<輝竜戦鬼ナーガス・個人的な思い出>

2009・6・22

 「輝竜戦鬼ナーガス」は、少年ガンガンでも最初期の作品であり、今となってはもう15年以上前の連載でしたが、それでもこのマンガを読んで「これは面白い」と思った時の気持ちは、今でもはっきりと覚えています。当時の少年ガンガンは、他にも面白いと思ったマンガは数多くあり、このマンガだけが特別、というわけではなかったのですが、それでもガンガンの良作ラインナップのひとつとして、毎月読むのを本当に楽しみにしていました。

 元々、ガンガンを最初に手に取ったとき、最初に購入し始めた時の動機は別のマンガだったのですが、他のマンガも見ようと思ってページをめくっていたとき、非常に鮮烈な印象で目に飛び込んできたのが、この「ナーガス」だったのです。最初の数号のうちは、すべてのマンガを読んでおらず、ナーガスも見落としていたので、初めて読んだのはおそらくは連載第4話か5話だったと思います。その時強烈に印象に残ったのが、ナーガスの前に立ちはだかる強敵・風魔神ボレアースの姿で、そのモンスター造形の迫力におおっとなったのを覚えています。そして、実際に読んでみてそのバトルシーンの面白さに引き込まれ、そのまま毎号楽しみに読むようになったのです。
 特に面白かったのは、やはり序盤の頃、ガンガンが創刊された最初の1年あたりの連載でしょうか。テンポよく進むストーリーの中、ナーガスの前に強敵が次々と出現し、一方でナーガスに味方する頼もしいキャラクターたちも登場していき、毎号どんどん展開に惹かれていきました。話そのものが本当に面白かったのです。

 そして、この当時の「ナーガス」は、わたしたち読者だけでなく、ガンガンで連載していたマンガ家たちの間でも、かなりの評判だったようです。そんな作家間での人気を反映してか、いくつかのガンガン作品の中に、ナーガスを採り入れたネタをいくつか見ることができます。例えば、「突撃!パッパラ隊」では、隊員の前に突然ナーガスの頭が出現して炎を浴びせるギャグシーンがありますし、あるいは「南国少年パプワくん」では、「ナマヅメハーガス」なる、生爪を飛ばして攻撃するナマズの生物(ナマモノ)が登場し、読者の笑いを誘いましたが、これはこのナーガスが元ネタであることは言うまでもありません(ただし、元ネタのナーガスには、爪を飛ばす攻撃はないのですが)。「パプワくん」のみをコミックスやアニメで知った方では知らない人もいるかもしれませんが、当時の雑誌読者の間では、これは当然誰もが知っている最高に面白い内輪ネタだったのです。

 ナーガスの作者である増田さんは、元々はよりマニアックな雑誌で連載を重ねていた通好みの作家でしたが、ガンガンでは元々作家同士の親密な付き合いが顕著であり、このような積極的な交流が盛んに見られました。そんな雑誌の雰囲気を見て、このナーガスを含めた初期の良作たちにさらにはまっていったのです。


・いきなりドリワーム様の大暴れが素晴らしい(笑)。
 しかし、本当に鮮烈だったのは、のちにコミックスで読むことになる、連載最序盤のドリワーム様の活躍(?)でしょう。今も書いたとおり、元々の増田さんはよりマニアックでコアな読者に人気の作家であり、極めてグロテスクなモンスター描写やアクションシーンも頻繁に登場していました。そして、それは当初低年齢向けの少年誌だったガンガンでも、惜しげもなく発揮されてしまいます。

 とにかく、この気持ち悪いグロテスクな姿のドリワームという魔神が、さらに気持ち悪い虫を使って生徒たちを喰い殺しまくる。これは、今見ても相当に衝撃的なシーンで、当時のガンガンを読んでいた低年齢の子供読者の胸に、凄まじいトラウマを残したのではないかと思われます。この、ドリワーム様が虫を使って大暴れする冒頭の過激シーンこそが、増田さんがガンガン読者の下に引っさげてきた最大の手土産だと言えるでしょう(・・・)。それでは、ここでもう一度、ドリワーム様が蟲を使って大暴れする大活躍シーンをとくとご覧ください。

