<ガンガンONLINEとウェブ雑誌の成否>

2009・3・10

 この秋から創刊されたスクエニ初のウェブ雑誌「ガンガンONLINE」ですが、かなりの健闘を見せているようです。衛藤ヒロユキや小島あきらという人気作家を前に押し出し、かつ4コママンガを精力的に打ち出す姿勢が特徴的です。他にもスクエニ他誌からのゲスト作家による人気マンガの外伝やオリジナル作品を収録したり、マンガだけでなく小説やイラストのコンテンツもあるなど、その活動ぶりは顕著です。実際に面白いと思える力作も多く、かつ更新頻度も高く、今のところかなり順調に推移しているように見えます。

 しかし、この2009年に入って、スクエニ雑誌で大きな再編があり、パワードとWINGの二誌が休刊、そこの連載マンガの多くが、新しく創刊されたJOKERという雑誌と、そしてこのONLINEに配分されて連載継続、という極めて大きな出来事に発展しました。
 そして、この再編でONLINEに移籍してきた連載は、まずパワードからは「聖剣伝説 pirncess of mana」「ファイナルファンタジー12」「ばらかもん」「小松くん日和」「陽だまりのピニュ」という布陣(ただし「陽だまりのピニュ」はいきなり最終回)。そしてWINGからは「ちょこっとヒメ」「東京☆イノセント」「アホリズム」というラインナップです。しかし、これらはいずれも良作ではあると思いますが、どうもスクエニとしてはJOKERの方に優先的に力を入れているらしく、あちらはパワードからは「ひぐらしのなく頃に」を始めとするゲームコミックの人気作品、そしてWINGからは小島あきら・藤原ここあ・河内和泉という、かつてのWINGを支えた主力作家の新連載が決まっています。

 その一方で、どうもONLINEに配分されたコミックの方は、JOKERに比べればやや人気の上では劣る作品、それを集めている傾向にあるような気がします。しかし「ちょこっとヒメ」や「東京☆イノセント」などは、ここ最近のWINGではかなりの力を発揮してきた作品ですし、それが今後ONLINEでしか読めないというのは、私的にはどうも不満でした。ONLINEが好調とは言え、まだまだ既存の紙媒体の雑誌に比べれば、その知名度・浸透度では劣るのではないかというのが、今のところのわたしの見解です。

 そこで、このページでは、このガンガンONLINEを始めとするウェブ雑誌の、現時点での長所と短所を明らかにし、そして紙媒体の雑誌との比較を通じて、今後ウェブ雑誌が発展していけるのかどうか、真剣に考えていきたいと思います。


・一般層に対してのネットの浸透度はやはり劣る。
 まず、最初に考えられることは、やはりネット自体が一般層に対する浸透度が大きく劣り、それは比較的読者層がコアでネットユーザーの比率が高そうなスクエニですら、おそらくは例外ではないだろうと考えられることです。

 ネットの人口が数千万人とかそういうデータはよく聞きますが、本当にネットを積極的に使用しているのは一部のマニアユーザーであり、全体の中では少数派、それ以外の一般層においては意外なほど浸透していないようです。まったくネットをやっていない人というのは珍しいかもしれませんが、1日に数時間もかけてネットを巡回し、マニアックな情報サイトや個人サイト・ブログまで通う人となると、本当に一部に限られます。それ以外の一般層と言える人の多くは、せいぜいヤフーなどのポータルサイトでニュースを見る程度で、時間的にもさほどかけておらず、一日の使用時間が1時間に満たない人の方が多数派なのです。

 これは、ゲームでいうならばマニアゲーマーとライトユーザーの違いに相当します。プレイステーションの普及以降、ゲーム機は一般層にも一気に広まりましたが、彼ら全員がゲームを毎日何時間もやっているわけではありません。むしろ、ゲーム機は持っていてもゲームはたまにやる程度、むしろ一種の流行りやファッションのような感覚でゲーム機を所持している、「ライトユーザー」と呼ばれる層が一気に増えたのです。より一般層を志向したDSやwiiなどではさらに顕著で、彼らの中でゲームをやり込むマニアの比率はさほど多くないでしょう。

 これと同じことがインターネットにも言えており、確かに最近は誰もがPCは所持してネットにつないでいるかもしれないが、一日に数時間はネットを利用するマニアユーザーとなると、思った以上に少数派なのです。
 このような状態では、やはりまだまだウェブ雑誌の浸透度は低くなると言わざるを得ないでしょう。特に、一般向けのメジャー誌、週刊少年誌や青年誌の読者において、わざわざネットにアクセスしてまでマンガを読む人はそう多くはないはずです。スクエニの場合、いずれもかなりコア向け、マニア向けの雑誌なので、まだネットを積極的に利用する読者は多そうですが、それでもやはりわざわざネットまでアクセスして雑誌を読もうという人は少なくなるのではないか。そう考えられます。


