<東京アンダーグラウンド・ベストバトル5> ──「東京アンダーグラウンド」──

2007・4・11

 「東京アンダーグラウンド」と言えば、やはり「能力バトルマンガ」。「風」や「炎」「水」「重力」のような様々な属性を持つキャラクターが、自身の能力を駆使して闘う迫力のバトルシーンこそが、作中で最も盛り上がる場所であることは間違いないでしょう。ここでは、単行本全14巻の長期連載の中から、「これは」と思うものを5つほど挙げてみます。
 ただ、このマンガ、他の記事でも書いているとおり、作品序盤の出来のみが突出していて、中盤以降は作画を中心に大幅に質が低下しています。そのため、このバトルシーンについても、やはり序盤のそれの完成度が最も高く、どうしてもそこを中心に選出することになってしまいました。


<第5位:チェルシー(→留美奈)VS赤(第1話〜第3話)>
 新連載が始まった直後の最初のバトルシーン。のっけからしてかなり面白く、新連載のつかみとしては十分でした。

 活躍するのは主にチェルシーで、公司の追っ手であるA級師兵・赤(セキ)から逃げつつ地上へ脱出、留美奈の家にかくまわれた後で、追いついてきた赤と第二戦、という流れの戦闘です。チェルシーが疲労で危機に陥ったあとは、留美奈が代わって戦闘に躍り出ますが、あえなく一撃であっさりと殺されてしまうのは序盤の名シーン(?)です。

 この作品の戦闘のいいところは、このようにストーリーの中で一連の流れがあることですね。場所を変えつつ再戦したり、途中で他のキャラクターが乱入して組み合わせが変わったり、途中で同時並行でふたつのバトルが展開したり、そういった一連のストーリー性のある戦闘シーンがかなり多い。もちろん、他の優れたバトルマンガでも、このような工夫はよく見られるとは思いますが、このマンガの場合、新連載の最初からそのような流れのある戦闘シーンが見られたことで、「新人の新連載ながら、このマンガはかなりよく描けているな」と感心しました。連載の最初からかなりの好印象でスタートしてくれたのです。

 肝心のバトルの描写もよく描けていました。まだ連載最初だけあって、のちに比べれば絵的にやや拙い部分が散見されますが、それでも作画レベルはかなり高く、かつパンチやキックが飛び交う接近戦と、能力を駆使した中・遠距離戦と、その双方がよく描けていて、メリハリの効いた戦闘シーンが出来上がっていました。すでに連載最序盤から、バトルシーンの形式は完成されていたと見てよいでしょう。

 唯一、主人公があっさりと死んで生き返るという展開は、あまりにもありがちで安直とも思いましたが、「生命の巫女」の能力を見せるというストーリーの都合の上では、まあ仕方のないところでしょうか。


<第4位:留美奈(&翠・銀之助)VSハイエナ(第51話〜第53話)>
 全体的にクオリティが劣っていると言わざるを得ない作品後半において、ほぼ唯一評価できる戦闘がこれです。コミックスでは9巻、お家騒動で連載が一旦中断を余儀なくされ、第二部として再開されて数話後のタイミングで行われた、再開後の初めての本格的戦闘シーンでした。

 主人公の留美奈と、彼を執拗に狙うハイエナというA級師兵との闘いで、中途で留美奈は敗れて危機に陥り、そこに仲間である翠と銀之助の師弟コンビが現れて留美奈を救出し、ハイエナを撃退、という流れの戦闘です。

 連載のこのタイミングでは、もはや序盤ほどの綺麗な作画は期待できませんが、それでもこの戦闘シーンは、作品後半の中ではかなり作画の出来がよく、安定していました。加えて、とにかく戦闘の展開や構図、駆け引きの描写が非常に良かった。作品序盤のうちの面白かった戦闘を彷彿とさせるシーンの連続で、久々に盛り上がって読み進めることができました。

