<スクエニ系コミック2009年総括(前編)>

2009・12・2

*後編はこちらです。

 さて、今年もこのサイトでは恒例の、スクエニ系コミックの今年1年間の総括を行いたいと思います。2009年のスクエニは、今まで以上に大きな動きがあり、本当に話題には事欠きませんでした。

 まず、なんといっても、今年のスクエニは雑誌の大再編が行われました。お家騒動以前より長い間続いていたガンガンWINGと、こちらも騒動前から続いていたガンガンパワード、ふたつの雑誌が今年に入っていきなり休刊を迎え、代わって新雑誌ガンガンJOKERが創刊、前年に創刊されたウェブ雑誌ガンガンONLINEと合わせて、休刊した雑誌連載の多くがこのふたつに移籍することになりました。総じて言えば「WING、パワード」→「JOKER、ONLINE」といった流れですが、この二誌以外に他のガンガン系雑誌へと移籍した作品も見られ、スクエニ系雑誌のほぼ全体に影響が及ぶ大再編となりました。ここ数年、WINGは不振を極めており、常に休刊・廃刊の噂が流れている状態でしたが、休刊だけでなく新雑誌の創刊まで行われるのは完全に予想外でした。さらに、比較的堅調だったパワードまで巻き込む形で休刊となり、双方の雑誌の有力作品の多くが、まずはJOKERに主要作品・作家が集まる形となり、それ以外の雑誌にも、その雑誌ごとの作風に合わせた作品の移籍が行われる形となったのです。

 新創刊されたJOKERですが、パワードからは「ひぐらし」「うみねこ」を筆頭とする人気ゲームコミック、WINGからは小島あきら、藤原ここあ、河内和泉等のかつての人気作家の新作連載が始まり、スクエニの中でもコアな読者に受ける作品・作家がここに集まった感があります。ガンガンが一般向け少年誌中心の雑誌とすれば、こちらはコアな読者向けの雑誌となり、マイナーな感が否めなかったパワード・WINGがなくなり、代わって大きな柱となる雑誌が一つ出来た形となりました。

 もうひとつ、前年の末に創刊されたガンガンONLINEの発展も見逃せません。更新を重ねるごとに掲載本数とペースが飛躍的に増大し、今では毎月の更新ページ数が1500ページという超巨大雑誌へと成長しました。そして、創刊から9ヵ月後の今年7月に待望の初コミックスが創刊され、これによってスクエニのコミックス刊行ペースも一気に増大しました。連載のラインナップでは、衛藤ヒロユキの「舞勇伝キタキタ」などの看板作品がごく一部にはあるものの、それよりもむしろ連載の数で攻めていく傾向があり、力を入れている4コママンガをはじめ、非常に多数のマンガを、あるいはマンガ以外の小説やイラストまで広く擁している点と、毎週という更新頻度の高さが雑誌最大の強みと言えます。

 そして、これらの雑誌攻勢に加えて、前年に引き続き多数のアニメ化攻勢がまた目を引きます。今年度(2009年4月〜2010年3月)だけで、なんと10本ものアニメ化、およびアニメ化予定作品があります。現時点で「鋼の錬金術師」「Pandora Hearts」「夏のあらし!(第一期および第二期)」「咲-saki-」「天体戦士サンレッド(第二期)」が放映され、さらに、「はなまる幼稚園」「WORKING!!」「荒川アンダーザブリッジ」「セキレイ」のアニメ化告知がされています。相変わらずヤングガンガン連載陣の健闘が顕著であり、さらに今年は「鋼の錬金術師」「Pandora Hearts」「夏のあらし!」「咲-saki-」と話題になって人気を集めたアニメ作品がかなり多く、中でも「咲-saki-」はアニメの完成度と話題性、人気の点で群を抜いており、ここ最近のスクエニアニメでは最大の成功作となりました。
 また、今年はスクエニのプロデューサーの田口氏が、インタビューや講演でアニメ化路線のビジネス手法を語ったことも印象的でした。最初から売れ線に沿った作品作りを行い、アニメ化前提で企画を進めていく。ここ最近ある程度予想できたことではありましたが、その手法が制作者自らの発言でも明らかになったのです。

 このように、雑誌の面でもメディアミックスの面でも、非常に動きの多かった今年のスクエニですが、個々の作品の充実度でもかなりのものがあり、今年一年は総じて活況を呈していたと言ってもよいでしょう。売れ線にターゲットを絞る手法は、作品の多様性の創出という点では少々疑問ですが、実際にはそのような路線の作品の中でも良作が多く、ビジネス優先の手法の中でも、個々の作家がよく健闘して良作を作り上げていると思います。商業性と作品性の間でバランスを取って、うまく両立させている状態だと言えるでしょう。


