<輝竜戦鬼ナーガス・作品紹介>

2009・6・3

 「輝竜戦鬼ナーガス」は、少年ガンガンの創刊号に当たる1991年4月号から開始され、1994年10月号で終了するまで、約3年半の長期連載となった作品です。この当時のガンガンは、創刊してまもない最初期の時代に相当し、このマンガはそんな時代を代表する人気作品となりました。他の人気マンガに比べればやや早期に終了してしまったものの、その存在感は強く、とりわけ初期ガンガンの中心的な作風であった力強い少年マンガの要素が突出しており、その点でも当時の誌面を象徴するような作品だったと言えます。

 作者は増田晴彦。これ以前より他誌ですでに何度も執筆を重ねていた作家であり、外部から招かれる形でのガンガン連載となりました。その点では、同じく既に他誌での活躍が顕著だった「ロトの紋章」の藤原カムイに近いものがあり、エニックスのマンガ賞、もしくはドラクエ4コマからの出身であった渡辺道明や松沢夏樹、柴田亜美、などとは一線を画する作家だったと言えます。連載を重ねてきた作家だけあって、最初から作画・構成共に完成されたものがありました。

 内容は、現代日本を舞台にしたバトルファンタジーと言えるもので、炎の魔神と竜族の血を引く人間の少年・竜輝が、「輝竜戦鬼」ナーガスとして覚醒し、世界の支配をもくろむ炎魔皇帝ヴァグーラを倒すために幾多の闘いを繰り広げるというもの。作者の得意ジャンルであったファンタジーであり、かつスタンダードな少年マンガ的作風が顕著で、それでいて随所にキャラクターたちの力強い意志、メッセージ性のようなものまで盛り込まれた、実に読み応えのある快作だったと思います。
 その一方で、主人公のナーガスも、敵対する魔神たちも、みな「異形」とも言える個性的な造形を持つモンスターばかりで、そんなモンスターが大暴れする「怪物マンガ」としての側面も持ち合わせています。この連載以前から、既にコアな高年齢マニア読者の間で、そのモンスターのデザインが評価されていましたが、このマンガは、ガンガンという当時はかなり低年齢向けのイメージの雑誌で、しかも分かりやすい少年マンガ的な作風であったことから、これまでにないより幅広い読者の人気を集めることが出来ました。結局、この「ナーガス」が、増田さんの作品の中では最も高い人気を獲得した作品になったと思います。

 しかし、当時のほかのガンガンの代表的作品、例えば「ロトの紋章」や「ハーメルンのバイオリン弾き」「南国少年パプワくん」「魔法陣グルグル」などと比べると、人気・知名度の点で一歩甘んじるところがあり、当時のガンガンの中では中堅的な作品に終始したところもあります。そのため、上記の作品はみな知っていても、「ナーガス」まで知っている人はやや少なくなってしまうのが残念なところです。これには、異形のモンスターという見た目にもアクの強いビジュアル、さらには(特に初期の頃に)一部グロテスクとも言える描写があったのも原因かもしれません。しかし、その内容は実に素晴らしいものがあり、決して上記の作品にも劣るものではありませんでした。


・既にマニアに定評のあった「怪物絵師」。
 この「ナーガス」が最も有名になってしまった増田さんですが、これ以前に他社で執筆した作品、あるいはこれ以後エニックスを中心に執筆した作品の多くが、「異形の怪物」が登場する怪物マンガ、モンスターマンガとしての側面が非常に強いものとなっています。おそらくは、ごく一部の人間キャラクターを中心としたファンタジー作品以外、ほぼすべての作品がこれに該当すると見て間違いないでしょう。
 そして、もうこの「ナーガス」の執筆以前から、彼のマンガはこのような独特のモンスターのビジュアルに惹かれた、高年齢のマニア系読者に高い評価を得ており、既に「怪物絵師」とも呼ばれるような存在でした。この「ナーガス」こそ少年マンガとして低年齢読者まで幅広い層に人気を獲得しましたが、元々はコアな読者に信奉されるような作家だったのです。

