<スクエニ系コミック2008年総括(前編)>

2009・12・4

*後編はこちらです。

 さて、2008年ももうじき終了しつつありますが、ここで毎年恒例の記事として、今年1年のスクエニ系コミックの動向を振り返ってみたいと思います。

 まず、今年のスクエニについては、もうアニメ化の多発を抜きにしては語れません。とにかくアニメ化作品の数が多く、これほどの数が見られたのはもう前例がありません。
   実は、前年の2007年もアニメ化企画の数が多く、「ながされて藍蘭島」「瀬戸の花嫁」「ZOMBIE-LOAN」「獣神演武」「BAMBOO BLADE」と、各雑誌から1本ずつ出るという状況でした。これ以外にも他社のアニメ作品に連動する企画も多く、スクエニがアニメ化を積極的に推し進める形での雑誌運営を行うようになったのかと思われました。
 そして、この2008年でその路線はさらに先鋭化され、今度は7本ものアニメ化が達成されることになりました。具体的には、まず4月から、ガンガンから「ソウルイーター」、Gファンタジーから「隠の王」がアニメ化。特に前者は、最近では珍しい1年間に及ぶ放映期間で、ガンガンの中心作品らしい扱いを受けることになりました。さらに7月からはヤングガンガンの「セキレイ」、そして10月からのアニメ化ラッシュが凄まじく、ガンガンから「屍姫」、Gファンタジーから「黒執事」、ヤングガンガンからは「天体戦士サンレッド」と、「とある魔術の禁書目録」と4本。このうち、最後の「とある魔術の禁書目録」は、原作は他出版社(メディアワークス)のライトノベルで、正確にはこちらのアニメ化ではあるのですが、同時にガンガン連載作品のアニメ化にも近い扱いを受けています(他社連動型のメディアミックスに近い企画とも考えられます)。
 ここまでアニメ化企画が2年続けて連発されるとなると、これは単なる偶然ではありえず、もう明らかに、スクエニという会社の方針としてアニメ化を積極的に進めるようになったのだと推測できます。つまり、恒常的にアニメ化企画を打ち出し続けることで常に読者の目を引き、雑誌、コミックスを盛り上げて売り上げを確保するという路線を採るようになったと思われるのです。

 しかし、これだけの本数の自社アニメ化企画の乱発は、むしろやりすぎの感が漂います。作品によってはかなり強引な早期でのアニメ化企画が見られ、弊害も多いように見受けられます。具体的には、連載がまだまったく進んでいない段階でアニメ化され、中途半端な内容や放映期間のアニメ化作品が増えてしまうことと、アニメ化連発でスクエニ原作マンガのアニメ化候補作品のストックが尽きてしまうことが懸念されます。そのため、一時的にアニメ化で盛り上がっても、長い目で見れば決していい方針とは思えないのですが、なんと2009年においてもこの傾向は変わらないようで、今の時点ですでに4作品のアニメ化候補が上がっています。これでは、来年以降もさらに不安な状態が続きそうです。

 そして、これだけアニメ化企画が連発される一方で、肝心の雑誌については総じて大きな変化、話題がありませんでした。どの雑誌も大きな路線、カラーの変化や、これはと思われるような連載マンガに乏しく、アニメ化で盛り上がる割に雑誌自体は停滞した感が漂います。
 新連載自体の数が減っているわけではありません。どの雑誌でもコンスタントな数の新連載が始まっています。しかし、その新連載の中に、雑誌の中心となるような人気を得て成功した作品には乏しく、どれも全体的に小粒の感が漂い、今ひとつ出来が良いとは言えない作品もかなり見られます。そのため、雑誌 が新しい核を得て盛り上がるようなケースが非常に少なく、それが雑誌の停滞感に繋がりました。

 そのような新連載の沈滞傾向を受けて、あまり堅調ではなく低落傾向とも言えるような雑誌も増えてきており、この点でもかなり不安です。具体的には、ガンガンとガンガンWING、そしてここ最近はGファンタジーも少々不安です。ガンガンとガンガンWINGの停滞、低落傾向は、今年に始まったことではなく、ここ数年以来一貫した傾向なのですが、それが今年はさらに強まったように思えます。Gファンタジーも、この二誌ほどではないにしても、ここ最近は有力な新規連載に乏しい状態が長く続いています。

