<「スクエニ系マンガの基礎知識」について>

2008・9・6

 先日、「第二惑星開発委員会」なる企画グループが発行する「PLANETS」というミニコミ誌に、「スクエニ系マンガの基礎知識」という、スクエニのマンガのみを特集した記事が掲載されました。「PLANETS」は、ごく少数の書店でしか販売されないインディーズ系の雑誌らしいですが、それでもスクエニのマンガが雑誌でこのような扱い(特集記事)を組まれるのは非常に珍しく、おそらくはこれが初めてに近いんじゃないかとも思います。その意味で非常に貴重な企画であり、当初からこの記事には注目し、雑誌発売直後に購入して読むことになりました。

 そして、実際に読んでみたところ、確かにかなりスクエニに関する知識を有するライターによって描かれているらしく、17年に及ぶスクエニ系マンガのおおまかなアウトラインはよく描けています。個々の作品に関する知識もかなりあるようで、紹介されている作品や作家も適切なものとなっており、主要な作品や作家、その概略を知るにはある程度適した記事になっていたと思います。

 しかし、それ以上に突っ込んだ分かりやすい記事になっているかというと、その点ではかなりの疑問であり、紙幅が大幅に限られたページ数の中で、スクエニマンガの大まかなアウトラインを提示しただけにとどまっている感も強く、果たしてこれをスクエニをまったく知らない読者が見て、どこまで理解できるかどうかは少々疑問です。雑誌名や作品名、作家名が多量に出てくる記事本文は、スクエニのマンガをあらかじめ知っている人が読んで、自分の知識の確認作業をするには適していますが、逆にスクエニをほとんど(まったく)知らない、例えば「鋼の錬金術師」や「ロトの紋章」のようなメジャーな作品しか知らない人が読んで、どこまで理解できるかははなはだ疑問だと言わざるを得ません。スクエニの主要作品をタイプ別に列挙した年表などもありますが、これも果たして知らない読者が読んでどれだけ分かるのでしょうか。

 加えて、一部にはライターのマンガに対する思想(?)が強く出すぎたところもあり、一部の箇所においてあまりにも独断的とも思える解釈をしていると思われるところもあります。特に、ガンガン中期に特徴的な中性的な作品を採り上げた箇所では、「少年マンガ的な設定に白泉系の少女マンガの問題意識を盛り込んだ」という解釈がなされており、その解釈を中心に当時のガンガンを語っているのですが、果たしてこれが幅広く読者に受け入れられる妥当な解釈なのか どうかは、評価の分かれるところでしょう。

 その一方で、逆にあまりにさらりと流しすぎた記述もあり、特にスクエニマンガの歴史上で最大の事件だった「エニックスお家騒動」に対する記述に乏しく、その前後の経緯がほとんどまったく語られていないのは、スクエニの歴史を語る上で片手落ちではないかとも思えました。このあたりの経緯こそ、スクエニを知らない人が詳しく知りたいことだと思うのですが・・・。


・ある程度の概略を知る上では適切な記述。
 この特集は、全部で12ページから成り立っており、前半の8ページが画像や年表を採り入れたスクエニマンガの概略記事、後半の4ページにこの記事を執筆したライターふたりの対談と、うちひとりの手による「まもって守護月天!」に関するコラムがあります。うち、前半8ページの概略記事こそが、「基礎知識」を知る上で特に重要なものであることは言うまでもありません。

 かなり紙幅の限られた記事ではあるのですが、それでも17年に及ぶスクエニマンガのアウトラインは、全体的にはおおむね適切に書かれているようで、ある程度の流れを掴むことは出来ると思います。とりわけ、初期のガンガンが少年志向、中期のガンガンを中性的な女性作家の台頭期、その後のお家騒動後に少年マンガへの回帰とした、大まかな流れの記述は、確かに秀逸であり、きちんと読み込めばガンガンの歴史の流れを正確に掴むことが出来るでしょう。ガンガン以外の雑誌、とりわけGファンタジーに関する記述もおおむね正確です。

 あと、ガンガンに対する歴史の見方については、おそらくはこのサイトの影響を受けていることは確実で、「中性的」というこのサイトで編み出したような言葉が、よもやここで聞けるとは思いませんでした。しかし、それ以上に突っ込んでうまく書かれた箇所も多くあり、特に初期から中期への過渡期のガンガンで、ジャンプ系大物作家を鳴り物入りで投入したが成功しなかった、という記述などは、このサイトでは書かれていないもので、より的確なものだと思われます。


・しかし、スクエニ系を知らない人には分かりにくいことも事実。
 ただ、ある程度の概略はかろうじて知ることは出来るかもしれませんが、それ以上に理解を助ける情報には乏しく、とりわけスクエニ系を知らない人には分かりにくい記事になっているとも感じます。