 そのような作家を、低年齢志向の強かった初期のガンガン編集部が招聘したのは、今考えてもちょっと意外でもあるのですが、実はこの最初期のガンガンは、他にも青年誌系、特に劇画系とも言える出自を持つ作家が非常に多かったのです。「ロトの紋章」や「パプワくん」「グルグル」などが最大の看板作品として表に出ていたため、あまり外に知られることはなかったのですが、実は中堅以下の連載陣において、そのようなマンガが非常に多かった。もっとも、増田さんの作品はあくまでファンタジーがメインで、劇画系の絵柄とは異なると思いますが、それでもこの独特の濃さが感じられる作画は、やはり青年誌的なイメージが強かったことは間違いないでしょう。
 しかし、そんな出自の増田さんでありながら、ガンガンのこの新連載は大成功を収めたのです。やはり、最初から王道少年マンガの要素を強く打ち出したのが大きかった。「襲い来る魔神たちを主人公の竜輝(ナーガス)たちが倒していく」という分かりやすいストーリーが、爽快で大迫力のモンスターバトルを後押しし、より幅広い読者が楽しめる作品になったのです。その一方で、これ以前の「怪物絵師」時代からのコアなファン層も健在で、そちらの方からも変わらぬ高い人気を獲得することになりました。

 増田さんは、これ以降もエニックスを中心に何度も連載を手がけますが、それらと比べてもこの「ナーガス」の人気は突出しており、紛れもなく増田晴彦の代表作となりました。 以後の作品が必ずしも悪いとは思わなかったのですが、やはりガンガン初登場のこの作品のインパクトがそれだけ鮮烈だったということでしょう。


・増田晴彦のモンスターデザインとは。
 彼の描くモンスターは、とにかくその独特のフォルムが最大の魅力です。まさに「異形」と呼ぶにふさわしい、見る人を驚かせる数々のモンスター造形は、時にグロテスクなものも多く人を選ぶことも事実でしたが、それでもその目を見張るようなデザインセンスには、毎回素晴らしいものがあったと思うのです。

 そして、そんな増田さんの描くモンスターは、大きく分けて2種類に分類できると思うのです。
 ひとつは、「正統系」というか、基本的に人間に近いフォルム(二本足で体のラインも人間的)を持つタイプ。かっこよさ、力強さを感じることも多く、主人公にはこのタイプがよく採用されています。個人的には「カッコイイ系」とでも呼んでいるのですが、このようなモンスターは実際本当にかっこよく、読者としても感情移入しやすい事が多いようです。
 この「ナーガス」においては、まず主人公のナーガスがまさにそうで、彼と同じフォルムを持つもうひとりの戦鬼で主人公最大のライバルキャラ・ギレウスももちろんそれに相当します。それ以外だと、初期の頃にナーガスの前に立ちはだかる風魔神のボレアース、地魔神のクザンあたりがそうでしょう。かれらは、見た目だけでなく内面でも人間的、それも力強い「猛者」「英雄」的な心を持っていることも多く、読者にとって憧れの対象となるキャラクターとなっています。

 そしてもうひとつは、これこそ「異形系」というか、明らかに人間離れしていて、時に非常にグロテスクで気持ち悪い造形のものも多い、そんなタイプ。個人的には「気持ち悪い系」とも読んでいるのですが(笑)、生物の造形をそのまま採り入れたり、あるいは生物の様々なパーツをくっつけてフォルムを構成したりと、本当にグロテスクなものが多いです。
 このようなモンスターは、見た目的にもアクの強いもので、明らかに読者を選んでしまい、このようなモンスターが多数出てくるだけでこの作品を避けてしまう人も多いかもしれません。このあたりが、この「ナーガス」が、長らく人気連載を務めながらも、当時の他のガンガンの人気マンガより一歩劣る地位に甘んじてしまった大きな原因になっているとも思えます。しかし、実はこの「異形」こそが増田晴彦のモンスター最大の持ち味だとも思うのです。多種多様な姿形をしたモンスターたちが次々と登場し、時にはそんな多数のモンスターで所狭しとばかりに画面が埋め尽くされる。このようなシーンにこそ、作者のモンスター造形へのあくなき創作精神を本当に強く感じてならないのです。 「怪物絵師」と呼ばれ、一部に熱狂的なマニア読者の支持を得られたのも、このようなモンスターたちを見れば納得できるのではないでしょうか。