 まあ、今見ても凄まじいシーンなのですが、それにしてもこのようなマンガを平然と載せた初期のガンガンは、本当に自由すぎる雑誌だったなと思います。このような作風自体は、増田さんの大きな特徴であり、これまでの作品でも幾度となく見られたことではあるのですが、それを少年誌であるガンガンが載せたのは、やはりすごかったと思えます。もっとも、当時はまだ創刊したての頃であり、編集部でも雑誌作りの勝手がまだよく分からず、ターゲットとなる少年層に対するマンガ作りもまだよく分かっていなかったのかもしれません。そのため、作者の増田さんの作品作りを、少年誌対応のアレンジを加えずに、そのまま載せてしまった・・・と考えられます。その証拠に、これほどまでにグロテスクなシーンは、この「ナーガス」でも序盤のみであり、中盤以降はこのようなシーンはほとんど見られなくなりました。

 しかし、逆に言えば、少年誌にも囚われないこのような自由な雑誌作りには、それはそれで大いに魅力を感じます。思えば、ガンガンの初期の頃は、このような自由すぎる作風の作品は他にも数多く見られ、それがガンガンの混沌とした活気、カオスな誌面を形作っていました。その点において、ナーガスのこのドリワーム様の大暴れは、当時のカオス・ガンガンを代表するワンシーンのように思えるのです。


・それにしても、なぜ地属性はこんなに扱いが悪いのか。
 そして、ドリワーム様と並んで、少しストーリーが進んだ富士五湖の闘いで登場するガルカイン様のご活躍ぶりも見逃せません。このガルカイン様、グロテスクな頭の形をしたムササビのような魔神で、人間の精気を吸う舌で女の子を襲って干からびさせて殺してしまうという、これまたドリワーム様の虫攻撃に匹敵する凄まじい仕事ぶりを見せてくれるのです。

 さらにこのガルカイン様、ナーガス(竜輝)の仲間であるディーナや太輔と闘うときにも、その独特の気持ち悪い生態を存分に発揮、舌を伸ばしたり擬態して姿を隠したり、ついには頭から大量の吸精銛を放出して攻撃するなど、いかにもこの増田晴彦らしいグロモンスターぶりを大いに披露してくれました。では、このガルカイン様が舌を使って大活躍するシーンをとくとご覧ください。

 しかし、それにしても、このドリワームもガルカインもどちらも地属性に属する地魔神なのですが、このマンガの地魔神はどうしてこんなに扱いが悪いのでしょうか? この2体はどちらもやたら気持ち悪い系のモンスターであり、見るからに主人公に倒されるタイプの悪役で、そして実際の戦闘でもザコ的なやられ役的な役割が非常に多い。ドリワーム様のやられっぷりは凄まじく情けないものがありますし(笑)、ガルカインもその同僚のバリオンスクスもあくまでザコ的な扱いになっています。リーダー格のクザンはまだかっこいいフォルムでバトルでも奮闘しましたが、彼もガルカイン・バリオンスクスも実は炎魔神グライマーの捨て駒に過ぎないという設定です。のちにギレウスの配下でゴウライという中々に豪快なモンスターも出てきますが、彼もナーガスにやられるギレウスの前座的な役割に終始しました。

 そして、これも毎回思うのですが、このような「地水火風」という4属性の設定は、ゲームやファンタジーノベルでは定番中の定番ですが、どの作品でも「地」属性がやたら不遇な扱いに終始していると思うのです。このマンガでも、

  • 炎魔神・・・ラスボスの種族だけあって総じて強敵、巨大で勇ましいイメージ。
  • 水魔神・・・個体によって様々だが個性的、ボス系はかっこいい、あと女性は美しく描かれる。
  • 風魔神・・・風だけあって翼で飛行、軽やかで優美あるいは壮大なイメージ。
  • 地魔神・・・地味、気持ち悪い、やられザコ。
・・・とまあこんな感じであり(笑)、とにかく地魔神の扱いが悪すぎる。敵の主力が炎魔神だとして、それに従属する手下的な役割に終始しており、完全なやられ役のザコになっているのです。おまけに姿かたちや生態も異形系で気持ち悪いものが多い。

 これは、他のゲーム系作品でも同じような扱いが目立ち、他の属性が炎や水でかっこよく闘うのに対して、地属性は岩とか毒とか(笑)、イメージも鈍重で地味であんまりかっこよくないし、どうしてこんなに不遇なのか。この「輝竜戦鬼ナーガス」でも、この地属性の扱いだけはなんか納得いかなかった。わたしとしては、ゲームではもっぱら地属性愛好者として、今後も地属性の地位向上のために奮闘したいと思います。


