<なぜスクエニの新人作品には和風ファンタジーが多いのか>

2008・4・14

*この記事は、フレッシュガンガンの新人作品について考えるの関連記事です。


 このところのスクエニ、ガンガン系の新人による作品をチェックしていくと、とにかく和風、伝奇物と言えるようなファンタジー作品がやたら目立つことに気づきます。とにかく、日本を舞台にしてそこに伝奇ものの伝説や神話の要素が入ってくるマンガがやたらと多い。これは一体なぜなのか?

 もともと、この手のマンガは、スクエニの中でも特にGファンタジーの新人によく見られる傾向でした。それも、鬼や魔物を退治する役割を持つ人が出てくる、いわゆる退魔師ものがやたら多く、いかにも平安風の雰囲気の服装をした退魔師が、人に害をなす鬼や悪魔を退治するという、そんな話がやたら目立っていました。スクエニの中でも女性寄りの作品が多いGファンタジーということで、いかにも陰陽師として人気の阿倍晴明から影響を受けたような作風がよく見られました。

 しかし、これが最近になって、Gファンタジーのみならずスクエニの新人作品全体にまで、この手の和風ファンタジーものが拡大したようなのです。退魔師ものも含めて、とにかく鬼や魔物を退治するバトルものをやたら見かけるようになりました。先に発売された新人読み切り掲載雑誌「フレッシュガンガン」の2号でも、その手のマンガがやたらと目立ち、改めてこの傾向の強さを浮き彫りにさせました。

 それにしても、スクエニの新人たちは、なぜこのような和風ファンタジーを好んで描くのでしょうか? どうしてここまで似たような設定の作品ばかりが揃ってしまうのか。おなじファンタジーでも、西洋風のファンタジーやSF的なファンタジーは少ない。この記事では、その背景となる理由と、それが今後のスクエニに与える影響を、様々な側面から考えていこうと思います。


・とにかく現代ものが多いのも特徴。
 まず、この手の和風ファンタジーとしては、かつての過去の時代の日本、あるいはそれをモチーフにしたファンタジー世界を舞台にした、いわゆる「時代もの」の作品も散見されますが、それよりもむしろ、現代の日本を舞台において、そこの日常に伝奇的な要素が絡んでくる作品が目立ちます。

 主人公を始めとするキャラクターたちに学生が多く、学園を舞台にした作品が多いのも特徴です。もっとも、これは少年マンガ全般でメジャーな設定でもありますし、この伝奇ものだけがそんな特徴を有しているわけでもありませんが、それにしても似たような設定が目立ちます。雑誌の想定する少年読者にとって最もとっつきやすい、学生・学園をモチーフにした作品を描くのは、確かに理に適っていると思いますが、それにしてもここまで同じような作品を並べられると、正直なところ「またこんなマンガか」と思ってしまいます。
 そして、そんな学生の日常に、伝奇的な要素が絡んでくる。これが定番です。鬼や魔物などの敵が襲い掛かってきたり、主人公と一緒に闘う心強い仲間が登場したり、といったパターンがほとんど。それも、一緒に闘う仲間に、かわいい女の子のヒロインがやたら目立つのも顕著です。これらすべては、「それが少年マンガの基本パターンなのだ」と言えばそうなのかもしれませんが、それにしてもありきたりで平凡な内容が多く、決して優れたマンガにはなっていないものがほとんどです。

 これらの作品は、最近の少年マンガに似たような設定の人気マンガがよく見られることや、あるいはライトノベルやPCのノベルゲームなどでは定番の人気ジャンルとなっていることも関係しているのかもしれません。あるいは、最近のガンガン系新人作品に、そのようなマンガがひどく多く見られることから、「自分も同じようなマンガを描いてみよう」と思って応募する新人が多くなっているのかもしれません。そのような「周りの作品からの影響」が大いに考えられます。


