<ネットで流行るマンガたち>

2007・6・30

 ここ最近、ネットの一部で話題になったマンガが、爆発的に売れるという現象が頻発しています。ここでは、そんなマンガの代表的なものをいくつか紹介すると共に、そのような現象がなぜ起こるのか、真剣に考えてみたいと思います。


・「みかにハラスメント」
 まず、最初にこれを挙げざるを得ません。このマンガは、この手のマンガが爆発的に売れる端緒となった出来事となった作品で、個人的にも、このマンガの連載開始時、あるいは開始以前の作者の読み切り時代から、ずっと雑誌で読んでいたという経緯があり、その点から見ても興味深い作品です。

 前述の通り、わたしは、このマンガを雑誌(ガンガンパワード)掲載時からリアルタイムで読んでいたわけですが、その当時から、とにかく異常な個性を持つマンガだったことは間違いありません。ガンガンパワードは、スクエニ系でも最もマイナーで、雑誌読者はかなり少ないのですが、その少ない雑誌読者が揃って、その少年誌とは思えないエロ全開の内容にあきれ果てていました。作者のデビュー作の読み切りは普通のマンガだったのに、その後の作品がなんでこんなマンガになってしまったのか、それを疑問に思わざるを得ないような内容でした。
 そんなマンガでしたので、「これがコミックスになることはまずないだろう」と思っていたのですが、それがいきなりコミックス化されてしまったことが、まず第一の驚きでした。「こんなマンガのコミックスを出していいのか」と本気でスクエニの決定を疑ったほどです。売れ行きの予想でも、当然ながらこんなマンガが売れるはずはないと、誰もが思っていました。

 ところが。これが発売日(2005年3月25日)直前あたりから、ネット上での風向きが変わってきます。なぜか、普段はスクエニ系のマンガを読まない(スクエニ系とは直接関係ない)人のサイトで、これを採り上げる人が急増するのです。中には、多くのアクセス数を集める大手サイトもいくつか混じっており、そこでの紹介に釣られて、リンクを貼って自分のサイトでも記事にする人が急増しはじめ、一気に盛り上がってきます。

 そして、実際に発売されるやいなや、一部の書店で爆発的な売れ行きを示し、ネット上のオンラインショップ(アマゾンなど)でも大ヒット。一時的に売り上げランキングで1位にまで登りつめます。一部の書店とは、いわゆるマニア系書店であり、そのような書店では、一瞬にして在庫がなくなるという異常事態となり、しかもそれが数カ月の間続くのです。ここまで大規模な現象は、あまり見たことがありません。

 しかし、ここで問題なのは、それ以外の一般の書店です。例えば、わたしの近所の大型書店では、マンガにもかなり力が入っている複合型の大型店舗なのですが、そこで入荷した「みかにハラスメント」はたったの一冊。しかも、その一冊が売れるのに数日の時間を要しました。これは、秋葉原のようなマニア書店があつまる場所とは、あまりにも対照的な状態であり、あくまで「ごく一部」の盛り上がりであったことを暗示させます。

 それに加えて、このマンガの場合、雑誌連載時とコミックス発売時との盛り上がりの違いも、あまりにも対照的です。雑誌掲載時には、掲載誌がマイナーで読んでいる人も少なく、話題になるどころか、ほとんど誰も知らないようなマンガだったのに、ネットで盛り上がってコミックスが発売するやいなや、普段スクエニ系を読まない人までが(むしろその方が大半)、いっせいにこのマンガを採り上げ始め、そのまま神のごとく祭り上げていき、一部のサイト管理人などは、「2005年で一番の話題作」などと表現していました。雑誌掲載時の状態を考えれば、そのようなことは到底ありえないはずですが・・・。


・「ユリア100式」
 そして、この「みかに」のありえないほどのヒット後、このような「少年誌、もしくは一般の青年誌ではありえないようなエロに満ちたマンガ」が、ネット上で話題になり、爆発的な売り上げを示す例が、頻繁に起こり始めます。その代表的なものが、この「ユリア100式」でしょう。

