<パワードの休刊とJOKERの創刊について>

2008・2・24

 先日、少年ガンガン2009年3月号(2月12日発売号)において、いきなり見開きで「ガンガンJOKER」なる新雑誌の創刊が告知されました。その時は雑誌の名前以外まったく情報がなく、ここに来てスクエニから新雑誌が創刊されることには、疑問の声が多かったように思います。何しろ、今の段階で5つも雑誌を抱え(ガンガン・パワード・WING・Gファンタジー・ヤングガンガン)、その上でさらに雑誌を創刊するとは一体何を考えているのかと(笑)、わたしも真剣に考え込んでしまいました。雑誌の内容についても様々な憶測が流れましたが、実際のところまったく予測がつかず、同月21日発売のパワードにおいて具体的な告知が出るまで待つことになりました。

 そして、迎えたパワードの告知において、非常に詳細な雑誌の内容が判明しました。しかも、JOKERという一誌だけの告知ではなく、スクエニ雑誌全体に及ぶ「連載陣の再編」と言ってもよいほど大掛かりな連載陣の移籍が告知されており、その中心のひとつにJOKERという雑誌が入っていることが判明します。
 しかも、さらに驚いたのは、今回の再編でパワードが休刊し、そこの連載陣のほとんどが、JOKERを中心とする他の雑誌に移籍することまで判明したことです。今号で最終回を迎えるごく一部の連載以外、ほとんどの連載がスクエニ各誌に移籍していることを考えると、これは普通の休刊ではありえず、やはり「再編」(もしくは「解体」)という言葉がふさわしいように思えます。

 そして、今回の再編は非常に大掛かりなもので、おそらくこれほどの大規模な変更は、あのお家騒動後では、あのヤングガンガンの創刊以来の大きな出来事ではないかと思います。しかも、その内容が非常に興味深く、JOKERという新雑誌の動向も注目に値します。以下に、今回の再編の詳細な分析を記したいと思います。


これがパワードの最終号となった。 ・なぜパワードが休刊、再編されるのか。
 まず、今回の再編において、JOKERの創刊と同様に大きな変更は、やはりパワードの休刊でしょう。人によっては、このパワードの休刊の方がより重大で深刻な出来事だと感じる人もいるかもしれません。それにしても、なぜここにきてパワードがなくなってしまうのか。これは、かなり詳細な理由が推測できます。

 今のパワードが創刊されたのは2001年ですが、この時のパワードは、新人の読み切りを掲載する雑誌として創刊されました。かつて90年代の頃は、フレッシュガンガンとその後誌名が変更されたガンガンWINGがその役目を担ってきましたが、98年にWINGは新装されて連載マンガ中心の普通の雑誌となり、これが今のWINGまで続くスタートとなります。しかし、これで新人の読み切りを載せる場がなくなってしまった感は否めず、そんな点を考慮して、遅れて2001年に、代わりとなる新人読み切り雑誌を創刊します。これがパワードです。

 その後、創刊してしばらくは純粋に新人の読み切りのみの雑誌でしたが、次第に普通の連載も採り入れるようになり、「これが私の御主人様」「陽だまりのピニュ」「勤しめ!!仁岡先生」のような人気連載もぼつぼつと登場してくるようになります。特に、2005年に始まった「ひぐらしのなく頃に」のゲームコミックのヒットが大きく、少しずつ連載陣の比重が増していきます。
 しかし、そんな風に少しずつ登場してきた連載マンガは、どれも統一感がなく、他の雑誌(特にガンガン)では載せられないようなコアなマニア志向の作品や、休刊した雑誌から移籍してきた作品などが数多く含まれ、いわば「寄せ集め」の感は否めず、雑誌に明確なカラーが存在しませんでした。
 それは、2006年の新装でさらに顕著になります。従来のマニア志向の連載陣に加え、さらに数多くのゲームコミックを投入し、それがひとつの中心となります。しかし、多種多様なゲームコミックでは雑誌の作風を確立できず、やはり雑然とした誌面は続きました。

 しかも、この当時から、スクエニの他の雑誌が、作風を揃えて差別化を図る方針を採るようになり、例えばガンガンは少年向けマンガ中心、Gファンタジーは女性向け中心といった雑誌になります。そして、このように他の雑誌がそれぞれある特定層の読者を意識するようになる中、パワードだけは雑然とした誌面が続き、対象読者が判然とせず、この雑誌を特に好む読者層というものが少なかったように思われます。そして、これがおそらくは今回のパワード再編の最大の理由となりました。雑然とした寄せ集め的な連載マンガを、個々の作風ごとにより連載するにふさわしい雑誌へと移籍させ、中でも従来の雑誌では合わない連載の受け皿として、JOKERという新雑誌も創刊したのだと思われます。