 ヤングガンガン、ガンガンパワードはまだ健在ですが、それでも昨年あたりから雑誌の新たな中心となるような有力新連載が少なくなっており、やや成果に乏しくなってきた感があります。まだ優れた連載が多いので当面は安泰ですが、来年あたりでやはり有力な新連載が必要なことは間違いないでしょう。

 ただ、全体的に停滞気味だった既存雑誌に対して、10月に新創刊されたウェブ雑誌「GANGAN ONLINE」は、かなり積極的な作家登用を行っており、予想以上に面白い作品が多く、大いに期待できる雑誌となっています。今年のスクエニの最大の成果は、もしかするとこれかもしれません。中心となる連載陣が面白く、4コマ作品の連載に積極的だったり、掲載するライトノベルも質が高かったりと、各種の方針に見るべきものがあり、新しい方向性の雑誌としていけるかもしれません。

 それでは、以下、雑誌ごとの総括に移ります。


<少年ガンガン>
 今年のガンガンは、例年以上にアニメ化頼みだったと言えるでしょう。スクエニ全誌の中でも、最もアニメ化作品が全面に出た雑誌になりました。4月以来一年を通して放映されることになった看板作品「ソウルイーター」、そしてそれに続く人気作品である「屍姫」と「とある魔術の禁書目録」の秋からの同時アニメ化。今年のスクエニは、この3つのアニメ化でほとんどの話題が占められたと言っても過言ではありません。これらの人気作品の実力には確かなものがあり、アニメ化自体は妥当とも言え、原作もおおむね優れた質を保ちつつ推移しています。特に、ここ最近の「禁書目録」の安定感と読者人気はかなりのものがあり、外部からのコミカライズ作品でありながら、いまやガンガンの看板の一角に名を連ねつつあり、表紙になることも珍しくなくなりました。

 その一方で、雑誌のそれ以外の作品が全体的に低調で、特に新連載がほとんど奮わなかったのが対照的でした。前年の終わりに長期連載の多くが終了し、年明けから始まった新連載攻勢には注目が集まったのですが、どれも今ひとつの結果のようです。具体的には「トライピース」「ストレイキーズ」の新人作家による二大連載、4コマ作家による新作ギャグ「ひょっとこスクール」がどれも今ひとつで、唯一、外部(芳文社)の人気4コマ作家・ヒロユキによる新連載「マンガ家さんとアシスタントさんと」がかなり気を吐いた程度で、スクエニ他誌の連載作家による新連載「メテオエンブレム」「月彩のノエル」なども、今のところそれほどの作品にはなっていないように思われます。

 このような状態を眺めて、最近特に気になるのは、ガンガンの中で「人気のある少数のマンガと、そうでない多数のマンガとの差が広がっている」ということです。もとより、お家騒動以後のガンガンは、一貫して少数の人気作に頼った誌面だったのですが、ここに来てさらに人気マンガとそうでないマンガの差が広がってきたように思えるのです。

 そして、人気のあるマンガをピックアップしてみると、そこにひとつの特徴が浮かび上がります。それは、どれも最初から実力のある作家、もしくは作品であるということ。突出した実力派作家の長期連載である「鋼の錬金術師」「ソウルイーター」、外部の人気ライトノベルのコミック化「とある魔術の禁書目録」、外部の人気作家の新連載「マンガ家さんとアシスタントさんと」と、いずれもそうであって、特に最近は外部からの成功作が目立ちます。

 逆に、ガンガンからの生え抜きの新人作家、彼らの手によるオリジナル連載において、めぼしい成果が非常に乏しくなっているのです。雑誌にとって最も肝心 な、自分たちの手で育成したはずの新人作家のマンガから、優れた作品が出てこない。人気があるのは、もう定番となった長期連載か、外部からのテコ入れ的な導入作品だけ。これは、今のガンガンの質の低下を露骨に示す傾向であり、数少ない長期作品と外部作品に頼り、あるいはそこからのアニメ化企画に頼っている現状が浮き彫りになります。そして、肝心の生え抜きの新人からいい作品が出てこない。これは、いまだ少年誌的、少年マンガ的な作品を新人に強く求めているのも大きな理由で、これでは斬新な作品が出てきません。むしろ、そんな方向性から半ば外れた作風の外部作品「とある魔術の禁書目録」「マンガ家さんとアシスタントさんと」の方が面白いという結果を生んでいます。