・その一方で、王道ファンタジーやSFは影を潜めた。
 そして、このような「現代を舞台にした伝奇もの」が多数を占める一方で、従来では定番とも言えるジャンルだった「西洋風ファンタジー」や「SF」系の作品は、ほとんど見かけることはなくなってしまいました。一応、異世界を舞台にしたファンタジーものはあるにはあるのですが、あまり重厚な雰囲気の世界観を感じさせるものは少なく、見た目の印象が他の作品とあまり変わらないものが多くを占めています。

 かつてのエニックスでは、元々が「ロトの紋章」や「4コママンガ劇場」のようなドラクエマンガを基盤にして雑誌を運営し、RPGを中心にゲームコミックも多数見られたことから、とにかくファンタジー作品が目立っていました。「エニックス、ガンガンと言えばファンタジー」というのが、ひとつの定番の見方だったように思います。初期のガンガンでは、前述の「ロト紋」「ドラクエ4コマ」に加え、「ハーメルンのバイオリン弾き」や「魔法陣グルグル」なども、いかにもゲーム的なファンタジーで、それがガンガンの雰囲気を形作っていました。エニックスの他の雑誌、Gファンタジーやギャグ王でも基本的には同じで、特にGファンタジーはまさにエニックス的なファンタジー作品が集まっていた場所だったと思います。最近のスクエニでも、雑誌の連載作品にはある程度この手の作品が残っていますが、こと新人の読み切りとなると、もう非常に少なくなってしまいました。

 ファンタジーだけでなく、SF作品も散見されました。初期ガンガンの「ZMAN」はその代表で、ロボットものの「ツインシグナル」も中期以降SF的要素がつよくなります。ファンタジー作品に比べれば、SF作品は数が少なくなりますが、それでもひとつのジャンルとなっていました。しかし、最近のスクエニ新人作品では、もうSF的な作品は「皆無」と言っていいのではないでしょうか。

 もっとも、これらファンタジー作品やSF作品の減少は、なにもスクエニに限ってのことではなく、マンガやアニメ、ライトノベル全体に言えていることでもあります。かつては、王道的なファンタジーやSFがメインジャンルだったライトノベルでも、最近ではその手のジャンルは大きく少数派です。むしろ、現代を舞台にした萌え系の作品の方がはるかに多い。マンガやアニメでも全体的な傾向は同じで、王道全開のファンタジー世界を舞台にした作品はあまり見られなくなりました。かつて「ユーベルブラット」の作者の塩野さんが、「最近ではファンタジーを描こうとしてもどこでも描かせてもらえないのに、こんなマンガを描かせてくれてスクエニは太っ腹だ」といった趣旨の発言をしたことがあるのですが、これなどは今のマンガ・アニメ界の現状をよく表しています。


・もう「鋼の錬金術師」や「ユーベルブラット」のような作品を描く新人はいないのか。
 「ユーベルブラット」は、ヤングガンガンで連載中のファンタジー作品ですが、確かに最近では珍しい、竜が飛び交い騎士の剣と魔法が炸裂する、西洋風の異世界ファンタジーとなっています。絵柄も非常に太い描線と黒い画面で力強い迫力があり、見た目からして重厚な世界観を余すことなく再現しています。作者の塩野さんは、スクエニのマンガ賞からの新人と言える人ですが、最近ではこのようなマンガを描く人は少なくなりました。

 同じように重厚なイメージの作品としては、あの「鋼の錬金術師」も該当します。こちらは、同じファンタジーでも近代的な世界で、機械と蒸気が活躍する時代をモチーフにした、いわゆる「スチームパンク」的な世界観を有しています。加えて、このマンガではあまりにも有名な、実在の「錬金術」を採り入れた各種の設定も光ります。荒川さんは、デビュー作(「SYRAY DOG」)でも、同じような世界観のファンタジーものを描いており、最初の頃からこのようなファンタジー世界への嗜好があったことが窺えます。

