<かつてのガンガン読者はどこに行ったのか>

2006・6・13

 かつて90年代の終わりに隆盛を極め、多数の熱心な読者を確保したエニックス系コミックですが、2001年に起こった「エニックスお家騒動」と、その前後に起こった混乱、路線変更で完全に様変わりしてしまった連載マンガたちを前に、多くの読者が離れていき、一気にその数を減らしてしまいます。特に、主要誌であるガンガンはその熱心な読者を大幅に減らし、のちに『鋼の錬金術師』の大ヒットなどにより、部数(読者数)においてはかなりの回復も見られましたが、その読者の中身は、かつての読者たちとはかなり異なるものになったと思われます。
 つまり、この一連の騒動で、かつての熱心な読者たちの多くが、ガンガンから去ってしまったわけです。では、彼らは今どこにいってしまったのでしょうか。ガンガンを読まなくなった代わりに、一体彼らは何をやっているのか。今回は、あえてそれを推測してみました。


推測1.ブレイド系の雑誌に移った。
 まず、最初に考えられるのはこれでしょう。「エニックスお家騒動」を起こした編集者たちは、多数の元エニックス作家たちを引き連れて、新出版社である「マッグガーデン」を起こし、そこで新雑誌である「コミックブレイド」を立ち上げました。この「コミックブレイド」、その中核となったのはまぎれもなくエニックスから移籍してきた作家たちの連載であり、それ以外の連載にも同一のカラーを持つものが多く、騒動以前の旧エニックスの色を最も色濃く受け継ぐ雑誌となったと言えます。ならば、この雑誌の元に、元の熱心な読者たちも再度集まったのでしょうか。

 しかしこのブレイド、意外にもそれほど旧ガンガンの読者を集めることは出来ませんでした。移籍した作家たちの作品は、どれも以前ほどの面白さを持たないものが多く、それ以外のマンガもどれもぱっとせず、決して出来のいい雑誌ではなかったことが最大の問題で、旧読者の支持を集めることはできなかったのです。また、当初からグッズやメディア展開などの企画ばかりが目立ち、肝心のマンガがおろそかになっていた印象も否定できません。いい新人が生まれなかったのも大きなマイナス材料でした。
 それだけではありません。このブレイドの編集者たちは、もともと「エニックスから強引に離脱した」「そのときに旧エニックスの作家たちを多数引き抜いた」という大きなマイナスイメージを負っており、そのために雑誌自体も非常にネガティブな印象が強く、その強引なやり方を嫌ってブレイドを読まない読者たちがとても多かったのです。つまり、ブレイドは、当初のもくろみであった「旧ガンガンの読者を取り込む」ことに失敗したと見てよいでしょう。

 それでは、ガンガンから去り、ブレイドにも行かなかった読者はどこにいったのでしょうか?


推測2.ゼロサム系の雑誌に移った。
 ブレイドへと一部の編集者たちが離脱したお家騒動の直後に、今度はGファンタジーで別の編集者グループが離脱して新雑誌を発行する事態が勃発します。このグループが創刊した雑誌が「コミックゼロサム」です。
 ほぼ喧嘩別れだったブレイドへの離脱と異なり、このゼロサムへの離脱は、かなり円満に行われたようで、比較的混乱は少なく終わりました。しかも、離脱した編集者に連れられた作家の多くが、Gファンタジーでの連載を継続するなど、エニックス側にも大きな被害はありませんでした。ある意味では、これは完全に離脱したブレイド陣営とは異なり、Gファンタジーからゼロサムへと作家陣が「拡大」したに過ぎないとも言える事態だったかもしれません。ブレイドへは旧ガンガン系読者は移りませんでしたが、このゼロサムではどうだったのか。

 実は、これがほとんど移ることはなかったのです。ゼロサム自体の出来は、ブレイドとは異なり、手堅くまとまった良質なもので、いまだに評価は高いのですが、しかし、それで大きな人気を得たわけではありません。元からしてGファンタジーという、エニックス雑誌でも比較的マイナーな雑誌からの拡大路線であり、主に主要誌であるガンガンを読んでいた多くの読者にとっては、さほど興味の湧くものではなく、さらには、ゼロサム自体が極めて女性向けの路線を採用したことが大きく、男性読者の関心を得るには至りませんでした。ゼロサム系の雑誌は、いまでも手堅く運営され、その評価も高いのですが、発行部数自体はかなり低いレベルに留まっています。よって、このゼロサム系の雑誌に移った読者は、全体の中ではごく一部に留まったと言えるでしょう。