・とりあえずグライマー様は最高である。
 で、まあこんな風に気持ち悪いモンスターを延々と紹介してもしょうがないので(笑)、そろそろかっこいい方のモンスターも紹介しようかなと。
 とにかくこのマンガは、序盤のストーリーの盛り上がりが素晴らしいのですが、その中でも特にクライマックスと言えるのが、舞台を富士五湖に移しての一連の闘いであり、まず最初にクザン・バリオンスクス・ガルカインの地魔神3人組を相手にした迫力バトル、そしてその後に来襲する最強のボス・グライマーとの連戦です。そして、このグライマー戦こそが作中で最高に盛り上がったシーンであり、かつこのグライマーという敵モンスターの魅力も素晴らしいものがあり、個人的にも最高に惚れこんでしまいました。

 ナーガスの前に登場する以前から、クザンたちとの会話でもすでに存在感を示したグライマー様だったのですが、登場後の活躍ぶりが凄まじかった。特によいと思ったのが、自分が捨て駒にした地魔神たちから、そのことに抗議する一言を受け、それに対して返した、「貴様らにナーガスを倒す実力があれば捨て駒にならずにすんだのだ。呪うなら己れの非力を呪うのだな」というあまりにも自己中心的なセリフです。これは、あまりにも自己中心的な思考パターンが露骨に出た一言で、「おれのものはおれのもの」というあの有名な言葉に匹敵する名セリフだと思うのですが、みなさんいかがでしょうか。

 そして肝心のナーガスとの戦闘シーンも素晴らしいものがありましたね。そもそもフォルムからしてかっこよすぎるのですが、それで縦横無尽に空を駆けてナーガスを翻弄する強敵ぶりがよすぎました。メダマウマーとかいう分身を放つシーンも最高でしたね。

 ただ、正直言ってまだ前半のうちに出てくるモンスターとしては、あまりにも強敵すぎるところがあり(これはボレアースにも言えてますが)、しまいには山ひとつぶっ飛ばすというありえない破壊力を見せたりするのですが、それだけナーガスというマンガが、序盤のうちに面白さが凝縮されていたと見るべきでしょう。ドラゴンボールですらこんなに一気に強くなったりはしなかった・・・。

 というわけで、このグライマーさまこそが、ナーガス最高のモンスターであることはもう間違いありません。正直、これほどのモンスターがまだほんの前半のうちに散ってしまったのは惜しかった。のちに一度ウエウエテオトルの配下の軍団のひとりとして復活しますが、そのような形での再会ではなく、なんどもナーガスと闘うライバル的な存在としても良かったかもしれない。その方がこの作品のためにもなったのではないかとも思えます。


・後半のストーリーも奥深くて面白かったはずだが・・・。
 ただ、前半のグライマー戦までが盛り上がりすぎて、相対的に後半でやや勢いが落ちてしまい、それが早期の打ち切り的な終了への布石となってしまったのが残念でした。
 後半のストーリーが決してつまらないわけではありません。むしろ、キャラクターの心理やテーマという観点では、こちらの方がより深みが感じられると思います。

 例えば、ギレウスとの最初のバトルの時に登場する、「聖星神月教(せいせいかむづききょう」の教祖である久野政玄(くのせいげん)というキャラクターは、かなり興味深い。彼は、このマンガに登場する魔神のような自然神ではなく、「大宇宙の大いなる意志」としての神を信仰しており、かつそのすべての人を愛そうという教義も持っています。これは、竜輝たちにとっては中々理解しがたい思想で、読者にとってもこの思想をすべて肯定する人は少ないと思いますが、それでもこれまでの「大切な人を守るために闘う」という竜輝の単純な意志を、さらに一歩高める役割を果たしたことは事実で、これが主人公の成長につながる重要なエピソードになっていました。少年マンガとして見ても、「すべての人を愛する」という思想を主人公にぶつけるマンガというのは、中々に貴重だと思いますし、同系の少年マンガと比べて一歩上を行くテーマを持っていたと思うのです。

 さらには、ナーガスの持つ伝説の真相を巡る話や、あるいはギレウスとの最後の闘いのくだりも面白い。ギレウスとの闘いでは、愛は憎しみに勝つというストレートなテーマを追求しており、最近ではここまでの作品はもう見られないかもしれません。

