<作品紹介> ──「東京アンダーグラウンド」──

2007・4・4

2巻表紙。  「東京アンダーグラウンド」は、かつて隔週刊時代の少年ガンガン1998年No.1から始まった連載で、2005年の3月号にて最終回を迎えるまで、7年間以上も続く長期連載となりました。連載を始めた当時は隔週刊での連載でしたが、わずか5号のちにガンガンは月刊に戻ってしまったため、以後は月刊連載となりました。また、連載途中の2001年、かの「エニックスお家騒動」に巻き込まれ、一時連載が中断しましたが(「第一部完」扱い)、数カ月後に無事再開され、以後は最終回まで再びコンスタントに連載を続けました。作者は、有楽彰展(うらくあきのぶ)

 作者の有楽さんは、連載開始約1年前に「エニックス21世紀マンガ大賞」で大賞を受賞した新人作家で、大賞受賞後1年という比較的早い時期に本格連載を獲得します。そのため、当初はかなり未知数の作家だったのですが、いざ始まった連載は、最初からビジュアル的な魅力に溢れる作風で、開始直後から一気に人気を獲得します。この人気は、ガンガンが月刊に戻ってからも勢いは衰えず、そのままガンガンでも屈指の人気連載として定着します。もっとも、当時のガンガンは全盛期で、他にもさらに人気のある連載が多数存在したため(守護月天・ツインシグナル・刻の大地・スターオーシャンセカンドストーリー・ジャングルはいつもハレのちグゥ・PON!とキマイラ等々、中盤以降は魔探偵ロキ、スパイラルなども)、雑誌の表に出ることは少なく、中堅どころの位置づけではありました。しかし、それでも相当な人気連載だったことは確かで、特に開始数年間は絶大な人気を維持し続けます。

 内容的には、「風」「水」「炎」などの能力を駆使したバトルストーリーで、主人公の高校生・浅葱留美奈が、仲間たちと共に、東京の地下世界で巨大な組織を相手に能力バトルを繰り広げるというもの。設定だけならばありがちなバトルマンガにも見えますが、その面白さは突出しており、とりわけ絵の魅力、キャラクターの魅力、そして作品の肝であるバトルシーンの魅力も光っていました。

 しかし、連載中盤になって、突然絵が乱れ始め、ころころと絵柄が変わる上に作画レベルも極端に落ちてしまいます。内容的にも芳しくなくなり、かつてほどの安定感はなくなります。しかも、その後「エニックスお家騒動」に巻き込まれた余波か、作風が変わってかつての面白さからはさらにかけ離れていき、最後の数年間はひどく失速したまま最終回を迎えてしまいました。中盤以降の質の低下が悔やまれる作品だったと言えます。


・絵柄とキャラクターが最高に素晴らしい。
 このマンガは、とにかく絵の魅力が最初から突出していました。とにかく絵から受けるイメージがひどく好印象だったのです。そして、もうひとつはキャラクターです。このキャラクターは、まさに当時の(今でも)読者の心を完全にとらえ、連載開始直後から圧倒的な人気を獲得しました。わたしなどは、連載開始前の予告イラストを見ただけで、「このマンガは素晴らしい」と思ったくらいです(笑)。

 比較的プレーンな絵柄で、少年マンガ的なよくある絵柄でもあるのですが、それ以上に中性的な魅力が光る絵柄で、そのくせのない絵柄は多くの読者を惹きつけました。一般の少年誌とは異なる、典型的なガンガン的、エニックス的な作風で、当時のエニックスの人気マンガのそれをよく踏襲しており、その中に同一のイメージのマンガが、またひとつ加わる形となりました。鮮やかな色をふんだんに使ったカラーイラストも、大いに見栄えがしました。コミックス2巻の表紙などは、今見ても素晴らしいものがあります。

 そして、なんといってもこのマンガはキャラクターです。キャラクターがあまりにも萌えまくりでした(笑)。この絵柄でこのキャラクターは、今見てもさほど見劣りしません。男女のキャラクターが共に丁寧な描線でくせの少ない絵柄で統一され、どのキャラクターもとにかく「綺麗」に描かれていました。他の少年誌の少年マンガに見られるような泥臭さが少なく、そのために男女双方の読者、それもマニア系の読者に幅広い人気を集めました。同系の他のマンガとは一線を画する人気を獲得したのです。

