<輝竜戦鬼ナーガス・モンスター名鑑(1)>

2009・6・7

*モンスター名鑑(2)はこちらです。


 増田晴彦作品の最大の魅力は、その多彩なモンスターの個性に尽きると言えるでしょう。特にこの「ナーガス」の場合、作者最大の長期連載ということで、登場したモンスターたちも数多く、実に様々なモンスターが登場し、熱心な読者の目を楽しませました。ここでは、そんなモンスターの中から、とりわけ印象深かったものたちを紹介していきます。また、増田作品においては、単体のモンスターだけでなく、多数のモンスターが画面をにぎわせるモブシーンの多彩さにも見るべきものがあり、そちらの方もしっかりと採り上げていこうと思います。


<ナーガス>
 まずは主人公のナーガスを挙げないわけにはいきません。さすがに主人公にして「輝竜戦鬼」というタイトルにもなっている通り、その存在感は非常に大きく、コミックスの表紙もほとんどがこのナーガスで占められています。
 ナーガスは竜族と炎魔神の血を引くハーフの人間という設定ですが、このマンガの竜族は東洋風の姿で、「竜虎図」に描かれるような、いわゆる蛇のような長い姿をしています。その一方で、ナーガスは頭部こそ竜族の姿ではありますが、その体系は人間的なもので、人間である竜輝に強靭な鱗が生えてそのままモンスターになったような姿をしています。これは、竜族と人間の血の双方を受け継ぐ存在ということで、双方の特徴がミックスされてよく出ている優れたデザインだと思います。増田さんのモンスターデザインは、このように複数のモチーフを組み合わせて造形するところが非常に巧みですね。

 そして、おそらくはこのようなフォルムのモンスターこそが、主人公を始めとする「カッコイイ系」の増田モンスターの標準的な姿だと思えます。のちにガンガンで連載される「スサノオ」の主人公も、比較的近いイメージがありましたし、これこそが増田さんのスタンダードとも言えるデザインなのかもしれません。

 そして、ナーガスの場合、連載してしばらくして背中に翼が生えることで、そのデザインが完成された感があります。翼がない初期の頃は、人間の姿そのままに近く、他の特徴的なモンスターに比べると何か物足りないな、と感じていたのですが、ここに翼が加わることで、美しいフォルムのデザインが完成された感がありました。最初に翼が出てきた時の大写しのシーンは、最初に読んだときはおおっと唸るようなところがあったのを今でも覚えています。

 戦闘においては普段は強靭な肉体での接近戦がメインで、腕を斬られてもいきなり生えてくるような強烈な再生力を持っています。必殺技は炎の魔神の力を受け継いだ強力無比な業火・炎竜焼牙(サラマンドラバーン)と、竜族の力を受け継ぎ、無数の水竜が敵を切り裂く水竜斬刃(ハイドラ・シュレッダー)。どちらもいかにも決め打ちとなる必殺技といったイメージで実に迫力がありかっこいい。このような必殺技(漢字に英語を当てはめた技名)は、他の魔神の技にも数多く見られ、この「ナーガス」の大きな特徴となっています。


<ドリワーム>
 物語の冒頭、ナーガスが最初に戦うことになる敵です。四界(4つの精霊界)のうち地に属する地魔神(ゲー・ディーバ)なのですが、この地魔神はナーガスの宿敵である炎魔皇帝ヴァグーラに征服され、従属しているという状態です。そのためか、どうもこの地魔神は、作中でも真っ先に登場して主人公たちに倒される、やられ役のザコとして描かれることが非常に多く、どうにも割を食っている印象があります。

 しかもこのドリワームの場合、増田さんのモンスター最大の特徴のひとつ、異形で気持ち悪い系のモンスターそのものであり(笑)、見た目の印象からしてもいかにも最悪です。頭に何本もの触手を生やしたカマキリ?のような姿をしていて、まさにこれ以上ないほど増田さんらしいフォルムのモンスターデザインだと言えます。この見た目を見て好きになる読者はまず多くなく、むしろほとんどの読者が引いてしまったのではないか。

 さらにこのドリワームは、単に姿かたちが気持ち悪くグロテスクであるのみならず、攻撃手段にを使うというところが、ますますもってその気持ち悪さ、グロテスクさを倍増させています。それも、細長い触手のような虫を人間にとりつかせ、内部から食い破るという凄まじい攻撃手段を持ち、それで竜輝のクラスメイトたち全員を無残に殺してしまいます。このシーンはあまりにもショッキングなもので、新連載の最初でいきなりこのようなシーンを読んでしまった読者には、相当な抵抗を覚えたのではないでしょうか。