 とにかく、挙げられている作家や作品はかなり多いのですが、それ以上の文章量に乏しく、個々に対する詳しい解説が見られないため、単なる作家名・作品名の羅列に終わっている感が強いのです。これは、そもそも8ページと紙幅が限られている上に、大量の画像や年表でさらにページが占められているためです。そのため、記事の文章量が見た目以上に少ない。さらには、本文中の作家や作品を解説するために、大量の脚注が設けられていることも、さらに理解度を妨げる役目を果たしています。脚注に書かれた情報が、極めて断片的な記述にとどまっていることも、理解し難い要因でしょう。これは、スクエニの作家や作品をある程度知っている人が、自分の知識を確認・補強しながら読むには適していますが、ほとんどスクエニの知識がない人が読んでも、自分の知らない作家や作品の断片的な知識が雑多に描かれているだけであり、これからスクエニ系コミックの姿を思い描くのは難しいでしょう。

 とりわけ、8ページのうち半分の4ページを占めている、スクエニ作品を列挙した年表については、わたしのようなスクエニについて詳しい人が見れば、かなりマイナーな作品名まで書かれていて「おお!」と思ってしまうのですが、逆にスクエニを知らない人が見ても、自分の知らない作品名だけがただ列挙されているような状態であり、ほとんど理解の助けにはならないのではないでしょうか。ある意味では、この記事自体、「スクエニのマンガをある程度知っている読者向け」に書かれているようなところがあります。

 そして、文章量が乏しいことは、雑誌ごとの取り扱いのばらつきも生んでいます。具体的には、「少年ガンガン」と「Gファンタジー」については、その歴史の流れをかなり詳細に記述しているのに対して、それ以外の雑誌「少年ギャグ王」や「ガンガンWING」に関しては、通り一遍の紹介にとどまっており、めぼしい流れの記述がありません。もしかすると、この記事を書いたライターは、ガンガンとGファンタジーに対する興味が特に強いのかもしれません。


・ライターの突っ込みすぎた思想が一部に見られるのも難点。
 さらには、記事の一部において、ライターの特定の作品に対する思想が強く垣間見られることも、少々ながら疑問を呈します。

 具体的には、中期時代のガンガンの記述箇所において、当時の雑誌支えた中性的な絵柄の女性作家について、彼女たちの作品を「少年マンガ的な設定に白泉系の少女マンガの問題意識を盛り込んだ」と解釈していることです。そして、その問題に最も自覚的だったのが「まもって守護月天!」の桜野みねねであり、その意識が高じるあまりにやがて作品の制作に齟齬をきたし、やがて連載が中断する最大の原因となった、としています。特に、この桜野さんについてはライターが一家言あるようで、「桜野みねねの『隘路』について」と称する独立したコラム記事も書かれています。

 しかし、当時のガンガンの連載マンガを、少女マンガ的だと捉える見方は結構あり、完全にこれが間違っているとは思えませんが、それにしてもちょっと極端な解釈だとも思えます。白泉社の「花とゆめ」系の作品との間には、確かに親和性が高く、女性読者には両方の雑誌を好んで読んでいた人も、当時結構いたようですが、それ以上にガンガン系と少女マンガとの間には、やはり大きな違いがあるとわたしは見ています。

 ここからはわたし個人の意見ですが、そもそも、ガンガンのこの当時のマンガ(中性的なマンガ)を、既存の少年マンガや少女マンガの概念で説明するのは難しいように思えます。「まもって守護月天!」のように、一部少女マンガ的な雰囲気がかなり強く見られるケースもありますが、それ以外の大半のマンガにおいては、少女マンガ的な雰囲気を感じることは多くなく、やはり少女マンガ誌の連載とは一線を画するところがあるような気がします。これは、中性的な絵柄においてもそうですし、何よりも内容面でもはっきりと違いがあると思います。この記事のライターは、この当時のガンガンの連載を、「少年マンガ的な設定・中性的な絵柄・少女マンガ的な内容」だと考えているようなのですが、果たしてそう厳密に言い切れるかどうか。わたしは、むしろガンガンの中性的なマンガは、他には無いこれ独自の個性を持っているものとして評価したいところなのですが・・・。まあ、既存のマンガを引き合いに出して論じた方が、スクエニを知らない読者には分かりやすいのかもしれません。


・その一方で、重要な箇所で記述に欠けるところも。
 また、そのような突っ込んだ思想にひどく紙数が割かれている一方で、割と重要だと思える箇所に書かれていないものがあるように思えます。例えば、あの「エニックスお家騒動」などは、スクエニ系マンガの17年の歴史の中でも最大の出来事だと思うのですが、その前後の経緯がほとんど記述されていません。一部の編集部員がエニックスを離脱して新会社、新雑誌を立ち上げたという、通り一遍の事実しか書かれていないのです。また、編集部の離脱で連載作品が移転したことをきっかけに、ガンガンは少年マンガ路線に回帰していく、という記述もあるのですが、これは明らかに事実誤認を生むのではないでしょうか。実際には、少年マンガへの回帰路線は、お家騒動での連載離脱以前から始まっており、むしろそれが原因となって一部編集者の反発、離脱を招いたとするのが真相でしょう。この「エニックスお家騒動」は、スクエニ系の歴史を語る上で欠かせない重大すぎる出来事なので、ここだけは的確な記述がほしかったところです。