・書店やコンビニでの立ち読みと比較してどちらが手軽か?
 ウェブ雑誌の大きな特徴として、「完全無料」という点があり、ガンガンONLINEでもそれを採用しています。それをもって、「紙の雑誌を購入するよりも、無料のウェブ雑誌の方が読まれる可能性が高い」という意見がありますが、果たしてどうか。むしろ、この場合、雑誌の購入ではなく、書店での「立ち読み」と比較するべきではないでしょうか。

 立ち読みと比較した場合、どちらが手軽に読めるかというと、これは中々難しい問題です。最近では立ち読みが出来ない書店も多いですが、この場合コンビニなどで立ち読みが出来るケースと考えましょう。というか、わたしは、立ち読みが出来ない雑誌の売り方は少々疑問です。中身を確認できないのに購入に踏み切るのは難しい。確かに立ち読みだけで済ませてしまって買わないとまずいのかもしれませんが、しかし、実際に店頭で読んでもらうことは、それ以上に大きな効果があると思うのです。それで雑誌の購入に踏み切る人もいるかもしれませんし、そうでなくとも立ち読みで気に入ったマンガの単行本を買ってくれるかもしれません。コミックス派の人が多数派を占める今だからこそ、むしろ雑誌で作品をチェックできた方がいいと思うのですが・・・。

 さて、本題に戻りますが、店頭での立ち読みとウェブ雑誌の閲覧と、どちらが手軽か? これは人にもよると思いますが、多くの人にとってはいまだに立ち読みでしょう。1日に数時間はネットにアクセスし、ウェブ上のコミックも盛んに読もうとするコアな読者ならばウェブ雑誌でしょうが、あまりネットに浸透していない一般層ならば、そもそもそこまでしてネットでコミックを読まないでしょうし、やはり店頭で雑誌をチェックするほうが、いまだ主流なのではないか。

 これは、ウェブ雑誌の閲覧がいまだやりづらいという理由もあります。わざわざPCを立ち上げ、サイトにアクセスし、読みづらいビューワーを使っていちいちクリックして読むのは、いまだに面倒なところがあります。これが、例えば音楽におけるiPodのように、いつでもどこでも閲覧することができ、更新に合わせて自動的に連載の続きが配信されるような端末があれば、一般層へのウェブ雑誌の浸透度もまったく変わってくると思いますが、残念ながらそんな端末はいまだ存在しないので(笑)、いまだ一般層への浸透は難しい状況にあると言えるでしょう。
 (*その点では、このようなPCで読むウェブ雑誌ではなく、むしろ携帯で読む「ケータイコミック」の方が、一般層への浸透度ははるかに高いと言えます。この方がどう考えても手軽です。)


・雑誌の立ち読み(や購入)と比較した大きな欠点。
 加えて、ウェブ雑誌には、雑誌の立ち読みや購入して読むケースと比較して、かなり大きな欠点があります。

 それは、読者にとって目当てのマンガ「以外」のマンガに目が行くかどうか、の違いです。コミックス派の読者が大半を占める昨今、たまに雑誌を手に取っても自分の好きな目当ての作品しか読まない人も多いかと推測できますが、そんな人でも、ほかのページをぱらぱらとめくってどんなマンガがあるかちらっとでも見ることはあると思うのです。そして、ちょっと絵が気に入ったとか、キャラクターが気に入ったとかで読んだりしてそれがきっかけではまったりする。そのようなケースは、マンガにとって非常に重要ではないか。これは、紙媒体の雑誌ならではの大きな長所であり、新しいマンガを読者に広めるのに大きな役割を果たしています。
 雑誌を購入した場合だとさらに顕著であり、何か特定のマンガを目当てに購入した場合でも、「お金を払って買ったわけだし、他のマンガも読んでみるか」と考えて読むというケースは結構あるのではないか? そう考えられます。

 しかし、これがウェブ雑誌の場合、「ページのほかの作品に目が行く」ということがないのです。つまり、本当に自分の目当てのマンガしか読まない読者が、かなりいるのではないかと考えられます。もちろん、トップページには作品ごとに簡単なカットイラストと紹介文がありますし、それを見て読んでみようという読者もいるでしょう。しかし、それでも紙媒体の雑誌で他のページに目が行く効果よりはかなり薄いのではないかと考えます。カットイラストと紹介文だけで、ある程度内容を予測して、「自分にとって好みではない、興味がもてない」マンガは、最初からそのページには行かない。つまり、「自分にとって興味のなさそうなマンガは、最初からリンクをクリックしようとすらしない」というケースが非常に多いのではないか? これでは、紙媒体の雑誌のように、他の連載マンガへと読者が広がっていく効果が、ひどく薄いのではないかと思うのです。


