<今の若者は政治に無関心ではない>

2007・7・24

 一週ほど先延ばしになった参院選もいよいよ押し迫ってきたこの時期、皆さんいかがお過ごしでしょうか。今回は、久々に政治に関するお話をいたします。
 昔から、日本人、特に若年層(若者)が、「政治に無関心」だと繰り返し言われてきましたが、本当にそうでしょうか。一昔前からばそうだったかもしれませんが、少なくとも、今現在においては、必ずしも当てはまらないのではないかと思います。選挙での投票率や、街角でのデモ等の政治活動においては、確かに諸外国に比べて目立たない存在だと思われますが、実は潜在的には、かなり政治に対する関心は高まっているのではないか。あくまで印象論ですが、そう推測できる根拠がいくつかあります。


 まず、第一の理由として、人々の注目を集めるような政治家(や選挙での候補者)が増えたという点があります。若者受けもしやすい、話題でネタにしやすいような人物が増えている。これが大きい。
 そんな人物の中で、最大の存在と言えるのは、もちろん前首相の小泉純一郎であり、彼が強く打ち出した「劇場型政治」に追随するかのように、とにかく人々の注目を集める 政治家に事欠かなくなりました。言うなれば、「ワイドショーのネタになるような人物が次から次へと登場してくる」のです。
 具体的には、まず小泉前首相は別格として、それ以外にも、小泉政権初期においてその好々爺ぶりが格好の話題になった塩川正十郎財相(塩爺)、「ムネオハウス」で一斉を風靡(笑)した鈴木宗男、99年からの東京都知事で発言が物議を醸し続ける石原慎太郎、2005年の衆院選挙当選者でそのバカバカしい言動が多くの失笑を誘った杉村太蔵(タイゾー)、同じく衆院選挙候補者で最大の話題となった堀江貴文(ホリエモン)、マンガ好きの大臣としてその手の若者の人気を集める麻生太郎、そして極めつけはタレントから宮崎県知事となった東国原英夫(そのまんま東)・・・。これらは、あくまでもごく一部であり、これ以外にもテレビで話題になるような政治家や候補者が、ここ数年で極めて多くなっています。
 いや、ひょっとすると、以前にもこのような面白い人物はいるにはいたのかもしれませんが、昔はさほど注目されなかった可能性もあります。それが、小泉政権の劇場型政治以降、こういう面白い(視聴率の取れる)キャラクターが、テレビでクローズアップされることが多くなったのではないか。あるいは、別の可能性として、小泉政権以降、彼特有のパフォーマンス重視の劇場型政治を、他の人も追随し始めた結果かもしれません。
 そして、このような面白い人物が政界に次々に登場するようになった結果、国民全体に対する政治への興味が高まり、とりわけこのような面白いニュースに敏感な若者層も、政治への興味がつとに高まったのではないかと考えられます。

 第二の理由として、そういった政界の動きを受けて、テレビで政治関係の番組が増えたことが挙げられます。
 まず、最初に大きな変化が起こったのは、ワイドショーです。小泉以前の時代ならば、ワイドショーで政治ネタが扱われることは、ほとんどないと言ってもいいほど少ないものでした。ほとんどのワイドショーでは、もっぱら視聴率が取れる芸能ネタが中心でした。それが、今では、ワイドショーで政治ネタが扱われることは日常茶飯事、それどころか、番組の中心的な話題として、大幅に時間が割かれることも当たり前になっています。はっきりいって、小泉以前と以後とでは、ワイドショーの中身がまるで違っています。今では「政治で視聴率が取れる」時代になったのです。
 ワイドショーだけではありません。政治を扱った専門番組も増えています。それも、NHKの「日曜討論」のような堅苦しい討論番組ではなく、いわば「バラエティ」系のタレントを呼ぶような娯楽中心の番組が目立つようになっています。具体的には、「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中。 」「たかじんのそこまで言って委員会」のふたつの影響が特に大きく、古参の番組である「たけしのTVタックル」もこれに加えてもよいでしょう。さらに、これも古参の討論番組ではありますが、「サンデープロジェクト」や「朝まで生テレビ」などの定番となる番組も、総じて以前より人気を博しています。このようなバラエティ系の娯楽番組によって、政治への興味を引かれている視聴者も少なくないでしょう。
 また、この手の番組への出演を通して、知名度が上がり人気を博する政治家も増えています。面白い政治家がテレビに出るようになっただけでなく、逆に、テレビでの露出を通して、そこから人気を得る政治家も頻繁に出るようになったのです。