 まず、留美奈とハイエナの接近戦(剣戟バトル)の駆け引きの描写が良い。接近戦を得意とするハイエナに攻め込まれたところを、あえて強引に壁を崩して仕切り直しにするシーンなどは最高。このようなキレのある展開は久々に見ました。
 そして、戦闘の末にハイエナの毒攻撃で危機に陥った留美奈を、銀之助が超遠距離からのサポート射撃で援護し、翠とふたりで救出に向かう流れ。「危機に陥った時に現れる仲間」というのは、定番でベタな展開とはいえやはり盛り上がる。銀之助の数少ない活躍シーンであることも評価が高い。
 そして、最後は翠が巧みな戦略でハイエナを追い詰め、ラストは言葉の駆け引きで解毒剤を奪い、留美奈の危機を救います。ちょっとこの言葉に舌足らずなところがあるのは残念ですが、それでも最後まで駆け引きの妙で楽しませてくれました。
 敵キャラであるハイエナのキャラクターも良かった。慇懃無礼で卑劣な手段も辞さない狡猾な性格で、その嫌らしさ、敵に回した時の手ごわさがよく出ていました。

 この戦闘と同時並行で、テイルVS秋絃という因縁のバトルも行われますが、こちらも中々面白かった。このふたつの戦闘は、三話に渡って長く展開され、読み応えも十分でした。後半の数少ない見せ場だったと言えます。


<第3位:チェルシーVSシャルマ(第17話〜第18話)>
 序盤の山場とも言える三連戦の第一戦。コミックスでは3巻の終わりから4巻にかけてのタイミングで、これから4巻にかけての展開が、このマンガの頂点でした。作画的にも内容的にも素晴らしく、そんなバトルが三連続で続くこの時期こそが、「東京アンダーグラウンド」の最盛期と見てよいでしょう。

 このマンガのヒロインで実質的には主人公とも言えるチェルシーと、かつての同僚でライバルであるシャルマとの一対一のバトル。これは純粋に一対一の闘いですが、同時並行で留美奈とテイルのバトル(後述)も行われており、バトルの盛り上がりは最高潮に達します。

 とはいえ、先に決着がつくのはこちらの方で、言わば留美奈VSテイルの前座のような扱いで、戦闘の長さもやや短めなのですが、それでも十分に面白いバトルを見せてくれました。中でも駆け引きの描写が素晴らしい。なぜか間合いがつかめないチェルシーの苦戦ぶりと、そのトリックを見破って一気に反転攻勢に出る流れが良かった。双方ともに接近戦を得意とするファイターだけあって、近距離で相手のパンチやキックを見切りあう攻防の描写も素晴らしい。それとは対照的に、チェルシーの「重力」の桁外れの能力がよく見られたのも評価が高い。総じて、全編を通してチェルシーの活躍が最も光る戦闘シーンでした。

 また、対戦相手のシャルマも女性ということで、数少ない「女性キャラ同士のバトル」という点でも華があり、中々に貴重な戦闘シーンだったりします。このマンガ、女性キャラクターの存在が目立つ作品ですが、意外にも女性ファイター同士のバトルは少ないのです。また、このシャルマのビジュアルも、この戦闘シーンでのそれが最も均整が取れていて美しかった。これ以降のシャルマが再登場した頃には、作画が完全に崩壊しきっていて、もうその姿も見る影もない有り様でした。その点でも貴重なシーンです。

 ラストの鏡を使ったトリックで逆転勝利というシーンは、正直かなり非現実的とも思いましたが、しかしこの意外性のある逆転での勝利という流れは、やはり燃えるものがあります。マンガというものは、多少強引で不自然なところがあっても、圧倒的に面白ければそれを許してしまえるものなのです。


<第2位:留美奈VSテイル(第17話〜第19話)>
 序盤の山場と言える三連戦の第二戦。前述のチェルシーVSシャルマと同時並行で行われ、そしてこちらの方が扱いが大きく、かなりのページ数を取って大々的に繰り広げられました。このふたりは、少し前(第7話〜第8話)でも闘っており、その時には留美奈の敗北に終わりましたが、今回の闘いはそのリターンマッチということで、ストーリー的にも大いに盛り上がる箇所でした。

 このバトルシーンは、とにかく作画レベルの高さに尽きます。何と言っても、作画のうまさが圧倒的でした。連載開始から回を重ねて、少しずつ洗練されていった有楽さんの絵柄ですが、ここに来てついにそれが頂点に達した感があります。これほどの作画レベルは、これより後にはもう二度と見ることはできませんでした。
 とにかく、能力バトルのエフェクトの描写に素晴らしいものがあった。迫力のあるエフェクトが繊細かつ緻密に描かれ、画面が非常に美しかった。このバトルシーンの作画には、本当に感動しました。このシーンだけならば、他の雑誌のどのバトルマンガにも負けてはいないでしょう。