推測3.WINGやGファンタジーなど、エニックスのほかの雑誌に移った。
 騒動以降のガンガンは、大幅な路線変更でかつての雰囲気が失われ、連載マンガも様変わりしてしまいましたが、同じエニックスの姉妹誌であるWINGやGファンタジーでは、騒動以前の雰囲気が強く残っており、特にGファンタジーの誌面は実質ほとんど変わりませんでした。そのため、ガンガンの読者は、これら姉妹誌に流れた可能性もあります。

 しかし、実際にはさほどこれらの雑誌は売れませんでした。どちらの雑誌も、その発行部数は非常に低いレベルで推移し、最も低いときには約3万部と、雑誌としては最低に近いランクで推移する危機的な状態だったこともあります。また、この2誌以外で、少女マンガ誌だったステンシルは、エニックス系雑誌の中では元々低かった部数が一気に低下し、早い時期に廃刊してしまいました。
 これらの事実から、元のガンガンの読者の多くは、WINGやGファンタジー、ステンシル等のエニックス系他誌に移行することなく、そのまま去ってしまったと考えられます。やはりガンガンの持つ力は非常に大きく、他の雑誌では補えなかったということでしょうか。そういえば、お家騒動当時、ガンガンから離れていく読者のサイトを多数見てきましたが、他雑誌に移る人はあまりいませんでしたね。


推測4.エニックス以外の雑誌(メジャー系)に移った。
 ブレイド、ゼロサム、ガンガン系の他雑誌のいずれでもないとすると、エニックス系以外の雑誌に移ったと考えられます。中でも、ジャンプ・マガジン・サンデーのような、大手のメジャー雑誌は元から読んでいる人も多いでしょうし、エニックス系を読まなくなった分、それらメジャー系雑誌を読む比率が増えた人は多そうです。

 しかし、もともとエニックス系を読む人は、それらメジャー系にはない要素を求めて、あえてマイナーであるエニックスに手を出してきた人たちと言えるわけで、そんな人々が、あえて大手メジャー系にそこまで肩入れするようになるとも考えにくいでしょう。それでも、メジャー雑誌の中の一部の作品にはまって、そのマンガだけ単行本で読むような人は珍しくないでしょうが、逆に雑誌全体まで読むようになった人はごく少数だったのではないでしょうか。かつてガンガンという雑誌にはまったように、メジャー雑誌にまではまっていった人というのは、ごくわずかでしょう。


推測5.エニックス以外の雑誌(マイナー系)に移った。
 むしろ、可能性としてはこちらの方が高いでしょう。ガンガン自体もマイナー系と言える雑誌ですし、むしろガンガンに近いカラーや個性的な作品を求めて、同じマイナー系の雑誌に手を伸ばしてみた人も多いはずです。
 人気のあるマイナー系雑誌というと、具体的には角川系(角川・電撃・富士見系)の雑誌、具体的には「少年エース」(角川)、「電撃大王」「電撃帝王」「電撃コミックガオ!」(電撃・メディアワークス)、「ドラゴンエイジ」(富士見書房)あたりがまず筆頭に浮かびますし、筆頭というか、このあたりが人気のあるマイナー誌の中核を占めていることは間違いありません。同じマイナー系雑誌として、メジャー誌よりはガンガン系に近いカラーを持っていますし、さらには、角川の「少年エース」あたりはガンガンとも意外な結びつきがあり、双方の作家が互いの出版社に移って連載することよくありました。よって、ガンガンから離れた読者が、これらの雑誌に移っていった可能性も十分に考えられます。

 しかし、実際にガンガンから離れた読者で、これらの雑誌を読み始めた人は多くありません。そういう人を見かけたことがあまりないのです。そもそも、同じマイナー系で、メジャー誌に比べればカラーが近いとは言え、それでもガンガン系と角川系ではかなり方向性も購買層も異なりますし、簡単にガンガンの代わりとなる雑誌にはなりません。メジャー誌の作品同様、一部の作品にはまって単行本を買うようになることはあっても、雑誌全体にまではまるようになった人はあまりいないのではないでしょうか。


推測6.ライトノベルに移った。
 むしろ、角川系では、マンガよりもこちらの方が有力ではないでしょうか。角川系のライトノベルは、いまやオタク系(アニメ・マンガ系を趣味とする方々)の方々の間では、マンガに匹敵する人気と規模を誇るまでになりました。その中でも、電撃文庫はいまや屈指の人気を誇りますし、角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア(あるいはミステリー)文庫も強い。角川系にはやや劣るものの、ファミ通文庫やスーパーダッシュ文庫、MF文庫Jなどもコンスタントな人気があります。