 このマンガ、ヤングアニマルでの連載ですが、読み切り時代からその過激なエロをギャグネタした作風が大いに受け、連載でもそれを維持し続けます。こちらは、「みかに」のガンガンパワードに比べればまだ読まれている雑誌のため、雑誌時代からそれなりの読者はいたようです。しかし、やはりネット上でブレイクするのは、コミックスの発売時(2006年8月)になります。

 この時の現象も、「みかにハラスメント」の時とまったく同じです。コミックスの発売時に、マニア系の書店がこぞってこのマンガを採り上げ大々的に陳列し、それを大手サイトが大きく「報道」し、その記事をネット上のサイトやブログがいっせいにリンクを貼り始め、爆発的な広がりを示してしまうのです。
 このマンガの場合、エロだけではなく、それをバカバカしいギャグに昇華した「ネタ」に関しても大いに読者受けします。このような「エロ」(もしくは「萌え」)と「ネタ」系のマンガが、ネットで流行るマンガの特徴としてたびたび登場します。


・「デトロイト・メタル・シティ」
 そのヤングアニマルでの連載では、こちらの方が一足先にネット上でのヒット現象を達成していました。この「デトロイト・メタル・シティ」の、一般層をも巻き込んだ爆発的ヒットは凄まじく、この手の「ネットで流行ったマンガ」の代表格となります。

 このマンガも、とにかくネタに満ちたマンガで、そのようなネタで笑いを採る作風でヒットしてしまった作品です。主人公でデスメタルバンドの中心人物である「クラウザーさん(ヨハネ・クラウザーII世)」が、周りの信者たちに祭り上げられ、数々の伝説を打ち立てるようになるというストーリーで、その主人公の悲惨さが大いに受けまくり、カルト的な人気を博するようになります。しかも、このマンガの中では、「ネット上でも大人気を誇る」という設定で、これはまさに現実でのネットでのヒットともリンクしているようで、これがまた妙に面白いところです。

 このマンガは、「一般層までネットでの流行に巻き込まれた」という点が、非常に重要です。作品が登場したのは「みかにハラスメント」の方が先ですが、それはあくまでもマニア、オタク層のみの間での流行でした。それが、この「デトロイト・メタル・シティ」では、一般の読者にまで盛り上がりが波及してしまい、その売り上げの規模も非常に大きなものとなりました(現在、累計発行部数100万部突破)。こちらの方は、正真正銘「2006年最大の話題作」と言ってもよい状態にまでなってしまったのです。


・「ないしょのつぼみ」
 そして、ネットで流行るマンガは、少女マンガにまで普及し始めます。最近では、一部の「萌える」少女マンガに興味を示すオタク層が多く、彼らに注目を浴びてしまった作品がネットで爆発的に売れる現象が、これまたたびたび起こるようになります。

 その代表格が、この「ないしょのつぼみ」です。作者は、かつての「水色時代」で一世を風靡したやぶうち優ですが、彼女の絵はとにかくやたら萌えるため(笑)、当初からオタク層に対してやたら受けがよかったのですが、この「ないしょのつぼみ」は、彼女の作品の中でも、その少女向け性教育漫画というコンセプトがやたらめったら受けまくり、爆発的な盛り上がりを記録してしまうのです。

 このマンガも、コミックスの発売で盛り上がるという現象が、全く同く見られました。コミックス1巻の発売は2005年4月ですが、これは奇しくも「みかにハラスメント」の発売とほぼ同時期です。掲載誌は、「小学四年生」および「小学五年生」ですが、普段はこの手の児童向けマンガ雑誌までは読まない高年齢層のオタク読者が、ネット書店でこのマンガに一斉に殺到し、瞬く間にアマゾンでトップクラスの売れ行きを示すという、異常事態を示すことになります。このような、本来想定していた読者とは異なる読者に受けるという現象は、ネットでは特徴的に見られる現象です。

