<スクエニ系コミック2009年総括(後編)>

2009・12・5

*前編はこちらです。

<ヤングガンガン>
 ヤングガンガンは、今年もおおむね堅調であり、一年を通して充実した誌面構成を見せてくれました。今やスクエニでも最も充実した雑誌になったと言っても過言ではありません。アニメ化作品も頻繁に登場し、常に誌面を賑わせることになりました。具体的には、前年から引き続いての「BAMBOO BLADE」、7月からは「セキレイ」、10月からは「天体戦士サンレッド」と、どれもかなりの話題を呼び、高い評価を受けた作品も多く見られることになりました。今のスクエニが、アニメ化作品を積極的に打ち出し続ける路線を採っていることは、先ほど書いたとおりですが、その中核となっているのが、このヤングガンガンであることは間違いないところです。来年以降もいきなり複数の作品がアニメ化予定であり、この勢いはしばらくの間続くかもしれません。

 また、そのようなアニメ化するような人気作品だけでなく、あまり大きな人気の出ないタイプの作品でも、意外な良作が見られるのが、今のヤングガンガンの優れたところです。前年からの優良連載で、惜しくも打ち切り的な終了を迎えた「ムカンノテイオー」、ゲームコミックにとどまらない重厚な戦争もの作品となった「FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE」、凄惨ないじめと暴力シーンがあまりにも鮮烈だった「激流血」など、こういった地味ながら優良な作品にも目を向けるべきではないでしょうか。

 ただ、ここ1年の新連載を見ると、今ひとつ奮った作品が出てこなかったのは、ちょっとした不安材料かもしれません。唯一、外部(芳文社)の人気4コマ作家・ヒロユキによる新連載「マンガ家さんとアシスタントさんと」が、安定したクオリティを見せたくらいでしょう。あの「ハーメルン」の続編である「ハーメルンのバイオリン弾き 〜シェルクンチク〜」は、まずまずといったところでしょうか。一方で、それ以外の作品からは、今のところ将来アニメ化出来るような実力派作品には乏しく、前年から引き続いてやや成果に乏しい印象がありました。また、ここ最近、以前にもまして男性向け偏重のエロ・萌え・バイオレンス要素の強い連載が数多く登場しているのも、やや気になるところです。相変わらずやめる気配のないアイドルグラビアのページも併せて、ごく青年誌的でありがちな低俗路線を採り続けているようで、個人的には少々不満です。

 とはいえ、今はまだアニメ化候補となる人気作品のラインナップは健在で、当面雑誌は安泰でしょう。しかし、このところのスクエニのアニメ化連発路線に合わせて、今後も今のペースでアニメ化し続けるようなことがあれば、この最近の新連載の不作が響いてくる可能性があります。個人的には、このような露骨な連発路線は控えてほしいものなのですが・・・。


<Gファンタジー>
 今年のGファンタジーは、二つのアニメ化作品「隠の王」と「黒執事」に話題が集中した1年だったと見てよいでしょう。特に、後者の「黒執事」の圧倒的な人気があまりにも顕著で、この「黒執事」こそが、Gファンタジーの名実共に顔となった感があります。まだコミックスが4、5巻しか出ていない早い段階で、いきなりアニメ化が決まったのも、その絶大な人気に引っ張られての感が強いものでした。

 そして、この「黒執事」を頂点にして、主要な連載陣には実力のある作品がかなりあります。もうひとつのアニメ化作品「隠の王」は、このところさらに完成度を上げ、非常に高いレベルの作品となりました。加えて、「ZOMBIE-LOAN」「カミヨミ」「ぱにぽに」「Pandora Hearts」「まじまる無双天使 突き刺せ!呂布子ちゃん」「キューティクル探偵因幡」あたりの作品は、いずれも雑誌を支える優れた連載となっています。このうち、「Pandora Hearts」は、来年にアニメ化がされることが決まりました。