 外見だけでなく、性格設定も良かった。大枠では類型的なキャラクターではありますが、どのキャラクターも細部の言動に面白さがあり、それぞれが独特の個性を確立していました。各主要キャラクターに、「風」「炎」「重力」など、戦闘能力の「属性」があったことも大きい。これもマニアックな人気を得る一要因となりました。

チェルシー・ローレック。

 そんなキャラクターの中でも、最大の人気を獲得したのが、ヒロインのひとりであるチェルシー・ローレックであり、連載開始直後から彼女の人気は圧倒的でした。メインヒロインであるルリをも完全に凌駕してしまい(笑)、事実上の主役に近い存在にまでなってしまいました。


留美奈VSテイル ・バトルシーンも素晴らしかった。
 そして、このマンガは、作中で最大に盛り上がるシーンである、バトルシーンも素晴らしいものがありました。
 まず、バトルシーンの構図や、キャラクター間の駆け引きに工夫が感じられ、毎回見飽きることがありませんでした。迫力のある接近戦から能力が飛び交う遠距離戦まで、すべてにおいて卒のない戦闘描写を達成していました。巨大な縦穴や高い建物が点在する地下世界が舞台ということで、高さを感じる立体的なバトルシーンが多かったのも魅力的でした。
 さらには、能力を使ったバトルということで、それを表現する派手なエフェクトの数々にも見るべきものがありました。エフェクトのひとつひとつが流麗な線で描かれ、バトルシーンの見た目が非常に美しく、かつ迫力も十分でした。コミックス4巻の3連続で続くバトルシーンなどは、そのビジュアルが頂点に達した感があり、その連続バトルの盛り上がりには素晴らしいものがありました。

 これらのバトルシーンの特徴として、やはり何よりも絵が「綺麗」であったことが挙げられます。少年誌らしい力強さもありますが、それ以上に、ひとつひとつの描線がくっきりとして鮮やかに描かれ、とにかく画面が映えるものがありました。これこそが、同系のバトルマンガの中でも突出した要素であり、「東京アンダーグラウンド」最大の魅力であったと言えます。


・連載中盤から、作画崩壊が始まる。
 しかし、そのような素晴らしい内容は、しばらくして終わりを告げてしまいます。

 具体的には、連載開始から2年半前後、コミックスでは6巻あたりからでしょうか。突然作画が乱れ始め、明らかに粗さが目立つようになります。特にキャラクターでは顕著で、明らかにキャラクターの絵が変わっていると誰もが分かる状態でした。コミックス5巻の表紙(6巻の連載時代の作画)に、それが顕著に表れています。
 それまでのキャラクターは、とにかく繊細な描線が特徴で、流麗な髪の質感など、とにかく綺麗さを感じさせる作画でした。それが、いきなり絵が粗雑になり、描線が極端に少なくなり、キャラクターの造形にもしまりがなくなり、一気に魅力を損ねていきました。同時に、あれだけ綺麗だったバトルシーンも、同じように雑さが目立つようになり、まもなく作画レベルの低下は作品全体に及ぶようになります。

 次いでコミックス7巻では、まだ粗さは残るものの一旦作画が持ち直したとも思えたのですが、その次の8巻はもう致命的でした。もうそれまでの絵の見る影もないほど作画が崩れてしまい、完全に魅力は失われました。7巻以前と8巻とでは、表紙の絵も全く異なっており、「本当に同じマンガか」と思うような有り様でした。これで一気に読者が離れていった感がありました。

 その後も絵柄は頻繁にころころと変わり、読者をさんざん困惑させます。ようやく、終盤になって絵柄の変遷は終わり、安定した作画にはなりますが、しかし前半の最盛期と比べれば、緻密さでは大幅に劣る粗雑な作画に固定化されてしまい、最後まで失われた作画レベルが戻ってくることはありませんでした。これはあまりにも残念な変化であり、このマンガの評価を著しく下げる最大の原因となっています。

