<2012年のスクエニ雑誌を振り返る(後編)>

2012・12・22

*前編はこちらです。

 続いて後編では、「ビッグガンガン」「ガンガンJOKER」「ガンガンONLINE」の3つの雑誌について振り返ってみます。


<ビッグガンガン>
 ヤングガンガンの増刊から始まったビッグガンガンですが、こちらも全体的に今ひとつの状態が続いているような気がします。創刊当時から連載本数がとても多く、予想以上に大規模な雑誌として始まりましたが、気がついてみるとひとつひとつの連載はぱっとしないものが多いような気がします。雑誌としてはまだこれからといったところでしょう。
 ただ、その中でも優れた連載、人気のある連載もようやく定着してきたようで、中には非常な話題となった作品もあります。

 まず、なんといっても、今年はハイスコアガール(押切蓮介)に尽きます。90年代前半のゲームセンターを舞台にした、中学生男子と女子のラブコメと言える作品で、作者のゲームへの思い入れに溢れた当時の懐かしいゲームの描写・知識と、そしてラブコメとしても存分に楽しめる作風から、幅広い読者に支持を集めました。特にコアなマンガ読みの間で評価が沸騰し、年末に発売されたムック「このマンガがすごい!」では2位を獲得。この手の本にランクインされにくいスクエニのマンガでは、珍しい快挙と言えました。これは、作者の押切蓮介の以前からのマンガ読みの間での定評も大きかったと見ています。元々評価の高かった作者でしたが、かつての作品はホラーだったり残酷ないじめ描写があったりと、人によっては抵抗があったのではないかと思います。それが、今回は誰もがなじみやすいラブコメで、かつゲームファンならばより楽しめる作品ということで、幅広い支持を集めたと言えそうです。

 次点は、「咲日和」(木吉紗)を挙げてみたいと思います。ガンガンの阿知賀編同様、これもヤングガンガンの「咲-Saki-」のスピンオフ作品で、しかしこちらは軽快で楽しいコメディ4コマとなっています。原作があるとはいえ、その原作のキャラクターの持ち味を存分に出していて、4コママンガとしても非常に面白い作品になっていると思います。今年のスクエニの4コマは、このような方面からも良作が出るなど、実に豊作でした。

 このふたつ以外の作品では、「WORKING!!」の作者による新作公務員コメディ4コマ「サーバント×サービス」(高津カリノ)、桐原いづみによる青春駅伝スポーツもの「群青」(桐原いづみ)、弓道を真面目に扱う姿勢に好感が持てる女子弓道もの「射〜Sya〜」(大塚志郎)、青春バンド小説のコミカライズ「階段途中のビッグ・ノイズ」(越谷オサム・亀屋樹)、精霊同士の華麗なバトルを描く現代ファンタジー「回転る賢者のシュライブヴァーレ」(星屑七号)、児童向け小説のコミカライズ「よいこの君主論」、ネット上の大喜利で好評を得ていた作者による巻末異色4コマ「くーろんず」(ダ・ヴィンチ・恐山)、などなど、良作と言えるマンガは多数あります。ただ、それと同時にいまひとつこれは・・・と思えるような連載もまた多い。30近い連載を揃えているのはよいのですが、まだ質は安定していないようです。

 最近では、「ラブカレンダー」(DECO*27・水瀬マユ)、「クズの本懐」(横槍メンゴ)などの恋愛ものを立て続けに打ち出し、こちら方面の作品の拡充を図っているようにも見えます。この試みは果たして成功するのでしょうか。今のところどちらもよさそうなので期待したいところです。


<ガンガンJOKER>
 2009年の創刊以来、スクエニの中でもコア読者向けの雑誌として、安定した誌面を続けていたJOKERですが、この2012年は大きな躍進がありました。それは、やはりアニメ作品の登場に他なりません。ついに雑誌初のTVアニメ作品が出ることになりました。

 まず、今年の1月から、あの「妖狐×僕SS」(藤原ここあ)がついにアニメ化。これがJOKERからの初のアニメ化となったわけですが、元々ガンガンWINGで1、2を争うほどの人気作家の新連載で、JOKERでも看板的な扱いの作品のひとつでした。JOKERで最初にアニメ化されるなら、まさにこの作品が本命だったと言えます。コミックスもアニメ化以前に既に累計120万部も売れていましたが、アニメの人気も沸騰し、放映後は300万部を超える大ヒットとなりました。やはりアニメの力は非常に強かったと実感しましたね。また、原作は男性・女性双方の読者に人気のある、かつてのエニックス時代の中性的なカラーを残す数少ない作品となっていましたが、それでアニメで受け入れられるのか、実は個人的にはかなり不安でもありました。しかし、蓋を開けてみれば文句ない大人気。特に女性視聴者の支持が大きかったのが、いかにもこのマンガらしかったと思います。

 そしてもうひとつ、4月から「黄昏乙女×アムネジア」(めいびい)もアニメ化されました。こちらも創刊号からの連載でしたが、完全な新人による新作で、そこからもアニメ化を果たす作品が出たというのは、この雑誌の成長ぶりをよく表していると思います。原作は学校の怪談をモチーフにしたホラー+お色気といった作風ですが、アニメはその重厚な世界観をよく再現したビジュアルになっていて、こちらも大きな成功を収めました。

