<たかひろ的「このマンガがすごい!2013」>

2012・12・15

 毎年年末になると出る宝島社のムック「このマンガがすごい!」なわけですが、毎回毎回あまりにも自分の好きなマンガがランクインしない、というかかすりもしないので、とうとう切れて自分でも勝手にランキングを出してみることにしました。本誌の順位とはまったく異なるランキングになること間違いなしです。

 また、選出するにあたって、「なぜこのマンガは『このマンガがすごい!』で選ばれないのか」その理由について推測できることをあれこれ書いています。「このマンガがすごい!」で選ばれているマンガは、確かにどれも面白い作品で、それについては異論はまったくありません。しかし、それ以外にも面白いマンガ、選ばれてもおかしくないマンガは多数あるわけです。そういった、このムックで拾い上げられないマンガについて、今回はあえて光を当ててみます。

 なお「このマンガがすごい!」では、選者ごとに5作品ほどのマンガが選ばれ、それぞれ1位〜5位の順位もついていますが、わたしもそれに準じてあえて順位を付けてみました。また5作品ではちょっと語り足りなかったので、もう1作品ほど選外として紹介しています。


・選外「魔法科高校の劣等生」(原作・佐島勤、作画・きたうみつな)
 まあ、これはコミカライズ(コミック化作品)ならなんでもいい話なのですが、こうしたライトノベルやアニメ、小説などをコミック化したマンガがほとんどランキングに入らないのが気になります。そもそもみんな最初から眼中にないというか、入っていると逆に場違いな感じさえ受けます。

 「今面白いマンガ」のランキングですから、オリジナルの個性的な作品の方が入りやすいことは理解できるのですが、しかしこうした作品が、最初からランキング入りを期待できないのはどうかと思うのです。
 こうしたコミック化というのは、スクエニや角川などコア向けのマンガを出す出版社ならば盛んで、あるいは最近では大手出版社でさえ頻繁に見られます。今のマンガ業界において、こうした「コミカライズ」がひとつの大きな柱となっているといっても過言ではありません。そういった作品にも良作は数多くありますし、そちらにも目を向けるべきだと思うのです。

 今回、選出された作品を見渡してみると、わずかに「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」のコミカライズの名を挙げた人が数人ほどいました。これはアニメからのコミック化で、原作アニメが各方面に非常に高い評価を受けての選出ではないかと思いました。逆に言えば、ここまで有名でマンガ読みの間でも評価されつくした作品でもないと入らないわけです。
 また、今回の選者の中にひとり、「書店にはアニメ原作やコミカライズや作品が溢れ、ジャンルは細分化されつくし、キャラクターは個性から美少女のルックスのみが剥がされ愛玩され続ける」といったコメントを出した方がいました。まあ、今のマンガをどう捉えようがそれは個人の自由なわけですが、しかしこうした選者の存在が見られる限りは、この本のランキングにコミック化作品が入るのは難しいでしょう。

 さて、ここで挙げた「魔法科高校の劣等生」ですが、これはライトノベルが原作のコミック化作品で、コミカライズが盛んなスクエニの中でも今年とりわけ完成度が高かったなと思った作品です。これ以外にも、例えば数年前よりスクエニのコミック化企画の定番となった「ひぐらし」「うみねこ」シリーズのコミカライズや、あるいは今年好評だったオリジナルアニメからのコミカライズ「TARI TARI」、ガンガンでは長期連載の看板となっている「とある魔術の禁書目録」やJOKERでの「”文学少女”」シリーズのコミカライズなど、スクエニにはいずれも本当に内容のある読ませるコミカライズの良作は数多くあります。今回、こうした作品にひとつでも目を向けてほしいと思って、それを代表する作品をひとつ挙げてみました。


