<ガンガン(スクエニ)にスポーツマンガは必要か>

2008・8・30

 先日、オフ会において、スクエニのスポーツマンガについてちょっと聞かれたことがありました。わたしは、普段、スクエニでスポーツものについて考えることはほとんどないんですが、別のオフ会でもスクエニのスポーツマンガの話題が出たりしたようで、ああ一般の人がスクエニを見るとそんな感想が出てくるのかな・・・とちょっと考えてしまいました。

 普段、わたしが、スクエニのスポーツものについてあまり考えないのは、もう「ないことに慣れている」からかもしれません。スクエニ(ガンガン系雑誌)で、スポーツものはほとんどないことが、もう当たり前になっている。もう疑問に思うこともないわけです。しかし、外部の、もっと他のマンガを読んでいる人の視点から見ると、また違うのかもしれません。

 スクエニのマンガに対してこのような質問が出るのは、いまだガンガンが少年誌だと認識されているからかもしれません。これが、例えば角川とか電撃系の雑誌ならば、最初からこのような質問は出ないはずです。スクエニ雑誌の中でも、特にガンガンとヤングガンガンが、それぞれ一般的な少年誌と青年誌だと思われており、そんな雑誌ならばスポーツマンガのひとつやふたつあってもよいだろう、しかしなぜ見当たらないのか、という疑問にたどり着くのではないかと思われます。


・雑誌によっては、必ずしもスポーツマンガは必要でない。
 しかし、メジャーな出版社の少年誌ならばそうかもしれませんが、ガンガン系の雑誌は、必ずしもスポーツ系のマンガが必要な雑誌ではありません。むしろ、そのような雑誌の方が多いと言えます。

 まず、GファンタジーとガンガンWINGについては、まずスポーツものが合う誌面とは思えません。特にGファンタジーはそうで、雑誌名からも分かるとおりファンタジー作品中心の構成で、かつ読者年齢も高めで女性向けの要素も強いなど、スポーツものをあえて採り入れる必要はほとんどなさそうです。むしろ、ない方が自然と言えます。
 ガンガンWINGも基本的には同じで、こちらはまだ雑誌の雰囲気的に、スポーツものを受け入れる余地は多少あるような気がしますが、しかし総じてよりコアユーザー向けの連載が多くを占めており、あえてメジャー読者向けのスポーツものを連載に乗せる必要もないと思われます。

 加えて、ガンガンパワードについても、同じようなことが言えるかもしれません。パワードは、ガンガンの増刊誌の扱いですが、ガンガン本誌では載らないようなよりコア向けの連載が中心の誌面構成で、あえてスポーツものをこちらに載せる必要があるとは思えません。載せるならガンガン本誌の方でしょう。

 スポーツものが載る可能性があるとすれば、やはりガンガンとヤングガンガンです。どちらも一般的な少年誌・青年誌の趣きが強く、スポーツマンガが載っていても最も自然な雑誌だと言えます。実際に今の時点でも、ガンガンには「はじめての甲子園」、ヤングガンガンには「BAMBOO BLADE」というスポーツもの(と言える)連載があります。


・しかし、過去のガンガンは、長い間スポーツものは誌面に合わない時代が続いていた。
 ただ、今のガンガンは、一般的な少年誌に近い誌面であり、スポーツものが載っていてもさほど違和感のない誌面にはなっていますが、しかし、かつてはそうではない誌面が長く続いていました。

 それは、いわゆる「エニックスマンガ」が隆盛を極めていた時代のことで、このサイトで言うところの「中性的」な作品が揃っていた時代を指します。中性的な絵柄・雰囲気で、男女共に抵抗なく受け入れられる作風で、一般的な少年マンガのイメージからは離れた作品が多く見られる、独創的な誌面でした。 ガンガンでは、95年以降次第にこの傾向を持つ作品が増えていき、およそ97年後期以降にはひどく顕著になります。これ以降の数年間は、その中性的な作品が誌面の中心となり、少年誌に載るような「スポーツマンガ」は、誌面にはまず合わなくなり、載せる必要はまったくなくなってしまいました。