 虫だけでなく、本体の触手を使った攻撃も気持ち悪く、しかもモンスターの性格も最悪で、自分の手柄を増やすためにわざと竜輝をナーガスに覚醒させてから倒そうとしますが、それがあだとなって無残にも返り討ちにあって死ぬと言う、まさにやられ役のザコの王道を突き進むような最期を迎えます(笑)。新連載のしょっぱなからこれ以上ないほどグロテスクなシーンと安易な死に様を見せてくれたこのドリワーム、しかし個人的にはいかにもこの増田晴彦らしいモンスターということで、あるいは完全なやられ役であまりにも損な役回りであったことから、それなりに気に入っているモンスターだったりします。


<ボレアース>
 そして、ドリアームを退けたナーガスが次に闘うことになる敵が、このボレアースです。ただひたすらグロテスクだったドリアームから一変、このボレアースは勇壮にして剛毅なイメージで、強さも闘い方もドリアームの比ではなく、ナーガスにとっていきなり最大級の強敵として立ちはだかります。

 風魔神(アエロ・ディーバ)に属するボレアースは、背中に長大な翼を有する美しいフォルムが特徴で、その巨大すぎるとも思える翼を有しながら、なおバランスの取れた姿を保っています。あと、なにげに足にまで翼がついているところが面白い。増田さんの思い切ったデザインの凄み、圧倒的な存在感が感じられる素晴らしいモンスターとなっています。名前の由来はギリシャ神話の北風の神ですが、その名前から来るイメージもよく体現していたと思います。正直、こんな序盤に登場してナーガスに倒されるのが惜しいくらいのキャラクターでした。

 その上、「北風の古老の一神」で音に聞こえた老将という設定で、尊大ながらも卑劣なことを嫌う誇り高い性格で、敵ではあるものの決して悪い存在としては描かれていません。ヴァグーラにやむを得ず従ってはいるもののなお反抗的な態度を崩さず、ナーガスと闘う目的も「炎を倒すと言う伝説のナーガスが本物がどうか自分の手で確かめる」というもので、「倒すべき悪役」としての登場ではなく、「ナーガスが乗り越えるべき相手」として登場するのです。このような敵が序盤からいきなり現れることで、このマンガは一気に盛り上がりました。序盤から中盤にかけての展開がこの作品は素晴らしいのですが、その先駆けとなったモンスターと言えます。

 風の魔神ゆえに巨体ながら凄まじいスピードで空を自在に飛び回り、この時点ではまだ翼を持っていなかったナーガスを完全に翻弄します。必殺技は竜巻で相手を巻き上げ叩きつける風威・墜砕渦動流(ふうい・ついさいかどうりゅう)と、大粒の雹(ひょう)を一面に降らせる雹嵐撃砕射(ヘイル・バスター)。最後には力を覚醒させるナーガスがこの時編み出した炎竜焼牙(サラマンドラバーン)によって消滅しますが、誇り高く散っていった老将の最期はすがすがしいものがありました。このバトルにおいて、この「ナーガス」の面白さが一気に花開いたと見てよいと思います。


<クザン・バリオンスクス・ガルカイン>
 ボレアースを倒した竜輝は、次にヴァグーラの本拠である魔精界へと向かうために、「越界の鏡」というワープ装置があるという富士五湖へと向かいます。そこの山の中でナーガスを待ち受けるのが、地魔神の一味であるこの3体です。

 このうち、最初に登場するのがバリオンスクス・ガルカインで、これがドリワーム同様、またもや気持ち悪い系のモンスターとして登場します。なんだって地魔神というものはこんなに異形で気持ち悪い系ばかりが登場するのでしょうか(笑)。バリオンスクスは、地中を突き進む手足のないワニみたいな感じのモンスターで、登場していきなり人間の女の子をばっくりと食べてしまいます。しかし、本当に気持ち悪いのはガルカインの方で、ムササビみたいに背中の皮膜で空を滑空するモンスターで、その長い舌で人間の女の子の生気を吸い取って堪能するというこれまた気持ち悪さ全開のシーンを見せてくれます。頭の中にも吸血用の銛が大量に収納されているという設定で、まさに増田的異形モンスターの典型的存在となっていました。一つ前のボレアースのようなかっこよさはどこに行ってしまったんでしょうか・・・。

 やられ方もいかにもザコ的なもので、バリオンスクスは後述のクザンと共同でナーガスを追い詰めるが、結局のところ出てきたところを察知されて一撃でしとめられ、ガルカインの方は、ナーガスの仲間となった水魔神のディーナと人間の獣人・太輔のふたりを相手にしますが、最後には真っ二つになって倒されてしまいます。それでも隠行の術でふたりを翻弄するなど、バリオンスクスに比べれば中々に善戦した方だったとは思いますが・・・。