 そして、このままの状態が続けば、来年以降も連載ラインナップの向上には期待しづらいのではないか。いい新人作品が現れない、出せないというのは、今のガンガンの根本的な問題で、アニメ化で盛り上がっていてもその中身には不安が非常に大きいと言えます。


<ガンガンパワード>
 ガンガンパワードは、今年もあまり大きな動きがありませんでした。2006年に新装リニューアルした時には、大量の新連載投入で大きく様変わりしたのですが、その後2007年、そして今年2008年と、おしなべて新連載が少なく、随分とラインナップが落ち着いてきました。その上、今年はアニメ化作品もなく、他の雑誌がアニメ化で賑わう中、やや目立たない雑誌となったかもしれません。

 ただ、数少ない新連載に、コミカライズ作品が非常に目立つのが特徴的です。今年始まった新連載はたったふたつしかなく、ひとつは「”文学少女”と死にたがりの道化」、これはエンターブレイン(ファミ通文庫)の人気ライトノベルのコミック化、もうひとつは「コープスパーティー BloodCovered」で、これはPCの同人ゲームのコミック化のようです。このふたつに加えて、前年の最後に始まった「うみねこのなく頃に episode1」も、実質的な今年の新連載と考えてもよいかもしれません。これもPCゲームのコミック化であり、姉妹作でこちらは大ヒットした「ひぐらしのなく頃に」のコミックと並んで、今のパワードの看板的な作品となっています。これらは、スクエニ以外に原作を持つコミックですが、一方でスクエニゲームのコミック化作品も数多く見られます。

 このように、今のパワードは、ゲームやライトノベルのコミック化作品が非常に多く、特に「ひぐらし」「うみねこ」は雑誌の看板作品の地位を占めています。幸いにも、これらはどちらも十分な完成度を持つ良作であり、雑誌の看板となるのに異存はない作品ではあるのですが、しかしこういった原作付きのコミックが長い間雑誌のイメージとなってしまうのは、少々違和感を覚えるところもあります。しかも、今年の数少ない新連載もすべてコミック化であり、そのうちの 「コープスパーティー」などは、「ひぐらし」や「うみねこ」にかなり近いイメージも感じるホラー系ノベルゲームからのコミック化となっており、こういった作品をパワードの売りにしようという編集部の意図さえ感じられます。できれば、やはりオリジナルの看板作品を打ち出して、それで雑誌のイメージを作り出してほしいと思うのですが、どうでしょうか。

 ただ、このようなコミカライズ作品への偏重はやや気になるものの、それでも定番の連載陣はおしなべてみな充実しており、実に安定した雑誌になってきていると感じます。数多いコミカライズ作品も、中身は決して悪いものではなく、むしろ良作が揃ってきた印象があり、中でも、新連載の「”文学少女”と死にたがりの道化」は、スクエニでは久々の高坂りとの連載で、作品の雰囲気も良好で期待できると思います。
 また、新連載の数は少ない一方で、読み切り作品はかなり積極的に掲載しており、中でも二度にわたって掲載されたヨシノサツキの「ばらかもん」は、非常に優秀な作品となっており、同誌で掲載中の作者の連載作品よりも明らかなレベルアップが感じられました。これものちに期待できる成果かもしれません。

 このように、今年のパワードは、大きな動きこそないものの良質な誌面作りが見られ、このところ安定しないガンガンやWINGよりも粒が揃っており、隔月刊で刊行ペースが遅いことをのぞけば、明らかにこちらの方が優れていると感じます。今年に入って紙質をリニューアルし、薄く綺麗なページで読みやすくなったのも、地味ながら優れた改善点でした。


 続きは後編でどうぞ。こちらです。


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