 最近では、少女マンガがオタク層のチェックの対象に完全に入ってしまったのか、コミックス発売直後から爆発的にヒットする少女マンガが、かなりよく見られるようになります。典型的な例が、「会長はメイド様!」あたりでしょうか。これは、ツンデレ委員長がメイド喫茶でバイトするという話で、最初からある程度オタク的な設定を採り入れたような作風です。あらかじめ、そういった層の読者を想定するような少女マンガも、最近は増えています。


・「ToLoveる」
 少年マンガも負けてはいません。これは、週刊少年ジャンプという最大大手の雑誌での連載作品で、しかも作画担当が「BLACK CAT」の矢吹健太朗ということで、その点でも知名度は抜群でした。内容も少年誌では定番とも言えるラブコメ(エロコメ)で、そこでも最初からかなりの売れ行きが予想できるような作品です。しかし、このマンガの場合、 そのエロ描写が従来のジャンプ作品からは抜きん出ており、その点でまたもやネット上の大手サイトの注目を集めてしまうのです。

 このマンガの場合、雑誌自体がメジャーということで、連載時からかなり知られた作品ではあったのですが、それでも、ネット上で爆発的に盛り上がったのは、やはりコミックス発売時です。それも、このマンガの場合、コミックスで雑誌掲載時とは大幅な修正が加えられていたことが、オタク系読者に大いに受け、作画担当が神扱いされるまでに盛り上がってしまいます。いわゆる乳首修正というもので、このようなネタ的な作画で盛り上がるという状態は、傍目にはあまりにもバカバカしいものでした。

 このマンガは、これまでの「エロ」「萌え」でネット受けしたマンガの集大成とも言える状況を呈しており、以後このようなマンガがネットで大受けする現象が、これまで以上に頻繁に見られるようになります。あの「みかにハラスメント」のヒット以来、少年誌での表現の過激さが増してしまい、「この程度までなら大丈夫」という限界が、必要以上にゆるくなってしまった印象があります。


・「いいなり!あいぶれーしょん」
 そんな男性向けエロ・萌えマンガの中でも、もはや過激さで頂点にまで達してしまったのが、この「いいなり!あいぶれーしょん」です。掲載誌は、ドラゴンエイジというマニア向けの一般誌で、萌え系のマンガも多い誌面ではあるのですが、そんな中でもこのマンガの過激さは異常で、雑誌掲載時から一部の読者には異様な注目を集めていました。

 これまでのこの手のマンガの流行ぶりからして、「このマンガもコミックス発売時に異常な盛り上がりを示すのだろう」と予想していましたが、案の定その通りとなりました。それも、このマンガの場合、おもらしという、ほとんど成年誌かと見まがうばかりの過激すぎるエロ表現が大いに受けまくり、一部の大手サイトでは「2007年最大の話題作」とまで呼ばれる有り様となりました。もはや、この手のマンガの決定打にまで到達してしまった感があります。「みかにハラスメント」以来、この手のマンガの少年誌(一般誌)での過激さは増す一方でしたが、これこそがもはや頂点でしょう。

 そして、このマンガの影響は、他のドラゴンエイジの作家陣にまで及んでしまい、このマンガを真似たかのような、過激なエロ表現に追随するマンガまで頻繁に登場し始めます。まあ、あそこまで凄まじいマンガを見てしまったあとでは、「あそこまでならOKなのか」と考えてしまうのも無理のない話でしょうが、それにしても、このような方向での雑誌の盛り上がりは、当初の雑誌のコンセプトを考えれば、なんとも信じ難いものがあります。



