<縦スクロールマンガの可能性>

2009・7・15

 ガンガンONLINEでは、多数の4コママンガが精力的に掲載されていますが、その閲覧方法に、他の作品と同じビューワーでの閲覧に加えて、ブラウザでの閲覧方法も選ぶことができます。このブラウザでの閲覧、ビューワーと異なり読み込みを必要とせずに気軽に読めることが大きなメリットらしいのですが、それだけでなく、4コマの表示形式が大きく異なっているのが特徴です。

 具体的には、従来の雑誌でのページ表示と同じ方式を採るビューワーとは異なり、縦の方向に4コマが最後まで連続して表示される形式となっています。本来は、これは簡素な表示形式でページの読み込みをなくす目的で採用されているのだと思われますが、これが実に意外な効果を生んでいるのです。
 それは、とにかく縦にひたすら読み進めることが、予想外に気持ちがいいこと。今の4コママンガは、その多くが縦に4コマが並んでいる形式の表示ですが、そんな複数の4コマが延々と縦に並ぶことで、ひたすらマウスをスクロールさせるだけでどんどん読み進めることができて、これが実に快適で、しかもちょっとした気持ちよさまで感じてしまうのです。自分の手でマンガを「読み進める」ような擬似感覚があり、マウスのスクロール動作が、ちょうどノベル系ゲームのボタンクリックに相当する感覚です。これは意外なまでにはまってしまい、今ではわたしはもっぱらブラウザで読むことにしています。

 ガンガンONLINE・浅尾さんと倉田くん
 ガンガンONLINE・生徒会のヲタのしみ。
 ガンガンONLINE・今日も待ちわびて

 これは、ウェブだからこそ実現できる新しい表示形式であり、従来の紙の雑誌で実現することは中々難しいものです。現時点でも専用の付録などを作れば可能かもしれませんが、そう気軽には出来ない。これは、ウェブコミックだからこそ気軽に楽しめる新しい4コマの表現形態になるのではないか。
 今の4コママンガは、前後の4コマがつながって全体でひとつのストーリーを構成している作品が多くを占めています。これが、連続して縦に表示されスクロールだけで次々と読めることで、連続したストーリーをより強く体感して楽しむことができる。これはかなり魅力的な新要素ではないでしょうか。


・4コマ以外にもウェブコミックでは各所で見られる。
 そして、このような縦スクロールでの表示形式のマンガは、ウェブにおいては他にもいろいろと見ることが出来ます。こちらは、単に縦にマンガを表示するというだけでなく、縦に表示することで何らかの表現効果を狙っているケースが多く、その試みには興味深いものが多く見られます。

 中でも最もインパクトが強いのが、かつてヤングガンガンで「マンホール」や「リセット」などの社会派の作品を残して好評を得た筒井哲也のウェブコミックです。元々はウェブで評価を得てヤングガンガンに起用された作家であり、本職とも言えるウェブでの独創的な数々の試みが非常に顕著です。その中でも、「コレクター」というタイトルの作品が、今回のこれに該当しており、極めてグロテスクな内容ながらも、そのどぎつい内容に引き込まれて思わずマウスをスクロールし続けてしまうような、実に鮮烈な効果を狙った作品となっています。

 STUDIO221
 トップページよりwebcomic→ 「コレクター」(ONLINE BROWSE)で閲覧可能。極めてグロテスクな内容なので閲覧注意。

 この作品については、作者自身の後書きでも、

 「ご覧頂いた通り今回はかなり変則的な表示になっておりまして、これは「htmlベースで作品を見せるにはどのような形が効果的か」というテーマで実験をしてみたつもりです。閲覧時にホイールマウスをきりきりと回す行為自体に胸苦しさを感じる様な効果を期待しているわけです」

 と書かれており、さらには「やはりwebの世界は何の制約も締め切りもなく、楽しんで描くことが出来るのが何物にも代え難い美点ですね。」とも続いています。ウェブコミックで評価を受けた作者ならではの、意欲的な実験作になっていると思います。


 さて、ここであまりにもグロテスクなマンガを提供してしまったので、今度は中性的で萌えるマンガを提供します(笑)。バンダイビジュアルによるウェブ雑誌「YOMBAN(よむばん)」に掲載されているコミックのひとつ「ガレットデロワ〜女王陛下の菓子職人〜」(羽戸らみ)がそれで、とある街の不思議なお菓子屋さん「ガレットデロワ」に訪問してくる客の頼みを店員の執事とメイドさんが応える、というような話になっています。これは、「コレクター」のように露骨に縦にひたすらぐいぐい引きずり込むようなマンガではなく、比較的通常のマンガに近い感覚の作品ですが、それでも縦に大きくキャラクターを展開したり、4コマのように縦に連なるコマがあったりと、やはり縦に絵柄を展開することを大きく意識した試みが見られます。加えて、これもウェブコミックならではの表現として、「絵の一部が動く」という表現を採っているのも特徴です。動くといっても一部の効果が消えたり現れたりと言った程度で、本格的なアニメーションではないようですが、それでも全編フルカラーの美しい絵柄とあいまって、中々に効果的な表現となっています。

