<輝竜戦鬼ナーガス・伝説のクライマックスを斬る>

2009・6・20

 「輝竜戦鬼ナーガス」というマンガは、実際よく出来た作品であり、初期ガンガンを支えた実に優秀な連載だったことは間違いありません。同時期の他の人気マンガ、例えば「ロトの紋章」や「ハーメルンのバイオリン弾き」などと比べれば、知名度や人気ではどうしても劣るところがあるものの、その完成度では決して劣ることはない作品だと思っています。
 しかし、この「ナーガス」には、どうしても無視することの出来ない致命的な欠点があるのです。それは、最終回と、それに至る数話前からのクライマックスにおける展開で、ここだけはほとんどの読者がどうにも納得できないものとなっています。
 具体的には、このクライマックス、異様に速い展開で強敵がバタバタと死んでいき、ラスボス戦でさえ他の同系の作品に比べれば盛り上がりで劣るところがあり、極めて消化不良のままで終了してしまったのです。

 なぜそのようなことが起こってしまったのか。それは、終了から約半年ほど前に、このマンガの半年後の打ち切りが決まってしまったことにあります。そのため、以後の展開は駆け足なものとならざるを得なくなり、異様に速い展開をよぎなくされてしまったのです。しかも、この打ち切り時にはまだ描かれていなかった、ナーガス最大のライバルであるギレウス戦だけは、作者のたっての希望で3話に渡って大きくページを取って描かれたため、それ以外の箇所はますます圧縮されてしまい、さらに消化不良の状態に陥ってしまったのでした。この時の展開は、読者にとっても多大な衝撃(笑撃)だったらしく、のちのちまで伝説的なネタとして語られることになってしまいました。

 ここでは、そんなナーガスの伝説と化したクライマックスを徹底的に紹介し、同時になぜこのような事態に陥ってしまったのか、そこまで詳細に解説したいと思います。


 まず、ギレウスとの3話に渡る激闘を終えたあと、ナーガスの次なる敵としてたちはだかったのは、炎魔六将軍のヴァルカン、スルト、アグニの3人です。これ以前の闘いで炎魔六将軍のひとりウエウエテオトルは敗れ去っており、残りの5人が次の強敵として、ナーガスと激闘を繰り広げるものだと思われました。

 まず最初に登場したのは「マグマの王」と呼ばれるヴァルカンで、竜輝たちが乙姫サザナミの指揮する竜宮城に乗ってマリアナ海溝の深部に到達し、その場に隠されていると思われるナーガスを覚醒させる「大いなる力」を探していた時に、それを待ち伏せる形で登場しました。竜宮城と乙姫はこのマンガの後半になって登場したのですが、当初は浦島伝説をモチーフとしたマンガになる構想もあったようです。しかし、昔話をそのままやっても受けないと言う編集側の意向で、今のような少年マンガになったのだとか。

 まあそれはともかく、深淵にてナーガスを待ちうけ、溶岩攻撃であたり一面をマグマ溜りにしてナーガスたちを一網打尽にしようとするヴァルカンですが、これに対して乙姫サザナミが大激怒。今は亡き海竜王の体である竜宮を使っての必殺技である口からの超極太光線で、ヴァルカンを一撃で粉砕してしまいます。この攻撃、名前がついていないのですが(ウィキペディアには海竜砲とありますが)、個人的には竜宮波動砲と名づけたいところです(笑)。ヴァルカンがナーガスの前に登場してわずか9ページ後の出来事でした。

 「炎魔六将軍のひとりヴァルカン、わずか9ページで波動砲に粉砕される。」


 これでヴァルカンを倒したナーガスは、大いなる力を求めてさらに進み、そこで炎魔六将軍のスルトと開戦しますが、ここでいきなり謎の導きでナーガスのみが大いなる 力の封印場所まで運ばれ、そこにいた番人らしき男の指示に従い、大いなる力を解放します。しかし、番人だと思えたのは炎魔六将軍のひとりアグニで、ナーガスの目の前で大いなる力を奪い去り、自分がその力を得て一気に巨大化、ナーガスを倒して自分が世界の王になろうとします。しかし、その強大な力を制御できず、ナーガスとろくに闘わないうちにあっさり自壊、完全に自滅してしまいます。ナーガスの前で正体を明かしてから10ページ目の出来事でした。

