<最近のスクエニの売れ線志向について>

2009・1・31

 ここ最近のスクエニのマンガの傾向、というか作り手の編集部の行っている路線について、以前よりも強く「売れ線」志向になったと感じています。分かりやすく言えば、一定の読者層に受けやすい作品作りが特に目立つようになり、ある一定の方向性というか、特定の人気の出やすいキャラクターやジャンルを強く押し出した作品が、雑誌の多くを占めるようになったと感じています。

 具体的には、今のスクエニの多くのマンガは、分かりやすい男性読者向けの作品か、同じく分かりやすい女性読者向けの作品か、そのいずれかに属するものになったようです。もちろん、マンガのストーリーやコンセプトはそれぞれに異なるものの、しかしどの作品でも、とりあえず男性向けか女性向けか、そのどちらかの読者に受けやすいキャラクターや設定を押さえておく作品がひどく増えました。
 より厳密には、男性向けとはいわゆる美少女キャラクターが登場するラブコメやエロコメ、もしくはバトル系の少年マンガといったところでしょうか。女性向けというのは、すなわち女性に人気の出やすい美形や美少年キャラクターが登場するマンガで、こちらは少年マンガ的な作品(バトル中心)と、少女マンガ的な作品と、その双方が見られます。

 つまり、今のスクエニは、このような「男性に受けやすいキャラクターや作品ジャンル」「女性に受けやすいキャラクターや作品ジャンル」と、そのどちらかが強く押し出された作品が雑誌の多くを占め、それ以外の作品が連載されることが非常に少なくなっているようです。どのようなマンガでも、まずこのどちらかの売れ線を押さえることが求められ、それが見られない作品や作家は、そんな売れ線を採り入れるように強く促されるか、あるいは最初から掲載されずにスクエニから去ってしまうという状態になっています。ここでは、そんな今のスクエニの作品の動向と、その問題点を詳しく見ていこうと思います。


・雑誌ごとに男性向け・女性向けの差が明確になった。
 まず、ここ数年、具体的には2001年のお家騒動以降のスクエニ系雑誌は、雑誌ごとのカラーを差別化され、それぞれが異なる読者層をターゲットにするようになったようです。

 お家騒動以前のエニックスは、どの雑誌も非常に近いカラー、このサイトでいうところの「中性的」なカラーで統一され、雑誌ごとの差異があまりなく、非常に近いイメージの雑誌群になっていました。これは、少女マンガ雑誌のステンシルでさえそうで、一般的な少女マンガ誌よりもはるかに中性感が強く、男性でも抵抗なく読める作品作りを強く目指していました。Gファンタジーも、他の雑誌よりは多少は女性向けの要素がありましたが、これも今に比べれば大きな差異はなく、実際に当時のエニックス雑誌は、雑誌ごとの読者層の違いが今よりもずっと小さく、エニックスの雑誌をすべて買うという読者も大勢いたほどです。

 しかし、騒動後のエニックス(スクエニ)は、次第に雑誌ごとの読者層を明確に区分するようになり、特にステンシルが休刊されて多くの連載がGファンタジーへと移籍し、青年誌であるヤングガンガンが創刊されたあたりから、特にそれが強くなります。
 まず、Gファンタジーは、明らかに女性向けの要素を強くし、見た目からして女性に好まれる美形男性キャラクターが登場するマンガが多くを占めるようになりました。これは、ずっと前からある程度この傾向はあったのですが、ステンシルからの移籍陣を迎えた2003年以降特に顕著になり、それ以外の男性にも好まれるマンガ、例えば「ぱにぽに」のようなマンガは雑誌の中でも少数派になってしまいます。
 逆に、当初から完全に男性向けとして創刊されたのがヤングガンガンです。青年男子向けのエロ・萌え・バイオレンス色の強い連載ラインナップが顕著で、しばらくののちにグラビアアイドルのページを作り毎号表紙を飾るなど、すべてにおいて男性向けの誌面となっています。そのため、実際の男性読者の比率も9割に達しているようで、スクエニの中でも最も読者層が偏った雑誌となりました。

 一方で、ガンガンやガンガンWING、パワードは、そこまで読者層が偏っているわけではないようですが、しかし、ガンガンが少年マンガ色を強くして少年読者向けの色と強くする一方、ガンガンWINGは独自色を強くしたコア向けの雑誌となるなど、やはり雑誌ごとの差別化が明確となり、やはり読者層は大きく分かれる結果となりました。

 そのため、今のスクエニ系雑誌は、おそらくは雑誌ごとの読者層はひとつひとつ大きく異なっており、例えばGファンタジーとヤングガンガンでは読者層はまったく正反対ではないかとも思われる状態になっています。これは、かつての「エニックス」と聞けばある種特定のイメージの雑誌が思い浮かぶ状態とは、随分とかけ離れた状態になったと言えます。