・第5位「予告犯」(筒井哲也)
 今回の「このマンガがすごい!」、ランキングでちょっと気になったことがひとつあって、それは「本来入ってもおかしくない作品が、意外にもランキングに入ってない」ということです。この「予告犯」もそれに該当します。
 これは、集英社のジャンプ改で掲載されている作品で、以前はスクエニでいくつか連載を行っていた筒井哲也による久々の新作です。彼の作風は、とにかく非常にリアルに現実を捉えているということ。絵のタッチがリアルで見ごたえがあるというのもありますが、それ以上に現実の人間の姿をあまりによく捉えていて、とりわけ社会で虐げられる社会的弱者の描写に見るべきものがあります。また、それと同時に、作者の趣味であるゲームの精細な描写も見ごたえがありました。スクエニでは珍しい社会派の作品として、取り上げるべきものがあったと思います。

 そして、この「予告犯」は、かつてよりもさらにリアルなものとなっていて、特に今の低俗なネットの姿を露骨に捉えたところがまずすごい。まとめサイトにTwitter、You Tubeやニコニコ動画(生放送)など、我々が普段接しているネットサービスが次々に登場し、そこに書き込まれるコメントがまた実にリアルで、よくネットを研究しているなと感心します。
 さらには、いわゆる「ワーキングプア」の悲惨な実態を徹底的に描いているところも素晴らしい。かねてより社会派の作家だなと思っていましたが、今回の作品はかつて以上に今の日本の姿を正鵠に捉えていて、まさに今読むべきマンガだと思うのです。

 しかし、これほどの作品であるにもかかわらず、今回は上位50位に入らないどころか、これの名前を挙げた人もほとんどいませんでした。これは自分にとってはかなり意外で、ひどく不思議に思ったくらいです。少し前に開かれた同じようなマンガ賞で「マンガ秋100」というものがあったんですが、こちらでは比較的下位ながら入っていたので、今回もまた取り上げる人はかなりいると思っていたのですが・・・。

 これを見て感じたのは、今では「このマンガがすごい!」に取り上げられそうなマンガ(文芸的な価値のありそうなマンガ)の中でさえ、既にひどく個人個人の趣味の細分化が進んでいて、何かしら話題にならない限りまったく取り上げられないケースも多いのではないかということ。毎週毎月刊行される膨大なマンガの、その全貌をつかんでいる人は、いわゆるマンガ読みでさえごく少数なのではないでしょうか。


・第4位「月刊少女野崎くん」(椿いずみ)
 この4コママンガというものが、これまた「このマンガがすごい!」ではまったくと言っていいほど選ばれないのですが、今回はちょっとひどすぎました。今まで以上に4コママンガを挙げている人がほとんどいない。わずかに4コマ系でブログを運営している管理人の方が取り上げているのが救いで、それがなければ全滅と言ってもいいほどでした。それゆえか、今回はランキング本編とは別に、4コママンガだけを取り上げた特集ページが2ページほど組まれているくらいで、そうでもしないと4コママンガのタイトルがまったく出てこないのです。

 ここまで4コママンガが取り上げられない理由は、思い当たる節がいくつかあります。今の4コママンガは、大きく分けて「ファミリー系」と「萌え系」(きらら系とも言うべきか)が主流だと思われますが、そのどちらもマンガ読みの好んで取り上げる「文芸的な価値のある作品」には該当しそうにないのです。ファミリー系4コマは、実際にありそうな日常の風景を映し出したコメディで、「それ自体をのんびり笑って楽しむ」ことが読者の目的とも言えますし、それ以上の深い内容はないと考える人が多いのではないかと推測できます(実際には決してそれだけの作品ばかりではないのですが)。そして、いわゆる「きらら系」の作品は、かわいい女の子キャラクターが中心の日常萌え系を地で行く作風ともいえますし、この本で取り上げる必要のないオタク向けの萌えマンガだと思われている可能性が高いのです。

 そんな中で、この「月刊少女野崎くん」は、まだこの本で取り上げられそうな作品ではありました。既に少女マンガで評価されている作家の新作ですし、少女マンガ家が主役のマンガ家コメディという点でも、マンガ家の仕事を扱ったマンガが取り上げられやすいこの界隈でランキングに入ってもおかしくなかった。実際の人気・売り上げも文句ない作品でしたし、その点でも問題なかった。
 しかし、このマンガでさえほとんど選ぶ人がいない状態では、もう4コママンガが入る可能性はほとんどないと見ていいでしょう。多分あの「けいおん!」あたりでも難しい。売り上げで「けいおん!」の次を行く作品の「WORKING!!」の名前もまったく見られませんでしたし。4コママンガのファンはあきらめて別の本やサイトを探した方がよさそうです。