 「炎魔六将軍のひとりアグニ、わずか10ページでろくに闘わないうちに自滅。」


 アグニを撃破?したナーガスの前に、再び炎魔六将軍のひとり・スルトが登場し、今度こそナーガスと闘うことになります。スルトは、北欧神話の炎の巨人が元ネタの魔神で、巨大な体で巨大な炎の剣をふるう強敵なのですが、ここでナーガスがついに大いなる力を手にして超巨大化変身、スルトはひるまず攻撃しようとしますが、ナーガスの一撃でいきなり真っ二つにされます。ナーガスと再び出会ってわずか7ページ目のことでした。

 「炎魔六将軍のひとりスルト、わずか7ページでナーガスに真っ二つにされる。」


 こののち、大いなる力を得たナーガスが暴走して大暴れしそうになる一幕があるのですが、沙智の献身的な呼びかけでなんとか正常を取り戻し、そしてここで舞台は一気にヴァグーラの本拠地であるヴァグーラ城へと移ります。いきなり炎界に抵抗するレジスタンスたちの攻撃が意気盛んで、炎の軍団は押されまくっています。大いなる力を味方たち全員に分け与えるという沙智の考えが功を奏したようです。
 そこに登場したのが炎魔六将軍のひとり・フェニックスで、巨大な翼を広げてレジスタンスたちに襲い掛かります。しかし、そこに登場したナーガスと激闘になり、沙智から大いなる力を得た必殺技・水流渦動衝(ハイドラストリーム)を受け、あっという間にバラバラになってしまいます。登場して9ページ目・・・でしょうか。

 「炎魔六将軍のひとりフェニックス、わずか9ページでナーガスの水流渦動衝を受けてバラバラになる。」


 その後、炎魔六将軍の最後のひとり・ネルガルが、ナーガスたちの前に立ちはだかります。このネルガル、連載第1話にも登場し、ディーナの父である水界の将軍・オアンネスと激闘の末に倒した強敵なのですが、ここでも沙智や太輔の活躍で押され、特に沙智から大いなる力を与えられたレジスタンスの一般兵の攻撃を受けてあっさり倒され、ディーナの手であっさりとどめを刺されます。登場して11ページ目のことでした。最後の強敵だけあってなんとか二桁のページ数はもちましたね。

 「炎魔六将軍のひとりネルガル、わずか11ページでレジスタンス兵の攻撃を受けて倒され、ディーナにあっさりとどめを刺される。」


 以上のように、炎魔皇帝に仕える最大の強敵ボスである炎魔六将軍たちが、まるでザコのごとく次々と倒されるという信じられない展開を迎えます。これは、「ロトの紋章」で言えば、「四天王たちが次々とザコのごとく倒される」展開に相当するもので、冗談抜きでありえません。明らかに打ち切り仕様の凄まじい短縮展開で、これで最大の強敵のはずの炎魔六将軍たちが、まったく見せ場も無く物語から退場させられることになるのです。唯一、打ち切り決定の前に登場したウエウエテオトルだけが、長らくナーガスたちの強敵として活躍したのが、ただひとりの例外となってしまいました。最初に登場したウエウエテオトルだけが、結果的に一番いい目を見たことになります。


・ラスボスも一方的にみじめに倒される。
 その後、最後にナーガスの元に立ちはだかった炎魔皇帝ヴァグーラですが、さすがにラスボスだけあってそんなに簡単には倒されません。ラスボス戦は、1話とは言え大増80ページで構成され、ここでヴァグーラにまつわる人々が一気に登場、怒涛の物語が展開されることになります。
 しかし、確かにそれだけのページ数は確保されているのですが、結局のところあまり見せ場もなく倒されてしまいます。確かに攻撃は凄まじいものがあるのですが、ナーガスの仲間たちの力を合わせた攻撃で防がれ、しかも愛する妻と愛娘に裏切られ、復活したギレウスにも攻撃され、要するに妻・娘・息子・孫のすべてが敵に回ってしまい、怒り狂ってついには逆上、魔精界もろともすべてを滅ぼして自分も死ぬという自暴自棄の暴挙(無理心中)に出ようとして、最後には大いなる力を得たナーガスとギレウスの合体攻撃で倒され、物語はエンディングを迎えます。はっきりいって、ラスボスとしてはあまりにも見苦しい最期でした(笑)。