 ガレットデロワYOMBAN(よむばん)


・さらに縦表示(横表示)の可能性は広がる。
 このような縦スクロールを意識した表現形態が、ウェブコミックという媒体でいくつか見られるようになっているのは、中々に興味深いもので、今後もさらなる発展の可能性があるかもしれません。縦方向の表示形式ならではの独創的なアイデアが、まだまだ無数に存在するように思えるのです。

 具体的には、例えば縦方向に広がる大パノラマシーンなどはどうでしょうか。画面の一番上が最も高い空で、その下の高空で鷲が舞い、その下で小鳥が飛び、その下に高い木を据えて、その一番下に人間キャラクターを配置する、など。上下方向を意識したパノラマシーンは、これまでも普通のマンガでページいっぱいを使って描かれたり、あるいは(ごくまれに)隣のページに続く形で表現されることもありますが、このような縦スクロールでの表現形態の方が、はるかに直接的でインパクトが強いことは間違いないでしょう。縦方向の異なる地点でそれぞれの場面、それぞれの物語が展開している。そのようなシーンを考えるだけで楽しそうです。

 あるいは、「縦」にこだわらず、「横」方向への壮大なスクロール絵巻を作るのも面白そうです。こちらはまさに絵巻物そのものですが、横方向へと延々と続く大パノラマシーン、例えるなら雪舟の山水長巻(四季山水図)のような壮観な風景画をマンガで読めるというのは、ひどく魅力的なのではないか。この場合、モニターの幅の関係で一度に見渡せないのが残念ですが、それでも画面をスクロールさせて次々と新たな光景を目にしていく楽しみが出てきます。あるいは、横ならば、連続したストーリーを見せるのにも、より適しているかもしれません。スクロールで時間の経過を負っていくスタイルとなり、新しいマンガの読み方が楽しめそうです。

 そもそも、今までのマンガの読み方は、右上→左上→右下→左下→(×α)→(次ページ)となっていて、視線の方向がジグザグで、必ずしも連続した流れるような読み方が実現できず、ストーリーを追うことが意外に難しいものとなっています。実は、年配の方では、マンガの読み方が分からない人も結構いるようです。従来型の見開きのページにおいて、絵でストーリーを構成するために苦労して作り出された手法だと思いますが、ここで書いたような一方向への連続したスクロール形態ならば、より分かりやすくダイレクトにストーリーを追っていけます。むしろこの方が、実はマンガには合っているのではないでしょうか。


・紙媒体で実現するにはどうすればよいか。
 このような、ウェブ媒体で表現可能な縦(横)スクロールマンガですが、今度はこれを紙媒体の書籍や雑誌で実現するにはどうすればいいでしょうか。いまだマンガの中心は紙の雑誌や書籍であり、コミックス(単行本)の発売もいまだ従来型の書籍形式に限られています。このような縦スクロールマンガをさらに広めるためには、やはりなんとかして紙媒体でも実現させたいところですが、しかしこれまでのような普通の雑誌や書籍で再現するのは中々難しい。

 ひとつの案としては、今となっては過去の歴史の遺品とも思える、巻物にして出すという方法があります。これならば横でも縦でもどんなに長くても自由自在です。巻物ならではの、開いて先をどんどん見ていく楽しみもあります。それに、今になって「巻物」というのも、ひどく新鮮で面白く、実際にそんなマンガのコミックスを出したら、相当な話題になりそうです。欠点としては、一般の書籍とは明らかに異なる形態のため、今さらそんなものを製造したり、あるいは書店での陳列や配送することがひどく難しいのではないかということ。巻物の印刷を手がける印刷所もあるようですが、マンガのコミックスを想定したところはなさそうで、もしそれを実現するとなると少々大変かもしれません。

 もう少しその敷居を下げる方法として、いわゆる蛇腹折り形式でコミックスを出す、という方法があります。この形式は、今でもパンフレットやガイドブック、カタログ、地図などで普通に使われていますし、普通に手がけている印刷所も非常に多い。コミックスをこの形式で出すのも比較的簡単でしょう。そして、従来の書籍や雑誌と同じ形になるので、書店での陳列や配送も容易です。また、巻物よりもこちらの方が読者の方としても開きやすい、手軽に読みやすい、読んだ後収納しやすいという利点もありそうです。より現実的な手法として、この形式で本当にマンガのコミックスが出たら面白いと思います。

 それに、紙媒体の方が優れた点もあります。先ほど、ウェブ上での横スクロールの説明箇所で、「モニターの幅の関係で一度に見渡せないのが残念」と書きましたが、これが紙媒体ならそんな制約はまったくなくなります。それこそ山水長巻のように、どこまでも一方向に広がるパノラマのような画面を、一望に見渡すことが出来る。これは、新しいマンガの読み方として、非常に面白い試みだと思うのですが、どうでしょうか。



「四季のエッセイ・マンガ編」にもどります
トップにもどります