 これは、他のスクエニ系雑誌、ガンガンWINGやGファンタジーにも当然ながら言えることで、ガンガンもこちらに近い誌面になっていったと言えます。実際、この当時のエニックスは、どの雑誌も近いカラーを持っており、出版社全体で統一感がありました。そのため、エニックス全体で見ても、ほとんどスポーツマンガは見当たらず、そのようなマンガは、そもそも誌面には合わず必要性も感じない状態でした。

 その後、2001年後期になって、あの「エニックスお家騒動」が起きてしまい、この状態は完全に崩れ去り、特にガンガンは少年誌的傾向を一気に強くしますが、それ以後も「スポーツマンガはあえて誌面に必要ない」状態は長く続きました。これは、ガンガンが打ち出してきたスポーツものがどれも不発だったことが大きな原因ですが、それと同時に、「かつて長い間スポーツものがなかったため、読者の側でもあえてスポーツものを強く求めなかった」ことも原因でしょう。誰もがスポーツマンガがない誌面に慣れており、それがガンガンの長く続く特徴として、多くの読者が疑問を感じなかったのではないでしょうか。


・少年誌としてのガンガンにも、スポーツマンガの必要性は感じなかった。
 上記のように、かつての「中性的なエニックスマンガ」が盛んだった時代には、少年誌的なスポーツマンガは必要ありませんでした。しかし、実はそれだけではなく、少年誌としてのガンガンにも、そのようなマンガはあえて必要なかったのではないかと考えます。

 ガンガンが少年マンガ誌的な要素が強かった創刊初期には、確かにスポーツマンガの連載はかなり見られました。この当時は、まだスポーツマンガを普通に採り入れていたのです。しかし、これが創刊してしばらく経ったころから、次第にスポーツものは減り始め、ついにはスポーツマンガの連載は無くなってしまうのです。
 具体的には、創刊した1991年には、スポーツマンガは連載・読み切り共にかなり掲載されていました。しかし、翌92年あたりから既にスポーツマンガは減り始め、93年にはかなり少なくなり、そして94年以降はほとんど見られなくなります。つまり、ガンガンがまだ少年誌だった時代から、既にスポーツマンガ不在の時代が長く続いていたことになります。

 なぜ、こんなに早い時期に、ガンガンからスポーツマンガが無くなってしまったのか。これは、ガンガンという雑誌の方向性が深く関係しています。
 そもそも、ガンガンという雑誌は、どんなマンガを売りとしていたのでしょうか。創刊初期の頃なら、間違いなくドラクエ(ドラゴンクエスト)でしょう。当初から、ゲームのドラクエの世界観・設定を直接採り入れた”ドラクエマンガ”である「ロトの紋章」が、紛れもなく雑誌第一の看板であり、終了まで長く雑誌の顔であり続けました。加えて、元々エニックス出版から出されていた「ドラクエ4コマ(ドラゴンクエスト4コママンガ劇場)」が雑誌の原点のひとつとなっており、ドラクエ4コマ作家の中から、ガンガンで活躍する人気連載が登場したり(柴田亜美や衛藤ヒロユキ)、ドラクエ4コマ自体もガンガンで連載されて人気を博するなど、こちらでもドラクエとの関係は深い。エニックスとしては、自社の持つ最大の人気ソフト(今で言うところの「キラーコンテンツ」)・ドラクエの持つ圧倒的な人気を、雑誌を売る力として利用するのは当然だったかもしれません。

 さらに、ドラクエのみならず、それ以外にもゲーム的な作品を売りとしてきました。特にRPG的な要素を採り入れた連載は強く、あの「魔法陣グルグル」などはその代表でしょう。また、ゲームでよく見られる世界観・設定である、ファンタジーやSF的な作品が強かったのも、早くからの特徴でした。「ハーメルンのバイオリン弾き」や「ZMAN」「輝竜戦鬼ナーガス」「TWINSIGNAL」などの初期の人気マンガは、多くがこれに当てはまります。前述の「ロトの紋章」や「魔法陣グルグル」も、当然これに該当します。以後のガンガンでもこの傾向は続き、「ガンガン=ゲーム・ファンタジーマンガ」という雑誌の特徴が顕著になり、それは多くの読者に知られていたと思います。