 では、これから各雑誌ごとの動向を総括してみます。


<少年ガンガン>
 今年の少年ガンガンは、そのほとんどの話題が「鋼の錬金術師」の再アニメ化(新シリーズ放映開始)に集約されたと思います。前年度に一年間続いた「ソウルイーター」のアニメが終了し、代わって今回は、今のガンガンでも、いやすべてのマンガ作品の中でも最も人気・話題性の高い作品のひとつ「鋼の錬金術師」が、まさかの再アニメ化ということで、これはガンガン読者、スクエニ読者ならずとも大きな話題になったようです。しかも、かつてのアニメ化では原作にかなりのアレンジが加えられていたのに大して、今回は「原作に忠実なアニメ化を目指す」ということで、その是非についての話題もあれこれ聞かれることになりました。

 ガンガンでも、突出した看板作品のアニメ化ということで、全面的にこれを推進し、毎号のように表紙を飾り、付録や応募者全員サービスが付くことになりました。これは、以前の作品のアニメ化の時にも似たような傾向が見られましたが(「ソウルイーター」のアニメ放映時も、1年連続で付録が付きました)、今回のそれが最も顕著だったと思います。

 その一方で、「鋼の錬金術師」のアニメ化以外では、これといった特筆すべき動きは少なかったと思います。ここ数年のガンガンは、まえにも増していい新作が出づらい状態になっていると思いますが、今年はそれがさらに進んだように見えます。新連載の数自体は多いのですが、これはという成功作に乏しい。今年1年の新連載を見渡しても、「RUN day BURST」「日常戦線」「からす天狗うじゅ リアルワールド天狗帖」「BAMBOO BLADE B」「ブラッディ・クロス」「SCRAMBLE!」「絶園のテンペスト」「キングダムハーツ 358/2days」「HEROMAN」「アルティメットドールズ」と、毎月のように始まっているのですが、このうち読者の印象に残った作品がどれだけあるか。わずかに、土塚理弘のヤングガンガンでの人気連載「BAMBOO BLADE」の外伝「BAMBOO BLADE B」、「スパイラル」の原作者・城平京が手がける新作「絶園のテンペスト」が、ファンを中心に注目されているくらいでしょうか。それ以外の作品は、ガンガンを読まない人はもちろん、ガンガン読者でさえあまり注目されなかったように思えます。

 また、新連載の中には、休刊したパワードから移籍してきた3つの作品があります。「獣神演武」「仕立屋工房」「勤しめ!仁岡先生」の3本で、旧誌から少年ガンガンに載せるにふさわしい、少年マンガ的な作品やギャグ4コマ作品がこちらにやってくることになりました。「獣神演武」は、かつてのアニメ化もぱっとせず、原作もさほど奮いませんでしたが、残りのふたつは移籍後も中々の良作ぶりを見せているようです。

 しかし、わずかにこのような作品が見られるとはいえ、全体的に新作が奮わない状態で、これまでの長期連載もいまひとつ突出した作品も少ない状態であり、雑誌自体の質はさほど高くなったとは思えません。今のスクエニは、全体的には非常に堅調に推移していると思いますが、唯一このガンガンのみが、連載ラインナップにあまり力がなく、評価しづらい状態が続いていると見えます。





<ヤングガンガン>
 ヤングガンガンは、今年も非常に動きが多く、話題には事欠きませんでした。しかも、その多くが誌面の充実ぶりを伝えるもので、今年もスクエニ系雑誌の中でも最も優れた成果を挙げていることは間違いありません。

 まず、前年・前々年に続いて、アニメ化作品の登場が止まりません。このところのスクエニが、積極的なアニメ化路線を採っていることは明白ですが、その多くがヤングガンガンからの作品であり、その流れが全く止まりません。前々年までの「BAMBOO BLADE」、前年の「セキレイ」「天体戦士サンレッド」に引き続いて、今年は本数が一気に増大、「黒神」「咲 -saki-」「天体戦士サンレッド(二期)」がアニメ化され、さらに、「はなまる幼稚園」「WORKING!!」「荒川アンダーザブリッジ」「セキレイ(二期)」のアニメ化が予定されている状態です。この成果のめざましさには見るべきものがあります。

 このうち、特に「咲 -saki-」のテレビアニメの成功には著しいものがあり、その完成度の高さと人気・話題性において、今年においても屈指の人気アニメのひとつとなりました。原作に極めて忠実なアニメ化で、作画・内容ともにまったく申し分なく、同時期に他社からアニメ化されてこちらも今年最大の話題作となった「けいおん!」と人気を二分する形となりました。ここ最近のスクエニアニメ全体を通してみても、最大の成功を収めたのではないでしょうか? このアニメで麻雀を始める人が続出するなど、思わぬ効果まで出てきたようです。