 さらには、そのお家騒動時で離脱した連載陣のうち、ブレイド(マッグガーデン)の作品は、スクエニの作品同様に扱われているのに大して、もうひとつの離脱組である一迅社の方は、ほとんど(まったく?)記述されていません。確かに、一迅社の作品は、当初からエニックスからの作家陣に依存していたブレイドと違い、最初から自社出身の作家も多く、より独自色が強い傾向にあることは事実でしょう。しかし、それでも旧Gファンタジーから移籍した作家陣はかなり多く、あるいは「パッパラ隊」の松沢夏樹のように、旧エニックスから拾い上げられた作家もいるなど、やはり相応に関係は深いと思われます。それに対してほとんど記述がないというのは、さすがに少々考え物でしょう。スクエニ・ブレイドの作品が共に区別なく年表内に書かれているのに、一迅社の作品だけまったくないというのは、さすがに違和感があります。


・そして「対談」が大問題。
 そして最後に、記事12ページの中で4ページを占めている対談というものが問題です。というか、なぜ対談なのでしょうか。
 この手のサブカル系の雑誌では、やたら対談記事が多いと感じるのですがどうでしょうか。サブカルと言えば対談、対談と言えばサブカルです(おおげさ)。なんだってそこまで対談が好きなのか。サブカル界の重鎮と言える人々は、何か年中対談ばかりやっているような気もしますが(笑)、そこまで対談ばかりやって意味があるのでしょうか。

 古代ギリシャの哲学者プラトンの著作は、そのほとんどが対話篇(民衆や賢人そして弟子たちとの対話・討論)で成り立っていますが、これは現実に行なわれた会話をありのままに録取・再現したということでは決してなく、自らの考え方や信念、思考形態等を明瞭に表現し、なおかつ他者に分かりやすく説明する方法として対話という形式が最も優れているからに他なりません。しかし、この手のサブカルでの対談ページは、そのような高度な見解で企画されたようには思えず、「単にそれで簡単にページが編集できて楽だから」という理由が最も大きいような気がします。

 対談をやったからといって、それでいい結論が出るとは限りません。単に、参加者が自分の趣味嗜好を適当にしゃべって、それでおざなりになんとなくまとまって終わり、というケースの方が多いように見えます。この企画の対談は、まだそれなりの内容にはなっているようですが、それでも各個人の勝手な見方が出ている点は否めない内容です。「対談は複数の人が行うのだから、複数の見方が出てきてより客観的な結論が出る」という間違った考えが蔓延しているようにも見えます(この間違った考え方は、ファミ通などのクロスレビューにも見られます)。

 そして、ましてこの「スクエニ系マンガの基礎知識」は、ただでさえページ数が多いとは言えない企画ページで、かつスクエニ系をよく知らない人たちにも向けて書かれた企画です。それならば、おざなりな対談などは避けて、もっと基礎知識の記述に紙幅を割くべきではなかったでしょうか。


・ある程度の概略にはなっているが、これで完全な理解は難しい。
 以上のように、この「スクエニ系マンガの基礎知識」、ある程度の概略を知る上では一定の役に立ちますが、それ以上に文章量が少なく、詳細な分かりやすい記述に乏しいことが大きく、「スクエニ系を知らない」人には分かりにくいものになっていると感じます。「スクエニ系マンガの基礎知識」とありますが、実際にはスクエニをある程度知っている人が確認作業に使うのに適しているような気もしますし、スクエニ系を知らない人に分かりやすく紹介するという目的を、達成しきれているのかどうかはかなり疑問です。

 加えて、ライターの思想が一部突出しすぎている箇所や、逆に重要なのにあまり詳しく書かれていない箇所もあったり、さらにはページの三分の一を占める対談が、ライターの個人的な見方が雑多に提示されているだけであまり意味のあるものとは思えないなど、少々おざなりなところも多い企画だと思います。スクエニ系をこのように扱う記事は非常に希少であり、ある程度の概略を提示できただけで一定の成果は上がったと見ることも出来ますが、出来ればもっと紙幅を取って、より分かりやすい適切で詳細な記事にしてほしかったと思います。結論として、この「スクエニ系マンガの基礎知識」を他人に薦められるかというと、ある程度スクエニを知っている読者に薦めるのは面白いかもしれませんが、あまりスクエニ系を知らない人には薦め難いというのが正直なところですね。


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