・テンポのよいストーリーとモンスターバトルでぐいぐいと読ませる。
 その少年マンガ的ストーリーの中でも、特に序盤から中盤にかけては、小気味いいテンポのよさが感じられ、読者をぐいぐいと引っ張ってきました。ガンガンから創刊間もないこの当時、雑誌を試しに手にとってこの「ナーガス」に目が行き、そのまま読み始めた読者も多いはずなのです。

 主人公の竜輝(霧山竜輝)は、ごく普通の高校生として暮らしていましたが、実は炎の魔神ヴァグーラを祖父に、そして彼の后だった竜族の娘の血を引き継いでいました。ヴァグーラは、魔神たちの世界である魔精界をほぼ手中に収め、人間界まで侵略の手を伸ばそうとしていましたが、しかも「炎の孫ナーガスが炎を滅ぼす」と言う伝説を持つ竜輝の存在を気にかけ、彼の元に次々と刺客となる魔神たちを差し向けます。ナーガスとして覚醒したばかりの竜輝は未熟でしたが、一戦ごとにめきめきと強くなっていき、さらには、彼の元に集う水魔神の娘ディーナや妖精ティア、強力な人間の助っ人となる太輔、そして幼馴染にして恋人として最大の心の支えとなる沙智ら、頼れる仲間たちの助力も受けて、そして最大のライバルとなるもうひとりの戦鬼・ギレウスとの邂逅を経て、やがては敵本拠である魔精界へと舞台を移してさらなる試練を受け、伝説の英雄として成長していきます。

 このような王道とも言えるストーリーの中でも、実は序盤から中盤にかけての頃が、最もテンポよく面白かったのです。襲い来る魔神たちとのバトルの繰り返しではあるのですが、 ひとつのエピソードが大体3〜4話程度で終了し、一戦ごとに主人公の竜輝の成長が感じられ、頼りになる仲間たちも次々に登場と、とにかく本当に読者を飽きさせることがありませんでした。また、この当時に出てきた敵魔神たちが、ひとりひとり実に個性的で、強烈なフォルムを持つ異形の化け物的なものから、むしろ堂々としてかっこよさまで感じる強敵まで、どれも存在感たっぷりでした。

 その序〜中盤のストーリーのひとつの頂点とも言えたのが、コミックスでは3巻で描かれた炎魔神グライマーとの死闘でしょう。これ以前の敵は、炎魔皇帝ヴァグーラに従属した地や風の魔神がナーガスの敵でしたが、ここで初めて敵の主力とも言える炎魔皇帝直属の炎の魔神とのバトルに突入し、まさに最高潮に盛り上がりました。このエピソードと、このすぐ後に控えていた最大のライバル・ギレウスとのバトルあたりが、前半のクライマックスだったと言ってもよいでしょう。


・後半になってストーリーがやや失速、最終的には打ち切り的な短期終了を余儀なくされた。
 しかし、これだけ優秀だったこのマンガ、しかし最後の終わり方だけは芳しくありませんでした。
 連載開始して約3年がすぎた1994年、突如として編集部から短期での打ち切り終了を告げられ、以後あまりにもひどい急展開であっけない終了を余儀なくされてしまうのです。そのため、最終盤のストーリーだけは、思いっきり端折られた形であっという間に終了してしまい、ひどく物足りないものとなってしまいました。
 本来ならば強敵となるはずのボス敵たちが次々と倒され、ラスボスのヴァグーラですら(大増ページとはいえ)最終回の1話だけであっけなく倒されてしまいます。唯一、ナーガス最大のライバルであるギレウス戦だけは、作者がどうしてもここだけは描きたいという強固な意志によって、3話に渡ってしっかりと描かれているのですが、これによってそれ以外の箇所がますます極端に圧縮され、極めて不自然な形でのクライマックスを迎えてしまったのです。この時の惨状は、当時のガンガン読者にもとりわけ印象深かったらしく、「強敵のはずのボスキャラが、まるでザコのごとく次々と死んでいく」という異様な展開を目の当たりにして、当時は大いに話題になり、散々ネタにもされて語り継がれることになってしまいました。

