<萌え4コマや日常系作品は中身がない(薄い)のか?>

2013・12・19

 ずっと以前から、いわゆる日常系のマンガやアニメ、とりわけ萌え4コマと呼ばれるジャンルにおいて、「中身がない」「内容が薄い」などといった批判的な意見・感想が、常によく見られてきました。他のマンガやアニメと比較して「中身がない」として批判されることが多く、萌え4コマならば他の4コマとも比較して内容が薄いなどと言われる。そのような批評や感想が、あくまで一部の読者・視聴者の間ではありますが、ずっと続いてきていると見ていいと思います。

 しかし、この2013年になって、日常系作品、とりわけ萌え4コマにおいてアニメ化が相次ぎ、それらの作品の多くがヒットしているという状態を生んでいます。しかも、その多くが、おそらくは普段「中身がない」と呼ばれるタイプの作品だと言えるような気もします。アニメ化されるということは、そもそも原作のマンガにある程度以上の人気があったということですし、さらにアニメもヒットしているということは、アニメもまた相当な人気が出たと考えられるわけです。なぜ「中身がない」作品が、そこまで読者・視聴者の間で高い人気を呼ぶのか?

 ここでは、そのような疑問に対して、改めて考えてみたいと思います。中身がないという見方はそもそも正しいのか? 他の作品はどうなのか。それとも他の作品には、果たして本当に「中身がある」のか。なぜそのような作品がアニメ化されるのか。そして人気を集めるのか。そのあたりをひとつひとつ真面目に考えてみたいと思います。


・そもそも中身(内容)とは何なのか?
 まず、ここで使われる言葉である「中身(もしくは内容)」の意味について厳密に考えてみたいと思います。中身とか内容とか実に安易に使われやすい言葉ですが、しかし具体的に何を言っているのか?

 推測できるものとしては、おそらくは「ストーリーやテーマ、4コマなら個々のネタの面白さあたりではないでしょうか。つまり、「中身(内容)がない(薄い)」とは、「ストーリーやテーマが希薄、あるいはほとんど見られない」「4コマのネタも弱くて薄く、読み応えがない」といった意味で使われているのだと思います。

 逆に、そうした「中身」がない代わりに、この手の日常系作品でことさら盛り込まれているとされる要素は、ひとつには「ゆるやかな日常の雰囲気」、さらには「女の子(美少女)キャラクターの萌え要素」あたりでしょう。つまり、「中身がない」という批判は、結局のところ「ただ漫然と何も起こらない退屈な日常と萌え美少女を描くだけで、ストーリーやネタの面白さに乏しい、つまらない」という意味で使われているのだと推測できます。

 しかし、それが本当に批判されるべきことなのか、ひいては「本当にそれで作品がつまらないと言えるのか」と考えると、それは大いに疑問なのです。そもそも、こうした日常を描く作品は、ずっと以前から存在しており、それも萌え4コマと比較的近いところにも、かなりまとまったジャンルがずっと前から存在しています。そう、ファミリー4コマです。


・ファミリー4コマと比較してどうか。
 萌え4コマと呼ばれる作品の多くは、芳文社の「きらら」系列の雑誌で出ていることは衆知のとおりですが、その芳文社は、ずっと以前からマンガ専門の出版社として、主に4コママンガの雑誌を数多く出してきました。そして、その多くが、俗に「ファミリー4コマ」と呼ばれるジャンルの作品と見られます。

 これらの雑誌の多くは1980年代の創刊で、歴史はずっと長く、かつてはその掲載作品の多くが、主に家族の日常を題材とする4コママンガでした。これ以前のさらに古く見られた新聞4コマ、例えば「サザエさん」などとも共通する作風で、むしろこうした4コマが原点になっている可能性があります。新聞が主に大人に読まれ、新聞4コマも大人に楽しまれる内容であることからも分かるとおり、これらのファミリー4コマもその多くは大人の読者を想定していて、「家族のほのぼのした日常」を楽しむことが主軸に置かれているようです。