 そんな中で、唯一地魔神でかっこいいモンスターとして描かれているのが、3体のリーダー格であるクザンでしょう。クザンは、まさに鎧武者のような無骨なフォルムのモンスターで、能力もまさにそのまま、左右の腕の剣と強固な鎧で闘う正統派の戦士的モンスターとして、派手さはないものの中々に渋くてかっこいいモンスターでした。これが、この「ナーガス」の地魔神でただひとりまともに見られるモンスターだったかもしれません(笑)。ナーガスとの闘いでも、接近戦の迫力あるバトルを思う存分見せてくれ、自慢の剣でナーガスの腕を一刀両断にするなど、あと一歩まで追い詰める強さを見せてくれました。最後には炎竜焼牙(サラマンドラバーン)で灰となって倒されますが、倒されても鎧だけは残ったというシーンもその強さの証明として中々よかったと思っています。地魔神の中では唯一の面目躍如でしょうか。


<グライマー>
 そんな地魔神3人組の直後に、ナーガスにとって最大の強敵として登場するのがこのグライマー。ナーガスにとってはほぼ連戦となる闘いで、しかも(ほぼ)初めて敵の主力である炎魔神(パイロ・ディーバ)との闘いということで、ここでさらに盛り上がりました。実は、このグライマー戦こそが、この作品の前半において、あるいはひょっとすると連載すべてを通して、最も盛り上がったエピソードではないかと思えます。

 実は、先に闘った地魔神3人組は、このグライマーによって使われた捨て駒にすぎなかったという設定で、このあたりでも地魔神の扱いの不遇さが露骨に表れています。それでもクザンあたりはそれなりに善戦したと思いますが、しかしこのグライマーの圧倒的なかっこよさ、強さの表現は、それをもはるかに凌ぐものがありました。

 見た目は、炎に包まれた空飛ぶ馬のようなモンスターで、そのあたりの特徴は、ファンタジーものに登場するナイトメア(夢魔)を彷彿とさせるものがあります。さしずめナイトメア の炎版、ファイアメアとでも言うべきモンスターでしょうか。あるいは、フォルムだけなら中国の聖獣である麒麟(きりん)や白沢(はくたく)を思わせるところもあるかも。いずれにせよ実に壮観でとてつもなくかっこいいモンスターになっています。アクションシーンでのスピード感・躍動感溢れる動作も見るべきものがありました。

 性格的にも、いい意味でいかにも悪役らしいモンスターで、勝つためには手段を選ばない残忍で自分勝手な性格が、このキャラクターに対しては実に魅力的に映ります。地魔神たちを捨て駒に使ったことを、まだ息のあったバリオンスクスにとがめられた時も、「きさまらにナーガスを倒す実力があれば捨て駒にならずに済んだのだ。呪うなら己の非力を呪うのだな」という開き直りとも思える自己中心的な理論を展開(笑)。さすがグライマー様、悪役ぶりが一味違います。

 そして、その性格に似合うだけの圧倒的な実力を有しており、ナーガスの炎竜焼牙(サラマンドラバーン)を完全に打ち破り、一度は逃走を余儀なくさせます。必殺技は炎を全身にまとって突進する強力無比なチャージアタック・炎騎突撃衝(ファイアースタンピード) 。この攻撃がまたしびれるほどカッコよかった。さらに、メダマウマーという偵察用の分身モンスターをも何体も従えていますが、この姿とネーミングもまたいかにもという感じで面白かった。もうなんというかこのマンガのおいしいところを全部取ってしまったようなキャラクターでした。しかもこのグライマー、「炎界でも六将軍に次ぐ実力と残忍さで恐れられる」という解説どおり、実は設定上は最強のボスキャラクターではなかったりします。この上に「炎魔六将軍」という、もっと強いボスモンスターがいるという設定だったのです。しかし、実はこの炎魔六将軍、そのほとんどがあまり活躍する場も得られずに連載が終了してしまったため、実はこのグライマー様のほうが作中の存在感ははるかに強かった。はっきり行って、この後に登場するどの炎魔神のボスよりも、明らかに大活躍していました。

 最後には水の力に目覚めたナーガスの水竜斬刃(ハイドラ・シュレッダー)で倒されますが、斬られた頭がナーガスに最後の一撃を与え、捨て台詞を残しつつ消滅するなど、最後までその存在感を示しました。このモンスターはよほどの存在感と人気があったのか、のちに復活してもう一度ナーガスと闘うシーンがあったりします。


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