・ひとつの雑誌内でも男性向け・女性向けのターゲット区分が明確になった。
 そして、Gファンタジーやヤングガンガンが、雑誌すべてにおいて女性向け(男性向け)色を強くする反面、ガンガンにおいては、雑誌内で男性向けと女性向けの作品が混在し、どちらか一方にターゲットを絞った作品が両立する状態となっています。

 具体的には、少年向けとも言えるバトルやエロ(お色気)、萌えを強く打ち出した少年マンガと、同じ少年マンガでも美形男性キャラクターを強く打ち出し、女性向けにターゲットを定めたマンガと、そのどちらかが雑誌内の多くの連載を占めています。前者の代表が、「ながされて藍蘭島」や「屍姫」、あるいは「マンガ家さんとアシスタントさんと」もそうでしょうか。後者には「はじめての甲子園」「ブレイド三国志」や「閉ざされたネルガル」など、意外にもかなり多くのマンガが該当すると思われます。
 これは、あの「鋼の錬金術師」ですら例外ではありません。連載当初はともかく、アニメ化で女性ファンが多数ついたのちは、雑誌の中でも最も女性読者層に人気のある作品として、「女性に多大な人気が見込める作品」として扱われていることは間違いないようです。
 このように、雑誌内で男性読者向けと女性読者向けが同時に存在するのは、一見すると不思議なようにも思えますが、少年誌の最大手の週刊少年ジャンプがそんな感じなので、今ではむしろ当然なのでしょう。ジャンプのようなメジャー誌は、ガンガン編集部が目指す存在であるらしいので、なおさらそうでしょう。

 そして、このガンガンと同様に、最近ではWINGまでも同じような誌面を目指すようになった気がします。ちょっと前まではいわゆる日常癒し系の作品や比較的萌え色の強い作品が主流だったのに、2007年以降、明らかに女性向けと思えるビジュアルの作品をいくつも採り入れるようになり、雑誌の雰囲気がかなり変わってきました。その一方で、これも今まではなかったエロコメとも言える作品も見られるようになり、こちらは明らかに男性向けと、これまでのWINGの誌面とは正反対の露骨に男性向け・女性向けが混在する誌面へと変わってしまったようです。


・新人の作品にもそのようなものが目立つ。
 連載だけではありません。新人の読み切りにもそのようなものが目立つようになりました。いや、連載陣以上にその傾向が顕著で、男性・少年向けと思えるバトル+美少女的な少年マンガと、同じ少年マンガでも美形キャラクターが登場する作品か、そのどちらかがとにかく多い。新人の読み切りを集めた「フレッシュガンガン」でも、そのような作品ばかりが並んでいるようです。現在、ガンガンで短期連載中の「日常戦線」、フレッシュガンガンの掲載作のガンガンでの読み切り「ブラッドタイプV」あたりが、そんな新人作品の代表的存在で、今後このような作品がガンガンにも頻繁に登場するようになるかもしれません。

 このような作品ばかりが集まるのには、大きく分けてふたつの理由があると思われます。
 まず、第一の理由は、最近のスクエニ系雑誌に集まる新人に、そのようなジャンルを好む人が多くなっているのではないかということ。もう、今のガンガンは、かつてのガンガン、エニックスからは大きく印象を異にしており、少年マンガ的なバトル作品を好む新人作家が多くなっているのではないか。女性作家でも美形キャラクターが登場する少年マンガを好む人が多そうで、実際に女性新人作家によるそのような読み切りを数多く見かけます。ガンガン、スクエニの作品のの方向性を好む新人しか、今のスクエニには来ないのかもしれません。

 そして、もうひとつの理由は、こちらの方が大きいのですが、編集部の方からそのような作品を新人に描くように要請しているのではないか?ということです。本来ならば異なる作風を持つ新人がいたとしても、ターゲットを男性向けか女性向けに絞ってマンガを描くように変更させる。そのような例が何度も見られるようになりました。わたしの知る連載作家のひとりでも、かつての読み切り時代からはひどく異なる作風へと変わってしまった方がいるので、実際に新人に対してそのような働きかけがあるのはほぼ間違いないと思われます。
 そんな中でも特に不可解だったのが、かつて「ネギま」と同じような絵を描くように強制された新人作家の存在です。元々萌え系の絵を描く作家だったのですが、「まず男性向けで代表的な売れ線である赤松健のような絵を描けるようにする」という不可解な目標を設定され、そのために赤松健に中途半端に似た微妙な絵を描くようになってしまいました。


・その一方で、これに該当しない個性派の作品は掲載されなくなった。
 このように、今のスクエニでは、露骨に男性向けか女性向けを志向した作品が多数派を占めるようになり、明確に売れ線を追求する作品ばかりが目立つようになりました。そして、その一方で、そんな売れ線とは異なる作品は、その多くが居場所を失い、掲載されることはなくなってしまいました。

