<オタクネタマンガの世界(後編)>

2007・6・6

*前編はこちらです。

・オタクの負の側面を描いた作品も登場。
 まず、前編で紹介したオタクネタマンガの代表作とは正反対の、オタクのネガティブな側面を強調して採り上げた作品も登場します。コアなマンガ読みの間では著名なきづきあきらによる「ヨイコのミライ!」です。Webコミック雑誌である「コミックSEED!」での連載で、その時点で非常にマイナーであり、しかも雑誌の廃刊で連載が中断するという不運に見舞われ、そのせいで知名度は非常に低い作品です。「知る人ぞ知るマンガ」だと思われますが、最近は作者が以前よりは知られるようになったため、作品の方も少しずつ知られるようになってきています。

 内容的には、とにかくオタクの持つ人間性の悪い部分、それのみが徹底的に強調されます。オタクの楽しい生活を描いた「げんしけん」とは対照的な作風で、「壮太君のアキハバラ奮闘記」のように、ギャグで笑わせるようなところも一切ありません。オタクのネガティブな側面の描写という点では、「NHKにようこそ!」もそうですが、こちらはオタクの生き方を自虐的な笑いに昇華しており、やはりギャグ、コメディの要素が強く、実際には笑って読めるところがほとんどです。しかし、この作品はそうではない。

 とにかく、ひたすらオタクのネガティブな負の側面と、それによって生じる人間関係の破綻、それが執拗に描かれています。ギャグでお茶を濁すような要素もありません。露骨に「痛い」展開が繰り広げられるため、かなり人を選ぶマンガであると言えます。どちらかと言えば、オタク読者よりも、こういった暗い心理描写を好む「マンガ読み」に読まれる作品と言えるかもしれません。
 とにかく、オタクにありがちな、ダークな言動の描写がよく描かれています。一言で言えば、「えらそうなことを言うだけ言って、自分では何もしない(その能力もない)」。オタク間の妬みの感情、オタク同士の足の引っ張り合いが凄まじく、そんなオタクに対する一般人からの扱いも酷いものがあり、やがて絶望的な状況にまで追い詰められることになります。そのため、逆に「これから一体どうなるのか」ストーリーが気になる有り様で、あまりにも痛い作風で人を選びまくるものの、一旦作品にはまると抜け出せなくなるような魅力があります。数あるオタクネタマンガの中でも、とりわけ強烈な印象を残す作品であると言えます。


・萌え系4コマでは定番となる。
 そして、この手のオタクネタマンガは、4コママンガ、とりわけ萌え系4コマ作品にも進出し、ここでも数多くの人気マンガが登場することとなります。

 まず、その代表的な存在は、なんといっても「ドージンワーク」(ヒロユキ)です。よりによって「エロ同人」という、オタクの中でも究極に痛い趣味を扱い、それを笑える4コママンガにしています。軽いノリで笑える4コママンガではあるのですが、扱うネタがあまりにもディープなため、多くのオタク読者を一手に惹きつけました。キャラクターも異様に個性的な変人ばかりで、中でも「紳士的な変態」と呼ばれるジャスティスの存在は、あまりにも強烈です。
 現在では、このマンガは、掲載誌の「まんがタイムきらら」で毎号表紙を飾るほどの人気作品となり、アニメ化まで達成しました。「げんしけん」や「NHKにようこそ!」ばかりか、こんなマンガまでアニメ化を達成してしまうとは、もはや世も末です(笑)。昨今のオタクに対する萌え系4コマの存在は、日増しに高くなっていますが、中でもこの「ドージンワーク」は、オタクの好むネタ全開のマンガということで、そのコアな人気には相当なものがあります。