・「まとめ」
 このようなネット上で盛り上がるマンガを見ると、ある一定の特徴があることが分かります。

 具体的には、まず「エロや萌え、ネタに特化したマンガが盛り上がる」ということです。元々、このような分かりやすいオモシロさを持った作品が盛り上がりやすいことに加え、大手のマンガサイトやニュースサイトでも、この手のマンガを重点的に採り上げるマニアックなサイトが非常に多いため、ますますもってその手のマンガに注目が集中する結果となっています。
 特に、この大手サイトの影響は非常に大きく、ここでマンガを採り上げた記事に、多くのサイトやブログがリンクを貼っていき、一斉に話題が拡散していくという現象が、ごく当たり前に起こるようになります。これに加えて、マニア系書店でのイベントも見逃せません。マニア・オタクに強い店が、その手のマンガを大きく扱い、それを大手サイトが採り上げ、さらにその記事に対して多くのサイトやブログがリンクを貼っていく・・・この繰り返しによって盛り上がっていき、最終的には爆発的に売れるのです。

 このような展開では、エロや萌え、ネタを喜ぶマニアに受けやすい作品に集中して盛り上がるため、それ以外のマンガがネットでここまで盛り上がることは稀であり、ほとんどないと言ってもよいでしょう。とりわけ、エロをネタ化したような作品が異様に盛り上がることが多く、多かれ少なかれ男性向けに特化した盛り上がりであるとも言えます。

 次に、「その手のマニア系書店と、それ以外の書店との盛り上がりのギャップ」も印象的です。元々、ネット上でもマニア、オタクのみがアクセスするサイトでの盛り上がりのため、その盛り上がりはマニア系書店に限られてしまいます。逆に、そういった人が集まらない多くの書店では、まったくと言っていいほど動きがないことも珍しくありません。
 元々、インターネットは、マニアの比率が高いと言われています。さらには、首都圏の人の利用率が飛びぬけていて、逆に地方での利用率はおしなべて低い。つまり、ネット自体が、コアなマニアで首都圏在住の人の比率が高いということ。そんな状態で、さらにマニア系サイトで話題が集まることになると、首都圏の秋葉原のようなマニアが集まる場所では圧倒的な盛り上がりを見せても、それ以外の場所では、ほとんど盛り上がらないケースが普通なのです。インターネットでの情報格差を象徴するような出来事であると言えます。

 そしてもうひとつ、「雑誌での連載経緯とは全く関係なく、コミックスが異様に売れる」という点も見逃せません。これはこれで非常に極端な傾向です。「みかにハラスメント」などは、掲載誌がガンガンパワードという非常にマイナーな雑誌であったため、ほとんどの人は知りませんでした。それが、ネットで話題になった途端に、あそこまで爆発的に売れる。雑誌が売れないという時代ではありますが、それでも、通常のマンガならば、雑誌連載である程度の人気を得て、それがコミックスの売り上げに結びつくのが普通です。しかし、このようなネットでの爆発的なヒットの場合、それが該当しません。「みかにハラスメント」などは、連載中はほとんど知名度らしい知名度などなく、それこそ「100人中99人が知らない」と言ってもおかしくないようなマンガだったのに、それが、ネットの大手サイトで採り上げられた途端、あそこまで大々的に知れ渡ってしまう。その異様なまでのギャップは、連載中から追いかけていた数少ない読者から見れば、あまりにも極端に映ります。


 以上のような特徴を考えるに、ネット上で盛り上がるマンガには、純粋に面白さ(完成度の高さ)のみで人気が出るマンガは少なく、ある極端な一定の方向性の作品ばかりが、異様なまでに集中的に売れていることが分かります。もちろん、これらのマンガにも、何らかの面白さがあるからこそ売れていく点も事実ですが、しかし、「何らかの面白さがある」という点では、このような極端な盛り上がり方をしない、他の多くのマンガにも言えていることではないでしょうか。一部のマンガのみが注目を集めて売れる一方で、それ以外のマンガも、とりわけ人気の出にくい、地味ながらも実は深い面白さを持つマンガ、萌えやエロやネタのないマンガ、そういったものも補完して紹介していく必要があるのではないでしょうか。大手サイトやブログ、一般のサイトやブログの管理人のひとりひとりが、自分が本来あまり好まないタイプのマンガをも、ときには積極的に扱っていく姿勢も必要なのではないかと思うのです。


「四季のエッセイ・マンガ編」にもどります
トップにもどります