 第三の理由として、生活状況の変化により、政治そのものへの関心を持たざるを得なくなったという点が大きい。
 一昔前まで、政治に無関心な人が多かったのは、「別に無関心でも問題なく生活できた」からに他なりません。しかし、今では状況が大きく異なります。「格差社会」という言葉に象徴される貧富の差の増大、不正規雇用の増大により、とりわけ若者の生活の危機感がひどく大きくなっています。加えて、年金に対する不信が非常に大きい。このような状態では、政治への関心がどうしても高まってしまいます。
 一昔前ならば、政治が多少どうなろうとも、とりあえず自分たちの生活には影響ありませんでした。しかし、今ではそうではありません。生活への余裕がなくなり、政策ひとつで自らの今の生活や、将来の人生にも露骨に影響が出てくるようでは、まったく政治に無関心というわけにはいかないでしょう。「明日の生活がどうなるかわからない」とか、まして、「自分の年金がもらえるかどうかわからない」というような状況では、政治に関心を持たざるを得ないわけです。
 (*個人的には、昨今の「ゲーム離れ」の傾向は、この「政治に関心を持たざるを得ないほどの生活への危機感」から大いに影響を受けていると思っています。身近な生活への不安が増大している状況において、それを完全に無視して数時間以上ぶっつづけでゲームを続けることの出来る精神状態の人は、そう多くないと見ています。それゆえに、同じゲームでも、気軽にプレイできるゲームや実用的なゲームの方に興味が移ったりするわけです。)

 第四の理由として、インターネット、特にブログの普及の影響が非常に大きいと言えます。
 元々、若者が政治に対して接点を持つ場としては、上記のテレビに加えて、このインターネットの存在も実に大きい。政治系のサイトに直接行かなくても、他のジャンルのサイトや掲示板で、時に政治や時事問題を話題にするようなことは多数あります。そういう場所で政治への接点を得るというケースが非常に多い。
 とりわけ、2003年以降に爆発的に流行した「ブログ」によって、この傾向は非常に顕著になりました。ブログは日記形式の簡易作成サイトですが、実際には、自分が興味を持った時事問題へのコメントを残すために使用するユーザーが非常に多く、そんなブログの爆発的な普及によって、ネットで政治や時事問題に接する機会も、一気に増大しました。とりわけ、インターネットの利用率の高い若者、とりわけネットに盛んにアクセスするマニア系のコアユーザーならば、普通にネットを巡回するだけで、多かれ少なかれ絶対に政治や時事問題に触れているはずなのです。ブログの普及で、政治への接点が一気に増えたことだけは間違いないでしょう。


 そして、このような様々な理由が想定される今、若者の政治への関心は、確かに高まっていると感じます。はっきり言って、今の状況ならば、「若者が政治に無関心」などとは到底言えません。選挙での投票率や、街中でのデモ等の政治運動などで、あまり目に見える変化がないから気づかないだけで、あるいは、「今の若者は政治に無関心でけしからん」という、ステロタイプな若者批判の影に隠れているだけで、実は潜在的には政治への関心は高まっているはずなのです。むしろ、テレビのワイドショーやバラエティ、ネット上でのブログの記事などで、「政治を一種の『娯楽』として楽しんでいる」若者は、かなり多いのではないでしょうか。この「政治の娯楽化」という現象は、小泉政権以降の大きな流れとして、確かに存在すると思われます。


 ・・・さて、このサイトは、スクエニ系のマンガを扱うサイトなわけですが、このような政治の話を久々にしたのは、もちろんマンガとも関係があるためです。つまり、今若者にも関心が高い政治ですから、それをマンガに反映させてもいいのではないか、と言いたいのです。「これだけ若者の政治への関心が高まっているわけだから、今ならば少年誌で政治マンガをやっても受けるのではないか?」と言うわけです。
 少年誌でも、小学生が主体となるような低年齢向けの雑誌ならば、政治ものが人気を得ることは難しいでしょう。しかし、スクエニ系の雑誌ならば、コアな高年齢層の読者もかなり多く、むしろそちらの方が主体であり、ならば十分政治ものが受けるのではないか。そう思える下地は確かにあります。

 しかも幸いにも、スクエニには、かつて「これはかなりいけるのではないか」と思える、政治をネタにしたマンガが、いくつかありました。それを今連載化してみたらどうか。
 まず、かつて第3回スクウェア・エニックスマンガ大賞で準大賞を受賞した読み切り作品「I'm あ 総理」です。これは、今ガンガンで「王様の耳はオコノミミ」という料理マンガを連載している夏海ケイのデビュー作品で、少年マンガにして政治を扱った斬新さで、居並ぶほかの受賞作の中でも、とりわけ印象に残る作品でした。準大賞という受賞ランク以上に目立つものがあり、この回の審査員だった荒川弘も特別賞を与えているほどです。

 このマンガの印象が非常に強かったので、このマンガをそのまま連載化してもいいのではとさえ思っていましたが、しかし、それが適うことはなく、それどころか、作者の夏目さんは、料理マンガである「オコノミミ」の連載を担当することになってしまったのです。実は、これは、ガンガンの編集長である松崎氏が、「スポーツや料理など一般的なジャンルを増やす」という方針の一貫であり、とりわけ「料理マンガをとにかく連載したい」と強く推し進めたらしいのです。その結果として、編集部主導である「オコノミミ」の連載を要求されたらしいのです。