 しかし、萌え系4コマの中のオタクネタマンガは、何もこの「ドージンワーク」だけではありません。この手の4コマ作品には、どういうわけかオタク系のネタを好んで採り入れるマンガが、かなりたくさん見られ、もはやオタクネタはひとつの定番となっています。マンガ全体がオタクネタマンガというわけではなくとも、部分的にオタク系のネタが頻繁に登場するマンガは、本当に多い。そんなマンガの中でも、最大の人気を誇るのが、「らき☆すた」(美水かがみ)だと思われますが、これも今では最大人気のアニメとなっています。
 あるいは、なぜかメイド喫茶を設定にしたマンガも、やたら目立つのはなぜなんでしょうか。やはり、元々オタク読者が多いマンガだけあって、そういうネタの方が受けやすいという傾向があるのでしょうか。あるいは、作家陣にもその手の趣味を持つ作家が多いということで、双方の嗜好が一致した結果なのかもしれません。



・少女マンガでも登場。
 そして、さらにオタクネタマンガは進出ジャンルを増やし、今では少女マンガにまで登場を始めています。
 その手のマンガの中でも、最もオタクに人気を得ている作品として、あのやぶうち優のマンガがあります。
 このやぶうち優という作家は、どういうわけか元から男性オタクに人気が高く、古くは「水色時代」からその傾向が見られたのですが、最近になってその傾向がさらに顕著になり、何か妙に萌え系の絵柄になってしまい、そのために毎回のごとくオタクに受けまくるようになってしまいました。中でも、「ないしょのつぼみ」という小学生向け性教育マンガは、本来の読者層であるはずの小学生よりも、大きなお友達の方に圧倒的に受けまくり(笑)、ネットでコミックスが売り切れ続出という異常現象を巻き起こしてしまいました。

 そして、その「ないしょのつぼみ」に続いてやぶうち優が始めた連載、これがまさにオタクネタマンガでした。「アニコン」という作品なのですが、これは、「オタクのお兄ちゃんのために妹が頑張る!」というお話で、必要以上にお兄ちゃんに尽くしまくる妹の姿が大いに受けまくり、これまたオタク読者の注目を浴びて高い人気を獲得します。お兄ちゃんのためにコミケでコスプレするとか、お兄ちゃんのために全裸になるとか、そういう話です。主人公の妹は高校一年という設定のはずですが、どう見ても小学生にしか見えないというのもポイントが高い(おい)。
 このマンガ、「コミックとらのあな」で、コミックス一巻発売時にメッセージペーパーが配布されました。少女マンガとしては考えられない扱いです(笑)。もう完全に萌えマンガと思われていると見てよいでしょう。

 そして最近では、これ以外にも、露骨にオタク的な設定を数多く盛り込み、男性オタクに注目を集める少女マンガが、かなり出てくるようになってきました。メイド喫茶でツンデレ委員長がバイトする「会長はメイド様!」などは、その最たるものだと言えるでしょう。今では、少女マンガでもオタク的なネタを盛り込んだマンガが、次々と登場する時代となったのです。
 また、このような男性オタクを意識した少女マンガ雑誌まで、次々に創刊されるようになりました。「コミックハイ!」「コミックシルフ」「コミックエール!」などの雑誌です。これらの雑誌の連載が、必ずしもすべてオタクネタマンガというわけではありませんが、しかし、強くオタク読者を意識した少女マンガというものが、広く人気を集めるようになったことを端的に示す事実であると言えます。


・対象は女性オタクにまで広がる。
 男性のオタクだけではありません。最近では、女性のオタクをネタにしたマンガまで散見されるようになりました。それも、俗に「腐女子」と呼ばれる、BL(ボーイズラブ)作品を溺愛するディープな女性オタクをネタにしたものが顕著です。

 具体的には、この手のマンガの端緒として登場した「妄想少女オタク系」(紺條夏生)が、白眉でしょう。前述の「コミックハイ!」に連載されているマンガで、基本的には少女マンガに近い作風です。「ごく普通の(オタクではない)男子が恋をした相手は、オタクの腐女子だった」というストーリーで、まるで「げんしけん」や「壮太君のアキハバラ奮闘記」を逆にしたかのような設定ですが、これが意外にも、本来の(?)対象である女性オタクだけでなく、男性オタクにもかなり受け、コミックスもかなりの評判を呼びました。まあ、元々「コミックハイ!」という、男性オタク向けとも言える少女誌での連載なので、これは当然の反応かもしれません。