・欠点だけではなく、もちろん長所もある。
 以上のように、とにかくウェブ雑誌はいまだ浸透度が低い感は否めず、一般層においては特にその傾向が強くなります。コンビニにおいてあるような、一般向けのメジャーな週刊少年誌や青年誌に関しては、いまだウェブよりも紙媒体の方が手軽でとっつきやすく、一般への浸透度がはるかに高いことは否めないでしょう。逆に、スクエニのような、全体的にコアユーザー向けの雑誌ならば、ある程度ウェブ雑誌の効果はありそうですが、それすらまだ未知数です。

 しかし、それでも、ウェブ雑誌には長所と言えるものもあります。それをうまく活かしていけば、今後発展する見通しもあるかもしれません。

 まず、これは出版する側にとってですが、経費が安くつくという長所はありそうです。雑誌の多くは赤字らしく、コミックスでその赤字を取り戻すのがひとつのビジネススタイルらしいですが、オンラインでの公開ならば、雑誌にかかる諸経費が安くなることは確かなようです。ただし、結局のところ完全無料なので、雑誌の購読料で収益を上げることは絶対に出来ないという欠点はあります。

 さらには、これは読者側ですが、「家にいながら書店に行かなくても読める」という点はあります。もっとも、前述のように、これはネットを積極的にやるコアなユーザー層に限定される話ですが・・・。そういう層の読者ならば、むしろオンラインの方が「手軽」だと感じるかもしれません。また、地方ではスクエニのようなマイナーな雑誌は入荷されにくく、手に入りにくいという大きな問題がありますが、オンラインならばこれは完全に解消できます。
 さらには、「雑誌を購入する時のようにかさばらない」という点も、意外に大きいかもしれません。「雑誌を買いたいけどかさばって場所を取るから買わない」という読者は結構いるらしく、そういう読者層にとってウェブ雑誌は大きな魅力になるかもしれません。この場合も、雑誌を立ち読みではなくあえて購入まで考える、コアユーザー向けの長所になります。

 そしてもうひとつ、これは非常に大きな長所なのですが、「連載マンガをさかのぼって読める」という点があります。ガンガンONLINEの場合、多くの作品で連載初回からすべて保存され、いつでも全部読めるようになっています。これは本当に大きい。既存の雑誌の場合、新たに雑誌を購入した場合、連載マンガの途中からしか読むことができません。そのため、「途中から読んでも内容が分からない」という不満を読者が持ってしまうことが多く、それが雑誌購入の大きな抵抗となっていました。最近では、マンガの前のページで簡単なあらすじや紹介を行うページを作る雑誌もかなりありますが、それでも完全にマンガの内容が分かるには程遠いもので、マンガを最初から読みたいという読者の願いをかなえることは出来ませんでした。
 しかし、オンラインでの雑誌ならば違います。サーバーの容量が許す限り、基本的にすべてのバックナンバーを保存して読者に読んでもらうことができるのです。これは、紙媒体の雑誌では絶対に実現不可能なことであり、ひょっとするとこれがウェブ雑誌の最大の売り、切り札的な長所になるかもしれません。いつでも連載マンガが最初から読めるとなれば、興味のある作品さえ提供できれば、いつでも読者を呼び込むことが可能になります。
 同じことは、読み切りのマンガにも言えます。読み切りのマンガは、コミックスには掲載されないことが多く、雑誌を保存するかページを切り抜いて保存しない限り、残すことは困難であり、「もうあの読み切りが読めない」と嘆く読者の声をよく聞きます。しかし、ウェブ雑誌ならば、昔の読み切りを半永久的に残していつでも閲覧できるのです。これも、非常に大きな利点ではないでしょうか。


・長所と短所をまとめて、今後の発展性について考える。
 それでは、最後に、ウェブ雑誌と紙媒体の雑誌に付いて、それぞれの長所と短所をまとめてみます。

<既存の紙媒体雑誌>
<長所>
・多くの一般層にとって、書店やコンビニでチェック、入手できるのはいまだに手軽。
・いまだPCのモニターよりも紙の雑誌の方がはるかに読みやすく、ストレスもたまらない。
・出版社側としては経費はかかるが、売れさえすれば購読料は確実に入る(うまくやれば黒字も狙える?)。
・読者に、同じ雑誌の他のマンガまで読んでもらえる可能性が比較的高い。

