<オタクネタマンガの世界(前編)>

2007・6・5

*後編はこちらです。

 ここ最近、どういうわけか、オタクをネタにしたマンガが隆盛を極めているようです。オタクの笑える生態や、オタクにしか分からないマンガ・アニメ・ゲームのネタをふんだんに採り入れたマンガ、そんな作品がコンスタントに出るようになりました。これは、昨今の一般層にまで広がった秋葉原ブーム・メイド喫茶ブームも関係しているのでしょうが、実際には、秋葉原がこのようなブームになる前から、この手のマンガはコンスタントに存在し続けており、その当時からすでに大人気を獲得した作品も登場していました。この記事では、そんなオタクネタマンガをひとつひとつ紹介し、その世界の広がりを見ていきたいと思います。


・この手のマンガの原点はいつか?
 まず、このようなオタクをネタにしたマンガ、それが出始めたのはいつ頃なのでしょうか。
 実は、わたしにも本当に正確なことはわからないのですが、しかし、確実にこの手のマンガの原点のひとつとなった作品として、平野耕太のマンガが存在することは、ほぼ間違いないでしょう。

 具体的には、作者の一般誌初連載作品で、1996年に「コミックガム」で連載された「大同人物語」、そして1997年〜1998年にファミ通PSで連載された「進め!!聖学電脳研究部」のふたつの作品です。「大同人物語」は、同人界の派閥闘争(?)を描いた物語ですが、同時期に、作者の看板作品である「HELLSING」が連載を開始した影響もあり、次第に掲載が少なくなり、最後には立ち消えとなってしまいました。一方で、「進め!!聖学電脳研究部」は、これは高校のゲームオタクサークルのバカバカしい活動を描いた物語で、バカゲー・クソゲーを実名で派手に取り扱ったことが大いに受け、カルト的な人気を博します。

 このふたつの作品は、共に平野耕太の悪ノリが全面に出たアクの強い内容で、オタクには非常に受けがよく、のちの作品に多大な影響を与えました。とりわけ、高校の「オタクサークル」を描いた「進め!!聖学電脳研究部」の影響は大きく、この手のサークルを採り上げるオタクネタマンガが、のちに頻繁に登場することになります。あの「げんしけん」(後述)の作者も、このマンガに影響を受けたことを明言しているくらいで、90年代後半という一昔前の作品ながら、その後の影響には確かなものがあります。

 この90年代には、これ以外にもオタク的な趣味をモチーフにした作品がちらほら見られますが、この平野耕太の作品ほどの存在感を持ち、その作品性がのちに強く受け継がれたものは他にありません。実質的に、この平野マンガこそが、のちのオタクネタマンガの原点と見て間違いなさそうです。

 どうでもいい話ですが、この平野耕太、隔週刊時代の96年のガンガンで、一回だけ読み切りを掲載したことがあります。「BE WILD!!」というタイトルで、これまたオタクをネタにしたギャグマンガでした。もうこの当時からやっていることが全く変わりません。ちなみにこのマンガ、かなり出来が良かったので、作者に連載を持たせても良かったのではないかとも考えましたが、結局読み切り1回だけで終わってしまいました。



・2002年以降、オタクネタマンガの最大人気作品が登場。
 そして、この平野耕太作品の登場後、この手の「オタクの笑える生態を面白く描いた作品」が一般的に認められるようになり、似たようなコンセプトを持つ作品が、マニア誌を中心にコンスタントに登場するようになります。一例としては、痛いキャラを描かせれば天下一の田丸浩史によるオタク主人公マンガ「ラブやん」、オタクサークルに様々なオタクキャラを詰め込んだ感のある「辣韮の皮」などがあります。これらの作品は、どれも2000年代の初期の頃の作品で、当時からすでにこの手のマンガが、マニア誌では一定の割合で存在するようになります。
 そして、そんな状況の中で、ついに、この手のマンガの決定版とも言える、最大人気を誇る作品がいくつか登場するようになります。


 まず、何と言っても「げんしけん」(木尾士目)ですね。アフタヌーンで2002年6月号から開始された連載で、既存のオタクネタマンガとは一線を画する大きな人気を獲得し、2006年末まで続く一大長期連載となります。のちにアニメ化もされましたが、これも大人気。果ては、劇中内のアニメ作品(「くじびきアンバランス」)が単体でアニメ化、コミック化されるなどの展開も見せます。