 そして、これに並ぶ作品として、これは純粋にはマンガではないのですが、腐女子によるブログを書籍化した「腐女子彼女」「となりの801ちゃん」があります。これらの作品も、ネット界隈を中心に中々の話題作となっており、今では、このような女性のオタクをネタにした作品まで一般化しつつあります。これはかなり面白い傾向だと言えるでしょう。腐女子という存在は、女性のオタクの中でも特にディープな存在で、男性が知らないようなコアな生態が楽しめるのが、人気の秘密なのでしょうか。

 ただし、ここであえて書いておきたい点がひとつ。このような腐女子の方々は、あくまで女性のオタク(的な趣味を持つ人)の中の一部であって、実際には腐女子ではない(BLが好きではない、興味がない)人もたくさんいます。むしろ、人数的には決して劣っていません。「げんしけん」の一キャラクターである大野女史のセリフに「ホモが嫌いな女子なんかいません!!」 という有名なセリフがありますが、これは明らかに誤りではないかと思います。「女性のオタクは、みなBL好きの腐女子である」という、大いに誤った見方には陥らないように注意するべきでしょう。


・Webコミックからの書籍化も相次ぐ。
 さらに、今では、ネット上の個人サイトで制作・発表される、いわゆる「Webコミック」からも、この手のオタクネタマンガが登場し、それが一般雑誌に採用されて連載を開始、コミックスにもなって大人気を博するという現象も起きています。

 その代表的なものが、なんといっても、ドラゴンエイジで採用されて連載を開始した「おたくの娘さん」(すたひろ)でしょう。元々のWeb上での掲載分を「第一集」として連載に先駆けて発売、その後のストーリーから雑誌で掲載を始めました。そして、これが大いなるオタクの注目を呼び、今では数あるオタクネタマンガの中でも、かなりの人気作品となっています。
 内容的には、「オタクのお父さんのために娘が頑張る!」というもので(あれ?「アニコン」と似てますね)、ある日突然娘が出来てしまった26歳オタク男の悲喜こもごもの生活を描く、コメディタッチの作品となっています。しかし、この作品の場合、オタクであるお父さんの方も娘のために奮闘し、互いに相手のために頑張ろうとする姿が大いなる共感を呼んでいるようです。

 そしてもうひとつ、これはヤングガンガンで採用された「いわせてみてえもんだ」(さと)もレベルが高い作品でした。Web上では雑多なラフ状態の作画だったのですが、それが雑誌に掲載されるにあたって、綺麗に清書されての刊行となりました。こちらは、例によって女性のオタクの生き様をネタにしたマンガで、そんなオタクの少女に翻弄される一般男子の奮闘ぶりが光るマンガとなっています。こちらの作品も、ふたりが互いのために頑張ろうとする姿が、実にすがすがしい。「おたくの娘さん」ほど大きな話題にはなりませんでしたが、実にかなりの良作だったのではないでしょうか。

 この手のWebコミックからの採用作品は、元々ある程度Web上でも面白かったからこそ採用されたのであって、紙媒体の雑誌やコミックスでも、中々の完成度を有するものが多いようです。それは、これらオタクネタマンガにおいても言えることで、なにげにかなりの良作が出ているのです。




・まとめ〜様々なジャンルに拡大するオタクネタマンガ〜。
 以上のように、昨今では、この手の「オタクをネタにしたマンガ」の存在が拡大しており、実に様々な場所でオタクをネタにした作品を見ることが出来るようになりました。しかも、どれも個性的で面白さを感じる作品も多く、決してその存在を軽視することはできません。今では、オタク以外の読者でも、これらのマンガを楽しんで読む人も増えており、その点でもこの手のマンガの世界が拡大している印象を受けます。今後のさらなる発展も予想され、さらに注目すべき存在になると思われます。


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