<短所>
・書店やコンビニまで行く必要がある。マイナー誌だと地方では近くに売ってないケースもあるかも。
・購入にお金がかかる(立ち読みできない雑誌も書店によっては多い)。
・購入した後、雑誌はかさばって保存に困ることがある。
・新たに雑誌を購入し始めた場合、連載マンガが途中からしか読めない。
・過去の読み切り作品で、コミックス未収録の作品を後から読むことがひどく難しい。

<ウェブ雑誌>
<長所>
・家でPCで読めるので、ネットのコアユーザーには手軽である。近くに雑誌を入荷してくれない地方でも問題ない。
・基本的に完全無料である。
・紙の雑誌と比べてかさばらなくてすむ。
・出版社側としては経費が少なくてすむ。
・連載マンガをすべて保存することが可能で、さかのぼって最初からでも読める。
・単発の読み切りも保存しておけば半永久的に閲覧が可能。

<短所>
・ネットをあまりやらない多くの一般層にとっては手軽とは言えない。
・閲覧の環境がいまだ未整備で、面倒でストレスが多い。
・出版社側としては、経費は少なくて済むが購読料は絶対に入らない。
・読者が、同じ雑誌の他の作品を読んでくれない可能性が高い。


 このような点を踏まえた上で、ガンガンONLINEの今後の発展の可能性を考えてみます。
 まず、ガンガン系は基本的にコアユーザーの読者が多く、比較的メジャーなガンガンやヤングガンガンにおいてすらそうであり、Gファンタジーや旧パワード、WINGならなおさらその傾向が強いです。ならば、そのような読者はネットも積極的に利用するコアユーザーである比率は高く、オンラインでの雑誌を今後も運営する意味は十分ありそうです。

 とはいえ、ウェブ雑誌には短所を改善し、長所を伸ばすような施策を採る必要があると考えます。
 まず、おそらくはいまだ多くの読者にはガンガンONLINEの知名度はさほどでもないと思えます。一般よりの読者ならなおさらそうでしょう。特に、ネットをあまりやらない読者のために、大々的に書店の店頭などで告知をする必要があるかもしれません。今でも、スクエニの他雑誌では盛んに告知ページが見られますが、それは雑誌を読まないことには分かりません。コミックス派の読者が大勢を占める中で、それでは物足りない。コミックスの投げ込みチラシの告知だけでは不十分で、何かポスターかチラシのような形で大々的に告知してもいいのではないか。
 紙媒体の雑誌ならば、創刊されて店頭に並べば誰にでもその存在が知れ渡ります。今後、JOKERが創刊されたときにも店頭に大きく並ぶ店も多いでしょう。それと同じくらいの効果のある告知を、ウェブ雑誌でも行う必要があるのではないかと思います。
 さらには、ウェブ雑誌の「同じ雑誌の他の作品を読んでくれない」欠点を解消することを考えると、店頭で連載コミックの一部が読める「小冊子」を配布するとよいかもしれません。これまでも同じようなものはよく配布されていますが、それはウェブ雑誌においてこそ必要なのではないか。ネットにあまりつながない人にも読む機会を与え、かつ雑誌のマンガ全体に興味を持ってもらえる。つまり、ウェブを補完する形で小冊子の配布を、それも単発ではなく定期的に配布を行えば、より効果は上がるのではないか(経費はかかりますが)。

 さらには、「連載マンガを最初までさかのぼっていつでも読める」というウェブ雑誌の長所を活かすために、今回パワードとWINGから移籍した作品は、過去のバックナンバーの多くを読めるようにするべきでしょう。さすがに、これまでの連載全部を掲載するのは、すでに発売されているコミックスとの兼ね合いから難しいのかもしれませんが、それでも連載の要所要所の部分だけは読めるようにするべき。少なくとも、作品冒頭の連載開始の回(第1話)は読めるようにするべきで、それ以外の回もストーリーを理解する上で必要な回は出来る限り収録して、ウェブからの新規読者に対応してほしいところです。
 ついでに言えば、これまでのスクエニ雑誌での読み切り作品で、コミックス未収録の作品を、少しでもガンガンONLINEで公開してもらえればありがたい。それで半永久的に読み切りがいつでも読めるようになります。むしろ、それを本格的にやってほしいくらいですね。連載マンガや読み切りをすべて保存、閲覧できるのは、ウェブ雑誌最大のアドバンテージだと思いますし、それを存分に活かすことをガンガンONLINEには最も期待したいと思います。


「四季のエッセイ・マンガ編」にもどります
トップにもどります