全体的に雑な上、顔の描き方(鼻)にひどい違和感がある。

 実際、絵の綺麗さやキャラクターの魅力で持っていたこのマンガにおいて、作画は内容以上に重要だったと言っても過言ではありません。それが完全に崩壊してしまったのは、何にも増してあまりにも痛いものがありました。


同じマンガのバトルシーンとは思えない。 ・内容的にも大いに劣る感は否めない。
 そして、肝心の内容についても、前半よりもかなり劣っています。
 前半では、ストーリーにも力がありました。主人公たちが、立ちはだかる敵を倒しながら、地下世界の中枢に迫っていくという、王道的な展開ではありながら、そこには確かなテンポのよさがあり、どんどん先を読みたくなる面白さがあったのです。
 それが、中盤以降は、そのストーリーの勢いも失われ、味気ないエピソードを繰り返すようになりました。キャラクターの描写でもかなり劣っており、前半のうちに存在感があったキャラクターのうちの何人かは、後半では扱いがひどく少なくなるケースが頻発し、各キャラクターの掘り下げも消化不良に終わりました。

 そして、前半あれだけ見ごたえのあったバトルシーンも、そのレベルは大幅に低下します。雑な作画の上に、戦闘の構図や駆け引きにかつてほどのうまさが感じられず、勢いだけで敵を倒してしまうようなシーンが多くなり、前半ほどの面白さが感じられなくなってしまったのです。

 加えて、この当時のガンガンは、あの「エニックスお家騒動」に前後する混乱期にあり、この作品も少なからぬ悪影響を受けてしまいます。特に、お家騒動が実際に起こった2001年の後半には、このマンガも中断を余儀なくされました。作者の有楽さんは、お家騒動でガンガンを離脱した編集者たちについていくか、それともガンガンに残るか、相当迷ったようですが、最終的にはガンガンに残ることを決断し、数カ月後に無事連載は再開されます。

 しかし、その後の「東京アンダーグラウンド」は、雑誌自体の路線変更の要請を受けてか、力強い王道少年マンガの要素が強くなり、しかもそれが悪い方向に働いてしまい、力強さよりも粗雑さがより目立つ結果に終始してしまいました。ストーリーも最後まで面白さを取り戻せず、ラストもかなりの消化不良で終わっています。


・中盤以降の失速が痛い、惜しすぎる良作。
 このように、この「東京アンダーグラウンド」、開始直後から絵柄やキャラクター、バトルシーンの出来などに光るものがあり、大きな人気を獲得します。その後、最初の2、3 年間の作品の完成度には素晴らしいものがあり、ガンガン全盛期の一翼を担う良作のひとつとして、その存在には非常に大きいものがありました。
 しかし、それは中盤以降大幅に崩れ、作画・内容共に最後まで初期の完成度を取り戻すことが出来なかったのは、大きく評価を下げざるを得ません。これには、ガンガンのお家騒動による混乱の影響もありますが、この作品の場合、お家騒動以前からすでに作画を中心に質が崩れており、その点でひどく残念なものがあります。

 そして、お家騒動の混乱によって、作品の質の低下に拍車がかかり、騒動後の作品は、完全に惰性に近い形での連載になってしまった感もありました。ガンガンの路線の変更に伴い、このマンガもかなり作風が変わってしまったのも致命的でした。
 また、お家騒動の直後の2002年に、TVアニメ化も達成していますが、前述のとおりこの当時はもう作品レベルは落ちており、往時の勢いのない状態でのアニメ化だったことも否定できません。アニメ自体の出来はさほど悪くなかったようですが、しかしさほど大きな話題にはならなかったようです。これも残念な事実ですね。

 しかし、それでも最後まで何とか連載を続け、一応ながら完結まで描ききったことは評価できますし、やはり序盤、前半の素晴らしい内容には大いに惹かれるものがあり、その時期からの熱心なファンが最後までいたことを考えれば、やはり良作であることは事実でしょう。それだけに、中盤以降の失速が、あまりにも惜しすぎる作品だと思うのです。

優しい描写も魅力のひとつ。


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