 ただ、このように個々のエピソードを見れば十分に奥深いと思うのですが、残念ながらストーリーの勢いはやっぱり落ちてたのかな・・・。と感じます。個々のエピソードがすごく長くなり、前半のようなテンポのよさでは、やはり一歩も二歩も劣っています。魔精界と人間界と双方で交互に進むストーリーも、あまりいい効果を生んでいないようで、途中のいいところで切られて場面が転換するシーンが多く、ここでもいまひとつ読者の勢いを削ぐ結果になってしまったと思いました。

 そして、何にも増して、前半のような強力かつ魅力的な敵キャラクターとのバトルが少なくなってしまった。やはりボレアースやグライマーのような強力なボスクラスのキャラクターは、もう少し後に取っておいてもよかったのではないか。要するにこのマンガ、前半のうちのグライマー戦があまりに盛り上がりすぎた(笑)。前半があまりに盛り上がりすぎて、後半は相対的に勢いが落ちてしまったように見えたのです。これがのちの早期の打ち切り的な終了の遠因になったとすれば、残念な結果でした。やはり、この手のマンガでは、おいしいキャラクターやバトルは、後の方に取っておくのが連載を長く続けるには有効なのでしょう・・・。


・最後の打ち切り仕様は悔やまれるが、それでも心に残る優良連載だった。他の人気マンガより相対的に劣る扱いなのが残念でならない。
 しかし、そのような後半での失速と、打ち切り的な駆け足すぎるラストは大いに問題でしたが、それでもこのマンガは、今でも本当に面白かった記憶が残る大変な良作であり、初期ガンガンでも最も楽しみにしていた作品のひとつであったことに変わりありません。
 それに、今思えば打ち切り的なラストもこうしてネタにして記事にして見れば十分面白いですし(笑)、最後まで楽しませてくれた作品だったかもしれません。実際、このラストの凄まじい光速展開は、あとあとまでガンガン読者にネタにされて長く話題にのぼっていましたし、それだけ多くの読者の心に残る連載だったのだと思います。序盤の頃の勢いが凄まじかったのは確かですが、実際には最初から最後まで、3年半の連載期間の間、十分に楽しめるマンガだったことは間違いないでしょう。

 ただ、他の人気マンガに比べると、やはり知名度や人気で劣っていたのが、今でも唯一の心残りですね。このマンガ、初期ガンガンの誌面を代表する少年マンガだと思うのですが、残念ながら同系のガンガン初期マンガに比べると、どうしても話題に上る回数が少なくなってしまうのです。当時のガンガンを知っている読者の話を聞いても、まずこれらの作品のタイトルが真っ先に出てきて、「ナーガス」までは出てこないことが多い。やはり「ロトの紋章」や「ハーメルンのバイオリン弾き」の方が人気が高かったことは否めません。あるいは、ギャグマンガの「南国少年パプワくん」や「魔法陣グルグル」の方が、ガンガンの表にはよく出ていました。

 一方でこの「輝竜戦鬼ナーガス」は、やっぱりこの濃すぎるビジュアルが人を選んだことは間違いないでしょう。グロテスクな形態のモンスター、特に初期の頃のドリワーム様やガルカイン様の大暴れ(笑)で引いてしまった読者も大勢いると思われます。しかし、実際には、純粋にキャラクターの魅力には素晴らしいものがありましたし、人間キャラクターは今見ても美男子美人揃い、モンスターもかっこいいキャラは徹底的にかっこいいと、決してそんなにアクが強いばかりの作品ではありません。最終的には女性で読んでいる読者もかなりいたことも、ここでしっかりと書いておきたいと思います。

 そして、この連載終了の直後から、増田さんは次回作「風の騎士団」の連載を開始しますが、これは約1年後のガンガン月2回刊行化の煽りを受け、月刊ペースを守るためにGファンタジーに移籍させられ、そちらではいまいち奮わずに不本意なままで早期に終了しています。こちらも非常にいい連載だっただけに残念な結果で、この連載でもあまりガンガン読者の心に強い印象を残すことが出来ませんでした。「ナーガス」の人を選ぶビジュアルや不本意な打ち切り的な終わり方も合わせて、初期ガンガンを代表する作家の中では、ちと不当に話題に上らないことが多い増田さんですが、本当は決して他の作家に劣らない実力を持っていたことを、ここに記しておきたいと思います。


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