 そして、非常に大きな要素として、最近のライトノベルが、かつてとは大きく異なる方向性の作風を帯びてきたことがあります。例えば、電撃文庫などを見てみると、ほぼ2000年あたりを境として、大きな質的変化があります。それまでは、中世風の異世界を舞台にした本格ファンタジーものや、あるいは未来や宇宙を舞台にした本格SFものあたりが主流を占めていたのに対し、2000年頃から、現代を舞台とした現代ものが中心となり、その中でも、いわゆる「萌え」を全面に押し出した萌え系、日常の楽しい描写を中心とした日常系、そんな日常が世界の命運とつながるセカイ系、現代日本の日常にオカルトの要素が入ってくる伝奇系、キャラクターのバカな行動や掛け合いを全面に押し出したバカ系(電波系)など、従来とは異なる作風が鮮明となりました。中でも「萌え」のもたらした影響は非常に大きく、今では発刊されるライトノベルのほとんどが萌えに支配されていると言っても過言ではありません。

 そして、この方向性の変化が功を奏したのか、これ以降電撃文庫は凄まじい発展を遂げます。2000年前後を境に、発刊数自体が急激に伸び、多数のレーベルを毎月のように発刊するようになりました。そして、従来のライトノベルの枠に留まらない個性的な作品も多数登場するようになります(あの「キノの旅」が登場したのも2000年です)。まさに、2000年を境にして、それまでにない大きな発展を遂げたと言ってもよいでしょう。電撃文庫だけでなく、他の文庫もそれに追随するかのような方向性を踏襲し、そのいずれもが大きく発展します。

 そして、非常に重要なことは、これら今のライトノベルに特有の作風が、かつてのエニックス系の作品と、内容や絵柄の点で大いに似ていることです。このキャラ萌えを全面に押し出した作風や、現代を舞台にしたり日常の描写を中心にした作風というものは、かつてのエニックス、ガンガン系作品と大きくかぶるものがあります。そして、なんといっても中性的な絵柄のイラストレーターたちの存在が大きい。この、男女ともに受け入れられるかのような中性的な絵柄の挿絵は、まさにかつてのガンガン系の絵柄の持つ方向性とまったく同じであり、見た目のビジュアルからしてガンガン系との親和性が非常に高いのです。

 そして、ガンガンがいらぬ路線変更とその結果生じたお家騒動で衰退するのが2000〜2001年当時です。そして、まさにこれと入れ替わるかのように、ライトノベルが一気に発展したのです。ガンガン系に失望した読者たちが、当時から急速に存在感を増した、ガンガン系に近い作風と絵柄を持つライトノベルに引かれたというのは、大いにあり得る話でしょう。
 実際のところ、ライトノベルだけを専門に読むという人は少ないでしょうが、他のマンガやアニメとともに、ライトノベルを恒常的に読む人は非常に多いでしょうし、ましてかつてガンガンから離れた人々の間では、近い作風に惹かれてライトノベルを読む比率を増した人はかなりいるはずです。多かれ少なかれ、かなりの人がガンガン系の代わりとなる作品として、ライトノベルの領域に移ったと推測されます。

 ちなみに、ライトノベルの人気上昇に合わせて、いまではライトノベル発のアニメ化作品が非常に多くなっています。その一方で、ガンガンからのアニメ化作品は激減した。奇しくも、かつてのガンガンが保持していたアニメ化の枠を、今ではライトノベルが奪う形になっています。


推測7.アニメに移った。
 そして、そのアニメの力も非常に大きいものがあります。もちろん昔からアニメは存在しますが、昨今のアニメは、かつてのガンガン系読者が好むかのような内容のアニメ作品の比率が増しているのです。
 具体的には、深夜の萌えアニメですが(笑)、この存在が非常に大きい。今の深夜アニメは、昨今のマニア層の趣味(マンガ・アニメ・ゲーム・ライトノベル)のひとつの中核を成していると言っても過言ではありません。世間一般の人の認識はよく分かりませんが、今のアニメの中心は間違いなく深夜アニメでしょう。マニア層ならば特にそうです。ここ一年程度の間で、マニアの間で話題になったアニメを考えて欲しい。ローゼンメイデン、AIR、ネギま!、SHUFFLE!、極上生徒会、苺ましまろ、かみちゅ!、まほらば、ぱにぽにだっしゅ!、D.C.S.S、なのはA's、舞-乙HiME、シャナ、ARIA、Canvas2、To Heart2、かしまし、スクラン(二期)、うたわれ、いぬかみっ!、Fate、ひぐらし、そしてハルヒと、これ全部深夜の萌えアニメと言っても過言ではないでしょう。しかも、ここに挙げたのはある程度人気を集めたメジャーなものだけで、マイナーなものも挙げればもっと数は多くなります。
 これらのアニメは、マニアに限定された人気と言えばそれまでですが、しかしこれまでのマイナーな深夜アニメと違い、確固とした人気と評価を得るようになったことが最大のポイントです。これら深夜の萌えアニメの存在感は、いまや非常に大きなものとなっているのです。