 しかし、この「オコノミミ」、ひどく平凡なマンガの域を出ず、大きな人気も出ないうちに連載が続いています。そもそも、「料理マンガ」という、あまりにもありきたりな、今では古さも感じさせるようなジャンルのマンガで、しかも内容も、既存の料理マンガをなぞるかのような内容に終始しており、これで大きく成功するのは難しいものがありました。今のガンガン編集部の、極端なメジャー誌路線を代表するような作品であり、ガンガンの平凡さの象徴とも言える作品になってしまった感もあります。

 これならば、作者のデビュー作にして、斬新な意欲作だった「I'm あ 総理」を連載化してほしかったところです。そもそも、ガンガン系では、デビュー作がそのまま初連載作品となり、大きく人気を得て成功するマンガ家は珍しくありません。「ハーメルンのバイオリン弾き」(渡辺道明)、「Z MAN」(西川秀明)、「ジャングルはいつもハレのちグゥ」(金田一蓮十郎)などが、その代表です。デビュー作にこだわらなければ、自身の読み切り作品を連載化して成功するマンガ家は、それこそひどくたくさんいます。それと同じ道を、夏海さんにも辿らせることは出来なかったのか。「I'm あ 総理」の内容を見ても、「11歳の少年総理が大活躍する」という少年マンガ的なストーリーでありながらも、割と真面目に政治を扱っており、かつ爽快で熱い少年マンガの楽しさも味わえ、かつ重厚で心に残る主張も見られるなど、ひどく充実していました。連載につながるような布石も用意してあり、続きを読みたいと思わせる力も十分にありました。これを連載化してほしかったというのが本音です。そうすれば、同じ少年マンガ的作品でも、斬新でオリジナリティの高い連載ラインナップになったのではないでしょうか。今、「オコノミミ」はもう終了近くを迎えており、その終了を機に、今からでも遅くはないので、このマンガを連載してもよいのではないでしょうか。


 そしてもうひとつ、少年マンガ以上に、政治を扱っても人気が出ると思われるジャンルがあります。もちろん、萌えマンガですね。
 こちらでは、先日久々に復刊したフレッシュガンガンに載った新人の読み切りで、「ドクサイ某国プリンセス!」(佳月玲茅)があります。このマンガ、新人のマンガとしては「I'm あ 総理」ほどの完成度はなく、それだけなら佳作程度の作品でした。しかし、作者の誠意が感じられる力作で、「続きを読みたい」と思わせる力は確かにありました。思い切って、これを連載化しても面白いのではないかと考えます。連載を続けるうちに、実力が伸びていくタイプの作者ではないかと見ます。

 肝心の内容は、某独裁国家のプリンセスで、ロリ巨乳の女の子が、日本のとある島の元首となり、微笑ましいその活躍で自分の国のために精一杯頑張っていくというようなストーリーです。ほのぼのしたコメディ主体の作品ですが、力のある主張も時に窺えるもので、この国のその後を見てみたいと思わせる読後感は確かにありました。絵的には、まだまだ粗いところも多く、手放しでは褒められませんが、それでも一定の完成度は持っており、決して悪い印象の作画ではありませんでした。プリンセス以外の女の子もよく描けており、これだけの萌え要素があれば、ガンガン系の雑誌ならば、とりわけガンガンパワードかWINGあたりで連載しても面白いのではないでしょうか。

 個人的に、この「萌え+政治もの」というジャンルは、ひょっとするとかなり受けるかもしれない可能性があると見ます。ラブコメやバトル、ファンタジーや現代ものなどの定番のジャンルに加えて、「政治」という新鮮なジャンルでも、萌えの力を強みにして、注目を得て人気作となれるのではないでしょうか。

 あるいは、そこまで政治一辺倒のマンガでなくとも、要所要所で政治をネタに採り入れるだけでも、面白いかもしれません。時事問題をネタにしたような作品が人気を得て、アニメ化までされる昨今、そのような試みも十分に現実的で、面白いのではないでしょうか。そのようなマンガとしては、現在REXで連載中の「ろりぽ∞」があります。


 以上のような作品の存在を見ても、スクエニ系で「政治マンガ」が人気を得る可能性は十分にあると見ます。とりわけ、かつての優秀なマンガ賞受賞作だった「I'm あ 総理」は、未だに惜しいと思われる作品で、作者自身も、「このマンガが一番気に入っている」とインタビューでも答えており、今でも未練があるように思えます。かつては、連載のきっかけすら掴めませんでしたが、昨今、政治に対する関心がさらに高まっている状態ならば、今から連載化してもまだ成功できる余地は十分ありそうです。

 そして、「ドクサイ某国プリンセス!」に代表されるような、萌え系政治マンガというのも、純粋に面白そうです。こちらの方が、より現実的な人気が期待できるかもしれません。同じ萌え作品でも、単なるありきたりなエロ重視の萌えマンガよりも、このような新鮮な要素も含んだ作品の方が、はるかに意義があるのではないでしょうか。まだ、この手のジャンルに積極的に取り組んでいる出版社も見られませんし、今こそこのような試みが面白いと思うのです。


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