 そして、こうした家族の日常を描くファミリー4コマも、総じて「”中身”と言えるものはそれほどない」と言えるのです。一応、ある程度ストーリー指向の作品、ストーリー指向の雑誌というものも存在していますが、それは萌え4コマでも同じ。総じて平穏な日常を描き続けるという点では、極めて共通性は高いと言えるでしょう。
 そして、こうしたファミリー4コマの作品性は、決して他に劣るものではありません。家族の安らぎを求める大人のために描かれたマンガですから、そこにドラマチックなストーリーがあったり、奇をてらったネタがあったりする方がむしろおかしい。何より読者の方がそんな内容は望んでいないでしょう。

 さらには、このファミリー4コマと萌え4コマを比較した場合、「萌え4コマのほうがまだ"中身"のある作品が多い」と言えるところもあります。こちらの方がより設定や世界観に凝った上でかなり明確なストーリーを持った作品も見られます。きゆづきさとこの作品(「GA」「棺担ぎのクロ。」)などはその代表で、さらにはそれほど特別な設定はなくとも、独特のネタや登場人物の関係性の深さなどで、普通の日常系作品より”中身”により深みを持たせた作品もあると思います。これは、ファミリー4コマでは中々実現できないことで、萌え4コマという新しいジャンルが生まれたことでもたらされた一種の成果とも言えるのではないでしょうか。


・なぜ中身のない(と言われる)作品ばかりがアニメ化されるのか。
 そして、こうした萌え4コマでも比較的”中身”のある作品、設定や世界観に見るべき特徴がある作品や、あるいは4コマならではの尖ったネタ(濃いネタ、鋭いネタ)を見せる作品、さらには登場人物の関係性の深さで読ませる作品などは、萌え4コマと呼ばれるジャンルの中でも、比較的読者に評価されやすく、特にマンガを読み慣れた読者に評価されやすい印象があります。こうした作品ならば、萌え4コマでも、「中身がない」「内容が薄い」と呼ばれることは少ない傾向にあります(例えば、前述の「棺担ぎのクロ。」を中身がないとする評価は聞いたことがありません)。

 しかし、ここ最近で雑誌の看板クラスの作品となり、さらにはアニメ化されるまでの人気を得る作品を見ると、そうした作品よりも、むしろ、中身のないと思われるような作品の方が、優先的にアニメ化されている傾向があります。「ゆゆ式」「きんいろモザイク」「桜Trick」「ご注文はうさぎですか?」などのきらら系連載が特に顕著で、これらの作品はいずれもゆるい日常描写とゆるめのネタ、キャラクターのかわいさで人気を得ている作品と言えます。

 もちろん、必ずしもこれらの作品が、ゆるいだけで他に”中身”のない作品ではないと思います。例えば、「ゆゆ式」には会話のテーマの面白さがあり、「きんいろモザイク」や「ご注文はうさぎですか?」は、見た目以上に意外に尖ったネタがよく見られます。
 しかし、それ以上に、これらの作品が、ゆるい日常の雰囲気とくすっと笑える程度のゆるいネタ、そしてキャラクターのかわいさと絵柄(萌え要素)で人気を得ているのも大きな事実だと思います。そうした、俗に”中身のない”と言われる要素で、大きな人気を得ているというのが、ここ最近の萌え4コマの傾向に見えます。あるいは萌え4コマ以外の日常系作品でも、この傾向はさほど変わらないように見えます。なぜ、このような中身のない(と言われる)作品ばかりが、人気を得てアニメ化されているのでしょうか。


・萌え要素やゆるい日常は「中身」ではないのか。
 いや、そもそも、これまで「中身がない」と散々書いてきた、ゆるい日常と萌えキャラクターを描くだけの要素ですが、果たして本当にこれらは「中身」ではないと言えるのでしょうか。むしろ、これらも立派な中身ではないでしょうか。