 そして、これらの深夜アニメもまた、かつてのガンガン系とかなり近い方向性があり、多かれ少なかれ、かつてガンガンから離れた読者たちが受け入れやすい作品であることは間違いないでしょう。かつてはガンガンを読んでいたような人たちが、今では深夜に萌えアニメを見てキャプション画像と感想を日々ブログにアップしている(笑)。そのような姿は容易に想像できますし、実際にそういう人は少なからず存在しているはずです。多かれ少なかれ、かつてのガンガン系を好んでいたような人々が、今では深夜アニメの領域に移っているのではないかと強く推測できるのです。

 ところで、かつてはあれだけ多くの作品がアニメ化されたガンガンですが、今では雑誌の不振に伴い、アニメ化される作品は大幅に減少しました。それに代わって、ガンガン以外のWINGやGファンタジー、あるいはブレイドなどから「まほらば」「ぱにぽに(ぱにぽにだっしゅ!)」「ARIA」など、深夜の萌えアニメに相当する作品がいくつも現れ(ひぐらしも一応そうかな)、大きな人気と評価を獲得しているわけで、まさに路線変更したガンガンに対する最大の皮肉と言える状況になっています。


推測8.ギャルゲー・エロゲーに移った。
 結局のところ、これが究極の選択でしょう(笑)。そもそも、ライトノベルが今のような萌え・日常描写中心に作風が変わったのも、ひとえにギャルゲー・エロゲーからの影響があったことが最大の理由です。また、深夜の萌えアニメにおいても、ギャルゲー・エロゲー原作のアニメが大量に作られる状態になっています。いまや、ギャルゲー・エロゲーは、他のジャンルの作品に対しても、多大な影響を与える存在になっているのです。
 そして、これがまたかつてのガンガン系の読者に対しては、非常に相性のいいジャンルなのです。ギャルゲー・エロゲーというと、男性の美少女マニア向けの娯楽の印象が強いかもしれませんが、実際にはそうではありません。今のギャルゲー・エロゲーは、女性ユーザーに対してもかなりの支持を獲得しており、男女ともに幅広くファンがついている状態なのです。しかも、今のギャルゲー・エロゲーは、かつての恋愛要素中心のものばかりではなく(もちろんそれもありますが)、ストーリーで見せるタイプの作品の比率がさらに上がっています。
 つまり、ギャルゲー・エロゲーにおいても、かつてのガンガン系作品に近い方向性が強くなってきたわけで、実際に、ガンガン系の雑誌から離れて以降、ギャルゲー・エロゲーに移っていったという人はかなりいます。わたしがネット上で見かけただけでも、もうひとりやふたりではありません(笑)。いや、ガンガン系に限らず、従来はマニア系のマンガを読んでいたコアなマンガ読者が、ギャルゲー・エロゲーに目覚めてそちらに移っていくという事態は、珍しいことではないようです。
 そもそも、このギャルゲー・エロゲーというジャンルは、文章と絵に加えて、プレイヤーに強い印象を与えるサウンドや各種演出が追加されており、さらにはマンガ一冊などよりもはるかに作品のボリュームがあるなど、実に離れがたい魅力があり、一旦これにはまるともうマンガには満足できなくなる人もかなりいるようなのです。かつてはガンガン系で熱心にマンガを読んでいた人が、今ではギャルゲー・エロゲー中心の生活を送っている。これは、もはや今の主流とも言える流れであって、このギャルゲー・エロゲーに流入した読者は、実はかなりの量にのぼると思われるのです。


・結論 ──キーワードは「ボーダーレス」──
 結論として、かつてのガンガン系読者は、今では様々なジャンルへとその興味を移しており、決してひとつの場所に移っていったわけではないと考えられます。かつての読者が、広く拡散してしまったのです。