 それに、大増80ページとはいえ、結局のところわずか1話で倒されています。これは、同系のガンガンの作品「ロトの紋章」や「ハーメルンのバイオリン弾き」と比べても、大いに扱いが劣ることは明らかで、これらの作品のラスボス戦が、決着が付くまでに幾度となく闘いを重ね、話数を費やしたたのに対して、あまりにもあっさりとし過ぎています。同じ「ナーガス」内のボスと比較しても、グライマーやウエウエテオトル、ギレウスとの闘いが、何話にもかけて描かれたのに比べれば、こちらでも量的に劣ってしまっています。ラスボス戦としてはやはり物足りないと言わざるを得ないでしょう。


・なぜこのようなことが起こったのか。
 それにしても、なんでまたこのようなことが起こったのでしょうか。いや、直接の原因は、半年前に決定した打ち切りによるものなのですが、問題なのは、なぜこの時期になって打ち切りが決まってしまったのか、ということです。
 これについていろいろ理由を推測するに、やはり連載前半に比べると、作品の勢いがかなり減少していたことがあるのではないか?と思います。
 このマンガ、前半の勢いは素晴らしいものがありました。連載最初のドリワーム戦からボレアース戦、クザン戦、そして最大の盛り上がりを見せたグライマー戦までの展開は、テンポも速く本当に面白いもので、読者を飽きさせずに引っ張っていきました。
 しかし、グライマー戦ののちのギレウス戦あたりまではまだ良かったのですが、その後次第にひとつひとつのエピソードが長めになり、ストーリーのテンポが遅くなってしまうのです。これは、すでにギレウス戦から感じられたことで、グライマー戦までは敵本拠に向けて一気に突き進んでいたのが、一旦体勢を立て直すために人間界に戻る展開となり、これでストーリーの勢いが一旦止まってしまった感があります。その後、舞台が魔精界に移ってからは、魔精界でのナーガスのストーリーと、人間界に残った仲間たちのストーリーが交互に進む展開となるのですが、これもいちいち個々の流れが断ち切られる形になり、やはりストーリーのテンポが悪くなってしまったと思うのです。ひとつひとつのエピソードの内容は濃いのですが、バトルも含めてえらくテンポが悪くなったのはやはり問題で、読者に飽きられつつあったのではないかとも推察されます。

 そして、打ち切りが決定される連載4年目に差し掛かったころには、他にもガンガンで新しい人気マンガも登場し、相対的に人気はかなり落ちていたのではないか。そう推測できるのです。実は、この時期では、他のガンガンの創刊当初からの連載も、以前の勢いがなくなっているものが多かったのです。典型的なのが「ハーメルンのバイオリン弾き」で、序盤の最大のクライマックスだったスフォルツェンド戦を終えてしばらく経ったあたりから、急速にストーリーの勢いが失われていきました。シリアスな展開に入った「南国少年パプワくん」も、前半のギャグ全開で大人気だった頃に比べれば微妙な反応になります。「ZMAN」もまた、前半に比べれば勢いがやや劣っていました。
 そして、「ナーガス」の場合、これらの作品以上に勢いが落ちてしまっていたのではないか。元々グロテスクでアクの強い濃い作風で、読者を選びがちだったことも大きく、一度熱心な読者の支持が弱くなると、それ以上連載を長く続けるのが難しくなってきたのではないか。そう考えられます。

 しかし、このような理由を推測しても、やはりこの時期での打ち切り決定は、あまりにも尚早だったと思います。同時期の他の少年マンガ「ロトの紋章」や「ハーメルン」が、これよりさらに長期の連載となって成功したのを見るに、このマンガもあえて我慢して連載を続ける価値はあったのではないか。確かに、かつてのエニックスは、あまり連載を長引かせずに調子のいいうちに終了させ、より優れた次回作を積極的に打ち出していく姿勢が、大きな特長でした。しかし、このマンガはもう少し続けた方が良かった。この後に執筆された増田さんの作品が、すべてナーガスほどには成功しなかったのを見ても、やはりこの優れた連載をあっさり早期に打ち切ったのは惜しかったなと思えるのです。


「The Fine Work」にもどります
トップにもどります