 このような失態は、編集部による強引な打ち切り終了の決定に最大の原因がありますが、そこに至るまでの後半のストーリーで、この作品にも多少の失速感があり、人気が落ちていたという事実も否定できません。前述のグライマー戦あたりまでの、前半の盛り上がりは素晴らしいものがあったのですが、以後ややひとつひとつのエピソードが長めになり、ストーリーが若干間延びした感があり、少々ストーリーの勢いが失われたと思えるのです。そのため、前半に比べるとかなり読者の注目度が落ちてしまっていたのではないか。そう思えるところは確かにありました。

 ただ、そのような事情を考慮しても、やはりこれは性急すぎる打ち切り決定でした。そのため、これほどの完成度を持つマンガが、最後の最後でこのような終わり方をしてしまい、あまりにも大きな欠点となって残ってしまったと思えるのです。


・しかし、ガンガン初期を代表する名作であることに変わりない。
 このように、終盤の駆け足過ぎる展開があまりにも気になるところではありますが、それでも全体を通しての完成度にはやはり素晴らしいものがあり、創刊初期のガンガンを代表する名作であったことは間違いありません。雑誌の表紙のような表に露出することはやや少なかったものの、それでもガンガンの中堅として相当に気を吐いた作品であり、熱心な読者はかなり多かったと思います。「ロトの紋章」や「ハーメルンのバイオリン弾き」「Z MAN」と並ぶ王道少年マンガであり、その中でも特に濃いビジュアルの男らしい作風が顕著で、そこも熱心なファンを生んだ大きな理由でしょう。

 ただ、当時は創刊初期からの人気作品は他にも数多くあり、それらと比べるとやや人気・知名度で劣り、しかも他の作品よりも一足先に終了したために、他に比べるとどうしてもやや印象の薄くなってしまった作品でもあります。「ロトの紋章」や「ハーメルン」は知っていても、この「ナーガス」までは知らない、読んでいなかったという読者も多いはずなのです。これには、あまりにもアクの強い濃い作風、とりわけ異形でグロテスク全開のモンスターたちのビジュアルが読者を選んだことも、大いに関係していると思います。しかし、それもまたこの作者ならではの個性的な魅力であり、断じてこの作品の評価を低めるものではありません。読者を選ぶとはいえ、最終的にはガンガンの幅広い読者に愛され、女性読者もかなりいたことをここに付け加えておきます。

 そして、このマンガは、作者である増田晴彦にとっても代表作となりました。この連載を終了した後の増田さんは、すぐ後の1995年から同じガンガンで「風の騎士団」という竜騎士を主役にしたファンタジー作品の連載を開始しますが、96年のガンガン月2回刊化のあおりを受けてGファンタジーへと移籍させられ、そちらではいまいち人気を得られず比較的短期間で終了してしまいます。その後、新人読み切り雑誌だった頃のガンガンWINGで、「生体融結バイオガーダー」なるこれまた凄まじいモンスター合体もの作品を手掛けますが、こちらはさらにふるわず、コミックスにしてわずか2巻で終了、以後長らくエニックスでの登場はなくなります。
 しかし、2000年になって、のちのガンガン編集長である松崎氏の企画に応えて「スサノオ」という日本神話をモチーフにしたモンスターマンガをまたも掲載。しかし、これがまったく芳しくなく、あまりに強引で不自然なストーリー、キャラクターは多くの読者にはついていけず、わずか10回の連載で打ち切りとなってしまいました。これ以降、ガンガン、エニックスはもとより、他の少年誌での登場もなくなってしまいました。

 このように、以後の連載がことごとく不遇であったがゆえに、この「ナーガス」が最大にして唯一とも言える成功作として、名実共に作者の代表作となったのです。コミックスの巻数も9巻と作者最長を数え、強引な打ち切り決定さえなければ、もっとずっと長い連載になっていたかもしれません。しかし、連載された分だけでも十分すぎる面白さを持つこのマンガ、初期ガンガンを代表する名作にして増田晴彦の代名詞として、その存在を語り継ぐべき作品であると思うのです。


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