 このふたつのマンガは、どちらもストーリーも抜群に面白い作品ですが、それだけでなく、やはり重厚な世界観でも見るべきところがあります。見た目の絵柄、イメージからして、読者を強烈に惹きつける世界観を構築しています。このような要素は、読者を楽しませる大きな要素だと思うのですが、残念ながら今のガンガンの新人には、そのような「一目で人を引きつけるような世界観、イメージ」を有している新人が極端に減っているような気がするのです。
 これには、新人作品に和風伝奇ものが多すぎてありきたり感が拭えないことに加えて、作画レベルも平凡で、さして特徴のない上に粗雑な仕上がりに終始する作品が増えているためでもあります。重厚なイメージの絵を描く新人が少なくなり、いかにも「今時の少年マンガ」を踏襲するかのような新人作品ばかりになった。これでは、もう「鋼の錬金術師」や「ユーベルブラット」のような作品が、スクエニの新人から登場する可能性は低いのではないでしょうか。


・個性的な世界観の新人作品は、もう期待できないのかもしれない。
 また、かつてのスクエニ(エニックス)では、上記ふたつの作品だけでなく、それ以外にも個性的な世界観・イメージを有する新人作品が、毎回のように見られました。マンガ大賞の受賞者だけを見ても、初期の頃はかなりの個性派揃いでした。あの伝説の名作「魔法聖剣サザンクロス」(神矢ゆうじ)を筆頭に、当時は桜野みねね・戸土野正内郎・金田一蓮十郎など、のちに連載を持つ作家の作品にも個性的なイメージを有するものが多かったように思います。

 中期のガンガン全盛期でも、さらに個性的な新人作家が多数登場します。あの荒川弘は言うまでもなく、彼女と同じ賞の受賞者には、「水辺の物語」「コウノトリの仕事」のMINAMO、「徒爾少々」の山祇晶緋呂など、世界観で見せてくれた新人がもっといました。同時期の他の回でも、「DOME CHILDREN」の山崎風愛や、真柴真や釜谷(鎌谷)悠希など、のちにGファンタジーで活躍する個性派新人の名が見られますし、マンガ賞の受賞者ではないものの、パワードからの新人ではあの「妖幻の血」の赤美潤一郎がいます。彼の作品は、これも和風伝奇作品とも言えますが、昨今の新人作品のそれとは異なり、昭和初期の暗い時代に舞台を設定した、陰鬱で退廃的・背徳的な世界観と、それを表現する暗い絵柄があまりにも特徴的で、実に重厚な作品に仕上がっています。

 このように、お家騒動以前には毎回のように見られた個性的な作品が、騒動以後の最近のガンガンでは、少しずつ影を潜めるようになっていきます。そして、代わっていかにも平凡な絵柄で似たような和風伝奇ものが増えてきたのです。特に2005年以降が顕著であり、「鬼組」(外海良基)、「鬼斬り十夜」(天羽銀)などは、いかにもタイトルからして伝奇ものだと分かってしまいます(笑)。最近では「ROLL」という現代忍者バトルものが特別大賞を受賞していますが、これなどは完全に破綻した完成度の作品で、到底ありえない受賞作品だったと思います。

 このような経過を見るに、もうこれからのスクエニ(特に少年マンガ志向の強いガンガンの新人)では、かつてのような個性的な新人は期待出来ないと考えます。ガンガンの編集部側がそういうステロタイプな少年マンガを求めている傾向がありますし、やってくる新人たちも、同じような伝奇ものを好む人がやたら集まってくる傾向にあります。前述のフレッシュガンガンなどは、予想以上にそんな作品ばかりがラインナップされており、個人的には完全にあきれてしまいました。もう、スクエニ生え抜きの新人からは、少年マンガ的な和風伝奇ファンタジーか、そうでなくとも似たイメージの平凡な作品しか出てこないのではないでしょうか。


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