・第3位「ゆるゆり」(なもり)
 コミカライズ作品・4コママンガに続き、これまたまったくと言っていいほど選ばれそうにない作品を取り上げてみました。しかしわたしはこのマンガ大好きです。いや、わたしだけでなく、このところ原作もアニメも大人気で、原作コミックが週刊売り上げランキングの上位に入るほどです。だが、しかし、それでもこの本には絶対に選ばれないだろうという確信があります。おそらくはこのマンガ、「このマンガがすごい!」に最も選ばれないタイプの作品だと思っています。

 その理由は、この「ゆるゆり」が、ひたすらゆるいコメディでそれ以上の深い要素はさほど多くはないこと。いわゆる日常系のゆる萌えマンガで、笑えるギャグ・コメディの面白さは十分で、さらにはタイトルどおりゆるい百合要素を見て楽しむマンガになっています。これはこれで娯楽作品としては十分なのですが、しかし「このマンガがすごい!」で選ばれるような、なんらかの文芸的な価値のある作品ではない。人間や社会を扱った深いテーマ性があるわけではなく、登場人物の深い心理描写が見られるようなマンガではない。まったく深い要素がないとまでは言いませんが、しかしそういった要素は薄く、ただゆるい百合をひたすら楽しむことがメインの作品が、ここで選ばれるわけがありません(笑)。

 ところで、この「ゆるゆり」は、百合作品を集めた雑誌・百合姫の連載ですが、この「ゆるゆり」よりはむしろ他の百合作品の方が選ばれやすいような気がします。登場人物の深い心理・切ない心理が見られる作品も多いですし、そういった作品の方がいかにも選ばれそうです。また、最近大いに人気を博している「百合男子」もまた選ばれてもおかしくない。百合好きの男子から見た百合シーンの解説とも言えるこのマンガならば、「楽しいながら百合作品の本質をよく表している」などと評価されてもおかしくありません(とはいえこれらの百合作品も今回はほとんど選ばれてないのですが)。

 話を返して、この「ゆるゆり」が選ばれないのは、やはりいろいろと深刻で、2回もアニメ化されて原作コミックもコンスタントにとても売れている作品、ネットのニコニコ動画やpixiv、Twitter界隈でも大人気のこの作品の名前がまったく出てこないのは、やはり違和感が大きい。この一部ネットでの盛り上がりに対する反応があまりに薄いのもこの本の特徴で、こうしたネットでの盛り上がりにアクセスする人が少ないか、あるいは知っていてもそういった動きは評価しない(あくまで文芸的な価値のある作品を重視する)人が多いと推測されます。


・第2位「ハイスコアガール」(押切蓮介)
 これはばっちり2位に選ばれている作品ですが、わたしとしてもこのマンガには完全にはまっているので、選ばないわけにはいきません(笑)。一般的な評価基準から大きく外れている(?)わたしの目から見ても、これが抜群に面白いことは間違いないです。

 このマンガ、青春ラブコメとして評価する人と、かつての90年代初頭のゲーセンやレトロゲームの描写を評価する人がいると思いますが、わたしは断然後者です。かつてその90年代にゲームセンターに通いつめていたわたしにとっては、まさにピンポイントでヒットする作品でした。かつてファイナルファイトやストリートファイターIIにはまった人は、このマンガは必見でしょう。作者のゲーム知識には確かなものがあり、ゲームが好きな人ならおおっと思わずにはいられないマニアックな常識がふんだんに登場します。作者のゲーム愛を存分に感じますし、同じゲーム好きとしてこの作品に出会えたことが最高に嬉しい。