 そして、このような連載作品が人気を獲得し、誌面の中心を占める状態となると、もうスポーツマンガをあえて採り入れる必要がなくなったと考えられます。ドラクエやゲーム、ファンタジー系の作品に多くの読者が付いている状態ならば、あえてそれとはイメージの異なるスポーツマンガを連載する必要はなく、読者にとってとっつきやすい同系のファンタジー作品に力を入れた方が良かった。その方が、誌面の雰囲気を整えやすいという理由もあったのでしょう。「ロトの紋章」や「魔法陣グルグル」「ハーメルンのバイオリン弾き」などを雑誌の中心に置き、その周りに同じ雰囲気のゲーム・ファンタジー作品を置くことで、「ガンガン」という雑誌のイメージが固まっていった。その一方で、スポーツマンガはもはやガンガンの誌面には必要なくなったと考えられます。

 そもそも、どんな少年誌でも、その雑誌ごとの特徴、カラーというものがあります。少年誌だからといって、すべてが同じような連載、同じようなラインナップということはないでしょう。例えば、一昔前のマガジンならば、やや高年齢読者が対象で、ヤンキーマンガが多いという特徴がありました。これがジャンプならば、やや低年齢向けでやはり王道バトル系のマンガが今も昔も最大の特徴でしょう。ガンガンもこれと同じで、その特徴が「ドラクエ・ゲーム・ファンタジー」だったというわけです。少年誌にも個性があり、ガンガンのように、「ゲームやファンタジーが中心で、スポーツマンガをあえて必要としない」少年誌があってもいいのではないでしょうか。


・スクエニにあえてスポーツマンガは必要ない。雑誌ならではの個性を尊重した方がよい。
 従って、「ガンガンではスポーツマンガが弱い」「スポーツマンガでいい作品が出てこないのが、ガンガンの欠点」とする見方は、必ずしも正しいとは言えません。元々、スポーツマンガを必要としないのが雑誌の個性だったわけですから、スポーツマンガが少なくともそれは当然なのです。

 今のガンガンでもそれは言えており、お家騒動以後再び少年誌路線を採っていますが、必ずしもスポーツマンガが必要とは思えません。今のガンガンでは、「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」「マテリアル・パズル」「屍姫」「とある魔術の禁書目録」などのファンタジー(あるいはSF)系の作品が人気を集めて誌面の中心となっているようです。ならば、あえてスポーツマンガを無理に入れる必要はないのではないか。これまで数年来、「メジャーな少年誌を目指す」などという目標を立て、他社のメジャー誌を真似たかのようなスポーツものを採り入れようと必死に読み切りや短期連載を重ねてきたようですが、どれも成功してきませんでした。そのようなおざなりな策を立てるよりも、むしろ「ガンガンならでは」の個性、カラーを踏まえた上で、メジャーな雑誌を目指した方がよいのではないか。

 かつてのガンガン編集長のインタビューにあったような、「『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』のマンガ化というカラーを守りながら、スポーツや料理など一般的なジャンルを増やそうと模索中」などという方針は、明らかに間違っていたと言えます。「ドラクエ」「FF」のマンガ化をカラーにするのはまあ良いでしょうが、その一方で、一般的なジャンルを増やそうとするあまりに、ガンガンの持ってきた良き個性、カラーが失われてきたように思えるのです。

 そしてこれは、ヤングガンガンや他のスクエニ系雑誌でもすべて同じであり、雑誌ならではの個性、カラーを捨ててまで、スポーツマンガにこだわる必要はないでしょう。ヤングガンガンだけは、「BAMBOO BLADE」というスポーツマンガの成功作があり、スポーツマンガがある程度載る余地のあるカラーを有していますが、それでもあえてスポーツマンガを増やすほどの誌面とは思えません。どちらかと言えば、バトルやファンタジー、萌え、バイオレンス、ギャグなどが中心の誌面です。まして、それ以外の雑誌、GファンタジーやガンガンWING、ガンガンパワードなどは、スポーツマンガが合う誌面とは思えません。「なぜスポーツマンガがないのか、弱いのか」という見方に捉われる必要はなく、スクエニの雑誌ならではの個性を尊重すべきだと思うのです。


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