生です。原作でも序盤に際立ったエピソードを残した人気キャラクターですが、実写のキャスティングはどうにもそのイメージとはえらく離れたものだったようで、これには落胆するファンが数多くいたようです。

 一方でギャグの再現も今ひとつ微妙で、やはり原作やアニメのテイストを再現するほどではなかったようです。高校生たちのゆるい学園もの・青春ものとして考えれば、そこそこ悪くない映画だったのかもしれませんが、しかし原作やアニメと同等の面白さを期待していたものとしては、やはり期待はずれだったと言えます。アニメの出来が非常によく、原作マンガよりもビジュアルで上回っていた上に、声優の演技も非常に良かっただけに(特にヒデノリ役の杉田智和)、この実写映画化は蛇足と言ってもいいかと思います。

 一方で、「荒川アンダーザブリッジ」のドラマや映画は、原作者の意向も汲んでかなり慎重にキャストを決定したらしく、比較的キャスティングの違和感は少なかったと思います。また、俳優の演技も総じていい人が多かったようで、特にドラマは中々の評価が得られたようです。ただ、それでもやはり原作とシャフト制作のアニメの面白さにかなうかというと厳しいですし、また映画はドラマの焼き直しのシーンが多かったようで、こちらの評価はさらに微妙でした。


・原作とはかけ離れた設定となってしまった実写映画版「黒執事」。
 それ以上に、原作とはあまりにもかけ離れた作品になりそうなのが、公開が2013年1月に迫る「黒執事」です。単にキャストのイメージだけでなく、設定まで大幅に異なっており、すでに映画化告知直後からそのことが話題となっています。

 まず、やはりなんといってもキャストでしょう。原作における黒執事の主人である少年・シエルが、映画では男装の女性という設定に変わっており(名前も異なる別人)、そしてそのキャストに剛力彩芽を起用したことが、大きな波紋を巻き起こしました。シエルとはまったく異なるビジュアルで、そもそもシエルではない役どころに、イメージがまったく異なる女優を起用したことは、原作ファンにとってはあまりにもショックだったようです。
 もうひとり、肝心の「黒執事」役となった水嶋ヒロについても、髪型が大きく異なったりやはり原作のイメージとの食い違いが激しく、こちらも原作ファンの疑問が殺到しました。まだ公開前ですが、これほどイメージが異なるキャスティングでは、不安の声が上がるのも無理はないでしょう。

 そして、キャストのみならず、原作の物語の設定まで大きく変わっている点が、さらに大きな問題だと思われます。原作の舞台は、実際に執事という職業が活動していた19世紀のイギリスで、その時代の風俗を取り入れたエピソードも多く、これが独特の作風を生み出しています。しかし、映画では、なんと近未来のアジアの都市が舞台となっており、基本的な舞台設定からして根底から変わっています。その上で、主人のシエルも登場せず、男装の麗人というまったく別のキャラクターが登場するとなると、もう原作の「黒執事」とは別作品と考えてもいいかもしれません。先に放映されたテレビアニメが、原作の時代に詳しいスタッフを用意し、時代考証にかなりの力が入れられていたのとは対照的とも言えます。

 また、「黒執事」については、既に舞台化という形で実写化が行われています。こちらは、キャストのイメージをかなり原作に近づけていて、総じて好評で大きな不満は聞かれていません。映画についてもこうした作品を期待したかったところですが・・・。


・そもそも映画化自体が疑問視される「JUDGE」。
 最後に、「JUDGE」ですが、これは内容以前に映画化されること自体がまず疑問視されます。

 まず、この作品のみ、アニメ化されることなく直接映画化の企画が立ち上がっています。映画の告知では「大ヒットコミックの映画化」となっていますが、しかし原作の「JUDGE」は、他の作品に比べればそれほど突出したヒットを達成しているとは言えません。「男子高校生の日常」がコミックス累計100万部以上、「黒執事」に至っては1500万部以上のまさに大ヒットとなっているのに対して、この「JUDGE」は10万部台の売り上げにとどまっており、アニメ化も達成しないうちに連載が終了してしまいました。

 さらには、その連載終了からかなりの時間が経過してから、突然映画化が告知されたのも不思議でした。ガンガンの2012年9月号で連載が終了した後、映画化の告知が載ったのは2013年6月号。連載中もそれほど目立った作品ではなく、さらに連載が終わって随分と経ってからの映画化は、「まさか」と思うほど意外なものでした。原作の知名度がさほどでもなかったことから、原作の読者とガンガンの読者以外は、そもそもこれがガンガン連載作品の映画化だという事を知らなかったかもしれません。

 そんな作品が映画化された理由ですが、おそらくは原作が「デス・ゲーム」を扱う作品であることから、過去の同系作品のヒットを受けて、この原作に白羽の矢が立ったのではないかと思われます。複数の登場人物がとある閉鎖空間に閉じ込められ、そこで「裁判」を行い殺す人物を決めていく(そして実際に殺されていく)という展開は、「ライアー・ゲーム」や「インシテミル」「ダンガンロンパ」あたりを思わせるところがあり、そうした映画を制作する企画のひとつとして選ばれたのだと考えています。「原作とは設定を借りただけでストーリーなどはほぼ別物」という話もあり、その推測を裏付けています。

 しかし、「JUDGE」の原作は、これらのヒット作ほどに比べればかなり劣るところがあり、平坦な展開やいまひとつの作画レベルなどで、思ったほどの面白さは感じられませんでした。そんな作品を(たとえ設定を借りるというだけの方法でも)あえて映画化しようとする試みは、やはり疑問が残ります。上映館も少なく小規模の公開になるようで、その点でもあまり大きなヒットは期待できないと思うのですが、どうでしょうか。


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