 ところで、このマンガが2位に入るほどに選ばれた理由は、やはり作者「押切蓮介」のネームバリューが非常に大きいと思っています。以前から「ミスミソウ」などの作品でマンガ読みの間で評価されていた作者で、さらには今回はとっつきやすい青春ラブコメ、しかもかつて愛着を持っている人が多いレトロゲームを扱っているということで、ここまで高い評価が集まったのではないでしょうか。かつての押切作品は、ホラーだったり過酷ないじめを扱ったりで抵抗のある人も多かったのではと思いますが、今回は本当にとっつきやすく誰もが楽しめる作品になっていた。それが2位という数字に表れています。

 あと、これはスクエニのビッグガンガンの連載ですが、この雑誌を買って読んで選んだという人は、さすがにほとんどいないと思いました。ビッグガンガン自体(あるいはスクエニの雑誌自体)マンガ読みの読む雑誌から大きく外れていますし、ほぼこの「ハイスコアガール」の得票だけで、この本の雑誌ランキングの10位に入っているのは大きな皮肉です。


・第1位「妖狐×僕SS」(藤原ここあ)
 しかし、「ハイスコアガール」がいくら評価が高いとはいっても、今のスクエニには他に売れているマンガはいくらでもあるわけです。それには、これと同時に50位以内にランクインしている「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」や「ばらかもん」もそうですが、ランクインしていないマンガでもいくらでもある。そんな中で今年ひとつ挙げるとすれば、やはり最近アニメ化した作品「妖狐×僕SS」か「男子高校生の日常」か「咲-Saki-阿知賀編」あたり、特にスクエニらしい作品で個人的にも一番気に入っている「妖狐×僕SS」を推したい。

 このマンガ、そもそもアニメ化する以前からコミックスが累計120万部くらい売れていて、アニメ化を契機に一気に300万部を超える大ヒットになりました。元から人気はあったわけですが、アニメ化で3倍近くの売り上げになったわけで、やはりテレビアニメの力は強いと感じました。

 しかし、それだけ大人気のこのマンガも、やはり「このマンガがすごい!」ではまったく選ばれない。オタク向けのマンガだと思われているのか、そうでなくても文芸的な価値がないと思われているのか。アニメの11話などは重いモノローグの連続で、その内容が非常な反響を得たのですが、まあそもそもアニメを見ている人が多くないわけですね。実は、このアニメ化というものに対する反応が少ないのが、この本の大きな特徴です。普通の本ならそういう「テレビアニメに連動した反応、動き」があってもおかしくないと思うんですが、この本はそれに乏しい。あくまでマンガのみをストイックに追求するマンガ読みのための本というイメージですね。それでもまだジャンプやサンデーなどのメジャーな作品のアニメ化ならランキングに入ることもままありますが、逆にこうした深夜放送のマニア向けのアニメが入ることはほとんどない。やはり元から選ばれないタイプの作品は、アニメ化してもさして注目はされないということでしょう。

 また、「このマンガがすごい!」は、選出される作品が「オトコ編」と「オンナ編」に分かれているわけですが、この「妖狐×僕SS」は、一体どちらに入るのでしょう。内容的には少女マンガに近いと思いますが、掲載誌はどちらかといえば男性読者が多い少年誌とも言えますし、このマンガも男性読者が多い。しかし一方で女性読者にもとても人気がある。こうした作品は、「このマンガがすごい!」では、もし票が入ってもその票が2つに割れて、選ばれにくくなるのではないかと思います。これもこの本の大きな問題点ですね。

 しかし、そうした男性女性を問わずに支持される、こうした中性的な作品こそが、スクエニマンガの大きな魅力であり、それがこうしてアニメでも支持を得たのは、本当に意義のあることではないかと思っています。これまでもスクエニ(エニックス)でも、アニメ化されてきた作品は数多くありました。しかし、ここまで原作の中性的な作風をそのまま再現したアニメはそう多くない。それゆえに、このアニメ化を契機に原作も注目されて評価されるとうれしかったのですが・・・。まあこの本にそれを期待するのは無理でしたね。


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