 そして、このふたりが共に剣士ということで、近接距離で剣を交える、緊迫感溢れる剣戟バトルが実に印象的です。剣で受けた傷から血しぶきが飛び散るシーンも鮮烈です。というか、ここまで血が吹き飛ぶシーンはここだけだったような気がします。中々に残虐なシーンでもあるのですが、白い画面に黒で描かれた血しぶきが鮮烈で、作画自体は非常に美しかったのがとにかく印象的でした。

 最後に、主人公の留美奈がやたらかっこいいというのもポイントが高い。作品の冒頭で「風」の力に目覚めた主人公が、この闘いを通じて完全にその能力を自分のものにするという展開で、風を自在に操るかっこよさと、これまでにはない落ち着いた挙動まで見せてくれました。このマンガは、どちらかと言えばチェルシーの活躍の方が目立つマンガなので(笑)、このバトルだけは主人公の面目躍如といったところでしょう。


<第1位:シエルVS白龍(第22話〜第23話)>
 序盤の山場と言える三連戦の第三戦。前述のチェルシーVSシャルマ、留美奈VSテイルの直後に行われ、ここに来て作品の盛り上がりは頂点に達します。

 生命の巫女・ルリの護衛役のロリ娘(笑)シエルがルリを連れて脱出を図り、阻止しようとする公司(カンパニー)の兵士たちを蹴散らしていくが、そこに公司ナンバー2の超実力者である白龍(パイロン)が立ちはだかるという展開です。

 純粋な作画レベルでは、前述の留美奈VSテイルとはほんの少しながら劣り、やや安定感に欠けるところがあります。作画面だけならば、上記の留美奈VSテイルの方が上でしょう。しかし、こちらのバトルは、ストーリーの展開で一歩上回っており、シエルとルリによる一種の「逃亡劇」としてその緊迫感が素晴らしく、純粋にストーリーの盛り上がりではここが最高でした。そして、ほんの少し作画で劣るとはいえ、やはりそれでも相変わらず非常なレベルの高さであることは変わりなく、ストーリー面でのハイレベルさを考慮した結果、僅差ながらこちらを1位と決定してみました(留美奈VSテイルとかなり悩んだんですが)。

 このバトルは、シエルと白龍という、まったく性格も闘い方も異なるキャラクター同士の闘いというところが面白かった。前述のチェルシーVSシャルマ・留美奈VSテイルが、比較的似たスタイルのファイター同士の闘いであったのとは対照的でした。小さな体で強大な敵に対抗するシエルの善戦ぶりと、それ以上に公司の超実力者である白龍の圧倒的な強さが際立っていました。
 まず、シエルの躍動感のある闘いぶりに惹かれます。圧倒的な敵を前にして、小さな体で全力を振り絞った闘いぶりが光りました。キャラクターの見た目的にも、この時の作画がもっともかわいらしかった。このあとしばらくして再登場した頃には、もうすでに作画が崩れてしまっていたので、この時点でのビジュアルがやはり最高と言えます。
 そして、それ以上に白龍がやたらかっこいい。他の能力者とは異なる大人の実力者ということで、その泰然とした余裕ある闘いぶりに惹かれました。これは、若い少年少女が多い「東京アンダーグラウンド」のキャラクターの中では、異彩を放っていました。強さの秘密に「純水」というギミックを使ったのも面白かった。この白龍も、のちにしばらくして再登場し、今度は主人公の留美奈と激しいバトルを繰り広げます。ここもストーリー上ではひどく盛り上がるところではあるのですが、やはりその時点で作画の質がひどく低下しており、もうこのシエル戦ほどのめりこむことは出来ませんでした。



<まとめ>
 やはり、このマンガは序盤、それも4巻当時のレベルの高さが光ります。この当時の「東京アンダーグラウンド」は、個人的にも毎回夢中になって読んでいた記憶があります。それであるがゆえに、のちに作画を中心に質が崩壊した時には、その落胆ぶりも凄まじいものがあったのです。

 ただ、ほんの一時だけ、後半のお家騒動での中断後に、かつての面白さを彷彿とさせる戦闘(留美奈(&翠・銀之助)VSハイエナ)があり、この時だけは久々にかつての盛り上がりを思い出して読むことができました。これでまた面白さが復活すればいいなあと当時思ったんですが、残念ながらその希望は果たされず、最後まで質が落ちたままで行ってしまいました。結局、序盤の素晴らしい戦闘描写を超えるようなシーンは、最後の最後まで現れることはなく、これはひどく寂しいことだと思いました。


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