・連載陣の移籍先とJOKERの内容。
 それでは、実際の連載陣の移籍先とその分析を行ってみます。

 まず、ガンガンへは「獣神演武」「仕立屋工房」「勤しめ!仁岡先生」の3つが移籍。これは、前者ふたつが明らかな少年マンガ的作風なので、まず今のガンガンで求められるマンガであることは間違いないでしょう。「勤しめ!仁岡先生」も、比較的一般層の少年読者にもとっつきやすい設定の4コマになっているように思われます。
 そして、Gファンタジーへは「君と僕。」「シューピアリア」のふたつが移籍。これも妥当と言えば妥当です。「君と僕。」は女性読者に対して圧倒的な人気がありますし、「シューピアリア」も、そのスクエニでは珍しい耽美的とも言える作画で、やはり女性読者に一定の人気があるようです。ただ、このふたつは、必ずしも読者は女性に限定されてはいないため、このように露骨に女性向け雑誌へと移籍するのは、少々抵抗も覚えます(これについては後にも述べます)。

 このふたつの雑誌への移籍は、露骨に作風を合わせた感も漂い、非常に意図が分かりやすい移籍と言えます。しかし、残りの連載陣は、これはすべてガンガンONLINEとJOKERへと移籍先が配分されており、いくらか微妙な分析が必要です。

 実は、このふたつに移籍する作品の大半はゲームコミックであり、ONLINEには「聖剣伝説」と「ファイナルファンタジー12」、JOKERの方には「ひぐらしのなく頃に」「うみねこのなく頃に」「コープスパーティー」「”文学少女”と死にたがりの道化」が配分されています。なぜこのように別れたのか。おそらくは、単純に作品の人気、もしくは編集部の期待度でしょう。新雑誌のJOKERの方に、力のある人気作を配分したのは明らかです。「ひぐらし」「うみねこ」のふたつは、今やスクエニを代表する人気ゲームコミックですし、これと同じ系統の同人ゲームからのコミカライズ作品「コープスパーティー」にも、スクエニはかなり力を入れているようです。さらには、他社(エンターブレイン)のライトノベルのコミカライズである「”文学少女”と死にたがりの道化」も、まだ新連載が始まって間もないながら、パワードでは相当に強く推進されてきました。

 一方で「聖剣伝説」「ファイナルファンタジー12」は、原作ゲームは非常にメジャーなスクエニのRPGですが、コミックの人気はさほどでもなく、どちらかと言えば一部の熱心な読者に読まれているタイプの作品です。こちらは、ONLINEでも追いかけてくれる熱心な読者に読まれればいいと判断したのではないでしょうか。ゲームコミック以外でも、「ばらかもん」や「小松くん日和」などの、いまだ大人気とは言えない新興の、あるいは小規模の連載は、こちらでの掲載が決まっています。

 加えて、JOKERについては、小島あきら・藤原ここあ・河内和泉の、かつてのWING主力連載陣の新連載が既に告知されています。これも非常に大きな決定です。おそらくは、このJOKERという雑誌は、これまで比較的コアなマニア志向だった、パワード・WING二誌の主力連載をまとめるために企画されたのではないかと思われます。その一方で、WINGには今回移籍される連載は一本もなく、このところのこの雑誌の極度の落ち込み、連載本数の極端な減少を考えても、以後近いうちの休刊の可能性がさらに高くなったと思われます。

 マニア志向という点では、もうひとつGファンタジーも該当しますが、こちらは女性向け色の強いマンガを集める雑誌として差別化を図り、このJOKERは、男女共に読者が期待できる中性的な作品、かつてのエニックスに比較的近い雰囲気のマンガが集まることになったように思えるのです。上記のパワードからの移籍陣と、WING作家の新連載以外でも、数少ない完全に新規の作品として、同人ゲーム「ひまわり」のコミカライズと、主にマニア誌で活躍する晴瀬ひろきの新連載が挙がっており、これらからも共通の雰囲気が感じられ、中々いい作品になりそうで期待が持てます。パワード移籍陣の人気ぶりや、WING主力作家の実力を考えても、当初の予想よりも好感の持てる雑誌になりそうです。


・今回の再編でちょっと残念なこと。
 今回の再編は、雑多な誌面だったパワードを解消して、作風ごとに連載を区分けして方向性の該当する雑誌へと移籍させるという、比較的妥当な方針ではあると思いますが、反面、このように雑誌ごとに固定された作風のマンガを揃える方針には、個人的には少々疑問もあります。