 まず、マンガにおいてゆるやかな日常を描き続けるというのは、思った以上に難しい技術です。穏やかに笑える楽しいコメディのネタを描き続ける、これだけでも高い作品性があるのではないでしょうか。そして、読者の側が、そうした要素を強く求めるのも、決しておかしなことではありません。大人向けのファミリー4コマが大人に需要があるように、萌え4コマの日常も、思った以上に多くの読者に好まれる需要があると思います。

 少し前(2009年)に行われたインタビューや、いくつか見られたデータから、どうもこの手の萌え4コマや日常系作品は、やや高い年齢層に好まれる傾向にあるようです。「仕事に疲れて帰ってきた読者が甘いものを求めるように読まれる」とか、そうした見立てもあり、そしてこれはある程度当たっているように思えます。そうした読者に対して、コンスタントにゆるく楽しめる日常のコメディを提供することには、非常に大きな意義があります。

 萌え4コマ、いいカンジ? 芳文社『まんがタイムきらら編集部』インタビュー

 そしてもうひとつ、キャラクターの萌え要素ですが、これも非常に大きな内容であると、声を大にして言いたいと思います。最近では素直に萌えを楽しむ人も増えてきて何よりですが、それでもいまだに低俗な中身のない要素と見られることも多いように感じます。しかし、日常系のみならず、マンガ・アニメ・ゲーム・ライトノベル全般においてここまで萌えが主流になってきた事実は非常に大きい。むしろ、かわいい女の子に惹かれるのは、多くの人にとってごく自然なことであって、それを目当てに作品に触れるのもまた自然だと思います。今の時代は、萌えという素直なエンターテインメント要素が自然に受け入れられるようになった、むしろ望ましい状態ではないかとも思っています。


・こうした要素も作品性足りえることを理解したい。
 それゆえに、一見して中身がないと言われるようなタイプの作品が人気を集め、そしてアニメ化までされるというのは、ごく自然な結果ではないかと思います。 日常系と呼ばれるジャンルの作品が登場するようになったのは、もう一昔前のことではないかと思いますが、その中でも、特に日常のゆるやかな雰囲気とキャラクターの萌え要素に重点を置いた作品が、こうして明確なヒットをコンスタントに達成するようになったことは、作中の分かりやすいエンターテインメント要素を素直に突き詰めた結果生まれた、自然な流れのひとつだと言えます。

 ここ最近の、「ゆゆ式」「きんいろモザイク」「桜Trick」「ご注文はうさぎですか?」等のきらら4コマのの相次ぐアニメ化とその人気は、ひとつ大きな意義のある出来事ではないかと思っています。かつての「けいおん!」や「らき☆すた」などのヒットも、間違いなく日常系作品のヒットと言えますが、しかしこれらの作品は、社会現象と言えるほど一般にまで浸透した大きすぎる人気を得てしまったゆえに、その中の「日常系作品を特に好む読者・視聴者層」の存在が埋もれてしまい、あまり認知されずに終わってしまったのではないでしょうか。それに対して、ここ最近のきららアニメは、確実に大きな人気と評価は得ているけれども、しかし「けいおん!」のように一般層まで巻き込んだほどのヒットではなく、あくまで熱心なコアなファン層中心のものにとどまっています。しかし、それゆえに、こうした中身がないなどと呼ばれる「ゆるい日常とキャラ萌え」という要素によってヒットしていることが、より明確に表れたと思うのです。

 すなわち、「中身がない」「内容が薄い」と呼ばれがちな、ゆるい日常とキャラクター萌え中心の作品が、今では相次いでアニメ化まで達成するほどコンスタントな人気を獲得するようになった。これは、かつては薄い薄いと軽視されがちだった要素が、実は立派な作品性足りえるものとして完全に証明された結果だと思うのです。そうした事実がはっきりと表に表れ、素直な人気を得るようになった今の時代は、間違いなく理想的な状態ではないかと思っています。


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