 中でも代表的なものが、「妖幻の血」(赤美潤一郎)でしょうか。かつてはガンガンで掲載されており、ガンガンの歴史上でもあまり見られない、高年齢向け、マニア向けを指向した異色の作風で、独自の熱心なファン層を獲得しました。しかし、結局ガンガンとの折り合いが悪かったのか、ガンガンからパワードへと移籍させられ、その後作者の体調不良が原因なのか、長らく休載状態となりました。そして、2008年も終わりごろになって、ついに連載復活の報が流れたのですが、しかしそれはスクエニでの復帰ではなく、他の出版社へと移籍して再開することになったのです。
 もし、スクエニが本気で復活を目指したなら、他の出版社に移ってしまうことは避け、なんとしても自社の雑誌で再開したはずです。しかし、今のスクエニには、そこまでやる気はなかったようです。もう今の分かりやすい売れ線を目指すスクエニの路線には、このくせの強いマンガは不要だと判断されたのではないでしょうか。

 「妖幻の血」だけではありません。それ以外にも多くの作品、特に新人の段階でもう登場しなくなる作家が数多く見られるようになりました。最初から売れ線の作品を描くように半ば強制するのだから当然とも言えますが、昔に比べて絵の見た目からして個性的で人目を引くような作品がほとんど見られなくなり、「フレッシュガンガン」などを見ても似たようなイメージの作品が並んでいます。かつては、「妖幻の血」だって新人による読み切り作品として始まったのですが、今のガンガンの新人からは、そのような作品が出てくる気配が感じられません。

 もちろん、今のスクエニでも、数は少ないものの売れ線に該当しない、作家色が強く出た作品もいくつかあります。しかし、それらは例外的な存在だとも思えます。例えば、Gファンタジーの「トリフィルファンタジア」(夜麻みゆき)などは、まさに夜麻みゆきという作家の色が強く出た個性派の作品です。しかし、このマンガは、おそらくは「夜麻みゆきだから」「かつての人気作家の復帰作だから」という理由で掲載されている側面が強いように思えます。もし、同じような作品を新人が描いてきたとしても、「今はこういう作品は求めてないから」という理由でハネられるような気がするのです。


・今のスクエニの作品が決して面白くないわけではないのですが・・・。
 もちろん、今の男性向け、もしくは女性向けの売れ線を求めたスクエニの作品が、すべて面白くないというわけではありません。むしろ、面白いマンガはいくつもあり、上位のアニメ化を達成するような作品には、本当に上質のものも多いです。

 例えば、女性読者を中心に今や圧倒的な人気を獲得している「黒執事」ですが、これは単なるキャラクター人気だけではない、確かな面白さが感じられます。逆に、アニメ化を達成したヤングガンガンの人気作品「BAMBOO BLADE」「すもももももも」「黒神」「咲 -saki-」などは、いずれも男性人気の方が高いと思われますが、しかしどの原作も大変優秀な作品です。ガンガンの「鋼の錬金術師」に至っては、もはや言うまでもなく、確かに女性人気は高い側面はありますが、それ以上に幅広く多くの読者に読まれている名作であることは間違いないでしょう。

 このように、必ずしもすべての作品が悪いわけではなく、むしろ力作も数多く見られるのです。しかし、それらの作品の多くが、まず男性向けか女性向けの売れ線を確保した上での作品になっているところが、大きな問題だと思うのです。そして、その裏で、それに該当しない作品・作家は、掲載する機会すらなく、日の目を見ないままで消えていってしまう。分かりやすく言えば、「『黒執事』が圧倒的な人気を獲得しているその裏で、『妖幻の血』が人知れずスクエニから去っている」という状態なのです。

 そして、このような路線、「まずは男性向けか女性向けで売れ線を確保する」という作品作りでは、作家の個性や多様性がまったく重視されず、かつてならば個性的な作家として雑誌で独特の人気を得られたような作家が、最初から活躍の機会すら与えられずに消えてしまうか、あるいは無理に売れ線のマンガを描くように要請される。今のスクエニは、分かりやすい売れ線の作品でかなりの人気を確保しているものの、これでは必ずしも喜べる状態とは言い切れないのではないでしょうか。

 わたしの個人的に知っているスクエニの作家さんでも、明らかに本来の作風からは外れたものを描くようになった方がいます。そしてその一方で、その知り合いの作家さんの方は、他出版社の雑誌でそのままの作風で描いているのを見て、それは大変にうらやましく思いました。これは、今のスクエニの狭量な路線と、それとは大きく異なり比較的寛容な作品作りをしている他出版社の自由な路線と、ひどく分かりやすい対照を成した出来事に思えたのです。


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