 そして、このように人気作品のアニメ化で活況を呈する一方で、新しく投入される連載の良質ぶりにも見るべきものがあります。元から連載ラインナップが充実している上に、新しく入ってきた連載は、これまでのヤングガンガンの作風とは異なる新しいタイプの作品が多数見られ、それが新たな良作となって雑誌に貢献しています。特に、「新選組刃義抄 アサギ」「レキオス -LEQUIOS-」「TOKYO BALDO 東京バルド」の3作品は、いずれもバトルやシリアスなストーリーなど硬派系の言える作品からの良作で、「死がふたりを分かつまで」や「FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE」など、前年以前の同系作品に続く良作として、ヤングガンガンのラインナップの充実に貢献する形となりました。残念ながらあまり大きな人気は出ない作風で、唯一「新選組刃義抄 アサギ」が歴史好きのマニア女性にアプローチする戦略を立てている以外は、目立った動きはないのですが、しかしこういった作品でもしっかりとその面白さを認め、雑誌での扱いに反映させる編集部の方針は、大きく評価したいと思います。

 それともうひとつ、第二期のアニメが放映された「DARKER THAN BLACK」のコミック化作品「漆黒の華」は、アニメのキャラクターデザイナー・岩原裕二自身によるコミック化でその出来は非常によく、原作アニメの人気も手伝って、コミックス1巻や同時発売の公式ガイドブックが各所で品薄となったようです。これも大きな成果だったと言えるでしょう。





<Gファンタジー>
 Gファンタジーは、今年もあまり大きな動きはありませんでした。ここ数年のGファンは、スクエニの雑誌の中でも実力のある長期連載が多くを占め、最も安定した雑誌となっているようです。スクエニでも女性読者を中心ターゲットにしつつ、しかしバランスよくファンタジー系作品の良作を揃える堅実な創作姿勢は、今年も大いに評価できます。

 まず、アニメ化作品では、前年から放映され多大な人気を得て終了した「黒執事」と、今期からのアニメで中々の評価を得た「Pandora Hearts」のふたつが、常に雑誌の中心となりました。「黒執事」の女性人気は実に安定しており、アニメの第二期も決まったようで、これが今後も当分の間雑誌の看板作品であり続けると予想されます。一方で「Pandora Hearts」の人気・評価も不動のものがあり、こちらもアニメ放映中から毎回のように表紙となりました。このふたつの作品が、ここ最近のGファンタジーの表のイメージともなっています。

 しかし、Gファンタジーは、この2作以外にも安定した実力を持つ長期連載が多数あり、それらもまだまだ健在です。10年以上の長期連載となった「E'S」が今年になってついに終了した程度で、あとは「ぱにぽに」「隠の王」「ZOMBIE-LOAN」「カミヨミ」「まじかる無双天使 突き刺せ!! 呂布子ちゃん」「キューティクル探偵因幡」「鳥籠学級」など、雑誌の中心となる長期連載が健在なので、ひどく安定した印象を受けます。
 また、スクエニのほかの雑誌でも連載されている「ひぐらし」「うみねこ」シリーズの一角「ひぐらしのなく頃に 皆殺し編」「うみねこのなく頃に Episode2 Turn of the golden witch」の良作ぶりも、雑誌の安定感に拍車をかけています。どちらも作画担当者の仕事ぶりに確かなものがあります。現在、新雑誌のJOKERと並ぶひぐらし・うみねこ作品の掲載先として、Gファンタジーの重要性は高いと言えるでしょう。

 一方で、今年に入ってからの新連載では、いまひとつこれはと思うものに乏しく、雑誌の中心となって長期連載化するような作品はあまりなかったと思います。。唯一、かつての人気作家・夜麻みゆきがのまさかの復活を果たした「トリフィルファンタジア」が非常な話題を呼びましたが、印象に残ったのはその程度でしょうか。また、その「トリフィルファンタジア」でさえも、巻末で少ないページ数での掲載にとどまり、しかもあらかじめ連載期間も短めに決まっていたようで、年内に終了してしまいました。これ以外の新連載だと、電撃文庫の人気小説で、近日のアニメ化も決まっている「デュラララ!」のコミック化が少し注目された程度でしょうか。しかし、ガンガンの「禁書目録」やパワード→JOKERの「文学少女」のコミック化作品に比べると、現時点ではそれほど話題にはなっていないようです。アニメ化でコミック版の方も注目されればいいのですが・・・。

 また、こちらにも、新連載でパワードから移籍してきた作品があり、「シューピアリア・クロス」「君と僕。」の2つがそれに該当します。パワード時代からこの2作は良作でしたが、移籍後もその質は健在であり、これが今年Gファンタジーが得た最も安定した新作だったかもしれません。


 続きは後編でどうぞ。こちらです。


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