 しかし、それ以外の作品がぱっとしません。ここ2、3年ほど、新人による新連載がぱっとせず、成功作があまり出てこないため、明らかに雑誌のラインナップに陰りが見えてきました。唯一、米澤穂信のミステリを新人作家がうまくコミック化した「春期限定いちごタルト事件」が目立つ程度で、それ以外にこれといった作品がないのが現状です。また、ここ数年の特徴として、新人の新連載に、短期で終了するシリーズ連載が非常に多い点が挙げられます。評判が良ければ本連載に昇格、という流れなのかもしれませんが、そのような例は少数派で、短期の連載であっさり終了して雑誌に定着できずに消えてしまうケースが目立ちます。最初から通常の連載で始めた方がよいと思うのですが、どうでしょうか。

 また、かつて「阿佐ヶ谷Zippy」「夢喰見聞」を長期連載した岩佐あきらこ・真柴真による新規連載「銀のクルースニク」「鳥籠学級」が、どちらも今ひとつ芳しくないのも、成果のなさに拍車をかけています。

 数少ない2008年の期待作としては、突然の復活で読者を驚かせた夜麻みゆきの新作「トリフィルファンタジア」、そして竜騎士07原作のコミカライズ2作「ひぐらしのなく頃に 皆殺し編」と「うみねこのなく頃に Episode2」がありました。これらの作品は決して悪くありませんが、まだラインナップを完全に充実させるまでには至っていないように思われます。非常な長期連載だった「E'S」もようやく終了し、雑誌を支えてきた長期連載が少しずつ目減りしていく中、今まで以上に実力のある新連載が求められます。


<ガンガンWING>
 ガンガンWINGは、今年も非常な苦境に陥った一年でした。前年以前より、かつてからの人気長期連載が次々と終了し、後に続くはずの新連載がまるでぱっとせず、少数の成功作を除いて芳しい成果が出ていません。この流れは、この2008年になっても変わらず、さらに強まったようにも思われます。

 今年の新連載も成功作は多くありません。戦国タイムスリップ活劇「戦国ストレイズ」、ほのぼのゆる萌え4コマ「アリスのお茶会」が、数少ない成功作と言えますが、それ以外が芳しくなく、「兄弟-BROTHERS-」「まじぴこる」など、すでに打ち切りになった作品も複数登場しています。これでは今後の展開にさらに不安がつのります。

 さらに不安視される要素として、このところの雑誌の方向性にも少々疑問を感じます。いわゆる王道バトル系のファンタジーコミックや、あるいは若干女性読者向けとも思えるような作品を、何本も打ち出すようになったのです。しかし、それらの作品で成功したものは多くなく、唯一「戦国ストレイズ」が気を吐いている程度で、それ以外の連載は今ひとつのものが多く、誌面の充実に貢献していないように思えます。そればかりか、このような作品を数多く採り入れたことで、WINGが本来持っていた雑誌のカラーが不鮮明になり、雑誌の魅力も減退してしまったように思えるのです。

 そして、今年は、前年以来アニメが大ヒットした「瀬戸の花嫁」が、どういうわけか長期休載状態となり、さらに苦しい雑誌運営を迫られることになりました。そして、「瀬戸の花嫁」と同時期より連載を続けていた「dear」「機工魔術士」も相次いで終了、「機工魔術士」はその後外伝の掲載という形で継続していますが、それでも連載ラインナップがさらに乏しくなったことは間違いありません。

 唯一の明るい材料とも言えるのが、「夏のあらし!」のアニメ化が決まったことでしょうか。しかし、これもまだコミックスにして4巻という早い段階でのアニメ化で、中途半端なものになる懸念があり、素直に喜ぶことが難しいです。できれば、最近の連載では最も掲載期間の長い「ちょこっとヒメ」か、あるいは連載が終了しても外伝が掲載中の「機工魔術士」を選んでほしかったと思います。