 わたしは、雑誌というものは、いろんなタイプのマンガが読めるのが最大の利点だと思っています。ひとつの雑誌の中に個性的な作品がいくつもあって、いろんな良作が楽しめる。そういう誌面がわたしの理想です。
 そして、パワードの場合、確かに寄せ集め的で雑然とした誌面ではありましたが、逆に言えばいろんなタイプのマンガが読めるという、他の雑誌にはない利点があったと思うのです。そのため、いろんなタイプのマンガが読者の目に触れる機会がありました。

 例えば、「君と僕。」などは、確かに女性人気の高い作品ではありますが、パワードでは男性の愛読者もかなり見られました。女性に好まれる要素こそあれ、男性でも楽しめる優れた作品で、それがパワードに載っていたからこそ、男女問わずいろんな読者の目に触れて評価されたのだと思うのです。それが、最初からGファンタジーに掲載されていたらどうでしょう。元々女性読者が多数派の上に、連載にもそのようなイメージがついて回るため、女性読者にしか読まれなかった可能性が高いのではないかと思うのです。それが、今回Gファンタジーへと移籍することが決まり、これで追いかけてまで読もうとする男性読者はあまり多くないと予想できてしまいます。今後の「君と僕。」は、主に女性にしか読まれないマンガになってしまうのではないか。同じことは、「シューピアリア」にも言えることで、これも決して女性だけに読まれた作品ではなく、むしろその絵柄がパワードでは個性的でいいアクセントになっていたのですが、今回のGファンタジーの移籍で、そこの女性向けの色の強い誌面に埋没してしまうような気がするのです。

 同じことはガンガンに移籍する「仕立屋工房」にも言えていることで、これは比較的オーソドックスな王道系少年マンガで、パワードの中では少数派で、この誌面でこその個性が感じられたのですが、ガンガンでは他の連載の中に埋没してしまいそうです。似たようなマンガを揃えることが、個々の作品にとっては必ずしもいいこととは思えない。むしろ、ある程度いろんなマンガが載っている誌面の方が、その個性が際立つことが多いのです。

 ただ、ONLINEやJOKERに関しては、今のところそこまで方向性が固定化された誌面ではなさそうなので、こちらはまだよいと感じます。できれば、中性的なコアユーザー向け作品という大きな枠だけは保ちつつ、その中である程度いろんなタイプのマンガが読める雑誌にしてほしいものです。


・とはいえ、連載陣の実力や、連載が月刊で読めることなど利点も多く、おおむね期待できそう。
 ただ、そのようなちょっとだけ個人的に残念なことこそあれ、おおむね今回の再編には妥当性があり、特に新雑誌のJOKERは、当初の予想以上にいい雑誌になりそうで好感が持てます。

 特に優れた利点は、なんといっても旧パワードの連載が月刊で読めるようになったことですね。元々、新人の読み切り掲載雑誌だったことから、初期の頃は季刊、2005年以降は隔月刊という遅いペースでの発刊でしたが、2006年に新装して普通の連載雑誌になって以後は、特に隔月刊にこだわる必要は感じられず、むしろ月刊で連載してもおかしくない作品が大半となりました。それが、ここにきてようやく月刊として読めるようになった。これは実に喜ばしいことで、連載ペースがアップすることで作品に勢いがつき、コミックスの発刊ペースも速くなります。これでようやくスクエニ雑誌すべてが月刊(ヤングガンガンは隔週刊)のペースを達成することになりました。

 さらには、JOKERの連載陣がひどく充実しているのも大きい。「ひぐらし」「うみねこ」を始めとするパワードの人気連載に加えて、再登場が待ち望まれていたWINGの主力連載陣がこぞってここで合流した意義は非常に大きい。また、パワードからは最近出来が良かった読み切りの連載化もあり、数少ない新規 連載も前述のように期待できる作品になっているなど、全体的にかなり実力のある雑誌になるような気がします。ガンガンONLINEの方も創刊以来好調ですし、こちらも合わせて期待できる雑誌になっているようです。

 個人的には、このJOKERをガンガンクラスの雑誌にまでもっていってもらいたいです。今のスクエニは、結局のところガンガンが最も販売部数の突出した中心雑誌となっているのですが、それがあまり芳しいとは言えない誌面となっているように感じられます。それよりも、ヤングガンガンやGファンタジーの方が堅調に質を維持しているように思えますが、しかし部数はガンガンに比べれば乏しく、一部アニメ化作品以外のマンガは、知名度の点で見劣りしてしまいます。そこで、このJOKERでは、「ひぐらし」を始めとする人気ゲームコミックや、小島あきらを筆頭とする人気作家の起用により、従来のマイナー誌以上に注目される要素は十分に備えていますし、これでガンガンに匹敵する中心雑誌、それも真に実力も兼ね備えたスクエニならではの雑誌にしてほしいのです。


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