 まず、マンガというジャンルについてですが、確かに、かつてのガンガン読者が、特定のマンガ雑誌に移っていったという話は、あまり聞きません。ジャンプやサンデーのような大手雑誌にしろ、角川系のようなマイナー系雑誌にしろ、ガンガン系とは多かれ少なかれ異なるカラーを持つため、そのままそれらの雑誌に移るということは考えにくいのです。
 しかし、今では、かつてのガンガンに近いカラーを持つマンガ(中性的なイメージで萌え要素も強い個性的な作品)は、どこの雑誌でも見られるようになっています。雑誌すべてがそうというわけではありませんが、雑誌の中にいくつかそういう作品が見られるようになっている。それらのマンガを作品単位で追いかけている読者はかなりいるはずなのです。言うなれば、「ジャンプそのものは買っていないが『デスノート』は読んでいる」「サンデーそのものは買っていないが『ハヤテのごとく!』は読んでいる」そういう人は少なからず存在するでしょう。つまり、個々の作品単位で、かつての自分たちが好んでいたタイプの作品を探し当てて読んでいるわけです。
 つまり、かつてはせいぜいガンガン系か、あるいはそれに近いタイプのマニア誌にしか存在しなかったようなマンガが、いまや、幅広くどんな雑誌にでもボーダーレスに遍在するような状況になっているのです。これならば、あえてひとつの雑誌にこだわる必要もない。それぞれの作品ごとに追いかけていけばよいわけです。

 雑誌だけでなく、男性向け・女性向けの作品の間の隔たりもなくなり、こちらでもボーダーレスになりました。特に、かつては少女誌で描いていた女性作家が、今では少年誌に描くようになるケースが非常に多くなっており、もはや、女性作家が少年誌で描くというケースは当たり前の状況になっています。一昔前までは、これはガンガン系の専売特許のようなところがあったのですが、今では多くの雑誌でも幅広くそのようなことが行われている。そうなっては、もはやガンガン系にこだわる必要はないわけです。

 そして、マンガだけでなく、異なるジャンルの作品同士の関係もボーダーレスになっています。
 先ほど、「ギャルゲー・エロゲーがライトノベルやアニメにも強く影響を与えるようになった」と書きましたが、もちろんライトノベルやアニメだけでなく、マンガにも強く影響を与えています。このギャルゲー・エロゲーが与える影響は非常に強固なもので、この手の作品の持つ特徴であり、かつてのガンガン系作品の特徴でもあった「中性的な萌え」の要素を持つ作品が、ジャンルを問わずマンガでもアニメでもライトノベルでもひとつの主流となっている状況です。こうなっては、もう特定のジャンルにこだわる必要すらない。その手の「中性的な萌え」要素を持つ作品を求めて、マンガでもアニメでもライトノベルでもギャルゲー・エロゲーでも、自分の好きなジャンルから探していけばよいわけです。

 わたしは、長い間、かつてあれだけたくさんいたガンガンの読者が、今はどこで何をしているのか非常に気になっていました。どこにいってもその姿が見えない。ブレイドに行ったわけでもなければ、エニックスの他の雑誌に移ったわけでもない。他の出版社の雑誌に移ったようにも見えない。では、彼らはどこに行ったのか?
 その答えは簡単で、「作品単位でかつてのガンガン系に近いものを求めて、幅広く拡散していった」のです。ある者は別の雑誌から近いイメージのマンガを探し当て、ある者はライトノベルに、ある者は深夜の萌えアニメに、ある者はギャルゲー・エロゲーへと興味を移し、ばらばらにその場所を移していった。これが答えでしょう。
 いや、それ以前に、どれかひとつのジャンルだけに集中している人というのも少ないかもしれません。要するに、みんな複数のジャンルにまたがって作品を求めている。マンガを読みつつ、一方でライトノベルにも手を出し、深夜になればアニメを見て、そしてギャルゲーやエロゲーももちろんやる。むしろ、そういう姿こそが自然でしょう。

 このように、「かつてのガンガン読者は、ボーダーレス化が進んだ各ジャンルへとバラバラに拡散してしまった」わけですが、そんな中で、今のガンガンだけが、なぜか昔に帰ったかのような時代錯誤の方針を採り続け、一人だけ完全に孤立してしまったと言えるのです。もし、かつてのガンガンが路線変更を行わず、お家騒動も起こさずにあの方向性を維持し続けたとしたらどうだったでしょうか。ガンガン系に近い方向性の作品が幅広く人気を集めている今の状況を見れば、その中でそんな作品が集まったガンガンという雑誌は、非常に高い人気を得たのではないでしょうか。あの路線変更をお家騒動を思い返すたびに、かえすがえすも取り返しの付かないことをしたものだなと思います。


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