<ガンガンONLINE>
 実は、今年のスクエニで、最も著しい成果が見られたのは、10月に創刊されたこのウェブ雑誌かもしれません。ウェブ雑誌はこれまで大きな成功例に乏しく、これもどうなのかなと思ってアクセスしてみたところ、予想以上に見所の多いページとなっており、今後への期待を抱かせるに十分でした。

 まず、中心となる連載作品がどれも面白かったのが目立つ成果でした。とりわけ、衛藤ヒロユキ・小島あきらの人気作家ふたりが描く新作が絶好調で、久々にこのふたりらしい連載が読めたことが最大の収穫でした。特に、衛藤ヒロユキの「キタキタ」は、かつての「魔法陣グルグル」の最大人気キャラクター「キタキタおやじ」を主人公に据えたスピンオフ作品であり、かつての爆笑ギャグが蘇ったかのような内容で、かなりの話題を呼んだようです。

 そして、4コママンガに多大な力を注いでいる点も見逃せません。前述の小島あきらの新連載もそうですし、それ以上に新人による4コママンガが盛況で、マンガ賞にも力を入れているなど、今後さらに新しい戦力が生まれそうな雰囲気が感じられます。純粋な生え抜きの新人作品「今日も待ちわびて」「生徒会のオタのしみ。」、人気ウェブコミック作家による新作「浅尾さんと倉田くん」、スクエニ最大の異色作家・坂本太郎の復帰作「おじいちゃん勇者」、太秦戦国祭りで話題のご当地萌えキャラのコミック化「からす天狗うじゅ」など、実に多彩なラインナップを形成しています。

 そして、マンガ以外のコンテンツ、小説やイラストの充実度も見逃せません。これまで、スクエニからの小説(ライトノベル)は、今ひとつ奮いませんでしたが、ここに掲載された3作品「Stand by me,Stand by you」「犬憑きさん」「欠落フェティシズム」は、スクエニからの期待の新人や、外部からの実力派作家やサークルによる力の入った連載となっており、これまでとは異なる本気度を感じさせます。多数掲載されるイラストの作家陣も多彩で、こちらからも期待できる作家が生まれるかもしれません。


<全体総括>
 今年は、とにかくアニメ作品の大量投入ばかりが目立つ一年でした。これほどたくさんの作品がアニメ化されたのは、スクエニ(エニックス)の長い歴史で初めてではないでしょうか。全部で7つもの作品がアニメ化され、それを売りにして雑誌やコミックを盛り上げていこうとするスクエニの戦略が明るみになった一年と言えます。
 作品のアニメ化自体は、確かに喜ぶべきところもありますが、それ以上に強引で中途半端な状態でのアニメ化も散見されるようになったのは間違いないところで、作品のクオリティや戦略姿勢に疑問を感じるところも多く、かつ今後アニメ化候補のストックが尽きるのではないかという懸念も出てきて、手放しでは褒められない状態になってしまったと思います。

 アニメ化で盛り上がる一方で、雑誌の連載ラインナップについては、落ち込みか停滞したところが多く、今後に向けて不安の残る雑誌もいくつか見られる状態は変わっていません。全体的に新連載の成果に乏しかった感は否めず、今後の発展性に不安が残ります。すでにかなり落ち込みが激しいガンガンWINGのような雑誌だけでなく、ヤングガンガンのような堅調な雑誌でも、このところやや新しい成果が見られにくくなっており、どの雑誌も新連載の数こそ変わっていないものの、いい作品が中々出てこない停滞感が出てきたような気がします。

 そんな中で、唯一、新創刊されたウェブ雑誌「ガンガンONLINE」だけが、予想以上に目に見えた成果を残しました。全体的に外れが少なく、中心となる看板連載から特に力を入れている4コマラインナップ、マンガ以外の小説やイラストなどのコンテンツに至るまで、活気に満ちています。紙媒体の雑誌と異なり、作品ごとに自由な更新ペースで、週単位でどんどん雑誌が更新できているのも、活気を促す要因でしょう。


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