 このマンガも学校のオタクサークルを舞台にしたマンガですが、「進め!!聖学電脳研究部」のようなマニアックなネタ全開の悪ノリに満ちた作品とは一線を画しており、あくまで大学のサークル活動の日常を自然体で描いたことがポイントです。オタクたちの生態に、現実的なリアリティが感じられたことが、オタク読者たちの大いなる共感を呼び、大人気を獲得するのです。
 キャラクターの配置もよく完成されていて、オタクへの道へ入ろうとする主人公、オタクを毛嫌いする彼女、重度のオタクであるサークルメンバー、腐女子やコスプレイヤーとしての趣味を押し出した女性キャラクターなど、のちのオタクネタマンガでは定番とも言えるキャラクターの多くが登場しています。この手のマンガの方向性を決定付けた作品と見てもよいでしょう。
 また、作者の描き込みが細部まで丁寧で、オタク的なアイテムやオタクサークルの雰囲気を丁寧に再現した点も評価が高い。総じて、この手のマンガの代表作となるにふさわしい作品だったと言えます。あえて難を挙げれば、後半はオタク要素が薄れ、単なる恋愛ものに近い作品になってしまったことですね。


 そして、この「げんしけん」と並ぶもうひとつのオタクネタマンガの代表作になったマンガとして、「NHKにようこそ!」(滝本竜彦/大岩ケンヂ)があります。こちらは少年エースの連載作品で、2004年2月号からの連載開始と、やや時期が遅れてのスタートとなっています。が、実はこのマンガは、同名の小説が原作で、それは2002年の段階で発売されており、すでにかなりの知名度を得ていました。そのような状況を鑑みれば、やはり時期的にかなり近い作品であると言えます。

 「げんしけん」がゆるやかで明るいオタクサークルの姿を描いているのに対して、こちらの作品は、徹底的にネガティブな設定で、引きこもりニートの絶望的に駄目すぎる日常を、自虐的に面白おかしく描いた作風が大いに受け、これまたオタクの間で大人気となります。引きこもりやニートが問題視される社会情勢にもぴったりと適合し、その点でも話題を呼んで人気に拍車を掛けました。
 また、「げんしけん」以上にキャラ萌えの要素が激しく、コミックスでは数々の初回限定版が出され、中には作中で主人公が作ったとされるエロゲーをモチーフにしたPCソフトが付くものもあるなど、やたらマニアックな展開に終始しました。こちらも長期連載となり、アニメ化もされ、最終的には2007年まで続くこととなりますが、終盤の頃の内容は、絵的にも内容的にもかなり崩れてしまっており、これが少々の欠点でしょうか。


 さらに、この2作品ほどの知名度は得られませんでしたが、これに次ぐオタクネタマンガとして、「壮太君のアキハバラ奮闘記」(鈴木次郎)があります。こちらは、Gファンタジーで2002年の10月号より連載開始。「げんしけん」よりも遅く、「NHKにようこそ!」よりも早い時期ですが、前述のように、「NHKにようこそ!」はすでに2002年の段階で原作小説が存在しており、かつ「げんしけん」の連載開始時期ともかなり近いため、実質的にほぼ同時期にこれらの作品が登場したと見てもよいでしょう。どうも、この2002年あたりが、この手のオタクネタマンガが本格的にブレイクし始めた時期と考えてよさそうです。
 ただし、この「壮太君のアキハバラ奮闘記」は、ややギャグに特化した異色の内容と、掲載誌のGファンタジーがかなりマイナーだったことが大きく、前述の2作品に比べれば人気、知名度でやや劣ります。しかし、のちにこのマンガも徐々に人気を上げるようになり、かつ昨今のアキハバラブームにも直結する内容であることから、改めて注目される作品となりました。

 内容的には、こちらはかなりギャグ色が強く、オタクの笑える生態を、爆笑できる過激なギャグに昇華しています。加えて、オタクの中心地であるアキハバラが舞台であることや、主人公が典型的な「隠れオタク」で、自分の趣味を隠して生きるという、オタクにありがちな生態であることなど、ストレートにオタク的な設定を採り入れていることが大きく、誰もが分かりやすいオタクネタを扱っている点では一番でしょう。「二次元大好き オタク万歳」などのバカバカしいセリフも笑えます。反面、過激なギャグを強調しすぎて現実的ではないシーンも多く、「げんしけん」のようなリアリズムでは一歩劣ります。また、作者の都合で連載が不定期となり、しかも作者の悪ノリで展開が暴走して、一時期オタクから離れた単なるバカマンガになるなど(笑)、やや連載が迷走した点が欠点かもしれません。


 このように、2002年頃から、ほぼ時期を同じくしてオタクネタマンガの代表作が次々と誕生し、これで完全にこのジャンルが定着した感がありました。実際、これらの代表作の影響は非常に大きく、以後、似たようなコンセプトを持つオタクネタマンガが、マニア系雑誌を中心にさらに頻繁に見られるようになり、一気にこのジャンルが発展していきます。それも、一様に似たようなマンガばかりではなく、様々なスタイルの個性的なマンガが登場するのです。後編では、以後に登場するこれら多種多様なオタクネタマンガを、ひとつひとつ紹介してみたいと思います。


*続きは後編記事でどうぞ。こちらです。


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