 このふたつ以外で大きく取り上げられたのが、TVアニメ「TARI TARI」のコミカライズ(原作・EVERGREEN、構成・尚村透、作画・鍵空とみやき)でしょうか。スクエニでも定番となったアニメ放映に先駆けてのコミカライズで、アニメを制作したP.A.WORKSの前作「花咲くいろは」のコミカライズも連載していることから、こちらも連載する運びとなったと思われます。これは、鍵空とみやきの作画が卒なくまとまっていて、脚本は原作とは多少異なっていましたが、こちらはこちらで読める良作になっていたと思います。今年のスクエニのTVアニメコミカライズの中では、これが一番の良作だったと思いますね。

 また、それ以外の連載陣もよく安定していますが、通常の連載で今年特に推されていると感じたのが、「アカメが斬る!」(タカヒロ・田代哲也)でしょうか。王道少年マンガ・王道バトルファンタジーを直球で行く作風で、連載を重ねるたびにどんどん盛り上がってきた作品です。来年以降の本命として編集部は考えているのかもしれません。それ以外の連載も全体を通して安定していて、今年は、異色の伝奇ギャグ「繰繰れ!コックリさん」(遠藤ミドリ)や、脱力もののエッチネタギャグ「ゾンビッチはビッチに含まれますか?」(柊裕一)などの新しいタイプの作品も人気を集めました。また、他社のライトノベルのコミカライズとして、「俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる」(裕時悠示・七介)の原作のアニメ化が来年1月から控えており、これからこの作品の扱いも大きくなりそうです。


<ガンガンONLINE>
 そして、そのガンガンJOKER以上の大躍進を遂げたのが、スクエニが誇るウェブ雑誌であるこのガンガンONLINEです。これまでのONLINEも堅調で、他の出版社からも多数出ているウェブ雑誌の中で、ほぼ唯一の成功例とまで言われていました。そして、この年の躍進によって、その評価は確実なものとなったと言えるでしょう。

 まず、なんといっても、ガンガンONLINEからの初のアニメ化となった「男子高校生の日常」(山内泰延)の大成功が大きい。アニメ化以前からコミックス累計100万部を超えるヒットとなっていましたが、アニメの出来もすこぶるよく、さらなる大ヒットとなりました。また、アニメによって原作の面白さがさらに増したところもあり、マンガの方の人気も上がったように思われます。特に、原作でも大人気だった”文学少女”の回は、アニメでも初回で放映され大人気を博しました。

 その「男子高校生の日常」と同等の売り上げを記録しているのが、「ばらかもん」(ヨシノサツキ)です。五島列島の田舎を舞台に「スローライフ」をテーマにした作品なのですが、単に「のんびりした田舎はいい」といった作品にとどまらず、個性的な田舎の住人たちのバイタリティ溢れる活動ぶりや、悩める書道家の主人公の成長も見られる物語となっていて、非常に読ませる話となっています。今年こそまだアニメ化しませんでしたが、いつ実現してもおかしくないほどの人気作品にまで成長してきました。

 さらに、2012年後半になって、意外な作品の話題が沸騰します。「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」(谷川ニコ)で、「喪女」と呼ばれる友達も恋人もいないいけてない女子(いわゆる非リア充)を主人公に、その姿を自虐的に描くスタイルが、なぜか海外の掲示板で評判を呼んでしまい、日本に逆輸入されてマンガ読みの間で一気に評判が広まっていきました。同じオタク、非リア充を自覚している人なら、いかにも「あるある」な感覚が大変面白いマンガで、読者の間で大きな共感を呼ぶことになったようです。そして、この作品まで年末にアニメ化決定! 来年はこの作品でさらに盛り上がりそうです。

 後半の話題と言えば、「魔法陣グルグル2」(衛藤ヒロユキ)の連載開始が、何よりも大きな反響を呼びました。かつて、そのグルグルのスピンオフである「舞勇伝キタキタ」の連載が始まったときにも反響はありましたが、さすがに本編の続編となると反響の大きさが違いました。かつてのグルグルの面白さそのままで、早くもコミックスの発売が楽しみなところです。

 それ以外には、「月刊少女野崎くん」(椿いづみ)のヒットもはずせません。既に「花とゆめ」で活躍している少女マンガ家の新作4コマで、「男子高校生なのに少女マンガ家」の主人公のギャップに満ちた行動が楽しく、ヒロインをはじめ彼の周囲を固めるキャラクターたちもみな個性的で、とにかく笑える4コマになっています。良作の多かった今年のスクエニ4コマの中でも、最大のヒットは間違いなくこれでしょう。

 このように、一年を通じて話題作に恵まれ、これまで以上に大躍進の一年となりました。これ以外にも多数の連載を抱え、中には「アイドルマスター シンデレラガールズ(モバマス)」のコミカライズのような原作ものの連載も盛んです。「アイドルマスター シンデレラガールズ」のコミカライズは、スクエニの他誌でも一斉に開始されましたが、現在はそのすべての作品がONLINEで読めるようになっています。他の雑誌の連載を気軽に載せられるという、ウェブ雑誌の利点をよく活かした体制となっていると言えるでしょう。

 個人的には、数ある連載の中で「魔女の心臓」(matoba)や「シンデレ少女と孤独な死神」(新木場ユキ・加藤よし江)のような中性的な作品も好んで読んでいます。他の雑誌よりも掲載作品の自由度が高く、色々なマンガが載る余地があることが、ここまでの躍進につながったのではないでしょうか。


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